表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/11

公爵は、妖女に危機感を感じる。


 アザーリエを初めて目にしたダインスは、彼女の姿に目を細めた。


 ーーーなるほどな。


 色香の化身。

 

 それがアザーリエの第一印象だった。


 黒く艶やかな髪と、遊牧民の血が混じっているのだろう、浅黒くきめの細かな肌。

 エキゾチックな美貌の中でも、特に目を惹くのが、最高級のエメラルドのような鮮やかな色合いの瞳だ。


 ぽってりとした唇に引かれているのは、毒々しいほどのルージュ。

 切れ長で涼しい目元は、緑のアイラインと豊かなまつ毛に彩られていた。


 鼻筋の通った完璧な美貌。


 そして、唇の左下と左目の下に、それぞれ一つづつ小さなホクロがあり、彼女の美貌に男好きのしそうな艶かしさを添えている。


 体を包むのは、落ち着いたデザインのシックなワンピース。

 しかし豊かな胸元と、細くくびれた腰、丸みを帯びた臀部が彫刻のような完璧な曲線を描いていて、ドレスが派手でない分、より彼女の色香を際立たせている。

 

 そうして、ダインスの前に立ったアザーリエは、ゆるりと優雅に頭を下げた。


 ドレスの裾を握る、爪の長い指先は唇と同じ色合いに彩られていて、美しい仕草が、その指の長さや手の形の良さまでもを引き立てているようだった。


「お初にお目に掛かります……ロンダリィズ伯爵家が長女、アザーリエ・ロンダリィズと申します……」


 密やかに囁くような、少し掠れた声音。

 その唇が動くたびに、まるで媚薬のように色香が匂い立つ。


 ーーー普通の男ではひとたまりもなかろう。


 ダインスは、騎士団を率いている関係上、男の下世話な商売女やご令嬢の話題にも抵抗はないが、朴念仁と言われるほどにそうした欲自体は薄い。


 そんな自分でも、ともすれば引き込まれそうな程に、アザーリエは妖艶だった。


 挨拶を返してこちらの要望……というよりは一方的な言い分を伝えると、アザーリエは予想外に素直に頷いた。


「はい……レイフ公爵様のなさりたいように……」


 そうして、薔薇のような微笑みと共に、潤んだ目で上目遣いにこちらを見上げる。


 ーーーぬ。


 甘えるような、媚びるような、それでいて絡み取るような仕草に、ダインスはグッと眉根を寄せた。


 ーーーなるほど。これが〝男を狂わす妖女〟か。


 噂は噂と聞き流していたが、これは想像以上だったかもしれない。


 向こうの王太子も入れ上げていて、婚約を断られてなおアプローチをしていた、というのも事実なのだろう。


 彼の婚約が決まった直後に、商売上の繋がりがあったロンダリィズ夫人と、隣国の王妃殿下直々に同時期に手紙をいただいて、この先結婚の予定もなかったので、条件を呑ませることで引き受けた婚姻。


 夫人と王妃はそれぞれに理由は違ったが、王太子と引き離そうとした妃殿下の気持ちは、よく分かった。


 ーーー彼女は危険だ。


 応接間を辞した後、外に控えていた老執事に声を掛ける。

 

「どう見る?」

「想像以上ですな。若い男はひとたまりもありますまい。あれは、天性の男たらしかと」

「……男の使用人は極力遠ざけろ。声をかけられても相手をするなと触れておけ。女も同様に、必要最低限の関わりだけを持たせろ。おそらく、籠絡は得意技だろう」

「御意」


 頭を下げた老執事に頷きかけて部屋に戻ったダインスは、目頭を揉んで大きく息を吐く。


「……まったく、随分な厄介事を持ち込まれたものだ」


 社交界に出ないことを了承させておいて正解だった。


 万に一つの可能性とは思っていたが、もし彼女が、こちらの内部を切り崩すつもりで送り込まれて来たのなら……。



 ーーー皇帝陛下や王子、宰相、あるいは高位文官が誑かされたら、ひとたまりもない。


 

 婚約期間と結婚してから離縁を申し渡せるまでの、二年間。

 出来るだけこの屋敷の中で、大人しくしていて貰わなければ。


 男と遊び回っていたというアザーリエが、そんな軟禁に近い生活に耐えられるかは疑問だが……どれほど乞われても許してはならない、と固く誓う。


 ーーー皇国の安寧の為にも、俺が絆されて譲るわけにはいかん。


 ダインスはそう決意を新たにしたが、一週間経ち、二週間が経過しても……アザーリエは、まるで動き出さなかった。


 しかしその二週間、ダインスは別の意味で頭を悩まされることになった。

 あまりにも完璧に自分の身の回りのことを自分でこなしてしまう、アザーリエに。

 

勘違いものの醍醐味は、お互いの意識のズレ。

次はアザーリエを失った母国の求愛者登場です。


面白いと思っていただけましたら、ブックマークやいいね、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まぁ…所詮は噂と思い込みですからねぇ…(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ