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99.聖夜を夢見る

「フッフッフ!我こそは偉大なる究極の王!天の(たかどの)の主にして不羈(ふき)なる死霊の統率者!ユウカ=モノクロリスである!」


 ばーん!じゃないんだよなぁ。

 いや、ポーズ執ってドヤってるの正直めっちゃ可愛いけども。

 

「ユウカお姉ちゃんカッコいい!」

「私もやりたいです!」

「フッフッフ、これが五百年で私が身につけた特技よ。小難しい言葉を使うのと腕の角度がポイントね。意味深で余裕のある表情も忘れちゃダメよ」

「子どもたちに変なこと教えんな厨二」

「厨二……なんだか妙に魂をくすぐられる魅惑の響き。くっ、右眼が疼く!鎮まりなさい我が内なる波動!」

「はーいはい。つよいつよい」

「雑ッ?!」

 

 ユウカが仲間になって数日。

 カリオストロに滞在して約二週間が経過した。

 その間にあったことをまとめておこう。




 まず、旅に出るに当たってカリオストロをどうするか。

 そのまま空に浮かせておくわけにも、どこかに不時着させるというわけにもいかず、地上に戻る際に私が管理する迷宮(ダンジョン)に転移させることにした。

 そのまま誰も入れないよう安置するのがいいだろうって。

 城の所有権を手放すわけじゃないから、名義はそのままユウカのものだけどね。

 私たちがいない間は、ゴーストたちが城の管理をしてくれる。

 ゴーストたちの管理役は、力を与えたことで更なる進化を果たした上位霊、エルダーメイドゴーストのエルメースだ。


「後のことは頼むわね」

「お任せくださいませ」

「幽霊メイド…超いいな」


 メイド喫茶とか作ろうって、そのとき密かに決意したのは内緒。




 次にユウカを城の外に連れ出すためにやったこと。

 カリオストロそのものがユウカの魂を現世に停滞させ続ける鳥かごのような役割を果たしていたわけなんだけど、それも全ては反転聖杯(リバーサルグレイル)という核があってこそのもの。

 だから私は、


「聖杯の力をそのままユウカに移しちゃえば全部解決なんじゃね?」


 って思い至った。

 なんかみんなにはこいつ正気か?みたいな目されたけど。

 ようはリルムたちと同じことだ。

 宝具(アーティファクト)の力を身体に宿すなんてこと、並の魂じゃ保たないかもしれない。

 【百合の王姫(イヴ)】で私と繋がれば負担は無くせるだろってことで。

 ものは試しのつもりでやってみたら、案外サクッと成功した。


「なんかやけに聖杯の力が抜きやすくなってたんだよなぁ」


 まるで以前に一度同じことをした人がいるみたいに。

 

「聖杯の使い方が、聖杯から力を取り除くことなんて、いったい誰が想像出来るのよ」

「それを実行しようと思える破天荒もの」


 何はともあれ!

 無事にユウカは城の外でも活動可能となりましたとさ。

 いぇいいぇい。

 ヴィルに頼んで王国の戸籍も用意してもらって、ついでに冒険者登録もしてもらったし、これで万事抜かり無し。




 みんなの交流も深まって、いやぁこれでまた私のハーレムが潤ったなぁ♡なんて両手に花でニヤニヤしてたときのこと。

 私のいつもの病気が発症した。


「城、飽きた」


 飽き性(おちつきがない)という例のアレである。


「人の住まいにそんな堂々と毒吐くことある?」

「ユウカ、これがリコです」

「そうこれが私。人生に妥協も退屈も許さない女でっす」


 どやっ。


「ってわけでさーなーんかおもしろいこととか無いのー?女の子がクリームパイ投げ合うみたいなー、御婦人方がトップレスで街中をマラソンするみたいな催し物ー。はっ!無いなら私が作ればいいのでは?」

「なんでそんなに忙しないのあなたって…」

「すぐに慣れますよ。リコの言動の九割方は奇行と珍事に繋がるように出来ていますから」

「生粋のエンターテイナーってこと?♡もうっそんなに褒めてもチューくらいしか出ないぞっ♡んーちゅっ、ちゅっちゅー♡ぺーろぺろぺろぺろー♡」

「ね?」

「ついて行くのは早計だったかもしれない…」

「てか姫〜」

「んぁ?」

「もうすぐ聖夜祭じゃん?クリパしよークリパー」

「聖!!夜!!祭!!」

「うおッ?!なんでそんなリアクションいいの?」

「そうだそうだすっかり忘れてた!!え、もう十二月だよね?!めっちゃヤバいじゃん!!まだ靴下も編んでないのに!!えーごちそうにケーキに……ううう何にも用意してないよー!!今からでも間に合うかなぁ?!」


 頭の上に疑問符を浮かべ、ドロシーたちがアルティに耳打ちする。


「ねえ、聖夜祭って毎年年の瀬にやる神に感謝を捧げる日のことでしょ?リコリスは何をあんなに慌ててるの?」

「私もよく…。ですが、子どもの頃はよくこんな風に忙しなくしてたような。たしか、クリ…クリ……クリトリ」

「クリスマスな」

「ああ、そう。それです」

「ル、ルウリ、さん…クリスマスって?」

「だいたいはこっちの聖夜祭みたいなもんかな。年の瀬に家族や恋人でごちそうとケーキ囲んで、プレゼント交換とかしたりする…お祭りってかイベント的な」

「たしかにあやつはそういう季節事を好む傾向があろうが」


 チラッ


「クリスマス〜♪ク〜リス〜マス〜っと♪フフフ、マリア〜ジャンヌ〜アリス〜♪楽しみだねぇ♪」

「それだけであんなにも浮かれるものかのう?」

「何かもっと特別な思い入れがあるとか?」

「ルウリたちの世界のクリスマスってそういうものなんですか?」

「そりゃ浮かれる人は大勢いるけど、クリスマスを心待ちにしてるのはサンタさんが来るって信じてる子どもくらいなんじゃない?」

「サンタさん?」

「とは、なんですか?」

「あーこっちにはそういう文化無いんだっけ?サンタクロースって赤い服を着た白ひげのおじいさんが、その年をいい子にして過ごした子の枕元にプレゼントを置いてくれるって迷信があんの」

「赤い服に白ひげ…それは変質者の類では?」

「家に侵入されるの怖すぎない?」

「いや、見た目とかだいぶファンシーではある」

「ルウリたちの世界っておもしろいのね」

「かっ可愛い文化、ですね…」

「で、そっちの子どもってのはそれを信じてるわけね」

「まーね。案外小バカに出来ないもんだよー?サンタさんはいるって信じてる方が夢があって…………」

「「「信じてる?!!!」」」


 うおっ?!なんだ急にデカい声出して。

 はっはーん、さてはみんなもクリスマスに浮かれてんなぁ?

 プププ、可愛い奴らめ。


「嘘だろそんなことある?!だって姫いくつ?!生前現在合わせて(トータル)アラフォーだよ?!なのに?!マ?!!」

「信じてることもそうなんだけど、なんであいつ自分のところにサンタが来るって信じて疑ってないの?」

「いい子からは程遠いじゃろうに」

「で、でも、悪い子…じゃない、ですよ」

「限りなく黒に近いグレーではありますが」

「その議論はさておき…どうするのですか?リコリスさん…」

「「「どう……しようか……」」」


 はぁークリスマス楽しみ〜♪

 けどパーティーか。どこでやろう?

 またクローバーに戻るのも味気無いしなぁ。

 あ、そうだ良いこと考えた。


「なーなーみんな。カリオストロを迷宮(ダンジョン)に転移させるついでにさ、迷宮(ダンジョン)でクリスマスを過ごさない?」

迷宮(ダンジョン)で、ですか。それはまあ、変わった趣向で良いと思いますけど」

「よっし決まり〜♪今年のクリスマスは豪華にしよーっと♪あ、サンタさんへの手紙も書かなきゃだ♪」

「ママーアリスサンタさんあいたーい」

「エヘヘ〜♪マーマもーだよ〜♪」


 なんかみんな揃って困り顔してるけど……プレゼント何をもらおうかなで悩んでんな〜?

 フッフッフ、安心しやしゃんせ♡

 ちゃーんと考えてますからね〜っと♡

 

「最高のクリスマスにしよーねみんなー♡」


 ニッシッシ、今から待ちきれないなぁ。

 サンタさんのお出迎えと、クリスマスパーティーの準備と〜。

 う〜やることいっぱ〜い♡♡♡


「シシシ」

「なに?変な笑いして」

「楽しいこといっぱいで幸せだなーってさ」

「あなたは本当に、幸せそうに笑うわね」

「可愛い?♡」

「ええ、すごく」


 ユウカはそっと唇を当ててきた。


「そんなあなたが魅力的……だ、わ」

「プッ、ハハハ!自分からやったくせに照れてんのかわヨ〜♡ユウカの恥ずかしがり屋さ〜ん♡」

「うるッさい!だって慣れてないんだもん!500歳の恋愛初心者だっていいじゃない!」

「シシシ、うんっ。けど、そんなんでこの先大丈夫?まだまだこんなもんじゃないぜ私は」

「もっと好きにさせてくれるの?」

「おう!」

「じゃあ……もっと好きになるわね」


 恋する幽霊少女は楽園に躍った。

 この空よりも大きな、無限の愛に抱かれて。


挿絵(By みてみん)




 ――――――――




「魔術師の遺産を胸に秘め旅路を刻む。新たに咲いた楽園の百合は何色に輝くのだろう。かくして世にも不思議な浮遊城の物語はここまで。天上天下に奏でる歌も、また」


 本のページに視線を落としながら満足気に少女に、図書館の主は不機嫌そうな目を向けた。


「ふぅ…感心しないね。人の悲恋をおもしろ可笑しく歌うなんて」

「いやいや壮大で美しい恋の物語じゃないですか。私は好きですよこの話。第一、おもしろ可笑しく歌ってこその吟遊詩人じゃないですか。ね、師匠(せんせい)

「まったく、変なところばかり似たものだ」

「シシシ、師匠(せんせい)の教えがいいもんでおかげさまで」

「最近はどうだい?調子の方は」

「おーまさか師匠(せんせい)からそんなことを訊かれるなんて。ちょっと機嫌が良かったりします?」

「君自身はさておき、君の歌は憎からず思っているからね」

師匠(せんせい)に褒められるのめっちゃ嬉しいです。そうですね〜、調子はいいですけど本当にみんな自分勝手っていうか。私たちが揃うことなんて年に一度あるか無いかなんですよ。頻繁に顔を見せてくれるゼロはいい方で、キティやメロディアは制御が効かなくてあちこち壊しては苦情と始末書をこっちに回してくるし、ユナにアンジェリンたちなんかやる気が無さすぎてまだ粘体(スライム)級なんですよ。他のメンバーは最低でも魔狼(フェンリル)級なのに」

「我の強さはさすがだ。名に恥じぬとはまさにこのことだよ」

師匠(せんせい)からも言ってやってくださいよ。リーダーって本当に大変で……」

「いい気味…いや、いい勉強じゃないか。偉大なる先達たちもそうやって学んでいったものさ。泣き言は似つかわしくない。緋色の後継エカルラートベルフルール……その名をパーティーに選んだのは君だろう、ジークリット」


 うぅ、とジークリットは小さく唸る。


「それに何より、一番自由にしているのは君じゃないか。忠告も聞かずにあちこち飛び回っているのを、(やつがれ)が知らないはずもあるまい?」

「いやぁ、エヘヘ。自分の衝動(インスピレーション)に嘘はつけないですから。まあシンプルに、リコリスの冒険の一番のファンってのがあるんですけど」

(やつがれ)をして断言しよう。君は彼女以上のじゃじゃ馬だよ」

「ニシシ、それもめっちゃ嬉しい褒め言葉です」


 最上の賛辞に頬を緩め、ジークリットは次なる冒険に思いを馳せた。

 幾つもの出逢いが待つ王国の冬に。

 物語は聖夜の祭礼へと。


挿絵(By みてみん)


 日頃よりご愛読いただきありがとうございますm(_ _)m

 残り幕間(いつもの馬鹿騒ぎ)一話を挟み、秘宝反転編は終了となります。

 いつもより短い章構成なのは、これくらいスピーディーな方がもしかして読みやすいのでは?という試みだったのですが、いかがでしたでしょうか。

 


 そしてこの度、百合の楽園(リリーレガリア)に新たなメンバーが加入しました。

 幽霊のユウカ=モノクロリスです。

 魔術師アリソンとの関係は、書いててパッと思いつきました。

 彼女も話を作る上で、物語を回しやすいキャラの一人ですね。

 作中でも書いたことがないトップレベルの悲恋ではありましたが、皆さんの中にこれは刺さったという方がいらっしゃれば幸いです。

 見方を変えれば壮大なNTRRではあるんですけど……そこはそれでも受け入れるリコリスの度量に免じてください!!

 みんなが(あのエヴァでさえ)リコリスに慣れた今だからこそ、ユウカには初々しい感じの百合をしてもらいたいと思っております!!



 熱く語りましたが、もう6月ですね。

 今月8日は百合の楽園(リリーレガリア)の妹、天真爛漫な猫耳っ娘マリアの誕生日です。

 今までやってこなかった誕生日イベントとか考えようかな……

 Twitter限定イラストとか。

 まあ作中はクリスマス回なんですけどね!!

 それでは今回はこの辺で。

 今後も百合チートをお楽しみください!

 お付き合いいただき、ありがとうございました!!




 新章開幕時に、例の企画やります!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] うぉぉおおおお終わった 今回もよかったなあ 意外すぎる展開がまさかこうもたくさんあるとは ユウカちゃんもかわいいかわいいネ メッシュ入ってるのが非常に良い 悲哀も入れてくるとはさすがです …
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