妖女、人と会う。
アザーリエは、今度こそ約束通り、休暇が取れたダインス様とお出かけすることが出来た。
うきうきと準備して着替えたのは、落ち着いた色合いの青いワンピースと、同じ色のはばひろ帽。
元から顔立ちが大人びているせいで、白だとか淡い色合いの服があまり似合わないアザーリエは、清楚で可憐な格好に憧れていたけれど、諦めていた。
「お待たせ致しましたぁ」
居間に向かうと、ダインス様がコーヒーを飲んでいて、小さく笑みを見せる。
「よく、似合っている」
「そ、そうですか?」
褒められて、えへへ、と嬉し恥ずかしくて肩を竦めると、側に控えていたウルールに彼がうなずきかけ、それを受けて何かを持ってくる。
「それ、何ですかぁー?」
「コサージュだ」
転けないようにテーブルを回り込むと、箱から彼が取り出したのは真っ白な花を模した飾り。
「わぁ、可愛いですねぇ〜」
「そうか?」
それを、立ち上がったダインスは、手に持っていたはばひろ帽をアザーリエに被らせて、そっとピンで留めた。
「君は、その。可愛いものが好きだが、あまり可愛らしい服装が似合わない、と言っていただろう。こういう小物ならどうか、と……騎士団の、モテる奴に聞いて、買っておいた」
「まぁ……!」
『そんなことを正直に仰らずとも良いのです』という顔をしたウルールに気づかず、アザーリエは口元に両手を当てる。
ーーーそそ、そんな事まで覚えていてくれたんですかぁ〜!?
カーッと顔が熱くなり、おずおずとダインス様の顔を見上げると、彼も真っ赤になって目を逸らしていた。
「その、気に入って貰えると嬉しい」
「あ……ありがとう、ございますぅ……」
もじもじしながら小声でお礼を言うと、部屋の空気が変わった。
「……?」
周りを見ると、ウルールが視線を逸らしていて、控えていた侍女が顔を赤らめていて、使用人たちがこちらを凝視したまま固まっている。
「っ、その、君のささやくような掠れ声は耳に毒だ。きちんと発声するように」
「ひゃ、ひゃい!」
どうやら、人見知りしている時と同じような調子になっていたらしい。
恥ずかしくて口をつぐんだアザーリエだったけれど、ダインス様と街に向かう馬車の中はとても楽しくて、色々おしゃべりしているうちに街に着いた。
「良い土があれば、それも買いたいですねぇ〜。後はお野菜の種とか」
「何に使うんだ?」
「久しぶりに、お野菜を育てたいんですぅ〜。ダインス様のお屋敷のやつはいつも新鮮で美味しいのですけれど、故郷にあった香草とかはないみたいなので〜」
酸っぱかったり独特な香りがしたり、ピリッと辛かったりする香草は、お肉やお野菜に混ぜると味が変わって美味しいから。
そんなたわいのない話に、ダインス様は興味深そうに付き合ってくれて。
「手を」
と、先に降りて外から手を差し出してくれた。
微笑んでその手を取ったアザーリエが外に降り立つと、ざわり、と周りがざわめく。
アザーリエが顔を上げようとすると、ダインス様がその前に肩を抱き寄せた。
「君の魅力は、初見の人々には少々刺激が強い。顔を伏せて、すぐに中に入ろう」
「わ、分かりました……!」
そうして、呆然としたような顔の店員さんから刺繍糸を買ってほくほく顔のアザーリエは、しっかり帽子を目深にかぶって、すぐ近くのお店まで歩く。
「せっかくのお出かけなのに、ご迷惑をかけて申し訳ないですぅ〜……」
基本的に慣れ親しんだ近所の人や商人としか関わりがなく、必要なければ領地に引きこもっていたアザーリエは、何だかコソコソしないといけなさそうな自分の厄介な特性で、しょんぼりする。
ダインス様に気を遣わせてしまった。
土や種を選んでいる時に、落ち込んでいるのを気にしたのか、馬車に戻るとダインス様が声を掛けてくれる。
「気にすることはない。……俺が、君が不躾な視線に晒されるのが嫌なだけだ。……それに、独り占めしたい欲くらい、は、俺にもあるしな……」
「ダインス様……!」
ボソボソと言われた後半は聞こえなかったものの、ダインス様の優しさに感動していると、彼は咳払いをして話題を変えた。
「それはそうと、買い物は本当にそんなもので良かったのか?」
「大丈夫ですぅ〜。ダインス様は、どこか行きたいところはありますかぁ〜?」
「君の、お披露目用のドレスを仕立てたいと思っていてな。あまりそうしたことには詳しくないので、王家御用達の店に取り次いで貰っている」
「ふぇえ!?」
いきなり高級そうなお店に行くことに、アザーリエはビックリしてしまった。
それも自分の用事で、何だかさらっと言われたけどこの国のトップに口利きをしてもらって。
ーーーそそ、そう言えばダインス様は公爵様でした!!
今更ながら、彼が王家の血を継いでいることを理解したアザーリエは、顔を真っ青にする。
「あの、あのぅ……そんな高価なものを、買っていただくわけには……!」
コサージュも贈って貰ったのに、と思っておずおずと声を掛けると。
「……出来れば普通に喋って欲しいんだが……」
と、何かに耐えるようにぎゅ、と厳しいお顔の眉間に皺を寄せて、ダインス様が言い返してくる。
「私が贈りたいのだ、アザーリエ。それに、公爵家に嫁いだのにマトモなものを贈られないなどと言われれば、君が見下されてしまう」
「そ、それは分かりますけどぉ! でもでも、わたくしにそんなお金ないですぅ!」
「きちんと莫大な支度金をご両親から預かっている」
「わ、わたくしのお金ではないですぅ! 貴族たる者、自分で稼いだ以外のお金は使うなと、お父様がぁ!」
「必要なものを買うための支度金だ。その金を出したのはご両親だと言っているだろう。おそらく、君の家の家訓を守るための金でもあるはずだ」
「悪たるための!?」
ハッと、アザーリエはお父様の言葉を思い出した。
『悪党ってのは、ナメられたら終わりなんだ! 人前に出る時は、良いものを身につけて羽振り良く! 札束で頬をぶん殴るつもりで、しかし品良く着飾れ!!』
ーーーそ、そうでしたぁ!!
ダインス様もきっと、公爵家がナメられない為に……!
「当然、公爵家の方でも金は出す。君が最も美しく見えるように、一式取り揃えるつもりだ」
「は、はい!」
それが悪たる者の使命である、と言われれば、アザーリエは頑張るつもりで、ぎゅっと拳を握った。
今まで苦手で、必要最小限で逃げてきた貴族とのお付き合い。
でも、人見知りだろうと何だろうと、ダインス様のために頑張ると決めた以上、避けては通れないのだから。
ーーーお父様、お母様、アザーリエは、頑張って悪の覇道をダインス様から学んでいますっ!
心の中で最強の父母に語りかけて、気合を入れて服飾店に着き、またダインス様の手を借りて馬車を降りたところで。
「アザーリエ!?」
と、聞き覚えのある声を聞いて、そちらに目を向けた。
すると、同じように馬車を降りた小柄な金髪の貴族が、目を丸くしてこちらを見ている。
アザーリエも、ここで出会うはずのない人物に、思わず声を上げていた。
「ウィルダリア様……」
そこにいたのは。
幼い頃から交流があり、一番熱心にアザーリエを口説いていた祖国の公爵家の人、だった。
ダインス様と幸せに暮らしていたアザーリエの元に、ついに出現した幼馴染み!
アザーリエを取り返そうとしているであろう存在に、ダインス様はどう対抗するのか!?
まぁ、どう考えてもシリアスにはならないのでご安心下さい。
アザーリエはダインス様を選ぶのか、果たしてダインス様を選ぶのか! 続きが気になる方は、ブックマークやいいね、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、どうぞよろしくお願い致します!




