3次元サラリーマン
「何かお困りですか?」
ベンチで俯く僕にスーツ姿のおじさんが声をかけてきた。
「なんでもない!」
僕は、袖で顔を拭った。
「何もない顔には見えませんよ。良かったら相談に乗りますよ。」
おじさんは僕の隣に腰掛ける。
「勝手に座らないでよ!」
僕は図々しいおじさんに怒鳴る。
「そんなに泣いたり怒ったりで疲れるでしょう。」
おじさんはカバンの中から飴を取り出した。
「そんなのいらない!」
「飴は嫌いかな?なら、ガム?チョコレートかな?」
次には何が出てくるのか、僕はカバンの中を覗き込んだ。
「興味ありますか?これは三次元カバン。おじさんの商売道具です。」
「いや三次元って普通のカバンじゃん。」
僕は呆れて応える。
「四次元とかなら、便利な道具を出してくれるのに、」
「これも捨てたもんじゃありませんよ。」
「なら、お母さんと仲直りできる道具出してよ!!」
僕は、おじさんに言う。
「まずは、どうして喧嘩しているか教えて貰ってもいいかな。」
今日僕は、塾なのをすっかり忘れて公園で友達と遊んでいた。
家に帰ると塾から連絡があったようでお母さんがカンカンに怒っていた。
それで僕は家を飛び出したんだ。
「僕だって塾を忘れたのは悪いと思ってる。でも、友達とも遊びたいし色々やりたいことはあるんだ!」
僕はまた、悲しくなってきた。
「では、とっておきの秘密道具を!」
おじさんはカバンからすり切れた手帳を出した。
「スケジュール管理から初めてみてはどうかな?自分の計画の甘さなど色々見えてくるものもありますよ。それと、これはサービス。」
おじさんは次に飴玉をくれた。
「これは?」
「素直に謝ることができる飴です。今の君なら必要ないかもしれませんが。」
「そんなことないよ。」
僕はさっそく飴玉を咥え立ち上がる。
「ありがとう、少し元気が出た。」
「どういたしまして。」
僕は貰った手帳を手に家に帰る決心をした。
「お母さん、ごめんなさい。」
僕は家に帰り素直にお母さんに謝った。
お母さんも泣きながら許してくれた。
この飴、お母さんにも効果あるんだ。
おじさんの手帳をは魔法だった、親の気持ちがわかる魔法だ。
おじさんの手帳には子供の誕生日はもちろん、家族の行事、様々な記念日などがあった。
「娘の一人歩き記念日って何年前だよ。」
僕も新しく手帳に書き込むことにした。
【お母さんとの仲直り記念日】