幕間:あの日見た百合の名前を私達はまだ知らない
幕間のタイトルってじつはそんなに意味はないんですよね。
ノリです。
それは、我が娘アリスの何気無い一言から始まった。
「ママーだっこー」
「はいはい」
「おかーさんもだっこしてー」
「ええ、おいで」
「んー」
いい顔するわ〜。
めっちゃ顔ニヤける。
子どもの体温あったけぇ。
「アリスはギューってされるの好きだね」
「うん。アリスねーおっぱいすきなの」
約一名、この言葉に反応を見せた奴がいる。
「ママのおっぱいがいちばんおっきくてね、おかーさんのとシャーリーのがそのつぎにおっきくていいの」
「違いがわかる子どもですね」
「そんなところはリコに似なくていいのに」
「エヴァとルウリとユウカのおっぱいは、おっきくないけどやわらかくてすきー」
「あ、ありがとう…ございます…?」
「あたしら美乳で売ってるから」
「子どもにおっぱいの評価されたんだけど」
「ジャンヌのはふにふにしててすきでねー、マリアとテルナのはぺったんだけどかわいくてすきなの」
「エヘヘ〜」
「テルナお姉ちゃんと一緒なの納得出来ないよぉ」
「それは妾のセリフじゃ。見よ、この抜群のスタイル」
大人モードなんなよ大人げねえ。
「みんなのおっぱいすきー」
「アタシは?」
ピリッ
アリスを除き、その場の全員が張り詰めた空気の中で硬直した。
「アリス、アタシのは?」
「ドロシーおっぱいある?」
ピリッッ
すげぇ純粋な目してえげつない角度から殴るじゃんうちの娘。
ガゼルパンチかよ。
「ふあぁ…アリスねむい。リルムたちのおっぱいでおひるねしてくるー」
「私もー」
「おやすみですー」
ってアリスは空気だけ凍りつかせて行っちゃった。
ついでにマリアとジャンヌも。
「すぅぅぅぅ…………ふぅぅぅぅぅ」
呼吸でっか。
「ま?子どもの言うことだから。言ってアタシまだ100歳前後だから。これからだから。まだこれから」
何も言ってないのに言い訳し始めた。
「ま、まあそうだよね。おっぱいなんていつ大きくなるかとか、誰にもわかんな――――――――」
「巨乳は発言するな!!!」
「フォローしたんだよ目がマジじゃねえか」
「皇族は巨乳の血統のはずなのに!!毎日牛乳飲んでストレッチもしてるのに!!アタシの中の貧乳がそれを邪魔する!!」
「ドロシーの中の貧乳ってなんですか」
「ヘイRURI、貧乳の原因を教えて」
「女性ホルモンの分泌が少ない。姿勢が悪い。無理なダイエット。血行が悪い。暴飲暴食。睡眠障害」
「女性ホルモン云々はわかりませんが、ドロシーさんは別段他には該当していないと思うのですが」
「一例挙げただけだから。てかぶっちゃけ、おっぱいが小さい人は何しても小さいっていうか」
「誰が永久貧乳よ!!!」
「言ってねーよ」
「くっそどいつもこいつもォ!!見てなさいよ巨乳共!!バーカバーカ!!」
出てった。
「出来たわ!!」
戻ってくんのかい。
「刮目しなさい!!これが世界から貧乳を消滅させる薬!!巨乳薬デカチチポロンよ!!」
「デカチチポロン」
「声に出して読みたい単語すぎるだろ」
そんで見た目何それ。
パイ○アメかよ。
「ドロシーって変な薬作るのね」
「だっ大丈夫、なんですか…その薬…?」
「また毒薬なんじゃないんですか?」
「これを飲めばアタシも巨乳に……ぱくっ!んんんんんキテるキテる!!圧倒的な胸の高鳴り!!細胞が脈動するのを感じる!!お、おおお!!キタキタキタぁぁぁ!!これがぁ……新生ドロシーよ!!」
ペタァァァァ
「新生……」
ペタァァァァァン
「ドロシー……」
ペッタァァァァァァン!!
「マジぴえん」
「喜劇越えて悲劇じゃな」
エルフの霊薬でもどうにもならないドロシーの乳、か。
「……ザ・ウォール」
「ブッフォ!!wwwマwジwやめて姫!!www壁○くん出てきたって!!www」
「鉄壁のディフェンダーなw」
「いやいやドロちぃは絶壁だろってw」
「アヒャヒャヒャヒャwww」
「ナニガオカシイ」
「「ひえっ!!」」
振り返る動きがジャパニーズホラーのそれ。
「ああ、そうだ。世界中の巨乳を狩ればいいじゃない」
「毛狩○隊みたいなこと言い出したぞこいつ」
「そうすれば貧乳は貧乳じゃなくなる。世界は貧乳も巨乳も等しく争うことのない世界になるのよ」
「乳派じゃなくても巨乳がいなくなるの普通に嫌だぞ」
みんな違ってみんな良いの精神知らんの?
「うるさいうるさいうるさい!!巨乳が諭すなぁ!!巨乳……死すべし!!」
「ぁだだだだだ!!おっぱい鷲掴みにすんなもげる!!もげちゃうからぁ!!」
「うわああああん!!おっぱい片方だけカッサカサに干からびろぉ!!」
怖すぎる捨てゼリフ吐いてまた出てった。
「……魔法で巨乳にしてあげたらどうですか?」
「虚しいとまた怒りそうですが」
「でも貧乳だからこそドロちぃじゃない?」
「それな。てかあいつデカチチポロン忘れてんじゃん」
「飲んでみたらどうじゃ?」
「私はもうスタイルが確立してるからいい」
「こんなの誰が飲みたがるんですか」
「ジョークグッズ…とかじゃない?」
「……………………」
「じゃんけんポン!!ぬああああああ!!」
おもしろおかしくノッてしまったが故に。
「おそろしく早いストレート負け」
「どーすんだよ私が更にボインボインになったら」
「とりあえず揉んでおきます」
「私のおっぱいを求め合う女たちか……それはそれで悪くない!ごっくん!がぁあああああ!!」
味はちゃんとパイナップルなのになんでドロシーの薬っていっつも初動苦しいの?
「そんでなーーーーんも変わんないんだもん!!元の大きさのまま!!デカチチポロン効かねえ!!」
「ドロシーにも効いてなかったし、じつは不良品とか?」
「ドロシーの薬に限ってそれはありえん」
「あれで薬に関しては一家言ありますからね」
「ちょっと調べてみるか。【神眼】っと。えーなになに?」
デカチチポロン。
巨乳には効果が無い。また……
「過度な貧乳にも効果が無い。…………すぅぅぅ、ふぅぅぅぅ」
私たちは揃ってそっと目を伏せた。
ああ神様。
どうか哀れな貧乳に愛の手を差し伸べたまえ。
余談だよ。
その後デカチチポロンはDCPサプリと名前を変えて売り出され、一部の悩める女性の間で大流行。
貧乳に革命を齎したものとして、ドロシーは乳皇女として崇拝され伝説に。
それに伴い相対的にドロシーの貧乳が確固たるものにもなったんだけど。
「巨乳は滅びろぉ!!!」
ブチ切れた本人曰く、語るに足りない話だってさ。
「足りないのは乳だろってべぶっ!!」
「ツギハ、チクビヲ、バクハスル」
「うぃっす…」
――――――――
自己紹介からしてみよっか。
「ユウカ=モノクロリスよ」
可愛い名前だね。
年齢は?
「500歳。誕生日は覚えてないから、目覚めた日を基準にしてるけど」
なるほど。
じゃあ今日はユウカの秘密を丸裸にしちゃおうかな。
好きな食べ物と苦手な食べ物は?
「幽霊だから別に食べる必要は無いの。でも強いて言うならリコリスの作ったものはなんでもおいしいかな」
ヘヘヘ、おいしく食べてくれてありがとう。
「こちらこそ」
趣味は?
「趣味…これも幽霊だから必要では無いんだけど、お風呂にはよく入ってるわね。ちょっと熱めのお風呂にいい匂いの香油を垂らすのが好きなの」
ふむふむ。じゃあ特技なんか教えてもらっちゃおうかな。
「いいけど、さっきから何この一問一答」
お気になさらず。
「えっと特技よね。特技と呼んでいいのかはわからないけど、やっぱり死霊術になるのかしら。カリオストロくらいの広さなら、隅から隅までゴーストを操れるわ」
すげぇ。
「フフン。これこそが我が力」
そろそろ好きなタイプなんか訊いちゃおうかな。
「す、好きなタイプ?それは、その…明るくて、優しくて、自分をしっかり持ってる人…とか?」
なるほど私ですね。
「なんでそうなるのよっ!」
違うんですか?
「違っ…う、こともないけど…」
ニッコリ。
「うう…」
この度百合の楽園に加入したわけですが、今後やってみたいこと、行ってみたい場所はありますか?
「急に言われても…。何でもやってみたいし、どこへでも行ってみたいわ。ああ、でも海には行ってみたい。なんとなく」
島を買ってプライベートビーチをプレゼントするよ。
「えぇ…お金持ち…」
顔も性格もスタイルも良くて全ての才能を超越したお金持ち美少女でーす。
惚れてええんやで。
「はいはい」
惚、れ、て、ええんやで♡
「だー!ほっぺツンツンするな!」
それではここからはちょっとディープな質問もしちゃおうかな。
ズバリ、スリーサイズは?
「知らないわ。測ったことないし」
では後ほどじっくりと。
チューはしたい派?されたい派?
「何よその質問…。…………されたい、かな」
チュ♡
「ぬぅぅぅぅ……!」
ニシシ。
触られてビクッてなっちゃうところはどこですか?
「だから何その質問!えっと…」
ちゃんと考えちゃうマジメなとこ好きだよ。
「うるっさい!首とか脇とか、くすぐったいとこ!」
どれどれ?ツンツン。
「んひゃっ!!」
ツーンツン♡
「んっ、やっ、あっ!♡」
満足です♡
「はぁ、はぁ。絶対やり返してやる…」
じゃあ緊張もほぐれてきたことなので、服を脱いでみよっか。
「へ?服?なんで?」
まあまあ。
ボタン外すくらいでいいから。
「…?……??」
んーいいねいいね。
そのまま上着を脱いじゃったりしてみたりね。
「こ、こう?」
ナイスですねぇ。
この際どい感じが、えーえー。
「ねえ、これなんかすごく恥ずかしいんだけど」
大丈夫大丈夫。
百合の楽園の通過儀礼だから。
アルティなんか最初から全裸でやってるから。
「そうなの?大胆なのね」
というわけでね、ユウカも行っちゃお。
下とかもねぇ、脱いじゃったりねぇ。
「わ、わかった」
うひょーーーーこれこれぇ♡
いいよいいよー♡
「あっ、あんまり見ないでっ」
はぁはぁ、恥じらいが、恥じらいが、たっ、たまんねーーーーあ゛がぺっ!!!
「何をしているんですか何を」
ア、アルティ…
これは、その…
「メンバーならみんなやってるからって、インタビュー?をカメラで残しておくんだって言われたんだけど」
「そうですか。リコ」
はひっ!
「私がいつ全裸でこんなことをしたと?」
あ、は…
「大丈夫です。コキュりませんよ」
え?ほんと?
赦してくれ――――――――
「その程度ではヌルいでしょう?」
る、わけなかった。
名前は?
「リコリスです…」
いやらしい身体をしていますね。
「はい…」
スケベですね。
「はい、スケベです…」
週に何回シますか?
「何回も……って、私がインタビューされる側なのは違うよーーーー!!」
――――――――
「救世一刀流!」
「【大海魔法】!」
「剡天下!」
「海鳴りの豹牙!」
二人の技が激突し、周囲に水蒸気の霧が舞う。
刀と魔法が穿ち合う音と共に晴れたのを見て、ユウカはぽかんと口を開けた。
「はぁ…あなたたちが只者じゃないのはわかってたけど、あの二人も相当ね」
「シシシ。なんたって私たちの妹だからね」
「マリアは、こと剣に関してはリコリスに、スピードだけならシャーリーにも負けるとも劣らない」
「今や立派な剣士じゃ」
「ジャンヌさんは威力こそアルティさんやエヴァさんに一歩及びませんが、手数と魔法発動の速さは目を見張るものがありますね」
「まだまだ大賢者クラスとは言えませんが、実際手合わせをしたら加減は出来ないでしょうね。素の身体能力では、エヴァはともかく私はまともには敵いませんから」
半神半人のリコリス。
国家級戦力に数えられる大賢者のアルティとエヴァ。
精霊の力を引き出すエルフの女皇ドロシー。
技と速さに長けた元暗殺者のシャーリー。
世界の文明レベルをたった一人で引き上げる頭脳を持った錬金術師のルウリ。
竜の因子を宿した幻獣のリルム、シロン、ルドナ、ウル、ゲイル、トト、プラン。
マリアとジャンヌを含めて皆が皆そうなんだけど、やっぱり一番特異なのはこの子だ。
「ユウカー、プカプカして」
「また?いいわよ、死霊術・心霊現象」
「キャハハハッ」
念動力で空に浮かんで無垢に笑うアリス。
リコリスとアルティの娘で、精霊王で竜王。
なるほど、よくわからない。
「楽しい?」
「たのしい!」
可愛いから何でもいいわ。
「本当に可愛い。私って子ども好きだったのね」
「アリスねーユウカすき」
「きゃー♡もう私の子になりましょ♡」
「うちの子じゃ」
「引き抜かないでください」
いいじゃないケチ。
「いいなぁ子ども。私も欲しくなっちゃう」
「お、じゃあ今夜辺り一発――――」
「フンッ!!」
「ぐぼぁボディにきちぃ一発がぁ!!」
「誰と何人拵えようが咎めません。が、最初は正妻です」
「うぃっす…」
序列って怖い。
「リコリスお姉ちゃーん!一緒に訓練しよー!」
「相手してくださーい!」
「おーかかってきなさい。大人の厳しさを教えてやんぜ」
リコリスは揚々と剣を片手に妹たちの相手をした
その間、私たちはお茶でもってことに。
甘い紅茶を嗜みながら、私はこんなことを訊いた。
「そういえば、みんなってリコリスのどんなところが好きなの?」
百合の楽園の一員になったんだもん。
そのくらいは知っておかないと。
「どんなところが…そう言われても…全部好きなので…」
アルティの本気で照れてること。
こっちまで顔が熱くなっちゃう。
「そうなのよね…。金使いは荒いし性欲に忠実なオープンスケベ…おおよそクズと呼ばれる部類ではあるんだけれど…」
「それでも好きになっちゃったんだよねぇ。てかたぶん、あたしたちってダメ女好きなんだと思う」
ルウリの言葉に全員が、あぁ〜……と言葉にならない声を出した。
今頃リコリスはくしゃみでもしてるんじゃないかしら。
「でっでも、リコリスちゃん…は、良い人ですよね…。ひ、人に寄り添えるというか」
「そうですね。あの方は他者を受け入れることに長けていると思います」
エヴァとシャーリーの言い分も間違ってないらしい。
みんな、また小難しそうに唸った。
傍から見て、みんなそれぞれリコリスに対しての距離感が違うらしい。
恋愛又は親愛って大きく確立された基盤があって、友愛と敬愛のバロメーターが違う。
勝手な印象だけど、
友愛
↑ルウリ
|
|マリア
|ジャンヌ
|ドロシー、テルナ
|アルティ
|エヴァ
↓シャーリー
敬愛
こんな感じ?
ここに私を当てはめると、ルウリと同率かルウリより友愛寄りになる。
よく見積もってもルウリとマリアの間くらいだと思う。
「まあ、アルティとテルナは一目惚れしてるわけだけど」
「ド、ドロシー!」
「やかましいのじゃ!そういうそなただって、リコリスの優しさに絆されたんじゃろうて!」
「そっそれに関してはみんなそうでしょ!シャーリーもエヴァもルウリも!」
「それはその…」
「うぅ…」
「あたしはとりあえず一回ヤッてから考えたが?」
勇ましっ。
「なんせこの世界で初めて会った同郷だったからねー」
「異世界だっけ。こことは違う世界」
「そうっ。マジで運命感じたなぁ」
リコリスを思う表情の乙女なこと。
それはみんな同じっぽいけど。
「嫁が先じゃなかったら絶対あたしが姫の一番だったわ」
「おや、聞き捨てなりませんね」
「そうじゃそうじゃ」
「わっ私だって…」
「そんなの言ったらアタシも」
「黙ってなさい同率二位たち」
ブチッ
ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー!!
やいのやいの!!
「マジ嫁そういうとこウザい!」
「調子乗ってんじゃないわよ正妻の分際で!」
「ムッツリスケベ!」
「そ、外でスるの…好きなくせに…!」
「変態」
「わかりました戦争ですねあなたたち全員氷漬けにしてやりますよ!!」
仲良しね…
見てて飽きない。
みんな本当にリコリスのことが好きなのね。
私もいつか胸を張って言えるだろうか。
みんなと同じくらいあの人のことを好きになれたら。
「ふぃー。つっかれたー。妹たち強くなりすんぎ。ってなんでみんなもバトってんの?まあいいや。ユーウカー♡」
「きゃっ!もうなんで抱きつくの!汗ベトベト気持ち悪い!」
「ウヘヘ、一緒にお風呂行こーぜ。背中流して〜」
「あーもうわかったからー!はーなーれ……て」
ジーーーー
「な、なんでみんなこっち見てるの?」
「抜け目が無い」
「おいしいとこ取り」
「油断ならぬ女じゃな」
「ズルい…」
「いやっ、これは…!」
「お風呂であわあわブクブク〜♪」
「ど、どうしてこうなるのよーーーー!!」
ああ、なんだ。
私ももうとっくに、みんなの輪の中にいたのね。
――――――――
「陛下、こちらを。今朝方使者により届けられた親書にございます」
ドラグーン王国女王、ヴィルストロメリアは大臣が手にしたそれを見やるなり、眉根を寄せて疲れた風に息を吐いた。
「捨てておけ。どうせろくな内容ではない」
「恐れながらそういうわけには。なんせこれでは」
と、もう一通の親書を取り出す。
片方には口を開けた獅子の紋章。
もう片方には太陽と女神の紋章がそれぞれ封蝋されている。
ヴィルストロメリアは中身に目を通すと、鬱陶しいのを隠そうともせず机に放った。
「よりによって同じタイミングでとは。腹立たしいことこの上ない」
「来訪の目的はやはり」
「フン。見え透いている。何人たりとも私の国で好き勝手させるつもりはない。むしろ腹立たしいのは当人がこの場にいないことだ」
「ラプラスハート卿ですね。一度ギルドかパステリッツ氏から連絡を取ってもらっては?銀殿と奈落殿が不在なのも気掛かりなことですし。あいも変わらず雷帝殿は所在が不明ですからな」
「いないものはいないままで構わん。奴がいれば余計なことになりかねんというのが正直なところだからな。平穏無事な会談を望むならむしろその方が好都合だ」
「それは、たしかに…」
ヴィルストロメリアは、肘掛けに頬杖をついて二通の親書に目をやった。
サヴァーラニア獣帝国と聖王国リーテュエルから宛てられたそれ。
「獣帝に教皇か…せめて平和な気持ちで年を越したいものだがな」
そんな願いとは裏腹に少女は何の気無しに王都に舞い戻り、女王を苦悩させる運びとなるのだけれど。
それはもうすぐそこまで迫った話だ。
――――――――
北の山脈を抜け、平坦な街道を行く黒塗りの馬車が列を成す。
その先頭。
虎柄の耳をピンと立て、少女が窓から顔を覗かせた。
「旅ッ行〜旅ッ行〜♪ニュフフ〜楽しみですね〜。王国なんて何年ぶりでしょうか」
「コルル、浮かれるのはいいですが慎みなさい。陛下の御前です。第一、旅行ではなく視察だと言ったでしょう」
「むーフェイは堅すぎなのですよ。だって最近はお仕事ばっかりでゆっくり出来なかったんですよ?こんなにのんびりしてるのは久しぶりなのです。少しははしゃいでもいいと思うのですよ」
「まったく。申し訳ございません、陛下」
「よい」
それよりも、と陛下と呼ばれた人物は前方に細めた視線をやった。
フェイといううさぎの獣人の女性は、意図を汲み取るなり席を立ち、そのまま走行中の馬車の扉を開けて飛び降りた。
「揺れますね。陛下は大変ご立腹であらせられます」
馬車を引く数人の獣人族たちに、かくも柔らかい言葉遣いで一喝した。
「たかが奴隷如きが崇高なる獣帝陛下の気分を害すなど、はたして赦される行いでしょうか」
「も、もうしわけ、ありま――――――――」
怯え震える奴隷たちの内、痩せこけた男の首から上が飛んだ。
「快適な旅路を。無能な弱者にもそのくらいは出来るでしょう」
血で汚れた手をハンカチで拭き取って。
奴隷たちに再度出発を促す。
次はあなたの首が飛ぶかもしれないと釘を刺して。
「フェイは暴力的で困るのです」
「あなたほどではありませんよ」
命が消え、命を摘み。
とてもそんなことがあったとは思えないような雰囲気で、サヴァーラニア獣帝国獣帝を乗せた馬車は再び動き出した。
それがさも当然の日常であるとばかりに。
丁重に。丁重に。
獅子の尾を踏まないように。
――――――――
不毛の大地の更に西の国より。
南の海に孤を描んとする船を見上げて。
「不毛の大地を越えられないというだけで、相変わらずの不便を強いられますね」
金糸で刺繍された法衣に身を包む教皇は、シャランと杖をついて港へと乗り込んだ。
「用意はいいですね?クロエ」
傍らには同じく法衣を纏った少女が一人。
一言も話さず、ただ笑みを浮かべ続けている。
「結構です。先を急ぎましょう。急ぎこの目で見定めなくてはなりません。王国に出現した迷宮を。もしも世界の均衡を揺るがすものであるならば、我々が粛清せねばなりません。大いなる神々の御名の下に」
《プロフィール》
名前:リコリス=ラプラスハート=クローバー
種族:半神半人
性別:女性
年齢:19歳
職業:魔狼級冒険者
所属:百合の楽園
称号:ドラグーン王国伯爵、アイナモアナ公国名誉子爵、ディガーディアー名誉子爵、竜殺し、夜会の主、神への叛逆者
加護:【自由神の加護】【遊戯神の加護】【法神の加護】【精霊王の加護】【竜王の加護】
アンリミテッドスキル
【百合の王姫】【創造竜の魔法】
名前:アルティ=ラプラスハート=クローバー
種族:人間
性別:女性
年齢:18歳
職業:魔狼級冒険者
所属:百合の楽園
称号:銀の大賢者
加護:【魔術神の加護】【精霊王の加護】【竜王の加護】
ユニークスキル
【七竜魔法】
アンリミテッドスキル
【妃竜の剣】
名前:ドロシー(真名:ドゥ=ラ=メール=ロストアイ)
種族:ハーフエルフ
性別:女性
年齢:130歳
職業:精霊級冒険者、薬師
所属:百合の楽園
称号:亡国の皇女、森羅の継承者
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【調合】【採取】【交渉術】【商人】【金の恵み】【念話】
エクストラスキル
【精霊魔法】【月魔法】【眷属召喚】【状態異常無効】
名前:マリア
種族:獣人族
性別:女性
年齢:10歳
職業:妖精級冒険者
所属:百合の楽園
称号:竜殺し
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【剣術】【直感】【言語理解】【念話】
エクストラスキル
【爆炎魔法】【電光石火】【天駆】【神速】【状態異常無効】
名前:ジャンヌ
種族:獣人族
性別:女性
年齢:10歳
職業:妖精級冒険者
所属:百合の楽園
称号:竜殺し
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【執筆】【描写】【言語理解】【念話】
エクストラスキル
【大海魔法】【術理】【並列思考】【見えざる手】【状態異常無効】
名前:テルナ=ローグ=ブラッドメアリー
種族:吸血鬼
性別:女性
年齢:1999歳
職業:神竜級冒険者
所属:百合の楽園
称号:真紅の女王、血の福音、意思ある災厄
加護:【最高神の加護】【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【鑑定】【鑑定阻害】【隠蔽】他、現存する全てのスキル
エクストラスキル
【召喚魔法】
ユニークスキル
【全知全能】【無限】【紅蓮魔法】
名前:シャーリー(シャルロット=リープ)
種族:人間
性別:女性
年齢:25歳
職業:子鬼級冒険者、裁縫師
所属:百合の楽園
称号:虚ろの影
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【暗殺術】【短刀術】【調合】【器用】【蹴撃】【投擲】【針使い】【操糸】【暗視】【詐欺】【窃盗】【姦淫】【礼儀作法】【苦痛耐性】【鑑定阻害】【念話】
エクストラスキル
【影魔法】【状態異常無効】
名前:エヴァ=ベリーディース
種族:半魔人
性別:女性
年齢:18歳
職業:悪魔級冒険者
所属:百合の楽園
称号:奈落の大賢者
加護:【混沌神の加護】【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【念話】他、取り込んだ魔物のスキル
エクストラスキル
【状態異常無効】
ユニークスキル
【混沌】【重力魔法】【混沌付与魔術】
名前:ルウリ=クラウチ=ディガーディアー
種族:自動人形
性別:女性
年齢:18歳
職業:悪魔級冒険者、錬金術師
所属:百合の楽園
称号:錬金術師
加護:【機械神の加護】【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【射撃】【精密動作】【解析】【念話】
エクストラスキル
【錬金術】【人形師】【魔力装填】【魔力変質】【状態異常無効】
名前:アリス=ラプラスハート=クローバー
種族:精霊竜王
性別:女性
年齢:0歳
職業:無し
所属:百合の楽園
称号:精霊王、竜王
加護:【精霊王の庇護】【竜王の庇護】
アンリミテッドスキル
【精霊王の輝冠】【竜王の黒逆鱗】
名前:ユウカ=モノクロリス
種族:幽霊
性別:女性
年齢:500歳
職業:粘体級冒険者、死霊術師
所属:百合の楽園
称号:時の迷い子
加護:無し
スキル
【念話】
エクストラスキル
【状態異常無効】
ユニークスキル
【死霊魔法】【反転】
《従魔》
名前:リルム
種族:幻獣種・粘魔竜姫ベルゼビュートスライムロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【魔竜の暴食】
名前:シロン
種族:幻獣種・眠兎竜姫ベルフェゴールラビットロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【兎竜の怠惰】
名前:ルドナ
種族:幻獣種・空鷹竜姫マモンホークロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【鷹竜の強欲】
名前:ウル
種族:幻獣種・黒狼竜姫ルシファーウルフロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【狼竜の傲慢】
名前:ゲイル
種族:幻獣種・翠甲竜姫アバドンビートルロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【甲竜の破滅】
名前:トト
種族:幻獣種・月霊竜姫レヴィアムーンエレメンタルロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【霊竜の嫉妬】
名前:プラン
種族:幻獣種・冀聖竜姫サタナエルドラゴンロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【聖竜の憤怒】