93.異国の盗賊たち
「すぅ、すぅ…」
あらぁ寝顔可愛いねぇ♡
どんな状況でもすやすや出来るの元気な子に育つよ。
「うらァ!」
「っはぁ!」
「うちの子が寝てんだよ。汚え声聴かせんじゃねえ!!」
向かってくる男たちに蹴りを見舞う。
殺しはしないまでも、首の骨を折るくらいは力を入れて蹴り飛ばしてるつもりなのに、男たちは何てこと無いとばかりに立ち上がる。
「頑丈だね」
「そのくらいでなきゃ、ラムールの過酷な灼熱は生き延びれねぇのさ」
「砂漠の国だっけ?いつもラムールの香辛料にはお世話になってるよ。うちの妹が好きなんだ」
「お得意様ってわけか。国を代表して礼でも言っておこうか?」
「いや、いいや。端役の男の顔なんていちいち覚えてらんないから」
「カハハ、そんならしっかり網膜に焼き付けな。てめぇが前にしてるのはシンドバッドだ」
「無駄な容量は使わないようにしてんの」
「おい女!カシラに向かってなんッスかその口の利き方は!」
なんだ?子ども?
「キャンキャン吠えんな小僧。うちの子が起きる。あと耳に障る」
「小僧じゃないッス!おれはモルジアナ!カシラの一番の子分ッス!」
エーファちゃんのとこの少年を思い出させられる。
どうにも子どもはごっこ遊びが好きみたいだ。
だからって手加減しないけど。
「そうかモルジアナ少年。君は今私に剣を向けて、私の宝に手を出そうとしてる立派な敵だ。死ぬ覚悟は出来てんだろーな」
「と、当然ッス!こ、怖くなんかないッスからね!やあー!」
この先一生女の子見て震えるくらいのトラウマ刻んでやろうか。
首の後ろに剣の柄を叩き込んで気絶させようとしたら、筋肉質な腕に阻まれた。
「容赦ねぇなぁ」
「剣持って襲ってくる男が容赦を求めんな」
「差別は流行らねえ」
「差別じゃない。区別だよ」
シンドバッドはニヤリと口角を上げると、低い体勢から蹴りを撃ってきた。
速い。アリスを抱いてるとはいえ腕に掠めた。
「おー。今のを避けんのか。首から上をふっ飛ばそうとしたんだが」
「こっちも膝から下をぶった斬ってやったつもりだったんだけどね」
シンドバッドの右足に切り傷が走る。
でも斬れたのは服だけ。
その下の肌にはまったく傷がついてない。
当然刃は潰してない。
スキルじゃないなら純粋な肉体強度ってことね。
武○色か?
「千夜一夜盗賊団がたった一人の女性に止められているというのは、見ていて痛快だね」
「うるせーよ」
「そっちはいいの?ルパンだっけ。多勢に無勢なら私に勝てるかもしれないよ?」
「フフフ、門番がいる門をわざわざ通るのは正直者と愚か者だけと相場が決まっているんだよ。さあ、我々は行こうかホームズ」
「かしこまりました旦那様」
フワリと軽やかに跳躍して、ルパンとそのお付きは二階のバルコニーに着地した。
あっちもあっちで身体能力がずば抜けてる。
「ごきげんよう。先を急がせていただきます」
「なっ!」
「チッ!てめぇら!」
シンドバッドの合図で男たちが手を翳す。
篭手に内蔵されたワイヤーが射出され、先についたフックを城に掛けた。
そんなものまで用意してるの調○兵団かよ。
スキル無しでここまで立体的な動きが出来るのか。
「モルジアナ。てめぇも行け」
「で、でもカシラ!」
「てめぇじゃ役不足だ。さっさと宝を探してこい」
「は、はいッス!」
「あんたは残るの?」
「行かせてくれんのか?」
「まさか」
対峙した雰囲気だけど、脅威度で言ったら、たぶんシンドバッドとルパンは同格だ。
いや、直接私の相手することを選ばなかったことを考慮すると、やりにくさはルパンの方が上な気がする。
片方を行かせてしまった以上、もう片方は止めておきたい。
楽に勝てる相手じゃないとしても。
ってことを、向こうも考えてそうなんだよね。
「やり合う前にそのガキを下ろせよ」
「まさか…隙を見てアリスを拐う気かこのペド野郎!!」
「やり合うのに邪魔だってんだよ!!」
「ヤり合う?!!おぞましいんだよ股下に付いてる性器グチャグチャにすんぞ!!」
「性欲に支配されてんのかクソガキ!!」
どっちかっていうと性欲を支配してるが?
何はともあれ危なくないようにアリスを寝かせて…と。
このままじゃ風邪引いちゃうな。
「おい日焼け。そのコートあったかそうだね。アリスを包むからよこせ」
「盗賊かてめぇは。だいたいてめぇもコート着てんだろうが。ったくよぉ」
渡してくれるんかい。
「優しいね」
「黙ってろクソガキ」
「んうゅ…」
「おほぁ♡おいおいかっわいいじゃねぇかぁ♡」
「ただの子ども好きだなこの人」
ま、それはそれってことで。
「んじゃ続きやろっか。さっさとみんなのとこ行きたいし」
「ああ、宝がおれを待ってることだしな」
「死んでも文句は」
「言いっこ無しだ」
上等と、私たちは剣を打ち鳴らした衝撃で空気を揺らした。
「ふわぁ…おしっこ…」
その間にアリスがどっか行っちゃったのに気付いたのは、もうちょっと後だったんだよね。
――――――――
「?」
ドタバタとあちこちを走り回っていると、ウルが鼻をひくつかせた。
「どうしたの?」
「さっきまではなかった砂の匂いがするでござる」
「砂の匂い?」
「あ、ほんとだ!」
近くに砂場でもあるのかしら、なんて背後を向く。
通路の奥で影が揺らめいたかと思えば、剣で武装した男たちが数人歩を進めてきた。
「ドロシー殿」
「ええ。この城の住人ってわけじゃなさそうね」
「見ろよ女だ。さっきの赤髪の仲間か?」
赤髪…リコリスね。
「ヘッヘッヘ、揃いも揃って上玉だ。宝探しついでにちょっと味見してやろうじゃねえか」
不愉快。
こいつらが誰だかはわからないけど好意的でないのは確か。
なら撃退しても問題は無いわね。
「ねぇ、あんたたち」
「あぁ?」
「そこから一歩でも進まない方がいいと勧告するわ。でないといくらアタシたちが不殺を心に決めてるといっても確証は持てないから」
「ギャハハハ!おいおい何か言ってるぜあのハーフエルフ!」
「貧乳は黙ってろってんだよ!」
「乳無しに発言権なんかあるわけねえだろバカがよぉ!」
パンッ、と乾いた音と共に真ん中の男が背中から倒れる。
「貧乳……弄るべからず!!」
もう一発。更に一発。
男たちはその場で気を失った。
「ドロシーお姉ちゃん強い!」
「いやいや、流石でござるなルウリ殿の作った銃は」
ムカつくからもう一発ずつ…やっぱりもう一発ずつ蹴って、スッキリした気持ちで黒い銃をホルダーにしまう。
自動拳銃――――フラスコ。
ルウリが開発したアルケミーの姉妹銃とも呼べるこの銃は、万が一魔力が使えない場合を想定して、リコリスがアタシたちに持たせたもの。
非殺傷弾?とかいうゴム弾を凄まじい速さで発射出来るこの銃だけど、あくまで用途は護身目的のため魔物相手には効果が薄いけれど、対人目的ならこの通り。
当たりどころが悪ければ命を奪いかねないため、暇を見つけては射撃訓練をしてる。
まさかこんなところで成果が出るとは思ってもみなかったけれど。
「あの男の人たち、誰だったのかな?」
「さあ。見たところ服装はラムールの民族衣装のようだったけど」
またお決まりの面倒事にでも巻き込まれているのだろう。
アタシたちの…いえ、リコリスの運命は事件によって彩られているのだから。
「行くわよみんな。さっさと…って、んん?」
「ほぇ?」
なんか、見覚えのある連中が上の方に…
――――――――
かれこれ一時間は城の中を歩いたか。
どこがどこやら。あまりに広すぎる。
地図でもドンと壁に貼っておいてくれればいいんじゃが。
「しかし…」
「○◇▲◆△○●○△●」
「さっきからずっとじゃのう、このゴーストたち。妾を以て何を言っておるかわからぬし。おどろおどろしい見た目のわりに妾たちを襲おうともせぬ」
油断させようとしておるのか?
にしては微塵の敵意も無いが。
「安全とは言い難くも安心は出来るか。というわけじゃルウリ。いい加減怖がらぬとも」
「……………………」
「……何をしておる?」
「話しかけないで!今死んだふりしてるから!」
「ゴースト相手に」
知らんけどそれ熊とかにやるやつじゃろ。
恐怖のあまりポンコツと化しておる。
「楽しそーリルムもやるー」
「よさぬかまったく。ん?見よ、ゴーストどもが集まって何かしておるぞ」
「ふぇ?」
並んで陽気に踊り出した。
おーおーアクロバティックじゃ。
ほう大技とな。
「クハハ、愉快な連中じゃ。ほれルウリも見てみよ。怖いどころかおもしろい」
「…………ちらっ」
「▲◆◆■□◇▲△△○」
「ぉろろろろろろ!!」
「よしよし」
「顔がぁ…顔が怖すぎるよぉ…」
見たところ全て下位の死霊のようじゃしな。
仕方あるまい。
「しかしこれだけの統率、城に湧いたものではないな。となるとこの城の住人とは…クハハ、ルウリよ。先へ進むのじゃ。どうやらおもしろいものが見れそうじゃぞ」
「おもしろいもの…?物理学振り子の永久機関とか、ゼロ磁場のパワースポットとか、リーマン予想の答えとか?」
「そなたのおもしろいの基準で計られるとツラいんじゃが。……ん?」
「どうしたの?!おばけ?!」
「いや、何やら妙な気配、が…………っ?!!」
目を疑った。自分を疑った。
スキルが使えないとはいえ、こんな異常事態に直前まで気付けないことなどありえるかと。
「ルウリ、目を開けよ」
「……は?何これ…?何がどうなってんの?」
「逆さまだー」
天井が床に。床が天井に。
吊り下げられていた照明は床から地面に向かって伸びている。
妾たち以外の全てが逆転していた。
もとい、反転していた。
「幻術ではないな。これだけ大規模な術が発動したというのに、その前兆をまったく読み取れなんだ。何なんじゃこの城は」
「これも城の主人とかいう人の魔法なのかな?」
「さて。秘密を暴くにはやはり先に進むしかなさそうじゃ」
「ううう…」
妾でさえ掴めぬ何か。
良い。楽しくなってきた。
ルウリの手を握りつつ、妾は幼子さながらに口元の牙を覗かせた。
「テルナ!ルウリ!リルム!」
「ん?おおドロシー!ジャンヌ!ウルにトトも!無事のようじゃな!何よりじゃ!」
「ふえええん会いたかったよーみんなー!」
「ガン泣きしてるじゃないルウリ…。ていうかなんであんたたち天井に立ってるの?」
「なんていう遊びですかー?」
「知らぬ。気付いたらこうなっておった」
影響が出ているのは妾たちだけか?
「何とも無さそうでよかったけど、珍妙でおもしろくはあるわね」
「楽しそうです!」
「楽しいことは無い……おおう?!」
「っと、え?何今の?」
また前兆無しに天地が反転した。
妾の立ち位置が元通りになって、ドロシーたちと視線が合っておる。
永久というわけでもないのか。
まるで子どものイタズラのようじゃ。
はて、イタズラ?
たしかそんな宝具があったような……うん、思い出せん。
「まあよい。こうして合流出来たんじゃ。共に皆を探す――――――――」
ガコン
「のじゃ?」
なんか床が競り上がって凄い勢いで塔を上昇しとるんじゃが?
この城仕掛けが気持ち悪い!!
――――――――
「ふぅ、いいお湯ですね」
「は、はい」
薬草を浮かべた温泉。
この城には源泉まで引かれているらしい。
「これだけ敵意を感じないと、気が緩んでしまうのでございます」
「だなー。オイラもぐでぐでだぞ」
「これから…ど、どうしましょう…?」
「それなんですが、服が乾いたらルドナさんとプランさんに抱えてもらって、窓から上の方まで飛んでもらうというのはどうですか?」
下手に城の中を動き回るよりよっぽど建設的だ。
「お任せあれなのでございますよ」
「おー!オイラも飛ぶぞー!」
「フフ、ありがとうございます」
「もっ、もしかしたら、もう誰か…合流してるかもしれません、ね」
「我々だけゆったりしているのは、なんだか申し訳ない気持ちになりますね」
「…………」
「どうしましたエヴァさん?」
「へっ?あ、ゴメ、ゴメンなさい…!シャーリー、さんの…背中…あの…」
「ああ、このタトゥーですか?あまりまじまじと見られると恥ずかしいのですが」
「ゴゴゴ、ゴメンなさいブクブクブク!!」
エヴァさんは猛烈な勢いで湯船の中に土下座した。
少しいじわるなことを言ってしまった。
「クスクス、冗談ですよ。今まで何度も見せているでしょう?」
「うう…」
「言ったことはありませんでしたね。これ、暗殺者ギルドのギルドマークなんです」
心臓を包み込む骨の両の手。
「狙った相手を逃さないという意味の刻印。そして」
「そして…?」
「……クスッ、秘密です」
「え、ええ?」
「機会があれば教えますよ。服の乾き具合を見てきますね」
言えるわけがない。
これが、"暗殺者の世界からは逃げ出せない"……"逃げ出す者には死を"……を意味する血の呪印だなんて。
言えるわけが。
「あっ私も行きます…」
エヴァさんと共に湯船から上がったとき。
「ここは…浴場でしたか。宝物庫はいったいどこに…………おや?」
「へ…………?」
身なりのいい男性が二人。
誰だと声を挙げるより早く。
「大変失礼へぶじゅ!!!」
「いやーーーーーーーー!!!」
男の内一人は鼻血を吹き出して倒れ、顔を真っ赤にしたエヴァさんの悲鳴がつんざいた。
――――――――
「うゅ…」
用を足し終え眠い目を擦りながらあちらこちら。
階段を上へ下へ。
テラスへの扉を開けて庭園へ。
そうしているうち、小さなお姫様はとある扉の前にたどり着いた。
「ふわぁ…」
そこに価値あるものがあると予感したわけでも、そこにあるものの価値がわかったわけでもない。
アリスは寝心地が良いという理由だけで目を閉じた。
それはそれは心地良さそうに。安らかに。
ピッタリのベッドを見つけたと。
いつもご愛読いただいている皆様、大変ありがとうございます!!
最近閲覧数が上がってきて大変嬉しいです!
コンスタントに日々の閲覧数が2000を超えるようになってきました!
これからも書きたいこと書いて頑張ります!
今の章、まだ3話ですが書いててすごく楽しいです!
野郎の登場もありますが百合に影響はありません!出しません!
野郎の挿絵?AIでも作る気が失せるので作りません!(ユージーン=ラプラスハート氏は家内持ちなので…)
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今までの挿絵、ボツ案、暇潰しに作った本編非掲載イラストはpixivにてまとめてあります。
ユーザー名無色、百合チートタグで検索可能ですので、興味がお有りの方はぜひ。