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婚約破棄は王子によってもたらされる

「おまえとの婚約を破棄する」

 王侯貴族の通う学院。

 その卒業パーティでの事。

 最後に会場に到着した王子。

 その王子はパーティ会場の壇上にあがり、そんな事をのたまった。

 瞬時に会場の喧噪が消える。



「さて、その理由について説明が必要だろう。

 罪状についてはこれから語っていくので、静粛に願う」

 まだ状況を把握仕切れてない者達は、その言葉に口を引き締める。

 とにかく聞かねば始まらない。

 だが、そんな王子に、

「お待ちください」

 温和なおっとりした声が異議を唱えた。

 今し方、婚約を破棄された本人である。



「いったいどういう事なんでしょうかぁ」

 語尾が間延びしたおっとりした口調。

 その口調通りの温和な顔立ちに仕草。

 初対面の印象で言えば、人畜無害な温室育ちのお嬢様。

 そんな婚約者、いや、元婚約者である子爵令嬢がやんわりと反論をしてくる。



 その見た目と口調に王子は警戒心を跳ね上げる。

 一見無害そう、それこそ温和なお嬢様に見える。

 しかし、だからこそ油断する。

 警戒されない。

 警戒を自然とほどいてしまう。

 ある意味もっとも厄介なタイプだ。

 本当の意味での魔性の女。

 真性の悪役令嬢といったところである。



 なお、子爵というと爵位としては低いと思われるかもしれない。

 王子の婚約者としてはふさわしくないと。

 だが、これがそうでもない。



 この子爵家、元をたどれば公爵家の分家である。

 何代か前の先祖が公爵家の次男だか三男だかだった。

 その時に色々とあって、分家として家をたてる事に成功した。

 およそまっとうな方法ではないし、様々な謀略・計略を駆使しての事だ。

 その為、貴族社会の中ではかなり煙たがられている。

 本家である公爵家すらも、「どうしてあんな奴に……」と貴族家としての分離独立を嘆くほどだ。



 だが、血筋だけ見れば格は高い。

 公爵の頃からの男子継承が今も続いており、それだけ見れば立派なものだ。

 その娘とあって、子爵ながらも王族の婚約者候補の中に入る事が出来た。

 もっとも、候補に入るために様々な工作があった。

 他の候補者を退けるのにも、裏活動があった。

 それらは公然の秘密として、貴族と事情通の庶民の間ではよく知られている。



 そんな子爵家の令嬢だけに、王子からの糾弾にも慌てた素振りを見せたりはしない。

 その胆力は立派なものだ。

 あるいは、畏怖といったものを全く感じない性質なのかもしれない。

 だが、王子もそんな相手の事はいやというほど思い知っている。

 なので、気にしたりはしない。

 王族の一員としてこの程度の奸物くらい相手に出来ないようではやっていけない。



「さて、婚約破棄の理由だが。

 まず、もたらされた被害から並べていこう」

 そう言って王子は起こった出来事をあげていった。



「まず、事件自体はそうたいしたものではない。

 被害も小さいと言ってよい」

 その事に居合わせた者達は意外に思った。

 事件というから大げさな事を想像していたが。

 そうではないというのだ。



「あら、そうなのですの?」

 子爵令嬢が意外そうに言う。

 本心からそう言ってるように見えた。

 だが、そうでないのは彼女の本性を知る者には一目瞭然だ。

 なのだが、

「私、てっきりもっと大きな……」

「おい、黙らせろ」

 躊躇わず指示を出す。



 それに従い、影が動いた。

 とてつもなく素早い。

 それが子爵令嬢の顎をたたき上げる。

 いわゆる、アッパーカットだ。

 子爵令嬢の意識が飛ぶ。

 続いて。



 ドスン。

 重い音が子爵令嬢の腹からあがった。

 飛び出した影から伸びた拳が、子爵令嬢の腹にめり込んだ。

 重くめり込んだ拳により、子爵令嬢の体が『く』の字に曲がる。

 子爵令嬢の意識が遠ざかる。

 そのまま床に倒れ混んだ。



「話の腰を折るな」

 倒れた子爵令嬢。

 それに向かって王子の叱責が飛ぶ。

 だが、それは既に意識を失った子爵令嬢に向けたものではない。

 この場にいる他の者達に向けて警告だった。

 居合わせた者達は、それを察した黙り込む。

「というわけでだ。

 この場には私の警備をかねて、何人かが潜んでいる。

 その事をしっかりと理解しておいてもらいたい」

 王子の声に、誰も何も言えなくなった。



「さて、あえてそこの女を黙らせたのだが」

 王子は子爵令嬢を、ただ「女」と表した。

 それが王子からの評価である事。

 さらには、貴族としての地位や立場など一考だにしない事。

 居合わせた者達はそんな印象を受けた。

 その上で王子は言葉を続ける。

「こういうのがこの女の手口だ」



 相手の話の腰を折る。

 ただそれだけと思うなかれ。

 話すというのはそれなりに意識の集中がいる。

 それを途絶えさせられると、やる気が思いっきり減退する。

 作業の再開が困難になる。

 気持ちや心というのは、一口さしこまれるだけでも潰えてしまう。



 走行中に急にブレーキをかけられるようなものだ。

 一度止まってしまったら、元の速度に戻るまでに時間がかかる。

 あるいは、走行中にやたらと進む方向にものを投げ込まれるようなものだ。

 それがタオルやスポンジのような軽いものでも、多少は警戒して速度を緩める。



 そういった事をしてるのだ、子爵令嬢は。

「こうやってやる気をそいで、うやむやにする。

 それが計略ってもんだ」

 初歩の初歩である。

 だが、効果はある。

 しかも、「あら、こんな事を気になさるの?」とごまかされる。

 実際にやってることはかなり酷いもののなのだが。

 そう思われないのが問題だ。



 あろう事か、「その程度で何を」と周りの者達が被害者を攻撃する。

 加害者扱いされる。

「おおらかになれ」という理由をもって。

 これこそが問題を大きくしていく。



 また、そういう流れに持ち込むのが計略でもある。

 被害者が加害者にされる。

 そういった事がよくある。



「諸君、今後貴族としてこういう場面にも遭遇するだろう。

 しっかり覚えておいてもらいたい。

 いつか役立つ日も来る」

 王子は倒れてる子爵令嬢を実例にそう説明をしていく。

「とりあえず、それは縛り上げておいて。

 猿ぐつわとかもよろしく」

 王子の指示で飛び出してきた影。

 全身をくまなく覆ってる工作員は、その指示通りに子爵令嬢を縛り上げていく。



「さて、話の腰を折るクズはこれで静かになった。

 説明を続けていくぞ」

 王子の声に、異を唱えるものは誰もいない。

 言えるわけがなかった。



「ああ、それと」

 王子の注意と警告は続く。

「女だからなんてのは擁護の理由にならん。

 悪事を働いたなら、女子供老人だろうと許さん。

 許していたら、世の中悪事だらけになる」

 悪事をなしたかどうか。

 処罰を下すかどうかはそこだけで決まる。

「性別を理由に差別はしないように。

 悪いものは悪いんだから」

 実際にやってみせたので、それが脅しではないと誰もが理解した。

 理解したから余計な事はしないように気をつけていった。

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