213「戦争の常識(2)」
「だいたい分かりました。じゃあ、あと一つ。空から攻撃されるのに、お城とかの構造があんまり空に向けて備えてないイメージなんですが?」
「さっきも言ったが、空から岩を投げつけられたら、防御してもあまり意味がない。だからこの世界では、必要に迫られた形で重要施設の地下施設化が発達している。魔法の明かりや湿度を維持する魔法などもあるから、地下空間も多少は使い易いからなら。地上の構造物は大多数の一般兵士に対向する為だから、同じになるんだ」
「なるほど。それでダンジョンが発達してるって話になるんですね」
「そういう事ね。古代遺跡ほど、地下構造物が立派だったりするわね」
「だいたいは分かった。それで、空からの事前偵察をするのか?」
取りあえず聞きたい事は聞けたので、本題に戻る事にした
みんなの雰囲気も、半ば雑談から変化する。
「レナとヴァイスの存在を、敵が知っているかによるな。敵に空中生物がいたら、待ち構えているかもしれない」
「じゃあ、空からは奇襲にしましょう。それなら地上だけで進んでも、こっちの切り札を警戒して向こうも迂闊に空中生物を出せないでしょう」
「て事は、戦力二分? というか、ボク達だけ別働隊?」
「空中での監視のために、そっちにショウを乗せておこう。こっちが空で奇襲を受けたら、目も当てられないからな」
「あと、攻撃のタイミングはレナに任せるけど、それまで幻術で見つからないようにできない?」
「それくらいなら魔法でなんとでもなる」
ハルカさんの質問にシズさんが即答。
作戦がポンポンと進んでいく。いろんな事が出来る人がいるおかげだ。
「けど、オレが前衛離れたら、地上はどうする?」
「余程の強者か大群が出てきたら、敵を誘き寄せる意味も込めてゆっくり後退。そうでないなら、クロとスミレさんで何とでもなるでしょう。どっちもAランクくらいに強いし」
「それに50体程度なら、たいていの魔物は私とハルカの魔法で一掃できる」
「昨日くらいの上級悪魔でも、1体なら時間を稼ぐくらい十分余裕よ」
「なら、それで決まりだね」
そうして立てた作戦で、ものの見事に嵌った。
後で聞いた話だけど、まず第一撃目にシズさんの『轟爆陣』が炸裂して、砦が全壊。中にいた魔物の大半も吹き飛ばされた。
しかもそこに、ハルカさんの『光槍陣』が殺到して、一気に1ダース以上の魔物を強い順に串刺しにしていく。
『轟爆陣』の爆発の方は、上空3000メートルからでも十分に分かる程だった。
それでも周囲や砦に生き残りがいたが、すかさず攻撃を続行。
クロとスミレさんが突っ込んで敵を混乱させ、爆発を生き延びていた下級悪魔らしい指揮官が指揮系統を立て直そうとしていたところに、ハルカさんの『光槍撃』が串刺しにして倒すことで指揮系統は崩壊。
こうなると、あとは各個撃破するだけだ。
戦闘終了後にクロに数えさせたら、100体を超える魔物、魔獣がいたそうだ。
これも想定より随分多い数だ。
なお、本拠地の遺跡へと逃げる敵は見えていたが、わざと見逃す。さらに敵の伝令が向かったのを確認して、砦の敵は残りを全滅させないように戦闘を続ける。
そして慌てて建物や地下から湧いてきた敵の集団を、進軍がある程度進むまで放置。
その後、空から必殺の一撃を叩きつけて全滅させたという顛末だ。
予想より魔物は多かったが、砦の敵は全滅。
行軍中だった主力、正確な数は判らないが、概算で7、800の軍勢も道の上で並んで移動していたおかげで、5体の地龍を含めて8割以上が一撃で殲滅されている。
残りの大半は、そのまま四方に逃げ散ってしまった。
ついでに昨日も50体ほど倒しているので、昨日から1000体近い魔物を倒していることになる。
音速爆撃が嵌ったおかげだけど、たった数人でした事とは思えない。
しかも悪魔、地龍、獅子鷲など、めったに見ない強い魔物も倒しているので、周辺から集めたと言っても、この辺りの主な魔物は壊滅させたと見ていいだろう。
そして余禄として、クロとスミレさんに頼み、偵察ついでに手早く大きな魔石を回収させつつ、次の方策を練ることになった。
「空のアクロバットは楽しかった?」
「まあ、それなりに」
「それなり、ねえ。空の上なんだし、あまり無茶はしないでよ」
「浮遊石の結晶をショウに持たせといても、いいかもね」
「ほんとそうね」
地上に降り立つと、空中戦の様子を見ていたのか、ハルカさんが呆れ顔でオレに嫌味とすら言える感想を聞いてくる。
どうやら非常識なことをしていたそうだ。できること、できそうな事しかしてないのに。
しかし彼女の態度が、周辺状況が楽観できることを物語っている。
「あっちに逃げ散っている以外、魔物は全滅だ。このまま進むか?」
シズさんの言葉が、それをさらに肯定する。
「朝もまだ早いし、魔力も予想より使ってないから大丈夫じゃない?」
「空から行く? あれ以上出てこないってことは、制空権もこっちのもんだと思うよ」
「戦いは拙速を尊ぶという。空から一気に強襲しよう」
話がぽんぽんと進む。魔物相手だと遠慮もいらないせいか、皆さん随分好戦的だ。
「空からかあ。そのまま魔法で爆撃する?」
「建物を上から粉砕したら、助ける奴まで殺しかねないぞ」
「元主人は、方向から地下と思われます。地表部分を破壊するだけなら問題は少ないかと」
「ダンジョン自体を壊そうって発想が、もう『ダブル』じゃないよね」
ボクっ娘が、我ながらといった感じで少し呆れている。
「そうなのか? 籠城されたら面倒だし、待ち伏せていたりしたら危ないじゃないか」
「そう言えばショウも、そういうのは毒されてなかったね」
「そりゃあ、一部屋一部屋の探索もしてみたいけどな」
ボクっ娘が、さらに苦笑げにコメントを添える。
ダンジョンは、ゲームのように1部屋ずつ調べるという様式美の事を言いたいらしい。
けど、そういうのは、余裕のある時にでもすることだろう。
「どうするかは、空から直に見て決めよう」
「オーライ。じゃ、みんなヴァイスの背に乗って!」
地表と空での派手な前しょう戦は終わったので、次はいよいよファンタジー冒険物に付き物の迷宮探索だ。と思いたいところだ。
けど、オレ自身が否定してるし望み薄だろう。





