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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第3部

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188「二人っきり(1)」

 宴会は宴もたけなわなところで、オレたちは失礼した。移動の話もしたように、明日の朝が早いからだ。

 そして冒険者ギルド会館を出て近くの宿へと入る。

 そして受付でオレは固まっていた。隣ではハルカさんも少し固まっている。


「えっ? 誰よ、部屋変えたの」


「手配したのはハルトさん達だよ。じゃあ、ボクはシズさん連れてくね。おやすみー。それと、夜は程々にね」


 右手を口元に当て「ムフフフ」な表情を残して去ったボクっ娘が、既に寝ているシズさんを軽々とお姫様抱っこしつつ宿の階段を上っていった。

 小柄な怪力娘という現実離れした光景も、『ダブル』もしくは魔力持ちならではだ。

 と、思わず現実逃避したくなる。


「どうしよう。もう一部屋取ろうか」


 オレの極めて妥当な提案に、いつもなら即答するであろうハルカさんが沈黙している。

 けど昨晩と違って、二人部屋2つがオレたちの宿泊場所だ。そしてボクっ娘とシズさんがペアになった以上、残されたのはオレとハルカさんだ。

 自警団のハルトさんが、陽キャらしい気を利かせてくれたのだろう。


「ま、仕方ないわね。私達もこのまま寝ましょう」


 一瞬固まっていたハルカさんだけど、冷静さを取り戻したらしく、落ち着いた足取りでボクっ娘を追うように店の人に指定された部屋へと向かう。


 部屋は4階建ての3階の一室。最上階はいわゆるスイートなので、二人部屋だとオレ達の部屋が一番値段が高くなる。

 明日旅立つし、今回の件の労いも兼ねているのかもしれない。

 当然、部屋の調度はかなりの高級感があった。


 『帝国』の商館の客間に及ぶべくもないが、アクセルさんのお屋敷並みかそれ以上だ。向こう側の現実世界でも、伝統のあるホテルの一室と言われれば納得しそうだ。

 宿の従業員が、荷物もちゃんと運び入れいていた。


 しかし、オレ達には別の問題があった。

 二人部屋なのにベッドが一つ。つまりダブルベッドなのだ。

 さすがのハルカさんも、それを見てかなりの時間固まっていた。


「あーっ、オレはソファーで寝るよ。野営に比べれば、屋根があるだけで天国だからな」


「そういうわけにはいかないでしょ。一昨日怪我してるのに」


 やっとの事で出たオレの言葉に反応した彼女だけど、こういう言葉が出るところが彼女らしい。

 とはいえ、女子、しかも彼女になってくれた女の子を、ソファーで寝させるわけにはいかない。

 フェミニストと言われようとも、これは譲れない一線だ。


 おかげで、しばらく彼女と向き合い、視線まで絡めあってしまう。

 それが解消されたのは、彼女の小さく溜息によってだ。


「ハァ。仕方ないわね。せっかく、彼女彼氏になったんだし、一緒に寝ましょ」


 溜息交じりで言う言葉じゃないが、オレにとって願望の果てにある言葉に我が耳を疑う。

 そしてオレの表情に、自らの優越感を確認した彼女が、自らの優位を確信しつつオレに指示を下す。


「その前に、30分くらい時間潰してきて。もう直ぐ湯を運んでくれるし、軽く体を拭いて着替えるから」


「り、リョーカイ。散歩でもしてくるよ」


 女の子には相応の準備が必要なのだと理解したオレは、そう言ってなるべく平静を装って部屋を出る。

 そしてそのまま宿の外に出て、まだ店などが開いている街の中央広場へと向かう。


 夜もまだ浅いので、外はまだかなり賑わいがあるが、ふと見上げるとハーケンの街は空が少し狭かった。

 高層建築というほどではないが、高い建物が並んでいるせいだ。それでもこの世界でしか見れない大きな月と、赤く小さな月は今日も夜空に昇っていた。

 そして空を見ると、少し気持ちを落ち着けることができた。

 だから、買い食いの一つでもして野外の席で食べてれば、オレの心も落ち着くだろうし、30分くらいすぐに経つだろう。


 と思っていたのだけど、再び宿泊先の部屋の扉に立った時、両手には二人分の甘いお菓子と小さな花束があった。

 オレの本能は、実に正直に動いていたらしい。

 目に付いた、女の子が喜びそうなものを買っていたのだ。


 そして既に30分以上経っているので今更引き返せず、花束を持つ手で軽くノックする。鍵は持っているが、こういう段取りを省くと、大抵怒られてしまう。

 それにもう、わざわざラッキースケベを期待しなくてもいいという心の余裕もある。


「オレ、ショウだけど、もう済んだかー?」


「え、ええ。ちょっと待って」


 くぐもった音に続いて扉に近寄る足音、そして内側から鍵が外れて扉が開く。


 そして扉の先には、天使がいた。


 さっきまでの冒険者風スタイルに神官衣を羽織った姿ではなく、こっちの世界のお金持ちが着るようなシルクの清楚な雰囲気のワンピース姿だ。


 白く細い肩が胸元近くまで出てるので、少し艶めかしい。

 いつも付けている魔導器のネックレスの魔石の妖しげな輝きも、魅力を高めているほどだ。髪もいつもと違って、ゆるくまとめたおさげにしていた。

 少しだけどメイクもしている。

 加えて、さっきまでよりもいい匂いもする。これは確か、ハルカさんのお気に入りの香水の香りだ。


「なあ、ハグしていい?」


「お菓子でベトベトになりたくない。これ一張羅なのよ」


「うん。すげー可愛い」


「これくらい、告る時できなかった分のサービスよ」


 ほんの少し顔を赤らめつつも、オレを部屋に招き入れて鍵をかけ、さらに自前の魔法でさらに扉を封じる。

 周囲の魔力の感じから、なにやら部屋全体にも、何かの魔法がかけられているようだ。多分盗聴防止とかだろう。

 色々な意味で準備完了と思っていいのだろうか。


 もっとも、密室となった部屋には、小さなテーブルに既にお茶の用意がされている。

 なんだか少し、彼女の部屋にお呼ばれしたような気持ちになりそうだ。


「似たようなことを思っていたとは思わなかった」


「さすがに花瓶はないみたいだな」


「そうね。ここまで気が回るとは、予想外。ちょっと待って」


 そう言うと彼女は、部屋の出窓にあった飾り物の小ぶりの花瓶に水さしで水を入れ、小さなテーブルの真ん中にその花瓶を置く。

 そしてそこに、オレが買ってきた小さいが華やかでいて可憐な雰囲気の花を丁寧に挿し込む。


 花の名前とか種類は分からないが、花屋の主人に最近できたばかりの彼女に贈ると言って買ったので、プロの選択に間違いはない筈だ。


 テーブルに置かれたキャンドルの炎と部屋全体を淡く照らす魔法の明かりも、いい感じに雰囲気を高めている。

 そして彼女が出した据え置きの皿に買ってきたお菓子を載せて、ちょっと大人な雰囲気の二人きりの夜のお茶会だ。


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