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6/11

妖女、交渉する。


「あ……ダインス様……?」


 アザーリエは、ふと気がついて、もじもじを脱して話しかけた。


「何か?」

「先ほどの話、なのですが……薪割りの」

「ああ」

 

 ダインスは、アザーリエの言うことに耳を傾けてくれるようだった。


 ーーーわたくしはここに、悪の在り方を学びに来たのですぅ!


 なんだか、想像してたよりも皆全然悪そうに見えなかったけれど、アザーリエは叩き込まれた『悪の家訓』に従って交渉を始めた。


「薪を割ったことは、何か問題が、ありましたか……?」

「君が割ったことは問題だが、薪割りの仕事については他の誰がやっても問題はない」

「では、それは労働と認められる、ます、ね……?」


 緊張で噛んだ。

 

 けれど言質を取ったアザーリエが目をきらりと光らせ、グッと身を乗り出すと、ダインスが喉の奥で『ぐぅ』とうめいて、視線を逸らされる。


「何か……?」

「いや、申し訳ないが、目の毒でな。……完全に慣れるまで、しばらくかかりそうだな……」

「? そうですか……それで、薪割りは労働と認められます、ね……?」


 後半のつぶやきは聞こえなかった。

 アザーリエは少々はしたなかったかしら、と同じように身を引いてから、「ああ」と頷いたダインスに対してニッコリと笑みを浮かべる。


「では……お駄賃を、くださいませ……!」

「は?」


 ぽかんとする彼に、アザーリエはきちんと説明を行った。


「『悪たるもの、金に汚くあれ! 労働には正当な対価を!』が我が家の教えです……」


 身の回りのことをしたのは、人として当然のことなので特に何も請求はしない。

 けれど、薪割りは誰がそれを使うにしても、助かること。


 父母も、大きな悪となるために、働きに見合う十分な報酬を出すことを推奨している。


 ーーーつまり薪割りは、お駄賃をもらうには十分な、立派な労働ですぅ!


「なるほど。……時にアザーリエ。そのお駄賃という対価は何に使うつもりだ?」


 少し警戒した様子で、ダインスが問いかけてくるのに、アザーリエは笑みを浮かべたまま、少しだけ頬を染めた。


「……刺繍糸を……」

「糸?」

「はい……婚約している殿方に、刺繍のハンカチを贈るのは、大切なことですわ……」


 婚約者が胸元に飾るハンカチに縫う刺繍の腕は、素晴らしければ素晴らしいほど、精緻であればあるほど、そのまま旦那様への愛の深さを示し、娶っていただく方への箔ともなる。


 手持ちの糸だけだと、どうしても縫いたい図柄に沿わなかったので、アザーリエはそれを買いに行きたかった。


「君は、持参金を持っているのでは?」

「もちろんですわ……ですが、無駄遣いは大きな悪を為すための妨げとなります……それに、我が家では大切な贈り物ほど、自ら稼いだ金銭で贈ることを尊んでおりますわ……」


 裁縫は、母によって徹底的に仕込まれている。

 けれど今まで、アザーリエは家族や親しい方以外に贈り物自体をしたことがなく、刺繍以外のものとなると、落ちこぼれで役立たずな自分が稼ぐお金では、あまり良いものを買えなかった。


 着る物を送ろうにも生地は高いし、装飾品など手が出ない。

 贈られたものを換金しようにも、全て断っていたので。


 ダインスは、その厳しいお顔立ちをぽかんと呆けさせた後。

 頭痛を覚えたように、眉根に寄った皺を揉んだ。


「……アザーリエ」

「はい……」

「俺は本当に、君のことを誤解していたようだ」


 考えの変遷はおかしいが、と口にしたダインスは、どこか柔らかな色を含んだ笑みを浮かべる。


「数日後に休日がある。共に出かけよう。……もちろん薪割りの賃金は支払うが、今後は危ないことはやめるように」

「……仰せのままに……」


 ーーー危ないことをしないとなると、お金を稼ぐ手段が限られてしまいますぅ〜。


 内心少ししょんぼりしながらも、アザーリエは旦那様の言葉にうなずいた。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 悪の定義がそもそもおかしいんですよね!(笑)
[一言] これ、実家の家族も家訓に囚われてて、いいところを引き出してあげれなかった、のでは、とか きちんと特徴を理解してお母さん辺りが鍛えれば男コントローラーになれたような(当人は望んでもないでしょう…
[一言] 悪の道は,厳しいのぅ( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
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