110.ただいま非日常
「そういえば、みんなどうすんの?」
「何がですか?」
「姫にあげるクリスマスプレゼントの話だけど」
ルウリの何気ない一言に、私たちはハッとした。
「なにその顔。まさか何も考えてないとか?」
「いや、さすがに何かしらは…。肝心なのは私たちからのではなく、サンタクロースなる不審者から贈られる方です」
サンタクロース…一年いい子にしていた子どもに赤い服を来た老人が枕元にプレゼントを置いていく、という言い伝えがリコとルウリがいた世界にはあるようですが。
「なんなんですかこの奇妙な文化」
「それは知らんよ」
「リコリスもそうだけど、アリスとマリアとジャンヌにも何かあげたいわよね」
「よっ喜んでくれそう、ですね…」
「どういうものが好きかによるわよね。子どもたちにはお菓子とか、おもちゃとか?リコリスは」
「女性」
「女」
「女じゃろ」
「ぜってー女」
「お、女の人…」
「一周回って信頼度が高いわね」
ユウカが眉を八の字に寄せる横で、ルウリがポンと手を叩いた。
「あれしよっか。裸にリボン巻いて、プレゼントはわ・た・し♡ってやつ」
「知らないんですけどそんな文化」
「そっちの世界の常識を持ち込んでくるでないわ」
「やったら咽び泣いて喜びそうくない?」
まあ想像に容易いですけど。
「あ、あの、今までのクリスマスは…どうしていたんです、か?」
「リコのお母様に聞いたら、ぬいぐるみや服なんかをこっそり置いていたようです」
「あら可愛い」
「そんなので喜ぶ姫マジきゅん〜♡」
プレゼントが欲しいではなく、サンタさんに来てほしい、というのがリコの思うところらしい。
妙なところで子どもっぽいですね。
そんなリコにときめいてしまっているのだから、私という女は大概だ。
「ま、そのくらいでいいならあんまり気構える必要は無さそうね。アタシたち全員からってことで、何か一つリコリスたちに贈りましょ」
「それがよさそうじゃの」
「賛成です。シャーリーにも伝えておきますね」
「それじゃアタシはちょっと失礼するわね」
「どこか行くのかの?」
「ええ。今日あたりお客さんが到着する予定なの。迎えに行かなきゃ」
「お客さん?」
「あとで紹介してあげる。トト、ゲイル、一緒においで」
「うんっ」
「行きます」
あの二人を連れて行くということは…なるほど、お客さんとは…
聖夜祭に向けてリコが入れ知恵でもしたのでしょう。
賑やかになりそうです。
「そういえば、マリアとジャンヌはどこへ?」
「冒険者ギルドだって。何か依頼受けてくるって言ってた」
「落ち着きが無いところはリコに似ましたか」
「リコリスと違って安心して放任出来るがの
違いありません、と可笑しく笑っていた頃。
「マリアさん、ジャンヌさん」
「「はい…」」
引き攣った顔のジェフさんに叱られ耳をペタンとさせているとは、まるで思わなかったのであった。
――――――――
「カルバッキアの森の半壊…依頼はたしか、薬草の納品だったはずですが。何故戦闘行為を?」
「だって、ゴブリンが襲ってきたから…」
「オークもです…」
「だとしても限度というものがあります」
ちょっと遊びに行こうって依頼受けたけど、冒険者って難しい。
お姉ちゃんたちはいつもすぐに魔物を倒しちゃうのに。
「被害と罰金はリコリスさんに請求するとして……お二人は罰則として一週間の奉仕活動に街の清掃、それと冒険者活動を禁止します。いいですね」
「はい…」
「わかりました…」
しょんぼり…
「はぁ…失敗しちゃったね」
「うん…。でもなんでだろ…。普通に戦っただけなのに」
「そうだよね?」
うーん。
でも、あのクオンって人と戦ってから、なんか調子がおかしいんだよね。
悪いわけじゃなくて、調子が良すぎるっていうのかな?
「なんだろこれ」
「わかんない。それよりどうしよう…お姉ちゃんたちに怒られるかな?」
「うーん…アルティお姉ちゃんとドロシーお姉ちゃんは怒るかも…」
「おやつ抜きかなぁ?」
「ご飯の後のデザートも無しかも」
「「ううう…」」
カラン
頭を抱える私たちの後ろで木の音が鳴った。
「随分面妖な顔をしていますね」
「わっ!ミ、ミオせんせー?!」
「お久しぶりです、マリアさん、ジャンヌさん」
「元気にしてた?」
「リーニャさん!アンナさん!メノローアさん!」
人魚の魔眼。
冒険者四人のパーティーで、リーダーのミオ=ホウヅキさんは私の師匠で、救世一刀流を使うすごい剣士。
「会えて嬉しい!元気でしたか?」
「ええ、息災です。旅すがら王都へ立ち寄ってみれば、思わぬ出逢いが待っていました」
「エヘヘ」
「リコリスさんたちも一緒ですか?」
「うんっ。そうだ、屋敷に来てくださいミオせんせー!みんなも会いたいと思うから!」
「お邪魔でなければ。それはそれとして」
ミオせんせーは私と腰の刀を見た。
「救世一刀流、ものに出来ているようですね」
「わかるんですか?」
「これでも刀を握って長いので」
(しかし一度私の剣を見ただけで、流派の本質を掴んでいるとは。さすがリコリスさんの仲間というべきでしょうか。剣の才能は私以上のようです)
「ミオせんせー?」
「ああ、ゴメンなさい。それより何か落ち込んでいたようですが」
思い出したらまたしょんぼりしてきた…
「あのね…」
かくかくしかじか。
「フフッ、そんなことでしたか。元気があっていいではありませんか」
「でも…」
「怒られちゃいます…」
「私が口添えしましょう。多少のやんちゃさは、冒険者には必要です」
「ミオせんせー!」
「ミオさん!」
ぎゅーってしちゃうもん!
ミオせんせー優しい!
「じゃあ早く帰ろ!リコリスお姉ちゃんのお屋敷すっごいんだよ!」
「それは楽しみです」
ミオせんせーが話をしてくれたからって、ギルドからの罰が無くなるわけじゃないし、アルティお姉ちゃんとドロシーお姉ちゃんには叱られることになるってこと。
このときの私たちは知らないんだよね。
――――――――
姫へのプレゼントかぁ。
なーにあげよっかな。
「エヴァっちは何か考えてる?」
「へっ?わ、私は、その…サリーナ以外と、聖夜祭のお祝いするの…初めてで」
「あー…(察し)」
ゆーてあたしもミルクちゃんたちとくらいだけど。
「ユウユも誰かとって初だよね?」
「まあね。特にやることも無いから、ゴーストたちと一晩中踊り明かしたことはあったけど」
ひえっ、地獄かよ。
「何よ変な顔して。一人だったけど、それなりに楽しかったんだからね」
「ユウユの拗ね顔きゃわ」
「でも、楽しみねクリスマス」
「は、はい」
「あーね」
このまま平和にクリスマスを迎えられるといいなぁ、ってのはフラグかな。
まあ、何かしらは起こるんだろうな。
バタバタドタバタ。
姫はいろんな運命を引き寄せるから。
――――――――
「ケーキの材料と、飾り付けようの魔石も買ったし、こんなもんかな。そろそろ帰るか。ゴメンねシャーリー、買い物付き合わせて」
「とんでもありません。ご一緒出来て光栄です」
「ウヘヘ。今日のご飯は何にするかなぁ。寒いし…やっぱ鍋かな。カニ鍋とかいいよねぇヘヘヘ。大根おろしでみぞれ鍋もアリだな。つみれたっぷり入れて。やーでも待てよ?シチューも全然いい!トロットロのビーフシチューをさー焼き立てのパンで。ふぁぁ、たまんねー」
くぅ、と隣でお腹が可愛く泣いた。
「あ…すみません、つい」
「ニシシ、はやく帰ろ。私もお腹すいた」
二人笑いながら通りを行くと、前方からドロシーたちが歩いてきた。
「おっ、ドロシー!トトにゲイルも…って、おおお!!」
「リコリス、シャーリー」
「久しぶりですねリコリスさ――――」
「メロシーさぁぁぁん!!♡」
ドロシーと同じ青い金髪を持つエルフの皇族。
そしてドロシーが持ち得なかったこの爆!乳!
ドロシーのお姉さんのメロシーさんだ。
「ウヘヘェ会いたかったですよ会いたかったですよ〜おほ〜♡頭が埋まっちゃうおっぱいしゅき〜♡バブバブしちゃうよ〜♡」
「クスクス、あらあら」
「再会の出会い頭に乳にダイブする神経」
「元気そうでよかったです」
「メロシーさんも!」
クリスマスのパーティーをするのに、メロシーさんも呼んだら?ってことだったんだけど、来てくれて嬉しいなぁ。
「わざわざ歩いてこなくても、私が迎えに行ったのに」
「少し心構えが必要だったから」
「心構え?」
「いざ対面してみたら、その心配は無かったみたいだけど」
メロシーさんはまっすぐシャーリーを見つめた。
うあっ、そういえばシャーリー…前に二人を暗殺しようとしたんだよな…
仲間になったって報告は手紙でしてたけど、やっぱりいざ会うってなると構えるよなぁ。
「優しくて穏やかな…あの頃とは違う目をしていますね」
「変えていただきました。リコリスさんに、そしてドロシーさんたち仲間に」
「シャーリーさん」
「はい」
「リコリスさん共々、ドロシーのことをよろしくお願いいたします」
「はい。この命に変えても」
変えんな。
全員漏れなく私のだ。
「まあまあ何はともあれってことでー♡ささ、帰ろう帰ろう♡ゆっくりとそのお乳を堪能…じゃねーや。手荒に揉みしだいて…でもねーや。おいしいご飯でおもてなしをば♡」
「隠しきれない煩悩ほんとムカつくわね。アタシだって乳があれば」
「私おっぱい無くてもドロシー好きだよ!」
「主様、胸無いけど、優しい」
「慰めは時として人を傷付けるってことを覚えておくのね二人とも」
無い乳ねだり草。
いやぁ、それにしても立派なお乳よ♡
そりゃ欲望も止まらんて♡
姉妹丼とかねぇ、ごちそうになりたいですしねぇ♡
谷間に溜まった汗を啜ったりねぇ、夢ですねぇ♡
「リコリスさん、馬車が」
「おっとと」
ヤベ、ボーッとしちゃってた。
乳の魔力よなこれが。私尻派だけど。
――――――――
王都の通りを行く馬車の中。
「獣人に魔人に…これだから他の国に赴くのは嫌です」
女性は窓の外に不快げな目をやった。
「下賤で下等、まったく気が滅入りそうです」
馬車が通りの角を曲がったときだ。
同乗している少女が外の景色に目をやると、路傍に在って一際目立つ赤い髪の少女が目に入った。
魔法でも使おうとしているのか、魔力の昂りを感じ取れた。
「……!!」
「早く城へ向かいましょう。クロエ……クロエ?」
少女は女性の声など耳に入らないとばかり、走行中の馬車の扉を蹴り飛ばした。
「な、なにを?!」
「見つけました…」
少女はそう呟き、馬車から飛び降りた。
――――――――
「はやく帰ろ。瞬間移動しちゃうから」
と、魔力を高めたとき。
ふと、私たちの真横を通った真っ白な馬車の扉が勢いよく開いた。
ていうか壊れた?
「んぁ?」
中からプラチナの髪の美少女が飛び降りてデッッッッッカ?!!!
すげぇ可憐な美少女がデッッッッッカ?!!!
おっぱいでけぇ!!
え?!あれおっぱい?!
メロシーさんよりデカい!!
何カップあんのあれ?!!
K?!Kくらいあるんじゃないのあれ?!
「見つけました…」
「ほぇ…ふぐぅ?!!」
「見つけました!!私の神様ぁ!!♡♡♡」
「むぐぐぐぐ!!」
美少女は恍惚とした顔で私を見つめるなり飛びついて、豊満な私の視界が暗くしたうわぁぁぁやわらかぁぁぁいい匂いするンゴぉぉぉ!!♡♡♡
「あぶぶぶ…プハッ!あ、あの、どちら様?」
「私はクロエ!クロエ=ラスティングノーン!リーテュエルの聖女!そして、あなた様の巫女でございます神様ぁ!!♡」
「み、巫女…?神様…?」
えっと……何事?
「あんたはまた…」
「何をしでかしたんですか?」
「なんでもかんでも私が原因じゃなくない?!」
……たぶん。
いやぁ、創作意欲が止まりませんわ。
百合百合させるのサイコー。
引き続き百合していくので、おそれながら応援よろしくお願いいたします!
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