91.天に在りて天を穿つ城
始まりました新章!
今回もお付き合いくださいますようよろしくお願い致します!
西の空。
「カシラ!カシラ!カシラってば!」
「ん、おお…?なんだよモルジアナ…もう着いたのか?」
「エヘヘ、呼んでみただけッスよ」
「あぁ?くあ、ぁぁぁ…」
カシラと呼ばれた男は豪快なあくびを一つ。
腹に乗っかってきた子どもをどかし、窓の外を眺めた。
「今どの辺だ?」
「あと一時間くらいで目的地に着くッス」
「浮遊城か…あそこにはどんなお宝が眠ってんのかな」
「楽しみッスねカシラ!」
「あぁ。幻想怪盗が出張ってくるってんなら尚更なぁ。相当なお宝が眠ってそうだ」
テーブルの上のぬるいワインを煽るなり、外に出て酒気を帯びた言葉を吐く。
「気合い入れろよてめぇら!!」
狂喜めいた歓声の中で男は笑う。
その目に眩い黄金の地平を見て。
――――――――
また東の空。
「んー。空の上でいただく紅茶も悪くないね。じつにいい仕事だホームズ」
「恐れ入ります旦那様」
優雅に。優美に。
その紳士は彼方に目をやった。
「もうすぐ到着だ。楽しみだね。いつも仕事の前は心が躍る」
「今回は一筋縄ではいかないかもしれません。どうやら千夜一夜盗賊団も動いているようです」
「まったく彼らには困ったものだ。しかし…」
「どうかなさいましたか?」
「どうもね、妙な予感がするんだよ。宝を奪い合うのは、あの野蛮な連中だけではないかもしれないね」
紳士は胸騒ぎにもまた心を躍らせる。
さながら夢を追う少年のように。
――――――――
最大速度マッハ5。
クローバーを出発してからというもの、ラジアータ号モードエアリアルは快調に空を飛翔していた。
まあ、速すぎてまだ三十分も経ってないんだけど。
しっかし…
「なんでこんなすごい改造が出来て、運転席は剥き出しなんだよ」
いろんなところ雑なんだよなぁ。カッコいい見た目優先しすぎて。
顔に風ガンガン当たってんのよ。
私じゃなかったら髪ボサボサ…っていうか首もげとるわ。
「アハハハ!リコリスそれ速いなー!」
「空を飛ぶのは最高なのでございます!」
「なー!たまにはこうやって飛ばないとな!」
プランとルドナは背中に翼を生やして並走してる。
このスピードに付いてくるのフィジカルすぎるだろ。
って百合の楽園は前衛と後衛で完ぺきに分かれてて、前衛は全員どフィジカルの塊だけど。
「リコリス、見えたぞ!」
荒れた天候の中を飛んだわけじゃない。
分厚い雷雲を突き抜けたわけでも、特務機関の諜報員たちとの熱いチェイスがあったわけでもない。
苦労の果てに辿り着いたとはとても言えないけれど、それでもその光景はとにかく感動的だった。
魔法、大樹海、ドラゴン…ファンタジーに染まった私でも、○ピュタは本当にあったんだ!って叫びたくなるくらい。
「浮遊城…!!」
緑に覆われた広大な大地。
目算でも王都くらいの面積があるんじゃないだろうか。
けれど悠然と聳える城は巨大で、大地の半分以上を占めているだけじゃなく、高さは空に在って空を穿つほど。
全長3キロ…島自体と合わせれば5キロにはなりそう。
「まだまだ世界は感動に満ちてるってことか…!最ッ高だな!」
ニヤニヤ止まんない。
早く行こう。すぐ行こう。
逸る気持ちでアクセルを吹かして、前方から飛んでくる影が目に入った。
「あれは…ドラゴンの群れ?」
「スカイドラゴンだな。空の高いところに縄張りを持つ竜だぞ」
「浮遊城の番人というわけでございますね」
ドラゴンたちは青い炎のブレスを吐いて私たちに攻撃を仕掛けてきた。
自動操縦モードに移行。
「【魔竜の暴食】!」
竜の頭部を象るオーラが竜の群れを食い破る。
このままガン無視で無理やり突破してもいいけど…どうせなら。
「手熱い歓迎なら喜んで受けて立とうぜ」
「では露払いは」
「オイラたちに任せとけ!」
先頭のスカイドラゴンの咆哮を皮切りに、二百を超える群れが一斉に襲いかかってきた。
けれどここにいるのは魔物を超越した幻獣、竜姫だ。
たかが下位の竜が束になったとて敵う相手であるはずがない。
「マスターを前に頭が高いのでございます。【鷹竜の強欲】」
ルドナが腕を払った途端、ドラゴンの半分が絶命し落ちていく。
何回見てもえげつないな。
【鷹竜の強欲】。奪うことに特化したこのスキルは、自身が認識すればどんなものでも自分のものに出来る。
体内の魔石に留まらず、対象の体力や生命力、スキルまでも。
食べたら食べただけ成長出来るリルムとは違った意味で、ルドナの底も果てしない。
「【聖竜の憤怒】!」
プランの口に収束した膨大なエネルギーがレーザーのように放たれる。
ドラゴンは次々と焼き払われ、後には何も残らない。
【聖竜の憤怒】は魔力の炉心そのもの。
つまりプランは存在自体が一つの兵器ということだ。
可愛さだけなら私も兵器級だけどね♡エヘッ♡
なーんておちゃめなリコリスさんはさておき、ものの見事にドラゴンたちは殲滅されたわけです。
「おつかれ二人とも」
「肩慣らしにもならないのでございます」
「オイラ強い!」
「普通の魔物はもう相手にならないだろ。さ、いよいよ突入だ。二人とも馬車の中に入って」
とりあえず中庭にでも着陸しようかな。
では、GO!
息巻いてアクセルを回し浮遊城へ突入する。
するとどうしたことだろう。
「?!」
途端にラジアータ号の制御が効かなくなった。
いや、なんだ?魔力が消えた??
ラジアータ号は魔力を動力にした機体だ。
魔力が消えれば当然止まる。
そうなれば落ちるだけだけど、バッテリーにチャージした分でなんとか……ならない!
「わあああああ!!」
ラジアータ号はあえなく墜落。
城の門前を派手に抉ることとなった。
「うおお…なんだ今の…」
「リコ!大丈夫ですか?」
「おー…なんとか。そっちは?」
「中は水平維持が働いてるからなんともなかったわ」
よかった、怪我人はいないっぽい。
「どうなってんだ?ルウリが手抜きしたってことないよね?」
「当たり前なんだが。自分の仕事に妥協したことなんかないっての」
「ってなると、原因は浮遊城か」
「そのようじゃな。ここはひどく魔力が希薄じゃ」
たしかに。
身体が重いような、なんなら息苦しさを感じる。
だからラジアータ号は制御が効かなかったのか。
「どう?壊れてない?」
「たーぶーんー?」
「まっ魔法が上手く…使えない、ですね」
発動はするけど魔力が薄いせいでまとまってない。
「うぅ…ここ苦手かも…」
「大丈夫トト?」
精霊にはツラい環境みたい。
そのわりに高所ならではの体調の変化は無いし、風だってほぼ無風だ。
「なんとも不思議な場所ですね」
「トト、しばらくアタシの傍にいるといいわ。少しはマシでしょ」
「んぅ…」
「おっきい…」
「上の方が見えないです…」
城というより要塞か?
何が待ってることやら。
「まずは慎重に…ってアリス?!」
「わーい!おしろー!」
「いやいやテンション上がるのはわかるけど!待ってって何か罠とかあったら――――――――」
カチッ
「カチッ?」
門の前の敷石が光って?
みんなの姿が消えて?
どこかわからない場所に飛ばされて?
「うおおおおおみんなーーーーーーーー!!」
転移トラップね…見事に引っ掛かってしまった。
みんなバラバラになっちゃったかな。
「ママ!」
「どうした?!」
「いまのたのしかったね!ピカーって!もっかいやりたい!」
「そうだね楽しかったね!」
こんなときでも可愛い我が娘よ。
ま、はぐれても余裕なんですけどね。
【念話】もあるし【空間魔法】も【世界地図】もある。
テンパるなって方が無理すんぎ〜。
「おーい聴こえるかー?もしもーし。アルティ〜?ドロシー?みんな〜?」
……あれ?【念話】使えなくね?
あれ?!!
「空間転移!【世界地図】!あれ?!あれヘェ?!!なんで?!スキルが使えない!魔法も!どゆこと?!!」
【百合の王姫】ちゃん?!
【創造竜の魔法】ちゃん?!
もしかして…もしかして…
「これ、ヤバいことになってる?」
――――――――
「騒がしいわね」
天を抱く玉座に王が一人。
つま先で床を叩くと侵入者たちを映し出した。
「ほう、数百年ぶりの客人というわけ。クックック、いつの世も我が財宝を欲する者は絶えないわね。ならばこちらも盛大にもてなしてやらねばなるまい」
静謐に指を鳴らす音が響く。
「我が徒よ。慊焉させてやりなさい。我が城に踏み入ったことを。骨の髄までたっぷりとふぎゅっ!!」
勇ましく立ち上がったのはいいものの、ドレスの裾を踏んで顔面から倒れ、
「ふっ、きゅう…」
誰もいない空間で一人羞恥にうずくまってしまう。
しばらくそのまま微動だにすることはなかったのであった。
今章では書きたかったキャラの他、いろいろ使い勝手が良さそうなキャラも書いていきます。
どうか長い目でお付き合いください。
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