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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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204「悪魔との遭遇(1)」

 目標の場所を探すので、オレ達を乗せたヴァイスはかなりの低空を飛んだ。


 上空からの方が見つけやすそうなものだけど、魔の大樹海でなくても開発が及んでいないので樹木や普通の森も多くて、地表に何があるのか分かりにくい。

 それに、地上から見て覚えている地形や景色から場所を特定するには、上空からだとかえって難しいのだそうだ。


 しかし、周囲の木々を伐採してそれなりに整地した太い街道がノヴァから伸びているので、それを目印にすれば良いということで、まずは街道を探す。


 そんなわけで10分ほど低空をゆっくり飛んでいると、飛び始めてすぐに少し前方に煙が起きた。

 火の手も見えたかもしれない。それも一度だけではない。

 規模はそれほど大きくないけど、その後も何度も不規則に煙や土煙が発生している。

 『賢者』が住むという目的地はまだ先、もしくは別の場所だ。


「大きな戦闘みたいだよ。どうする?」


 ボクっ娘が前方を見つつ、何気なく声をかけてきた。

 それに全員が前方を注目する。


「一応、様子見に行きましょう」


「こんな場所だと、大きな魔物同士の可能性の方が高そうだけどねー」


「その場合はスルーでいいだろ」


「この辺だと、魔物狩りや鎮定はしなくていいのか?」


「他に用事がなければしたかもね」


 反応は意外に消極的だ。

 ノヴァは『ダブル』が多いだけにそういうものなのだろうか。


「魔の大樹海の前線は、ゴーレム兵団が伐採と開拓のついでに、雑多な魔物をローラー式に殲滅しているがな」


「まあ、美味しそうな獲物なら、漁夫の利を狙ってもいいかなってくらいじゃない?」


「そんなとこね。それより、片方が人だったら援護しましょう。レナ、接近よろしく」


「オーキードーキー」



 相談している間にも距離は詰まっていく。

 速度を上げたからでもあるが、やはり空からだと一瞬だ。

 そして近づく間に、後ろにいたオレとボクっ娘の後ろでまたがっていたシズさんの位置を交代する。

 高い視力が役に立つからだ。


「タリホー! とはいえ、木が邪魔で良く見えないなー」


「あれか。どっちも人型の集団同士だけど、多分片方が劣勢だな」


「みたいね。小さな火災も起きてるみたいね」


「あそこ、ドラゴンっぽいやつがいるぞ」


「あ、喰われた」


 ボクっ娘がポロリとこぼした通り、恐竜並の大きさのドラゴンに、人もしくは人に似た何かが頭から胴体半分くらいまで食べられた。

 赤いものも派手に飛び散っている。

 なかなかにショッキングな絵面だ。しかし慣れとは恐ろしいもので、あまり心も動かされなくなっている。


「意外に平静ね。今は魔力少ないから、助けるなら接近戦しかないけど、やれそう?」


「ああ、全然平気。レナ、飛び降りるから、いい感じに飛んでくれ!」


 少し前に来たハルカさんに答えつつ、ボクっ娘の肩を軽くたたく。

 それに、横顔でニヤリと返してくれる。


「あいよ、お客さん!」


「私はマジックミサイルが2、3回くらいしか無理だから、期待しないでくれ」


「私も次に降りるわ。けど、残りの魔力は治癒に残すから」


「ヴァイスとボクに、デカイの1匹残しておいてね」


「デカ物3匹は、オレにはちょっと荷が重いよっ!」


 そう言って、ちょうどいい感じの位置に来ていたのでそのまま飛び降りる。

 高度は目測で10数メートル。

 しかしドラゴンとオオトカゲを足して二で割ったような四つ足のドラゴンの頭上に強引に飛び降りるので、実際は10メートルもない。


 ほぼ四つ足のドラゴンの体長は、頭から尻尾まで20メートルくらい。ヴァイスとならいい勝負をしそうだけど、普通の人間なら尻尾の一撃で全身の骨をバラバラにされそうだ。


 その背に、それほど激しく動きまわっていないので苦もなく飛び降りる。そこから一気に頭の方にダッシュして、まだ反応できていないドラゴンの頭を後ろから深々と剣を突き刺す。

 流石『帝国』の逸品、切れ味抜群だ。


 そしてそのまま押し込むと、何かが弾ける音が魔物の頭の中からくぐもった感じで響いてきた。

 それで魔物は事切れたように動きを止め、「ドシーン!」て感じで倒れていく。


 まあ、龍石を砕かなくても、頭にまともな一撃受けたんだから当然の結果だ。

 恐らくドラゴンの一種であろう魔物は、何が起きたのか理解できないままだったんじゃないだろうか。

 我ながら完璧な奇襲だ。


 と感心ばかりせずに、魔物が倒れる前に飛び降りて次の獲物を目指す。

 すぐにゾンビになったりしないだろうから、心臓辺りの魔石を取り出すなどの完全な止めは後回しだ。


 そして地面に降りて、ようやく戦闘の様子が多少は分かった。


 片方は、下はゴブリンから上はオレが今倒したデカイトカゲみたいなドラゴンまで、雑多な構成の魔物の群れだ。

 もう片方は、全滅寸前のおそらく人の集団だ。


 しかし、体長2メートルくらいの石の体を持つゴーレムが2体、魔物相手に戦っている。

 よく見れば、すでに砕かれたゴーレムらしき石の残骸がかなりの数見受けられる。

 残すところあと僅かだ。


 しかもトカゲっぽいドラゴンに、また1体尻尾の一撃で砕かられた。

 残るは1体だけど、オーガ数体にタコ殴りにされている。ゴーレムは、あまり戦闘用ではないらしい。


 人の集団の方は、外見に統一性がないので冒険者だったようだけど、すでに動いているのは一人だけ。

 妙に肌の露出が多い場違いな出で立ちの少女だけが、孤軍奮闘で魔物を次々に倒している。


 ただ、オレが降りた場所から少し距離がある上に、その少女に助太刀に行くには、あと2体の四つ足の恐竜っぽいドラゴンを何とかしないとダメだ。

 1匹を倒したことで、2匹がこっちに敵意を向けてきている。


 最低でも一体倒さないといけないと思ったところで、ヴァイスが旋回して舞い戻ってくる。

 そして2匹のうち1匹の背中に、白い影が華麗に舞い降りる。

 それを見て、オレもそっちの1匹に向けて接近戦を挑みにいく。


 そうすると白い影、ハルカさんには気づかないのか、そのままオレに敵意を向けてきた。

 それはそれで望むところだけど、急速に口元が赤い炎色に染まる。


「ゲッ! ブレスかよ!」


「ドラゴンの炎は魔法と同じよ!」


 オレの悲鳴と同時に、デカイトカゲの背からの声。

 その声に頷き返して、デカイトカゲへの突撃を続ける。

 それを見ているデカイトカゲの方は、愚かな犠牲者が来たと喜ぶような表情を浮かべると、目一杯口から炎を吹きかけてきた。


 確かに強く魔力を感じる炎だ。

 その炎に対して、剣を構えて大きく縦に振る。

 そうすると炎が真っ二つに裂けて剣の寸前で消えていく。オレの唯一の特技、魔力相殺だ。


 未だに何故使えるのか分からないが、アイテムでも似たような事ができるので、チートなスキルでもないらしい。

 けど今のオレにはこれしかないし、なかなかに便利だ。


 そして炎が全部消えるのを待たずに、炎を吐いてドヤ顔でもしているであろうドラゴンの足元へと一気に詰め寄り、そのままジャンプして隙だらけの喉元を切り裂く。

 ほぼ同時に、頭上に飛び乗ったハルカさんが、頭に剣を鋭く突き刺す。


 その数秒後、もう1匹のいた辺りで凄まじい音が轟いた。

 その場所では、俄かに怪獣大決戦が巻き起こっていたが、トカゲと猛禽類では勝負は最初から見えていた。


 上空からの運動ネルギーを乗せた質量攻撃と、魔力を込めた鋭い爪で頭を押さえつけられる。そしてそのまま食い込んでいった爪と脚力によって、グシャグシャと崩されていく。

 そしてさらに、くちばしの攻撃でさらに惨劇が広がる。

 人が喰われていた時より壮絶な絵面だ。


 ドラゴンが絶命すると、狐の尻尾を揺らしつつ軽やかにヴァイスからシズさんが降り立つ。

 そして少し離れた場所で、自身を中心に魔方陣を形成。

 二つの魔法陣がすぐにも形作られて、次の瞬間に7本の光る矢が周辺の魔物に殺到していく。


 一番の大物を狩ってしまえば、残りは大したことはなさそうだった。最大サイズでもおそらく食人鬼オーガくらい。

 しかしその中心に、一人奮闘する小柄な少女がいる。


 けど、戦っている場所から少し離れた場所で、文明的雰囲気を持つ人型の魔物が魔物達を指揮している姿が見えた。

 少女は大丈夫そうなので、ハルカさんと一瞬視線を交わすと、その文明的雰囲気を持つ人型の敵に向かう。


 近寄るまで気づかなかったが、一見不健康そうな肌の人だ。

 しかしその頭には、2本の角が真っ直ぐ生えている。

 さらに耳が尖り、瞳は獣のように瞳孔が縦長でしかも瞳が赤く、口からは牙のような犬歯が大きく顔を出している。


 まさに鬼だ。


 いや、なんちゃってヨーロッパだから、普通に悪魔なのだろうか。

 しかし、背中にコウモリのような羽は見えない。

 もちろんだけど、醜い山羊っぽくもないしルネッサンス風なピエロのような服も着ていない。

 また、口を閉じていれば、別の印象も受ける顔立ちだ。そう思えば、吸血鬼っぽいかもしれない。


 取り巻きは食人鬼が2体だけど、少し大柄で動きも良く、こいつらも武装もしっかりしている。食人鬼の上位種かもしれない。

 「油断しないで」とハルカさんの囁きを聞きつつ、素早く間合いを詰める。


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