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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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198「もう一人の召喚者(1)」

 その日の現実では、深夜にもう一波乱待っていた。


「ちょっといい」


 部屋の扉の向こうで妹の声がしたのは、夜も11時を回った頃だ。


「ん? まあ、いいけど」


 珍しすぎる事だったが、断る理由もないのでオーケーを出す。

 しかし扉が開いたのは、返事から10秒ほどしてからだった。


「何だ? 盆明けのシズさんの授業の事か?」


 夏らしい部屋着なんだろうが、ダブダブの薄い生地のTシャツにショートパンツという、ラフを通り越して家族以外にはあまり見せられない格好だ。

 家族としては、そろそろ節度をわきまえて欲しいと思ってしまう。


 まあ今は、格好はともかく少し様子がおかしい。

 けど、取り敢えずこっちが切れるカードは限られている。

 下手なカードを切ってしまうと、途端に罵声が飛んでくることくらい学習済みだ。


 しかし、朝は普通に話していたのに、夕食から少し様子が少しおかしかった。

 ジトーっと黙って見てくるだけで、いつもの罵声もなければ完全に無視するでもない。


 それは今も続いていて、無言で部屋の中に入ってくると勝手にベッドに腰掛ける。

 最近は臭いとかキモいとかで近寄りすらしなかった事を思うと、違和感半端ない。


 仕方ないので、こっちは机に向かっていたので椅子をベッドの方に回して体を向ける。

 そして悠里が何かを言い出すのを待った。



「それ、見た」


 それが、ベッドに腰掛けてからしばらく黙った後、開口一番の妹の声だ。しかも腕を畳んだまま小さな手振りで示した指先は、机の上を指している。

 机の上には、ノートパソコンとそこから抜粋した事をメモっているノートの両方がある。


 一瞬サッと血が引くと、次の瞬間には頭に血が勢い良く上るのが自分でも分かった。

 しかし怒鳴るとか切れるのはダメだと咄嗟に判断して、小さく深呼吸をした後でさらなる情報を求める。


「……それってどれだ?」


「ノート」


「パソコンじゃない方?」


「パソコンなんて見ない。どうせエロいものばっかりだろ」


 思わずホッとする。

 どうやら最悪の事態は回避できていたらしい。

 それにノートパソコンはパスワードを入れないと完全に立ち上がらないので、よく考えたら安心だった。

 そこでさらにもう一度小さく深呼吸して、妹に顔ごと視線を向ける。


「で、全部見たのか?」


「全部じゃない。それに、シズさんの勉強に使ってるノートかと思ったから、ワザとじゃない」


「そうか。まあ、机の上に置いてたオレも悪いか。で、ちょっといいのちょっとは、ノートに関してか?」


 その言葉に、悠里がゆっくりと頷く。

 そして頭を少し下げたまま、やや上目づかいな感じでこっちを見てくる。

 自分に引け目のある時の態度だ。


「夕方、一応盆明けの勉強の方向性とか聞こうと思ったのにまだ帰ってないし、ノートが机にあったから夏の勉強用だと思って。……その、ごめん」


 仲は今ひとつでも、こういうところは子供の頃のままだ。

 それにオレには口汚いが、悠里は外面が良く優等生らしいので、こういうところは気をつけているのかもしれない。

 まあ、見られた以上、こっちは開き直るしかないだろう。


「それで見た感想は? イタいとかキモいとかなら聞かないぞ」


「違うっての。これ」


 そう言って、今度は自分のスマホの画面を見せてきた。

 見覚えのあるホームページのトップ画面だ。しかも見覚えがあるどころじゃない。

 確認や校正作業で、何度も拝んだ画面。高校の文芸部がオレの情報を元に作り上げた、『アナザー・スカイ』のサイトだった。


「どういう事?」


「どうって、お前はどう思ったんだ? 何か思ったから話に来たんだろ」


 迂闊に話せない以上、向こうから引っ張り出すしかない。

 これで何も言ってこなければ、話はそこまでだという気持ちで悠里に目を据える。

 そうするとスマホを指差し口を開いた。


「これ、結構参考になった。なのに、だいたい同じ事が書いてるそっちのノートは、これがアップされた日よりだいぶ前の日付が付いてた」


「参考って、悠里も『アナザー・スカイ』のオタクだったのか?」


「違うっての! それにオタクじゃない!」


 このやりとりで、悠理に対する疑念が沸き起こる。というか、言っていることに嘘がなければほぼ確定だ。

 しかし直球で聞くと否定しそうなので、誘導尋問を続けた方がよさそうだ。


「まあその事はいいか。で、オレへのちょっとは?」


「……お前も『夢』を見んのか?」


 悠理はあまり気が長くないので、これくらいで十分だろうと思ったが、本当に十分だった。

 こっちより先に、向こうが直球を投げてきた。

 ならば、こっちも打ち返してやるべきだ。この辺りは、子どもの頃から変わってない。


「だったらどうする? て言うか、そうだって言ったら信じるのか?」


「お前から言われただけなら、馬鹿にしてた」


「まあそうだろうな。オレも逆なら信じないだろうし」


「けど、そのノートは、これを書き写したにしてはおかしいし、一日二日ででっち上げられないと思うし」


 悠里もオレに確認しにきただけで、もう答えは分かっているって表情だ。


「そうだ。三ヶ月近く前から書いてる。で、オレが『ダブル』だとして、お前もそうなのか? そうだとして何を聞きたい。個人情報以外なら話してもいいぞ」


 ここまで来た以上、隠す意味はないだろう。

 悠里もそう思っていたようで、そこでベッドにゴロンと寝転がってしまう。

 緊張が緩んだ証拠だ。


「あーあぁ、何でお前が『ダブル』なんだよ。もっとイケメンとか綺麗な人なら良かったのに」


 罵倒は覚悟してたが、心底残念そうにされると逆に凹みそうになる。

 けど今は、話を先に進めた方が良さそうだ。


「まあネットの情報だと、兄弟揃ってとかの例もあるらしいし、そんな都合よくいくもんじゃないだろ」


「でもさぁ、もうちょっと期待したいじゃん」


「その気持ちは分かる」


「いや、全然分かってない。書いてることが本当なら、今お前、女子と一緒なんだろ。しかも美人とか可愛いとか書いてあるし」


「嘘だとは言わないんだな」


「誰にも見せる気ないものに書いてるから、妄想かもとは思うけどさあ。で、どうなの?」


 ゴロゴロしながら、言いたい放題だ。

 しかもさっきから、アクティブに動くとシャツの隙間から素肌やインナーか下着が覗いていたりする。

 そろそろ子供っぽいところは改めて欲しいもんだ。


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