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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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214「ダンジョン攻略?(1)」

「魔物の姿はございませんでした。そしてこちらが回収した魔石にございます」


「どうぞ新たなあるじ様、右から地龍、獅子鷲、食人鬼、上位矮鬼、その他魔獣のものになります」


「ああ、お疲れさん。早かったな」


「「勿体無いお言葉。お役に立てて光栄にございます」」


 こちらが空から敵陣に乗り込むとほぼ同時に、地上で敵情偵察と魔石回収を頼んでいた、クロとスミレさんがもう合流してきた。

 どんだけ仕事が早いんだと感心するより呆れるほどだけど、これでそれなりに消耗した魔力の補填は十分だ。

 すぐにも魔法職に分配していく。


 そして本来ならファンタジーの定番ダンジョン探索のはずだし、敵も頑丈な屋内での迎撃を想定してだろうが、実際は全然違っていた。

 一番の原因はシズさんだ。


 地下深くにも大きな影響が出そうということで、上から押しつぶしてしまう音速爆撃は使えない。

 ヴァイスはオレ達を運んだら、そのまま上空で周囲の警戒をしつつ事実上のお留守番だ。


 そして空からやって来たオレ達に、魔物達の出迎えは無かった。

 あれだけ野外で派手にやられたので、有利な建造物の中で迎え撃つ積もりなのようだ。

 オレ達が予測した状況ではあるが、戦法としては間違っていないと思う。


 なお、その遺跡を活用した魔物の拠点は、スミレさんの情報よりも周辺が拡張されていた。

 木々に隠れて一部の地面が均されていて、さっき全滅させた魔物や地龍が短期間滞在もしくは潜伏出来る様になっていた。


 そしてそこに痕跡しかなく、何も居なかった。

 魔物が居るのは建造物の中、もしくはその地下だけのようだ。

 その建物もしくは遺跡の扉は、固く閉ざされている。

 しかし敵の籠城など、最初からお見通しだ。


 しかも敵拠点の弱点は、多少木々で隠されていても空から見たら丸分かりだった。

 全てが石造りや地下だけに構造物があるのではなく、地表部分は壁と天井の一部が石造りなだけで、天井の多くは丸木や藁など木造の天井を新しく作ったものだった。

 そして途中から修理に用いられている技術が異なっているので、どの辺りから魔物が手を加えたのかがよく分かる。


 そして安普請の天井の破壊は、シズさんの魔法なら簡単だろう。



「ハルカ、こっちでもサポートするから『轟爆陣』の準備をしてくれ」


「いいけど、シズがした方が効率いいんじゃない?」


「私は『煉獄』を、地上と地下の浅いところに浸透させる」


「うわっ、マジ容赦ない」


「合理的と言って欲しいな」


「ア、ハイ、ゴウリテキです」


 不用意な言葉を口にしたボクっ娘が、平らな口調で返事を返す。けど、シズさん以外は同じように思っている表情だ。

 ハルカさんすら、オレに向けた表情が雄弁に物語っていた。

 しかしシズさんは全く気にしていない。


「で、スミレ、この作戦でお前の主は大丈夫か?」


「問題ないかと。地下深く、恐らく二階層の隔離された場所に存在していると考えられます」


「と言う訳だ、援護を頼む」


「り、了解です。じゃあオレは、出入り口から魔物が出てきた時に備えます。クロ、スミレさんもよろしく」


「「お任せを」」


 テキパキと、ボクっ娘曰くの「容赦ない」作戦が発動する。

 『煉獄』で効果範囲内全体の温度が急上昇させて、燃焼性が限りなく上がった閉鎖された空間一帯に、水素と酸素を練り込んだ魔法爆弾の『轟爆陣』を炸裂させて、すごい破壊力で中の連中を吹き飛ばそうというのだ。

 と、その時は思った。


 ハルカさんが魔法陣などの準備をする横では、シズさんも同じように違う魔法陣などの準備をしている。

 シズさんは鼻歌でも聞こえそうな気軽さで、相手が魔物だから容赦という言葉がどこにも見当たらない。


 そしてまずは、シズさんが4つの魔法陣を形成して『煉獄』を発動させ、敵の本拠地になっている古い石造りの建造物の内部の温度が急上昇していく。

 扉が閉ざされているが、この魔法には魔法の防壁などによる完全密閉以外に阻止する方法がない。

 攻城魔法の名は伊達ではなかった。


 しかも長時間続けると、それだけで中は蒸し焼きになってしまう。可燃物が多ければ、そのまま火事になって魔法の効果が重なって轟々と燃える事になるらしい。

 高位魔法だけに、一見地味だけど凄く恐ろしい魔法だ。

 爆発現象などで、一瞬で高い破壊力を発揮するのだけが攻撃魔法じゃないという事を教えてくれる。


 その間ハルカさんは、『轟爆陣』の準備に入る。

 以前より当人の魔力総量が増えている上に大量の魔石があるので、オレから魔力を吸い上げる必要もない。

 当然、魔力酔いにもなっていない。

 そして龍石や魔石が幾つも活性化して輝いている絵面は、いかにも大魔法の準備中といった感じだ。

 それに何度か使っているので、彼女自身に慣れが見える。


 そしてその準備の間に、建物を覆っていた植物が最初は水煙を、すぐにも煙を吹き始める。枯れ草や落ち葉などは、早くも燻り始めた。

 天井の丸木や木材などもシュウシュウと水蒸気や煙が出始めている。

 構造物の中にも可燃物があれば、そろそろヤバくなってきている事だろう。

 生き物については、居るのは魔物か魔獣なので考慮する必要はない。


「ねえシズ、どこに撃ち込めばいい?」


「ああ、ちょっと待て。ショウ、それとキューブども、もう少し扉の左右に散ってくれ」


「あ、はい」


 答えて動くとほぼ同時に、シズさんの方角から「爆炎弾」の一言と同時に何か真っ赤な塊が2、3個飛んできて、固く閉ざされた扉に叩きつけられ、そして轟々と爆発する。

 チラリと後ろを見ると、シズさんが手に入れたばかりの魔法の杖を前にかざしていた。


 使い始める時に聞いたが、第二列魔法の『爆炎弾』の魔法が刻まれたチャージ式の魔石がはめ込まれていて、簡単なトリガーの魔法だけで任意で放てるのだそうだ。

 だから他の魔法を使ってても、かなり手軽に魔法を放つことができる。

 しかも破壊力は、シズさんの拡張魔法と魔力で高められている。シズさんからは、『煉獄』の分と合わせて多数の魔法陣と魔力の煌めきが溢れ出している。


 当然と言うべきか、新たに作られたのであろう丸太を合わせて作ったそれなりに頑丈そうな扉だったが、その一撃で粉砕された。

 そしてその先は暗いながらも、かなり奥まで廊下が続いているのが分かる。


「思った通りだ。そこのまっすぐ奥、建物から考えて扉から30メートルくらいのところを爆発点にしてくれ」


「了解。荒っぽいわね」


「寸前で扉を砕かないと、魔物が溢れてくるだろう」


「それもそうね。じゃ、みんな後ろに下がって」


 ハルカさんが言葉と共に魔法の最終段階に入ると、吹き飛ばされた扉の奥から足音や騒ぎ声が響いてきた。

 扉のすぐ後ろに待機していた連中は一緒に吹き飛ばされていたので、二番手なりが駆けつけようとしているのだろう。


 それとも、空間全体がオーブンのようになっているので、慌てて迎撃に出てきたのかもしれない。

 地下深部に影響を与えていないので、命令に誤差が生じたと見るのが正解だろう。


 そこに後ろから「爆ぜろ! 轟爆陣!!」という、何度目かのハルカさんの気合の入った声が響き、二つの球体が扉の奥へと突入していく。


 そして数秒後、視線を遺跡の出入り口から目を逸らしていても分かる煌めきが、遺跡の真っ暗な空間で弾けた。

 次の瞬間「ゴッ!」と爆発が広がり、大きな音がまずは出入り口から、続いて構造物全体から轟く。

 全体なのは、爆発で起きた凄まじい衝撃波で構造物が膨れ上がり、そして抵抗の少ない上に向けて弾け飛んだのだ。


 予想通り、安普請の天井はバラバラに弾けとんだ。


 まさに大爆発で、少なくとも地上の構造物にいたであろう魔物や生き物は、一緒に吹き飛ばされたのは間違いない。よく見ると、魔物の一部が見える。

 そして爆発の真っ赤な炎で生まれた超高温の空気の塊が、周囲に大量の水蒸気を形成し、そしてそれが急速に空へと昇っていく。

 いわゆるキノコ雲というやつだ。


 キノコ雲はすぐに消えて普通の爆発の煙となったが、爆発の直後に遺跡のすぐ前にいたオレ達にも、立っているのがやっとの衝撃波と熱風が押し寄せた。

 合わせて、魔物の成れの果ても吹き飛ばされてくる。

 出入り口など弱そうな構造からは離れ、さらに構造物から距離をとって、さらに事前に防御呪文をかけてもらっていなかったら、吹き飛んできた瓦礫でかなり痛い目にあっていただろう。


「たーまやー!」


 少し後ろで岩の瓦礫の陰に隠れていたボクっ娘が、なんとも気の抜けた合いの手を入れるが、現実離れした光景だから理解が追いつかないのかもしれない。

 オレも耳がキンキン鳴っているし、少しばかり思考が現実に追いつけていない。


「地下は、その、大丈夫、だよな」


 思わず気になる事を口にしたが、近付いてきたボクっ娘も目の前の爆発を前に似た様に思っているらしかった。


「シズさんの計算だから大丈夫でしょ」


「けどシズさん、数学苦手じゃなかったっけ?」


「教えるのが苦手なだけ、の筈だよ。あ、スミレさん、博士は無事?」


 ボクっ娘がオレの言葉に少し焦り気味に問いかけるが、オレも最初からそうすれば良かった。


「問題ありません。この方角に存在しています」


「だってさ」


「じゃあ、煙が収まったら潜入、いや侵入、これも違うな」


「まあ、進めばいいでしょう」


 近付いてきたハルカさんも、自身も関わった大爆発にはやや呆れ気味だ。

 そして、ある程度爆煙が収まるのを待って、魔物の砦もとい遺跡の残骸の中へと進む。


 と言っても、地上の構造物は中心部が無くなっていて、外周の壁の一部が残されている程度だ。

 壁や柱が石造りでなければ、完全に粉砕されていただろう。

 パッと見、どう見ても廃墟だ。


 そして建物全体だけど、地下一階部分も爆発で大きく破壊されていた。地下一階部分が、周囲を盛り土して地下にした構造をしている影響だ。

 だから、地下一階の一部も天井が抜けて吹き飛んでいる。

 このため中心部が吹き飛んでいて、地下の間取りが地上からでもほとんど見て取れる。

 吹き飛ばしたからこそ、建物の構造がよく分かる。


 そして天井が無くなった地下1階の部屋の幾つかには、爆風でやられた魔物の死体もしくはもはや残骸と言えるものが、壁の外側に無惨な姿でへばり付いていたりする。

 地下構造の部屋も、大半は扉が吹き飛ばされていて、もはや脅威となる魔物などは存在していない。


 それでも念のため慎重に進むが、負傷を気にしなくてもいいクロとスミレさんを前衛で使えるし、これまで破壊を振りまいてきたので後方を注意する必要もない。

 ということで、前衛にオレとキューブ2体、後ろは真ん中をシズさん、左右をハルカさんとボクっ娘が固めて進む。

 部屋の中や広いな道を進む分には、3人でちょうどよかったからだ。


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