193「出発の朝(2)」
そして4人で、街の中央広場にあるフリーの飲食エリアで、同じ広場にある店で買い込んだ思い思いの朝食を楽しむ。
近くのテーブルにはマリアさん達もいるし、他に見知った『ダブル』の人達も同じように朝食や食後のお茶を楽しんでいる。ここハーケンの冒険者はこうするのが普通で、朝の情報交換などをするそうだ。
「そうか、元宮君がなあ」
「ええ。朝タクミからの電話で起こされました。おかげで、昨夜の余韻を楽しめませんでしたよ」
「もう何かしたって隠す気ゼロだね」
「いいわよ別に。レナのご希望に沿えることはしてないから」
食べながら一通りタクミの強制召喚開始の報告をして、順次お茶タイムへと移行しつつある頃の会話だった。
この広場だと、朝は朝食以外にもお茶や茶菓子などを売って回る人もいるので、わざわざ買いに行かなくていい。
「それで、元宮君、いやこっちだと取り敢えずタクミ君のほうがいいか。それで、タクミ君の職業の方向性とかは?」
「前兆夢一日目じゃ、分かるのって武器や基本装備くらいじゃない?」
「そうなんだ。ボクというかもう一人の天沢さんは、最初からどこかの空を飛んでたよ」
「さすが疾風の騎士は違うのね」
「みたいだね。それで怖いけど行きたいって思い続けてる時にボクの意識が目覚めて、じゃあ行けばって押し出した筈が、こっちに出てきたのはボクだけってオチだったよ」
話しながら、両手で誰かを押す仕草と、振り向いて驚く演技を見せる。
「それって、めっちゃイレギュラーだよな」
「前兆夢なしのショウほどじゃないと思うけどねー」
「生憎だけど、オレは二人に別れてないぞ」
「いっそ別れてよ。その方が、もう一人の天沢さんもハルカさんも気が楽だよね」
「どっちも同じ人格ならともかく、二重人格って片方は違う人格でしょう。それはちょっと遠慮したいわ」
ボクっ娘のジョークに、ハルカさんは本当に困り顔だ。
「量子学上なら、別の場所だと同じ人格でも成立するらしいぞ」
「それ以前に、こっちの体に意識が来ること自体を量子学で説明する説もあったわね」
話がどんどん逸れているし、ファンタジーからSFへと移行している。タクミの話はどこに行ったんだ。可哀想な奴だ。
ここは友情を優先してやるとしよう。
「あの、タクミの話だよな」
「そうだった。ブレーンストーミングみたいになっていたな。で、タクミ君の装備は分かるか?」
「手槍だそうです」
「槍使いかー。じゃあ前衛確定だね」
「あとは魔法戦士系かどうかかしら。槍だと神官系の可能性も低いでしょうね」
「前兆夢ってどれくらい? 出現時期によっては、旅のスケジュール調整しないと」
「そうね。マリ、ちょっといい?」
そこでハルカさんが、隣のテーブルに向いて話しかける。
マリアさんのテーブルでは、主にマリアさんとレンさん、ジョージさんとサキさんがいい感じだ。
ダブルカップルのパーティの方が、人間関係は安定してそうだ。
「どうしたの?」
「うん。強制召喚の前兆夢の期間ってどれくらいか知ってる?」
「そうね、普通の半分くらいってのが定説だから、1週間から2週間。長くても3週間と思った方がいいわね」
「どうしたんすかハルカさん? 誰か来そうだかとか」
「ええ。ショウの友達が昨日から前兆夢らしいの」
「へーっ、近くに居る人が呼ばれ易い説の立証でしょうか?」
「それ安直すぎだろ。で、兄弟、また可愛い女の子か?」
ジョージさんの言葉にガックリくる。
オレの扱いは、すっかりハーレム主人公キャラのようだ。
「男ですよ。同じクラブのダチです。背丈は70後半。体格はいい方で、けっこうイケメンです」
「ライバルキャラっぽいな」
「いい奴ですよ。オタクですけど」
「ショウに言われるってことは、相当オタクと思っていいの?」
「オタクと言っても、いわゆる『アナザー』オタク。ハルカさんの、まあ、その、苦手なキモオタじゃないから」
「いや、そこまでオタク嫌いじゃないから」
ハルカさんはそう否定するが、嫌うと言うよりは何か含むところがあるのは間違いない。
けど、今その件はどうでもいい。友情を優先してやるべきだろう。
「『アナザー』オタクかあ。じゃあ、虚仮の一念岩をも通すってタイプか。たまにいるよな、そんな奴」
ジョージさん曰く、タクミみたいな奴は他にもいるらしい。
まあ、近くに居れば説よりその方がいい。でないと、オレの周りで沢山『ダブル」が生まれかねないところだ。
そんなオレの懸念と安心をよそに会話が進んでいる。
要はタクミの回収についてだ。
「私達は、ウィンダムとノヴァに行ったら、一旦ハーケンかウルズの辺りに戻るわ」
「で、また東に向かうの? 二度手間じゃない?」
「まずは神殿の息のかかっている場所を回りたいから、その人を回収したらハーケンのギルドにでも預けて、『帝国』にある空皇の聖地に行くつもり」
「できれば、その先もね!」
「その先って、邪神大陸の大地の神というか冥府の神の神殿だよな。行けるのか?」
ボクっ娘の言葉に、ジョージさん達が驚いている。
「上空までは行ったことあるよ。地上は、わっかんないけどねー」
「さすがシュツルム・リッター。ヤバいな」
マリアさんたちが軽くざわついているが、やはりかなり凄いことらしい。普段のボクっ娘を見ているとそうは思えないんだけど、空からでも普通は難しいと思うべきなんだろう。
そのざわつきをマリアさんが戻してくれた。
「それで、1、2週間でこっちに戻って来る感じ?」
「そいつとはオレが緊密に連絡取れるんで、その辺は相談しながら調整します」
「こういう時は、向こうで連絡取れると便利だよな」
シミジミと言うが、本当にそれは思う。
「そうですね。それで、前兆夢への何かアドバイスとかないですか? そいつに伝えとこうと思うんですが」
「少しでも職の幅を広げたかったら、なるべく前兆夢で粘ることね」
「あと、技能や能力も最初から高めが狙えるわよ。私、魔法も多かったし、身体能力がすごく高かったわ」
「それはハルカが、リアルで体育会系だったのもあるでしょ。多分だけど」
開口一番マリアさんの言だ。それにハルカさんが続く。
前兆夢には、そういう効果もあるのを初めて知った。
そのあとも、主にマリアさんたちがコメントを添える。シズさんはこっちの人設定なので、この場では沈黙を通している。
「何にせよ、焦ってすぐ来ると弱いってよく言うよな」
「メンタル面でもドロップアウトしやすいらしいですね」
「それだとオレって、すげーダメキャラになるんですけど」
軽く笑いがとれた。が、愛想笑いという程度で本気にはしてもらっていない。
「だから兄弟は特殊なんだよ。オマケにしろ巻き込まれたにしろ、その人の何かをもらったんじゃないか?」
「なるほど。だからメンタルだけヘタレだったのか」
「自分でヘタレって言うなっての」
「ショウがヘタレとか有り得ないだろ。かなりの神風ファイターだし」
レンさんには、オレはどういう風に見えているんだろうか。かなり疑問を感じる。
しかし否定する雰囲気がない。こういう時は「解せぬ」とでも言うべきかもしれない。
が、そんな雰囲気も一瞬の事だ。
「今はショウ君の事よりお友達の方ね。こっちでも他の人を探すのもあるから、注意しとくわね」
「お願いねマリ」
「ところでさ、空だとどれくらいの旅程?」
「えーっと、ウィンダムには今日の夕方、そこから1日滞在。プラス2・3日かけてノヴァ入りだね」
「はやっ! ハーケンからノヴァって、めっちゃ距離あるだろ」
「えーっと、確か札幌から沖縄くらい? だったかな?」
ボクっ娘が指を折ったりしながら答えているが、方々行っているだけに思い出しているのだろう。
「やっぱ空の移動は違うなあ」
「あ、そうそう。ノヴァへの言伝とか小包程度があれば請け負うよ。ボク、一応郵便屋さんだし」
「物騒な郵便屋もあったもんだな。なーっ、みんなー、レナさんがノヴァへの言伝や小包があれば預かってくれるってよー! えーっと、いつまで?」
言葉の途中でジョージさんが立ち上がり、大声で周りの『ダブル』に呼びかけ、小声で不足事項をボクっ娘に問いかける。
「できれば1時間以内で」
「1時間で出発だから、それまでに冒険者ギルドのロビーに直接来るか伝言と一緒に預けといてくれ〜! こんな感じでいいか?」
「ありがと。じゃ、ギルドの出発は4つ半の鐘。飛行場は5つの鐘ね」
「到着予定は?」
シズさんがようやく話せるとばかりに会話に加わってきた。
「ウィンダムまでは、ゆっくりめで10時間。少し速く飛べば8時間」
「5つの鐘だと、少し速く飛ぶ方が良さそうだな」
「だね。十分に日のあるうちに着いときたいよ」





