94.ユウカ=モノクロリス
「め゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うおぉっ?!!なんだ?!山羊が首絞められたみてぇに叫びだしやがった!!」
「なんか…なんか知らないけど私の女の危機な気がする!!湯けむりポロリでいやんエッチな気がするぁぁぁ!!」
「顔怖えなこの女。そういうことならそっちに行きゃいい。おれァその間に宝探しだ」
「あんたを再起不能にするのに…時間なんか要らねえよ!!」
コートを翻しながらフェイントを織り交ぜつつ連撃を見舞う。
速さと技は圧倒的に私が上。
対してシンドバッドは力と硬さで私を大きく上回った。
ただ振り回すだけの剣が必殺の威力だ。
それにシンドバッドの剣が変に厄介なのもめんどくさい。
ケペシュ…っていうんだっけ?鎌みたいに刀身が曲がった剣。
それによってリーチや軌道が目測よりズレて捌きにくい。
「ハッ、どうしたクソガキ!そんなもんか!」
いつもなら自滅覚悟で突っ込むんだけどな。
蹴りをガードした腕の痛いのなんの。
じゃあ斬られでもしたらもっと痛いじゃんってね。
あ、てか結構痛い。
折れたんかってくらい痺れてる。
あれ?痛…いっだぃ!!
「ってぇんだよオラァ!!」
「そりゃ痛えだろやり合ってんだから!!」
八つ当たり気味に顔面に蹴り入れたのに正論で返された。頑丈すぎるこいつ。
よくよく考えたら、ちゃんと対人戦するのってアイナモアナでシャーリーと戦ったとき以来なんじゃない?
どおりで感覚が鈍ってるわけだ。
いかんね、こんなんじゃ完ぺき美少女の名折れだ。
これはいい機会だと受け取ろう。
深呼吸を一つ、私は剣を構えた。
「雰囲気が変わったな」
「ここからは本気だよ」
「雰囲気が変わったな」
深呼吸を一つ、私は剣を構えた。
これはいい機会だと受け取ろう。
いかんね、こんなんじゃ完ぺき美少女の名折れだ。
どおりで感覚が鈍ってるわけだ。
よくよく考えたら、ちゃんと対人戦するのってアイナモアナでシャーリーと戦ったとき以来なんじゃない?
八つ当たり気味に顔面に蹴り入れたのに正論で返された。頑丈すぎるこいつ。
「そりゃ痛えだろやり合ってんだから!!」
「ってぇんだよオラァ!!」
あれ?痛…いっだぃ!!
折れたんかってくらい痺れてる。
あ、てか結構痛い。
じゃあ斬られでもしたらもっと痛いじゃんってね。
蹴りをガードした腕の痛いのなんの。
いつもなら自滅覚悟で突っ込むんだけどな。
「ハッ、どうしたクソガキ!そんなもん……?!!」
「?!!」
……は?
何だ今の…
「気のせい…なわけねぇよな?」
「同じ行動を繰り返した…違う…」
お互い与えたダメージも無い。
太陽の位置は変わってない。
ってことは、私たちの時間だけ巻き戻ったってこと?
なんだそりゃ。
「その様子だと、てめぇの仕業ってわけじゃなさそうだ」
「当たり前でしょ」
【創造竜の魔法】が使えるんならまだしも。
「カハッ、ハハハハ!いいねビンビン感じる!とんでもねぇ、とてつもねぇお宝の予感だ!」
シンドバッドは上機嫌に城を仰ぐ。
とんでもないってのは私も同じことを思ったよ。
でもねえ。
「そのセンサーバグってるから当てにしない方がいいよ」
「あァ?」
「世界中の美しいと可愛いの結晶と同義の人類の至宝、この私を前に反応してないみたいだから。それとも、自分の手に収まる程度のものにしか反応しないのかな?」
「ガラクタにゃ興味ねぇってだけだ!」
意味不明な現象が逆に頭を冴えさせる。
こんなとこで未知へのワクワクに足踏みさせんなよ。
上手く受けろよ。
私の剣は英雄の剣だ。
「星の剣!!」
「ぐ――――おおおあああ!!」
空を裂く剣を受け、シンドバッドは城壁まで吹き飛び瓦礫の山に横たわった。
気絶したか……星の剣を受けて無事なの、マジでどんな身体してんだ。
バキンと砕ける手元の剣を視界の端に捉えながら、呆れ気味にため息をつく。
「光栄に思えよ。私とまともにやり合った男はあんたが初めてなんだから。ん〜お待たせアリス〜♡一緒にアルティたちのとこ行こうね〜…アリス?アリスー?!え?!あれ?!いない!!」
子どもってすぐどっか行っちゃうよね。
そんな無防備なとこがとっても可愛いっ♡
「なんてやってる場合か私!今すぐ……うおおお?!!」
身体が熱い。
今度はさっきまで使えなかったスキルが使えるようになった。
マジでなんだこの城。
「おちょくられてんのか?まあいいやオラァ探査じゃーい!みんなどーこだ!シャーリーたちの反応見ーっけ!お風呂?!私も一緒に〜♡ってあ゛ぁぁルパンの反応もあるぅ!!あの見せかけ紳士野郎がぁ!!なんかしてたら万死に処してやる!!空間転移!!」
シュンッ
「ぐぉらぁぁぁなんちゃってムッツリ紳士!うちの女たちに何してむぐっ?」
「リ、リコリスさん?」
「マスター!」
「おーリコリス!」
みんな無事みたいだけど、転移する場所ミスった…?
視界が…
この柔らかくしっとりした肌…ちょっとくすぐったい毛…ほんのりいい匂い…
「ぷはっ…」
「あ……あ……」
「あ、やっぱりエヴァのおま」
「きゃあああああああああああああーーーーーーーー!!!」
「ゴメンわざとじゃながぼぼぼぼぼ!!!」
違うって!!
意図してないって!!
だから蛇の尻尾で湯船に押さえつけんといて溺れちゃうよぉ!!
あ、でも裸の女の子に攻められてるのは悪い気はしないかな♡ヘヘヘ♡
はい、落ち着いて脱衣所にて。
濡れた服を乾かして話し合い。
なんでこんなところで、って?
「くっ、うう…」
ルパンが鼻血出して止まんないんだもん。
「そのまま失血死すればいいのに」
「あっ…安心してほしい…。肝心な部分は湯けむりでいっさい見えなかった…。もし網膜に焼き付けていようものなら」
「ものなら?」
「私はとっくに死んでいるさ」
「旦那様は女性への免疫力が酷く低くあらせられますので」
「正直君と面と向かっただけでも心臓発作ものだったよリコリス君。紳士足る者、平静を装いに装ったが。今も同じ空間にいるだけで胃もたれと胸焼けがすごい」
食べ過ぎみたいに言うなや。
「リッリコリスちゃん、この、人たちは?」
「泥棒」
「ルパンと申します。お見知り置きを可憐なお嬢さん」
「血まみれの顔で私の女に話しかけんな」
「ルパン…幻想怪盗のルパンですか」
「知ってるの?」
「トリスティナに端を発する泥棒の血族です」
トリスティナ…シャーリーの生まれ故郷もたしかトリスティナっていう王国だったっけ。
「狙った獲物は必ず盗む、神出鬼没の大泥棒。実際は貧富の差を無くすために活動しているただの慈善家です。幻想怪盗というのも冒険者パーティーの名前で、彼自身鳳凰級の冒険者です」
「私も有名になったね。いや、暗殺者ギルドの情報網ならそれも当然かな。シャルロット=リープ君」
「!!」
焦った。
シャーリーの眼鏡には認識阻害の付与が掛けてあるのにって。
「以前君の仕事を見かけたことがあってね。顔が違って見えるのは何かしらの魔法だろうが、立ち居振る舞いは意識しても変えられないものだ」
「…………」
「シャーリー。殺気」
「……失礼しました」
「ねえ、悪いんだけどここで見たことは黙っといてもらえる?」
「もちろん。口外するメリットを感じないからね。むしろ興味が湧くよ。彼女のような生粋の暗殺者を抱え込んでいる君にね」
「知りたいんならいくらでも」
【記憶創造】で造り出した剣をルパンに向けるけど、ホームズと一緒に涼しい顔をしてる。
「一興ではあるかな。君がここにいるということは、シンドバッドを下して来たんだろう。あれは粗野で野蛮だが、私と同じ鳳凰級だ。そんな彼を倒した君との手合わせは、きっと心が躍るだろうね」
「…………(鎖骨チラッ)」
「ばぶっ!!!」
「鎖骨見せただけで顔中の穴という穴から流血してる変態がほざくな。宝探しなら勝手にやってろ。他の皆を探さなきゃいけないんだから邪魔すんなよ」
「心得ました…。そちらが宝に手を出さない限りは…おお」
戦ったらめんどくさそうだけど、シンドバッドと違って一応は人畜無害っぽい。
迷惑が掛からないなら、とりあえずは関わらなくてもいいか。
「私たちはみんなのとこに行くか。他はもう合流してるっぽいし」
「かしこまりました」
「はっはい…」
「じゃあ転移するよ……あ゛あ゛あ゛!まーたスキル使えなくなってる!」
ほんとになーんだこの城はー!なんて叫んだら天井から巨大な骨の腕が生えてきて私たちを鷲掴みにするし。
「なんじゃこりゃーーーーーーーー!!!」
天井に向かって吸い込まれていく私たちに手を振るルパンの顔のムカつくこと。
ドタバタが止まらんて。
天井やら床やらを透過し続けること一分足らず。
「うおおおお!」
私たちは陽の光が当たる庭園に投げ出された。
「ってて…」
「大丈夫ですかリコ?」
「ア、アルティ?!それにみんなも!」
「遅かったわね」
「待っておったぞ」
「みんな、心配し――――なんでティータイムしてんだ貴様ら?」
アフタヌーンティーみたいなことしてる。
こっちがわちゃわちゃしてたときに?
え?くつろぎすぎでは?
お茶とお菓子の用意してるのゴーストだし。
「マジで何事?」
「クックック、よく来たわね!ようこそカリオストロへ!歓迎するわ!」
「ひゅー♡全ての疑問を無に帰すかわい子ちゃんはっけーん♡ねえねえ名前なんてーの?♡好きな食べ物はー?♡今付き合ってる人とかいるのー?♡ねーねー♡」
「ひょえっ?!」
「距離の詰め方が犯罪者」
「ユウカ、その人は女好きなだけで害は…………あま、り……無い?ので安心して大丈夫ですよ」
「言い澱むな。ユウカちゃんっていうのー?♡名前もめっかわじゃーん♡もうアルティたちと仲良し?私とも仲良ししよ〜♡」
「あわっ、あわわわわわ!」
ふぅ、とため息を一つ。
アルティは私の頭にチョップを落とした。
「まずは落ち着いて話すところからでしょう。ただでさえあなたは圧があるんですから」
「……?…………あ、美しいって罪よね的な?」
なんかみんなにため息つかれたり苦笑されたりしたんだが。
どゆこと?
「では改めて。リコリス=ラプラスハートです」
「クックック、自分から名乗るとは殊勝な心掛けね。傾聴しなさい!我が名はユウカ=モニョク……」
噛んだ。
「我が名はユウカ=モノクロリス!」
何事も無かったように。
「この城、カリオストロの主!」
「あ、お邪魔してます」
「クックック、我が城は堪能してもらえたかしら?」
「あーいや、中に入ったと思ったら外に出されたりしてたから」
「そう…」
しょんぼりしちゃった。
「えっと、ユウカちゃんはずっとこの城に住んでるの?」
「うん…あ、じゃない!ええ、そうよ!もう五百年になるわ!と言っても覚えているのはだけど」
「覚えているのはって?」
「気付いたらここにいたの。だから厳密には誰のものかも知らないお城に勝手に住んでるってことになるわね」
「記憶喪失的な?」
「さあ?なんせ気付いたらこの身体だったから」
と、ユウカちゃんはカップに手を伸ばした。
すると伸ばした手がカップをすり抜ける。
「私、幽霊なの」
意識的に透過をコントロール出来るらしいし、食事や睡眠も普通に摂れるっぽい。
「ゴーストとは違うんだ。こんな可愛い幽霊は初めて見た」
「かわっ…ふ、ふんっ!そんなこと言われても嬉しくないんだから!」
おほぉテンプレなツンおいちぃー♡
「エルダーやエンシェントといった魔物ならば前例はあろうが、ここまで人間によったゴーストは妾も初めてじゃのう」
「私もあなたたちみたいな人たちと話すのは初めてよ。この数百年、何人もの人がやって来ては逃げ帰っていったわ。どれだけおもてなししても」
「おっ、おもてなし…?」
「あの紅茶やお風呂はまさか…」
「ポルターガイストで紅茶を淹れてたら褒められたから手元が狂っちゃって。飛沫を飛ばしちゃったからお風呂に」
「ゴーストたちが踊ったのは」
「楽しいかなって」
「めちゃめちゃおどかされたんじゃが」
「みんなに案内してもらってたんだけど。私死霊術師だから」
死霊術師。
なるほど、だからこんなにゴーストが。
「あの、もしかして今までやって来た人たちにも同じことを?」
「そうだけど?」
たぶんお化け屋敷だと思ったんだろうな。
みんな疲れた顔してらぁ。
「ねえねえ幽霊のお姉ちゃん、じゃあお城が変だったのは?」
「変?どこが?」
「そこら中に転移トラップだらけだったり」
「木の実が笑ったり」
「床が競り上がったり」
「絵の獅子に食べられたり」
「おもしろ仕掛けで楽しかったでしょ」
みんなとびきり疲れた顔してらぁ。
どんな歓迎してんだこの子。
不器用可愛いじゃないか。
「なのに私のところには来てくれないし。また来てねってお土産に宝を渡したりもしてるんだけど。城の名前を彫った金貨とか」
カリオストロの名前がシンドバッドたちに知れてたのはそういう…
なんでそんなことを?とは、訊くだけ野暮かな。
「でもあなたたちが来てくれてよかった。五百年で初めて。こんなに人と喋ったのは」
ユウカちゃんはくしゃりとした笑顔でそう言った。
そりゃ寂しいよね。
五百年もこの城で一人ぼっちなんて。
「ニシシ、なら今日はパーティーだな」
「パーティー?」
「おうっ。私たちとユウカちゃんの出会いを祝して。今夜は寝かさないぜっ」
「わあっ!うんっ!コ、コホン!クックック、客人が我をもてなそうとでも言うのかしら?いいわ、かかってきなさい!」
「ニッシッシ、おもしれー女♡」
なんか知らんけどアルティが、ほら言ったみたいなドヤ顔してるの腹立つ。
さーて早速準備を…って、スキルは使えないんだった。
「ユウカちゃん、この城スキルが使えたり使えなかったりするんだけど何これ?あと時間が巻き戻ったりもしたんだけど」
「あのねーリルムたちねー天井と床がグルンってなったんだよ」
「城の仕掛けは城の創造者に聞かねば真意は定かでないが、ずっと妙な気配は感じておった。ユウカとやら、何か知っておるなら教えてはくれぬか?」
「ああ、それはこの城の秘宝のせいね」
「秘宝?」
うーんなんて魅力的な響き。
こんなすごいお城の秘宝なんて、絶対に超すごいでしょ。
「とんでもない力を秘めた宝具なの。すごいのよ。なんせ」
「あの、その前にゴメンなさい。リコ」
「ほぇ?」
「アリスはどうしたんですか?」
「わ゛ーーーー!!完ッ全にのほほんとしてた!!そうだアリスがどっか行っちゃったの!!」
「なんで早く言わないんですかバカリコ!!このネグレクト親!!」
「ゴメンてぇ!!今すぐスキルで……うえええん使えないよぉ!!」
ワーワーしてると、ユウカちゃんが大丈夫よ、と指を鳴らした。
空間に映像が出現する。
どうやらゴーストたちの目が監視カメラの役割を果たしているらしい。
「人一人見つけるなんてわけないわ。この城は私の管理下だもの。たった一つを除いてはね」
「もしかして、さっき言ってた秘宝ってやつ?」
「ええ」
しかしいくら探してもアリスの姿は無い。
代わりに幻想怪盗や千夜一夜盗賊団たちの姿は映ってる。
んぉ?
『チッ、あのクソガキ。次はボコボコにしてやる』
なんだあの日焼け野郎。もう起きたのか本当に頑丈だなぁ。
もう少し潰してやればよかった。
「おかしいわね。どこにも見当たらない」
「も、もしかして城の外に出てたり…」
「……まさか」
ユウカちゃんは何か思いついた顔でゴーストを操り、とある映像を映した。
「王たる者のための扉が開いてる?!なんで?!ヤバいヤバいヤバい!こうしちゃいられない!」
ドタバタと慌てて走り出すユウカちゃんの背中を追う私たち。
どうしたどうした。
「ユウカちゃん何事?王たる者のための扉って?」
「この城には幾つもの宝物庫があるんだけど、その中でも王たる者のための扉は特別中の特別!カリオストロの秘宝を安置してるところなの!急がないと…もしも秘宝が盗まれるようなことでもあったら!」
「あったら?」
「城が落ちるわ!!」
「なんだそんなこと…………どぅおえええええええ?!!」
スキルも使えないのにこのバカデカい城が落ちる?!!
ヤバいじゃん!!