幕間:百合の歌を聴け
うーん。
いや困った。
「どうするかなぁ」
「どうしましょうか」
私とアルティは揃って息をついた。
何が起こってるのかというと至極単純で、私の両手がアルティのお尻に…あ、生尻にくっついちゃってんのね。
なんでこんな風に手がお尻にくっついちゃってるのかというと。
「お、接着剤じゃーん。ニシシ、これ使ってアルティにイタズラしてやろ。おーいアルティー」
「なんですか?」
「マッサージしてやるから脱げ」
「どうも。やらしいことをしたら氷漬けにしますからね」
「保証しかねる」
うにゅーんってやって、モミモミしたらね?ペトッてなってね?
で、今これ。
「超即効性だし、しかも超強力で指一本動かせないからアルティのお尻の感触もわかんないし…うえええん完全な誤算だよー!」
「いろいろと言いたいことはありますが…まずはこの状況をなんとかしましょう。リコ、可能な限り腕を伸ばしていてください」
「何か解決策あるの?さっすがアルティ私の嫁〜♡はい腕伸ばしたよ♡」
「動かないでくださいね」
「ほぇ?」
「青薔薇の剣」
「うおおおい!!ちょ?!へ?!はぁ?!ゔぉぉぉい!!お前今何しようとした?!目の前を氷の剣がスパァンて通ったんだが?!」
「何って、リコの腕を斬り落とそうと…?」
「バカここに極まれり?!どこの世界に接着剤でくっついたからって腕斬り落とす愚か者がいんだ!あぁ?!」
「いやだって、生やせますよね?痛みも無いし」
「十八歳下の妹にモラル全部持ってかれてんのか!!根本的なところが間違ってるだろ!!」
「……あ、腕を斬り落としても私のお尻にリコの手がくっついたままですよね」
「そこじゃねえよ!!」
私の嫁が脳筋すぎる。
脳筋ってレベルじゃねえけどさ。
「今さらなんだけど、この接着剤って何?」
「どうせルウリが暇潰しに作ったんでしょう」
【見えざる手】でどれどれ?
暇すぎてぴえんで作っちゃった接着剤☆って書いてある。
「くっそあのお騒がせ錬金術師め」
「よくわかんないんですけど、水をかければ接着剤が取れるのでは?」
「たしかに。んじゃ魔法で」
ジャーーーー
「「熱っづぁ!!!」」
「熱い熱い熱いとんでもねえ熱反応してやがるこいつ!!」
「あ゛ーーーー!!お尻焼けるお尻焼けますーーーー!!」
「お尻ジタバタさせんといて腕が身体ごと捻じれ――――――――」
ゴギッボギッメギョッ
「ぁーーーー!!!(グラスが割れる高周波)」
「うるっさいわね!なんの騒ぎ?今何時だと思ってんのよ!」
「だっ大丈夫…ですか?」
「ドロシー!エヴァ!」
「…………」
下半身丸出しのアルティの尻を変な方向に曲がった腕で揉みしだく変態の図。
「なんていうか、ほどほどにしておきなさいよ」
「お、お邪魔しました…」
「スッて帰らないで多分に誤解だから助けてーーーー!!」
氷でなんとか冷やしてステイクール。
「お尻が…お尻がぁ…」
「大丈夫だよまだキレイなお尻だから」
どんなお尻でも責任持って愛するよ。
とりあえず、ちゃんと接着剤の注意書き読もう。
「なになに?水をかけると熱反応でより強力な接着力を発揮するを☆無駄なとこで才能発揮させんな天才!!」
「リコ…」
「どうした妙案ありか?!」
「もう…斬りましょう」
「腕を?!」
「腕をです」
「接着剤一つに腕斬んなきゃいけないくらい翻弄されてるのヤバいだろ冷静になれよ!」
「至極冷静ですが?!!さっきからずっと下半身裸で熱くなったお尻を凝視されてても冷静を沈着していますが何か?!!!」
たぶん今とんでもねえ激怒した顔してんだろうなぁ。
でも顔見えねえんだよ。
何故なら私の手はうつ伏せのアルティのお尻にペタッてしてるから。
今の私にはお尻が喋ってるのも同義なんだよ。……えっちだなそれ。
「このお尻が解き放たれたとき…私は制裁を下します」
言い回しが封印されしエク○ディア。
「ふざけたものを作ったルウリに。ふざけた行いをしたリコ、あなたに」
「出来ることなら顔に座ってもらうことで容赦としていただきたく」
「余裕そうでよかったです。心置きなく…私もやれます」
「待ってって暴力は何も生み出さないじゃん!人の腕斬ろうとしてんのを暴力なんて生易しい表現で留めていいのかはさておき!」
「ならどうするんですか!!早く解決しないと氷獄の断罪しますよ!!魔術神から加護を授かった私の力を侮らないことですね!!」
「なんでそんな思想が過激なの?!!切羽詰まりすぎだろトイレでも我慢してんのか!!トイレでも………………………………我慢してんの?!!!」
「してますけどなにか!!!!!」
私の嫁が下半身丸出しでトイレ行くの我慢してた件。
「うわあああゴメンマジで!!お腹冷えるし水かけちゃったもんね?!そりゃそうだよね?!どどどどうしよう?!どうする?!ここでする?!いいよ?!」
「部屋ですけど!!!」
「大丈夫浄化するし!!汚れても大丈夫だから!!」
「私の尊厳が大丈夫じゃないですぶち○しますよバカリコ!!」
「え、じゃあとりあえず私に…いやそれはレベル高いな…。いけなくもない…むしろいけるけど…あーでもこの体勢だと…」
アルティに立ってもらって私がアルティの股の下を潜れば…
「アリだな」
「フンガァ!!」
「ぁーーーー!!!(およそ人間には出し得ない高音の悲鳴)」
思いっきり足で締められた…
「さーせん…普通にトイレ行けば、って座れないのか私がお尻タッチしてるから。じゃあ素直に立ちショ――――」
「ギロッ!!」
「ひいいすみましぇん!!ちなみに…限界ってどのくらい?」
「怒りのなら突破してますが」
「膀胱の方でなんとか…」
「そうですね…今すぐ膀胱を抉り出さないと大惨事になるくらいは…」
別の意味で大惨事になっちゃうだろ。
ダメだこいつもう頭が働いてない。
「そうだ…この状態で人気の無い場所へ移動して周囲数十キロを凍らせてしまえば私の痴態は永遠に封印されて…リコ今すぐ転移しなさい!!」
「その場合だと私たちも痴態と共に封印されんだよ!!だから落ち着けって絶対なんとかなるから!!もう一回接着剤の注意書き読んでみるわ!!なになに?天才錬金術師ルウリちゃん特製のこの接着剤、なんと一度くっついたら取れませーん♡いぇいいぇい♡」
「ふぅ…リコ、何等分までならバラバラになれますか?」
「なれませんけど?!!」
「一つ、リコの腕を斬る。二つ、リコの目を抉る。三つ、リコの首を刎ねる」
「バラバラにしようとしてる!!閻魔大王でももうちょい優しめの選択肢出すよ?!被害でしか解決出来ないことないって絶対!!そ、そうだ!中和剤!接着剤作ったルウリなら中和剤とか作れるだろ!もしかしたら作ってあるかも!ルウリー!ルウリちゃーん!!」
「ふあぁ…呼んだ?」
「すーぐ来た!アルティのお尻に接着剤塗ったらくっついちゃったからなんとかして!」
「…………」
「眠たいよねゴメンね!目ゴシゴシしてるの可愛いね!」
「グヘヘ…」
「グヘヘ?」
「グヘヘお尻の割れ目くっつけてトイレ我慢させてやるぜってか。どんだけアブノーマル拗らせてんのこのクソキモ変態の鑑女」
「鑑女って悪口ある?!こっちは今まさに○ギー船長になりかけてんだ冗談言ってる場合かコノヤロー!!」
リコリコしかじか。
「全てに於いてオモロすぎてツラい」
「後でならどれだけ笑ってもいい。いいから早く中和剤を…」
「うい」
中和剤やで。
「神ぃ…」
「神はそっちなんだよなぁ。んじゃ寝るわ…おやすー」
「おやす!アルティよかったなこれで助か――――」
「リコ」
「んぁ?」
「私を…せめて苦痛無く私をあれしてください」
「アル……アルティーーーーーーーー!!!」
とある夜の出来事。
なんてことはない、いつものお騒がせな珍事でしたとさ。
チャンチャン。
――――――――
お酒。
百合の楽園内お酒好きランキングを表に現すと、圧倒的トップに師匠が君臨する。
その下には私とドロシーとルウリ。ルドナとウルも好む傾向がある。
これはそんな酒好きだけを集めた飲み会の話。
だけ、の話。
「とりあえず乾杯」
「乾杯じゃー」
「KP〜」
「何の集まりなのでございますか?」
「いや、私たちって飲むときはいつもって何やかんやでみんなのご飯に合わせてるじゃん。時間とか肴とか。飲みより食べっていうか。今日はそういうの気にしないで、お酒を楽しもうみたいな」
「素晴らしい催しでござるな」
「ってなわけで【状態異常無効】なんかぶっちぎってけよー!潰れるまで飲むぜー!」
「おー!」
酒の宛てもたくさん用意したよ。
エールを喉に流しつつまずは枝豆に手を伸ばす。
ぷちぷちプリプリ。おつまみのド定番。
程よい塩気は安心感すら覚える。
ちなみに私が育てました。ドヤッ。
「んー♡」
「止まらないわねこれ。青臭くなくてどんどん口に運んじゃう」
「このチーズとナッツは燻製しておるのじゃな。スモーキーでうまうまなのじゃ」
「味濃いジャーキー噛みながらお酒よき〜♡」
「マスター、この魚のヒレのようなものはなんでございますか?」
「エイヒレ…デビルスティングレイっていうエイの魔物のヒレで作った干物だよ。火でちょっと炙ってから、一味とマヨネーズで食べてごらん」
「はむはむ…甘めの味付けの向こうから顔を覗かせる魚の旨味。これは間違いなくお酒に合うのでございます」
ね〜。
私もエイヒレ好きだ。
「主殿、こちらは?」
「煮込んだ鶏のレバーに調味料と香味野菜と生クリームぶち込んで作ったパテ。バゲットに塗って食べてね」
「ねっとりと濃厚でまるでクリームそのものでござるなぁ」
鮭とば、チャンジャ、たこわさ、するめ。
エールにワインにウイスキーに清酒もたまんない最高だけど、最近の私たちのお気に入りはブランデー。
ルウリ作の蒸留装置は、ウイスキーの原料である穀物だけでなく、りんごやさくらんぼ、ベリー類を原料にブランデーの製作も可能にした。
それを私の力で熟成させたらもう、ヘネ○ーも○ミーも顔負けの高級酒の出来上がりよ。
高い酒がおいしい酒って概念は違うけど、一つ言えるのは高い酒でやるダラダラ飲みさーいこーってこと♡
「やーうまいね。子どもたちの前だとねぇ、なかなかねぇヘヘヘ」
「おいしいお酒においしい肴。こればっかりはあの子たちには教えられないわね」
「大人の贅沢というやつじゃの。ぐぴぐぴ…ぷっは!」
「てかこんな情けないとこ見せらんないっしょw」
「ウフフ〜♡お酒は気持ちよくなるから好きなのでございますよ〜♡マ〜スタ〜んー♡」
「ん、コクコク…っは♡口移しとかどこで覚えてきてんだ貴様エッチだな〜♡」
…いやこれ、親鳥が雛の口の中に餌運ぶあれだな。給餌とかいう。
そういえばこいつ鷹だったわ。
エグ美人お姉さんになって忘れてたけど。
「フヒッ主殿の雌顔は眼福でござるなぁ拙者たまらんでござ候」
「お前のポタクっぽいのもすっかり慣れたよウル」
でっけぇ狼がござるとか言ってたのはおもしろかったけど、クソ美人お姉さんがござるござる言ってんのほんとギャップあって好き。
「幻獣組も個性の集まりよね、本当」
「みんな可愛くてたまらん。二人ともおいで」
「はいでございます」
「御意でござる」
「ほら見てこれスーパー美人両手に抱いて私王様」
「そなたの普段の振る舞いじゃろ」
「改めていい身分だと思うわ」
「ちゃはっ♡よーし気分いいから歌っちゃうぞ〜♡私の歌を聴けぇ!なんちゃって〜♡」
「おーいいぞ姫〜!ひゅーひゅー」
「それじゃあ聴いてくだーっさぁいリコリス=ラプラスハートでぇ〜ココロオドル〜♡1、2、1、2、3、4!」
「えんじょーい!」
音楽は鳴り続け……たのかな?
みんな途中で寝落ちしちゃったんだよね。
めちゃくちゃ楽しかった記憶はあるんだけどなぁ。
「あ゛ったま゛いでぇ…」
「何時まで…飲んでたの…?」
「明け方以降は覚えておらぬ…ぅぷ」
「スポドリ欲しいぃ…」
「あぅあぅ…」
「ござるぅ…」
「だから酔っ払いって嫌いなんですよ」
アルティの冷ややかな目よ。
いや、すまんて…
本当…酒って悪だよね…ヘヘヘ……
「今度からは気を付けるから…」
ってどうせ同じことを繰り返すんだけど。
楽しいから仕方ないじゃんってね。
なんて感じで私たちが醜態を晒していた一方で。
「マリア、ジャンヌ、もうお昼ですよ。エヴァもいい加減起きなさい」
「うゅ…頭痛ぁい…」
「ズキズキですぅ…」
「ふあ、ぁぁ…」
「?」
マリアたちもなんかしてたっぽいんだけど。
何かあったのかな?
――――――――
「大人はズルい!」
「そうだー!」
「は、はぁ…えっと…」
マリアさんとジャンヌさんは、ベッドの上で膝を八の字に曲げて可愛らしく怒った。
「なっ何か…あったんです、か?」
「あのねエヴァお姉ちゃん!」
「はっはい!」
「リコリスお姉ちゃんたちね、今日もお酒飲んでるの!こっそり!」
「私たちには内緒でおいしいものを食べてるんです!」
「そっそうなんですね…」
二人にはまだ早いですしね。
「だからね、私たちもお姉ちゃんたちに内緒でパーティーしちゃおうよ!」
「お腹いっぱいお菓子パーティーです!」
「へ?え?」
「マー、ジャー、持ってきたよー」
「大量だぞ!」
「ジュースもいっぱい持ってきたよー!」
「リッリルムさん?プラン、さん…トトさんも?」
「エーも一緒に食べよ〜」
三人は厨房からくすねてきたらしいお菓子とジュースをベッドの上に並べた。
ほとんどがリコリスちゃんが手作りして作り置きしておいたものだ。
「あ、の…なんで私は、ここに呼ばれたんですか?」
「もしもお姉ちゃんたちに見つかって怒られたら、一緒に謝ってほしいなって」
「ダメ…ですか?」
「エヴァお姉ちゃん…」
「はゔっ!!」
顔面の暴力…
妹には弱いです…
「わっ、わかりました…」
「わーい!」
「ありがとうです!」
自分たちの魅力が私たちに効くのを覚えたらしい。
末恐ろしい子たちだ。
「こういうときって、みんなお酒で乾杯してるよね?私たちもジュースで乾杯しよ!せーのっ乾杯ー!」
「エヘヘ〜。乾杯〜!」
「かっ乾杯…」
ビンに入ったシュワシュワ。
コーラ…だったかな。
甘くておいしい。
けど、いいのかな?
夜中なのにお菓子食べて、あとですごく怒られそうな気がする。
主にアルティちゃんに。
でも…
「あーむっ。んー♡」
「おいしいねマリア♡」
「うんっ♡」
この笑顔を見たらどうでもよくなってしまったので、私も付き合うことにした。
たまにはこういうのもいい、よね?
バターの効いた焼き菓子。
夜中にこれを食べるだけでも相当な背徳感だけど、蜂蜜とたっぷりのクリームを塗った罪悪感は得も言えない。
「オイラこの芋を揚げたやつ好きだな」
「私もー。ポテチ?だっけ。花婿さんてほんと料理上手だよね」
パリパリと薄く軽い食感。
これが芋だなんて、言われなければわからない。
味付けは塩だけ。
けれどそのシンプルさがたまらず後を引く。
「コーラと一緒に食べるとねー、すっごくおいしいんだよー」
「ポテチとコーラ合うー♡」
「おいしー♡」
果汁で作ったキャンディを頬張れば幸せな気持ちに。
グミはもぎゅもぎゅカラフルでもっと幸せ。
フワフワのマシュマロ、サクサクのポップコーン、トロトロ甘々なミックスジュース。
頭がとろけるみたいな多幸感だけど、その分現実に戻ったときの反動が怖すぎる…
「お菓子いっぱいって幸せだね♡」
「うんっ♡アリスも誘ってあげられたらよかったのにね」
「アリスはいつも早く寝ちゃうもん。もう少し大きくなったら一緒にお菓子パーティーしよう」
「そうだねっ」
この天使たちの前でそれを口にするのは野暮、かな。
本当にお菓子だけでお腹が膨れてきて、リルムさんたち幻獣組は満足そうにその辺で寝ちゃった頃。
「ねえねえ見て見て!これ冷蔵庫に入ってた!リコリスお姉ちゃんの新しいお菓子かも!」
マリアさんはキレイに梱包された箱を持ってきた。
「勝手に開けていいのかな?」
「今日はいいのっ!ダメだったら後で怒られよ。ね、エヴァお姉ちゃん」
「へ?あ、は、はい…」
すでに矢面に立たされている…
「せーのっ、じゃーん。わー!チョコレートだぁ♡!」
「甘くていい匂い〜♡」
チョコレート。
最近リコリスちゃんが開発した、この世のものとは思えない芳醇な香りと甘みを持ったお菓子。
すでにリコリスちゃんとアンドレアさんの監修の下、量産化が進められているなんて話もあるくらい人気なそれなんだけど。
「この、チョコレート…まっ前に食べたやつより、いい香りのような…?」
「リコリスお姉ちゃんがもーっとおいしいチョコを作ったのかも!」
「きっとそうだよ!食べよ食べよ!」
「うんっ♡あーん♡」
「あーむっ♡」
二人に勧められるまま私も一粒。
舌の上に乗せた瞬間チョコレートが溶けて中から何かが飛び出してくる。
この熟成された甘み…樽のような香り…まさか…
「お、お酒…?」
わ、すごい…
お酒入りのチョコレート…
お酒はそこそこな私でも食べやすいし、何よりチョコレートの甘みとお酒のほろ苦さが絶妙にマッチしてる。
口の中や食道が灼けるくらい熱いのは、相当高い度数のお酒を使ってるのかな。
味も色々。
ウイスキー、ワイン、清酒…一際暴力的な香りのこれは、最近リコリスちゃんが作ったブランデーかな?
「どれもおいしい…」
と、私はハッとした。
これはお酒…ということは未成年は食べちゃいけないのでは、と。
「マッマリアさん…ジャンヌ、さん…!」
「エヘヘ〜♡にゃ〜にぃ〜?♡」
「どォひたんれすかぁ〜♡」
「ゔぁぁぁぁ!時すでに遅しでゴメンなさい!」
顔真っ赤!
目がトロンてしてる!
五つ、六つくらい食べた私でも結構キてるのに…二人はパクパク食べちゃってもうほとんど残ってない!
「このピョコレートおいちいれぇ♡」
「プワプワポワポワ〜♡もっと食べたァい♡」
「いいよぉ〜♡はいジャンヌ〜んー♡」
「かーぷ♡ちゅ♡」
「二人とも?!!」
今口移しで……………………え?!チューした?!
「あっあの?!え?!」
「アハハッ♡ジャンヌとチューしちゃったぁ♡」
「じゃーマリアにもお返し〜♡」
「いたらきまー♡ん、ちゅ…おいしい〜♡」
「え、えっと?!!」
酔ってるが故に?!
何が何だかわかってない感じだ。
この場にリコリスちゃんがいたら発狂してたかもしれない。
「ん〜マリア食べるの下手〜。お口汚れちゃったよ」
「エヘヘ、ゴメ〜ン♡じゃあペロペロでキレイにするね♡」
「……完ぺきに、発狂してた」
私も何ていうかいけない雰囲気に……じゃない!
ここは大人として止めておかないと!
「あっあの、ふふ二人とも…あの、そういうこと、は…もっと大人になってから…」
「むー!ひっく、私たちもう大人だもんー!」
「そうれすー!子どもじゃないんれすからねー!」
「おっぱいだってちょっとずつおっきくなってるもんー!」
「すぐにボインボインですよー!」
「いっいや…そういうことでは、なく…ですね…」
「ニシシ♡子どものままじゃないって、わからせてあげてもいいんだよー?♡」
「はっ、はい?!」
「そうです♡私たちが大人だってわからせてあげますー♡」
「ちょ?!ふっ二人とも?!まっ、待って…」
「待ーたーない♡」
「エヴァお姉ちゃん…♡んー♡」
「んー♡」
「あ、あ、あーーーーーーーー!!」
翌朝。というか昼。
「うえぇ…」
「はうぅ…」
「夜中のお菓子は禁止だと言っておいたはずです!それもこんなにたくさん!」
「「ゴメンなさぁい〜!」」
案の定、二人はアルティちゃんに怒られた。
しれっとその場から逃げているあたり、リルムさんたちは奔放というかしたたかだ。
「エヴァもです!あなたがいながら!」
「ゴッ…ゴメンなさい…」
そしてやっぱり私も怒られた。
ところで二人は昨夜のことを覚えていないらしい。
よかった。本当に。
「ねーねー。試作のお酒入りのチョコ知らない?アルコールとか飛ばさないでそのまま使ってるから、子どもたちが食べないようにしまっておいたんだけど」
「へっ?!ししし、知らない…です!」
「っかしーなぁ?」
昨夜のことは私だけの秘密。
もしも語ることがあるのなら。
二人が大人になったときの笑い話にでも。
……それにしても、上手だったなぁ。
なにがとは言わないけど…言えないけど…
――――――――
「じー…」
「…………」
「じー…」
「……あの、アリスさん?」
「なーにシャーリー?」
「楽しいですか?」
「たのしい!」
アリスさんはよく、私が服を作っているところを見学に来る。
椅子の上に乗って、それはそれは楽しそうに机の上を眺めるのだ。
生地を編んで針で糸を通してと、特別なことをしているわけではないので、とても楽しいものとは思えないのだけれど。
「あのね、シャーリーのおててがね、しゅんしゅんってきえて、およーふくができるのがね、すごいなーってなるの」
「そう、ですか?ありがとうございます」
アリスさんのことは好ましく思っている。
尊き方と友人の娘というだけではない。
一人の小さな少女として。
けれど、どうにも子どもは苦手だ。
マリアさんとジャンヌさんでさえようやく慣れたというのに。
それより小さな子はどうやって扱えばいいのか悩ましくなる。
「アリスもシャーリーみたいにおよーふくしたいー」
「服を作りたいんですか?」
「うん!」
「アリスさんにはまだ早いですよ。針を使うのは危ないですし」
「んー!できるー!アリスもおよーふくしゅんしゅんってしたいのー!」
「あっ、ちょっ…!っ、アリスさん!」
アリスさんの手が糸に絡まって先についた針が暴れる。
針はアリスさんに刺さる寸前で止めたけれど…
「…っ、こら!危ないでしょう!」
つい大きな声を出してしまった。
するとアリスさんは、見る見るうちに目に涙を溜めた。
「ふえぇ…うああああん!うあああああん!」
「あっ、えっと…アリスさん…」
「どしたどしたー?」
「リ、リコリスさん…これは…!あの…!」
「んー」
リコリスさんは泣きじゃくるアリスさんと狼狽える私、それに荒れた机の上を見てなんとなく状況を察したようだった。
「なるほど。ほらおいでアリス」
「びえええええ!ママぁぁ!」
「おーよしよし。ダメだぞシャーリーの邪魔しちゃ」
「あ、あの…リ、リコリスさん…」
「わかってる。ちょっとアリスをなだめてくるね」
そう残してリコリスさんはアリスさんと共に部屋を出た。
なんて心が痛い。
これだから小さな子どもは苦手だと、私は作りかけの服に目を落とした。
しばらくしてまたリコリスさんが部屋を訪れた。
「ゴメンなシャーリー」
「いえ…こちらこそ。アリスさんに大声を…」
「危ないことしたから叱ってくれたんでしょ?正しいことしてくれたよ。私はつい甘やかしちゃうからなぁ。あの可愛いとこ見てるとどうもね。だから叱ってくれるのすごい助かる」
「私なんかが」
それは言葉にするつもりのなかった言葉だ。
「私みたいな人殺しが、どうして人を諭せるでしょう」
言ってからハッとした。
「すみません」
どうにも心が沈む。
何がどうというわけでもないのに。
強いて言うなら冬がそうさせる。
冷たい空気が昔を思い出させる。
嫌になる。
こんなにも恵まれていて、あたたかい場所にいて、私はまだ…暗殺者だった自分を忘れられない。
「私は…」
リコリスさんはそっと私の頭を自分の胸に抱いた。
「大丈夫。シャーリーはシャーリーだよ」
心が安らぐ花の香り。
睡魔を誘うような柔らかなぬくもり。
背中に手を回していいものかと悩んで、指を触れさせるだけで耐えた。
「いつでも甘えていいんだからね」
「……はい」
私の心なんてお見通しであるかのように。
リコリスさんはずっと私を抱き続けた。
その日の夜。
アリスさんがまた部屋を訪れた。
今度はリコリスさんと一緒に。
「どうしたんですか?」
「うゅ…」
何やら後ろ手を組んでモジモジしている。
するとリコリスさんが軽く背を押した。
「シャーリー、これ」
アリスさんは手に持っていたものを私に差し出した。
一枚の紙。いや、絵だ。
描かれているのは私?
「あのね、シャーリーのおしごとじゃましちゃってゴメンなさい」
「ちゃんと謝りたくてシャーリーの絵を描いたんだよね」
「うん」
お世辞にも上手ではない。
紙にガシガシと木炭を走らせた、人かどうかの判別もつかないもの。
なのにすごくあたたかい。
愛おしいという感情が止めどなく溢れてくる。
「ありがとうございますアリスさん。嬉しいです。とても…とても嬉しいです」
「エヘヘッ。シャーリーすきー」
「はい。私も好きですアリスさん」
何度でもありがとうを。
何度でも大好きを伝えよう。
私を受け入れてくれる皆さんがいる限り。
ここにいることが許される限り。
《プロフィール》
名前:リコリス=ラプラスハート=クローバー
種族:半神半人
性別:女性
年齢:19歳
職業:魔狼級冒険者
所属:百合の楽園
称号:ドラグーン王国伯爵、アイナモアナ公国名誉子爵、ディガーディアー名誉子爵、竜殺し、夜会の主、神への叛逆者
加護:【自由神の加護】【遊戯神の加護】【法神の加護】【精霊王の加護】【竜王の加護】
アンリミテッドスキル
【百合の王姫】【創造竜の魔法】
名前:アルティ=ラプラスハート=クローバー
種族:人間
性別:女性
年齢:18歳
職業:魔狼級冒険者
所属:百合の楽園
称号:銀の大賢者
加護:【魔術神の加護】【精霊王の加護】【竜王の加護】
ユニークスキル
【七竜魔法】
アンリミテッドスキル
【妃竜の剣】
名前:ドロシー(真名:ドゥ=ラ=メール=ロストアイ)
種族:ハーフエルフ
性別:女性
年齢:130歳
職業:精霊級冒険者、薬師
所属:百合の楽園
称号:亡国の皇女、森羅の継承者
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【調合】【採取】【交渉術】【商人】【金の恵み】【念話】
エクストラスキル
【精霊魔法】【月魔法】【眷属召喚】【状態異常無効】
名前:マリア
種族:獣人族
性別:女性
年齢:10歳
職業:妖精級冒険者
所属:百合の楽園
称号:竜殺し
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【剣術】【直感】【言語理解】【念話】
エクストラスキル
【爆炎魔法】【電光石火】【天駆】【神速】【状態異常無効】
名前:ジャンヌ
種族:獣人族
性別:女性
年齢:10歳
職業:妖精級冒険者
所属:百合の楽園
称号:竜殺し
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【執筆】【描写】【言語理解】【念話】
エクストラスキル
【大海魔法】【術理】【並列思考】【見えざる手】【状態異常無効】
名前:テルナ=ローグ=ブラッドメアリー
種族:吸血鬼
性別:女性
年齢:1999歳
職業:神竜級冒険者
所属:百合の楽園
称号:真紅の女王、血の福音、意思ある災厄
加護:【最高神の加護】【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【鑑定】【鑑定阻害】【隠蔽】他、現存する全てのスキル
エクストラスキル
【召喚魔法】
ユニークスキル
【全知全能】【無限】【紅蓮魔法】
名前:シャーリー(シャルロット=リープ)
種族:人間
性別:女性
年齢:25歳
職業:子鬼級冒険者、裁縫師
所属:百合の楽園
称号:虚ろの影
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【暗殺術】【短刀術】【調合】【器用】【蹴撃】【投擲】【針使い】【操糸】【暗視】【詐欺】【窃盗】【姦淫】【礼儀作法】【苦痛耐性】【鑑定阻害】【念話】
エクストラスキル
【影魔法】【状態異常無効】
名前:エヴァ=ベリーディース
種族:半魔人
性別:女性
年齢:18歳
職業:悪魔級冒険者
所属:百合の楽園
称号:奈落の大賢者
加護:【混沌神の加護】【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【念話】他、取り込んだ魔物のスキル
エクストラスキル
【状態異常無効】
ユニークスキル
【混沌】【重力魔法】【混沌付与魔術】
名前:ルウリ=クラウチ=ディガーディアー
種族:自動人形
性別:女性
年齢:18歳
職業:悪魔級冒険者
所属:百合の楽園
称号:錬金術師
加護:【機械神の加護】【精霊王の加護】【竜王の加護】
スキル
【射撃】【精密動作】【解析】【念話】
エクストラスキル
【錬金術】【人形師】【魔力装填】【魔力変質】【状態異常無効】
名前:アリス=ラプラスハート=クローバー
種族:精霊竜王
性別:女性
年齢:0歳
職業:無し
所属:百合の楽園
称号:精霊王、竜王
加護:【精霊王の庇護】【竜王の庇護】
アンリミテッドスキル
【精霊王の輝冠】【竜王の黒逆鱗】
《従魔》
名前:リルム
種族:幻獣種・粘魔竜姫ベルゼビュートスライムロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【魔竜の暴食】
名前:シロン
種族:幻獣種・眠兎竜姫ベルフェゴールラビットロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【兎竜の怠惰】
名前:ルドナ
種族:幻獣種・空鷹竜姫マモンホークロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【鷹竜の強欲】
名前:ウル
種族:幻獣種・黒狼竜姫ルシファーウルフロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【狼竜の傲慢】
名前:ゲイル
種族:幻獣種・翠甲竜姫アバドンビートルロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【甲竜の破滅】
名前:トト
種族:幻獣種・月霊竜姫レヴィアムーンエレメンタルロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【霊竜の嫉妬】
名前:プラン
種族:幻獣種・冀聖竜姫サタナエルドラゴンロード
契約者:リコリス=ラプラスハート
職業:粘体級冒険者
所属:百合の楽園
加護:【精霊王の加護】【竜王の加護】
スペリオルスキル
【聖竜の憤怒】