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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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216「悪魔の群れ(1)」

「元 主人あるじ様、ご無事で何よりです」


 全員が部屋に入ってきた段階で、すでにスミレさんがロープ状の何かの蔦でグルグル巻きにされて倒されている人影に近寄る。


 しかし気を失っているらしく返事はない。

 体も向こうを向いているので顔は確認できない。

 分かるのは、白い上着を着た細身の男性という事くらいだ。


「生きてますよね」


 とりあえず、隣まで歩いてきたシズさんに問いかける。何か魔法を使っているので、色々調べていたからだ。


「生命反応はあるな」


「乗っ取られていたりとか、ないですよね」


「そういう類の魔法は存在しない。我々の世界と同じような、薬物や技術的な催眠術や洗脳はあるがな」


「意外にこの世界の魔法って夢がないですね」


「便利な面はあるがな」


 シズさんが苦笑し、ハルカさんが軽く肩を竦める。

 誰でも思うことなのだろう。


「それより、敵はもういないんだよね」


「今のところ反応なしだ」


「てことは、ここのラスボスって昨日倒した悪魔だったんだね」


 そんなやり取りをしている間に、スミレさんが捕まっていた人の蔦を断ち切って横に寝かせる。

 さらに脈などを取っていき、こちらを向いて一度頷く。大丈夫ということだ。


 倒れていた人は男性。身長170センチ半ば。かなりの瘦せ型。伊達と思われるが金属フレームのメガネをかけている。


 服装は見るからに白衣を着ているが、扱いが悪かったのかかなり薄汚れてしまっている。

 しかし破れたりしていないところを見ると、余程丈夫なのかマジックアイテムなのかもしれない。


 それ以外の装備も、冒険者というよりは普通の人だ。しかもあっちの世界の人の服装に近い。

 まさにチノパンにチェック柄のシャツ。靴は革靴だけど、こっちの世界の靴というより現実世界でのカジュアルシューズっぽい。

 ノヴァで売っているんだろうか。


 とりあえず、こんな貧弱な服装と装備で危険な場所をうろついたらダメだろとしか思えない。


「スミレさん、起こせそう? 私が治癒魔法使いましょうか?」


「負傷はしていません。薬で眠らされているか、力で気絶させられているかのどちらかと思われます。魔法であっても、無理に起こさない方が宜しいかと」


 色々と体を調べていたスミレさんが首を横に振る。


「それじゃあ、そのまま連れて彼の屋敷まで行きましょう。ここは安全とは言い切れないものね」


「こいつの屋敷で起きなければ、警備が堅くて中には入れないぞ」


「その時はノヴァまで行きましょう。あ、スミレさん運んでもらえる?」


「これで6人だけど、周りに他の魔物がまだいるかもだから、窮屈だけどいっぺんに運ぶねー」




 というわけで、スミレさんに肩で担がれ荷物扱いされたレイ博士を連れて、そのレイ博士の館に向かうべく、破壊も激しい遺跡の跡の外へ出る。


 その時だった。

 自分自身気づかないほどの瞬間で、半ば本能的に体が動いていた。


「ドカッ!」


 何か大きな音がしたが、それはオレ自身が倒れた音だった。

 けど、その場で突然理由も無く倒れたんじゃない。

 とっさに体を跳躍させ、スミレさんの前に立ちはだかって、そこで何かにぶつかって弾かれたのだ。


 そしてすぐさま立ち上がり、腰の剣を引き抜こうとしたが、そこで自身の変化に気づいた。

 左腕が肘から先が無くなっていた。

 千切れた時に筋肉が収縮しすぎたのか、幸い出血はほとんど無い。けど、いつ激しく出血してもおかしくない筈だ。


(腕だから多少出血しても、すぐに動けなくなることはないよな。すぐに止血なりする必要性も薄そうだし)


 なるべく気にせず、そのまま右腕だけで剣を構える。

 何しろ目の前には、すでに敵が立っていた。


「チッ!」


 オレの左腕を切り飛ばしてくれた敵が、苦々しげに舌打ちをする。


(舌打ちしたいのはこっちだっての!)


 内心毒づきつつ観察した限りでは、見た目は昨日戦った上級悪魔に近く、2本の角があるが鬼というよりは屈強なダークエルフっぽい。

 ただ、昨日のやつより装備も良さそうだし、一見して強そうだ。ついでに言えば、魔力量も随分多そうだ。

 間違いなく強キャラだった。


 さらにそいつに少し遅れて、4体の下級悪魔らしい人型も姿を見せつつある。

 こいつの動きが早すぎて、取り巻きが置いてけぼりを喰らった感じで追いついてくる。


 そしてその敵の初手に反応できたのは、こちら側でオレだけだったみたいだ。

 ハルカさん、ボクっ娘が対応できないという事は、敵がそれ以上の身体能力を有している証拠なので、ますます油断できない。


 オレの次に反応したハルカさんが、事態を正確に把握して声をかけることなく、すぐさま防御魔法の構築に入る。

 そしてオレが強そうな悪魔を牽制している間に、他の仲間たちも戦闘体制へと入っていく。


 強そうな悪魔も、初手の自らの奇襲が失敗した事で仲間か部下の合流を待つようで、しばし睨み合う。

 そうして唐突に、その強そうな上級悪魔が口を開いた。

 随分余裕のようだ。


「やるな魔人。我の必殺の一撃を、腕一本犠牲にしただけで遮るとはな」


「そうかい」


 昨日に続いてだけど、悪魔という連中は戦闘中のおしゃべりが大好きらしい。


「つれないな。急ぎでなければ、もっと存分に戦いたいところだ」


「こっちはお前に用はない。立ち去れ」


「そうはいかない。我らは、その眠りこけている岩巨人の兵団を操る魔人に用がある。素直に渡すなら立ち去る事も考えてやろう」


 強そうな悪魔は相当余裕があるらしく、しばらく会話を楽しんでくれそうだ。その間に、みんなが打開策か戦闘準備を進めてくれる筈だ。

 しかし、そこまで都合良くいかなかった。


「なりません、ゼノ様。奴らは、西の砦を破壊した輩に違いありませんぞ!」


「そうです。それに千もいた同胞の姿が全く見えません。この魔人どもにやられたに違いありません」


(あ、こいつらバカだ。これで強そうな悪魔はゼノに名称変更だな。それに今更だけど、正確な魔物の数字も知ることができたし)


 会話が途切れると少し焦ったが、敵のおバカな部下のおかげで心に少し余裕ができた。

 敵の前で情報をペラペラ話すとか、コンプライアンスや機密保持がなってない。

 しかもゼノ様とやらに声をかけた2体はまだマシで、残り2体は破壊の跡に「バカな」とか、三下が口にするようなお約束の声をあげ半ば呆然としている。

 悪魔のくせに、豆腐メンタルらしい。


 一方でオレの後ろでは、会話に関係なく次々に戦闘準備を整えているのが分かる。

 そして順次、鎧全開状態のハルカさん、クロが前線に立つ。後ろでは、シズさんの周りを4つの魔法陣がゆっくり回っている。ボクっ娘の周りにも、珍しく2つの魔方陣が回っている。

 スミレさんは、後ろに下がって自らの主人を守っている。


 悪魔たちの方も、こっちの魔法展開に気をとりなおした。

 ゼノはともかく、部下かお付きの4体は一歩遅れながらもやる気満々のようだ。

 見た目は全員異なっており、食人鬼みたいなゴツい戦士タイプ、上級矮鬼に似た醜い顔の魔法使いタイプ、人というかダークエルフっぽい細身のタイプ、一応人型だけど何かの獣が色々混ざっているキメラタイプとバリエーション豊富だ。


 ただ、ゼノ以外に昨日戦った悪魔ほど強そうなのはいない。Bの上位かAの下位くらいだろう。

 また、どいつも男性的か中性的な容姿で、見た目が女性や子供の悪魔はいない。その辺りは、年齢性別がないという鬼シリーズの魔物共通なのだろう。


 相手の姿と動きを見つつ出方を窺っていると、ゼノが再び口を開いた。


「その者を渡す気は無いのだな」


「オレ達は、こいつに用があって遠路はるばるここまで来たからな」


「ここの者では無いのか?」


「ノヴァトキオに用はあるけどな」


「そうか。ならばその者を置いて立ち去れ。ノヴァの魔人でないのなら、貴様の強さに免じてこの場は見逃そう」


 どうにもノヴァや『ダブル』に対して、敵意があると取れる発言だ。

 生き物ではない魔物は、人全体の敵じゃ無いのか? などと思う以上に、上から目線が気に入らない。


 チラリとハルカさんを見ると、特に表情は動いていない。

 オレの視線に気づいて視線を一瞬向けてきたけど、油断するなという意思しか感じない。


 まあ、お互い魔法使いの為の時間は稼いだので、そろそろおしゃべりも終わりだろう。

 それにしても、昨日に続いて悪魔という連中は、戦闘中に話すのが好きなのだろうか。

 と、一瞬思ったが、返答として先制を放つことにする。


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