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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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184「二人の少女の選択(1)」

 その日ハーケンでさらに一泊して起きると、3日ぶりのいつものオレの部屋の天井だった。

 『アナザー・スカイ』だと、目覚めて最初に見る天井はコロコロ変わるので、決まった天井を見るとどこか落ち着く。


 しかし今日は、朝からやることが多い。

 まずは、合宿中出来なかった3日分の記録を書き留めなくてはならない。昨夜もしていたが、睡魔に負けてまだ半分も終わってなかった。


 そして午前中は、シズさんの家に行って勉強を見てもらう。

 その後、昼食の後少し時間を置いて、昼から法に引っかからないくらいの夜まではバイトだ。

 しかもバイトは、この連休中に休みをもらった上に忙しいお盆休みの期間なので、しばらく出ずっぱりの予定になっている。


 夏休み中は、週のうち3日は午前中はシズさんのもとで勉強もするので、ほとんど休む暇もない。

 夏休みの宿題は、7月中にあらかた済ませておいて正解だった。

 しかも今日は、シズさんに妹の悠里を紹介する予定まで入っている。おかげで9時半までに、シズさんちに行かなくてはいけない。



「おーい悠里。そろそろ出るぞー」


「ち、ちょっと待って」


 そうして5分ほど待たされたら、真夏だというのにらしくないお硬い感じに装いに整えた妹様の姿があった。


「そんな畏まらなくていいと思うぞ」


「最初が肝心なんだよ」


 言葉と共にキッと睨みつけて来くる。

 けど、もうオレには全然効かない。


「じゃあ、その言葉使いもなんとかしろよ」


「うっ。オマエにだけだから大丈夫」


「ハイハイ。それじゃ行くけど、自転車にけつするか?」


「ハァ? するわけないだろ。それに交通違反だろ、バカ!」


 オレへの返しがお堅い言葉なくらいテンパっている。

 そして神社に行きシズさんを前にして、カチンコチンになった。その上、顔を赤らめてまでいた。


 まあシズさんは、普通にしていると知的な超美人だから、多少の理解はしてやらなくもない。

 大人の余裕すら感じさせる優しげな眼で見つめられたら、男でも女でもイチコロだ。


「初めまして、月待悠里です。兄がいつもお世話になっています!」


 ビシッと90度のお辞儀だ。

 そのせいで、言葉の半分は地面に向けて話しかけている。


「初めまして悠里さん。悠里ちゃんの方がいいかな?」


「は、ハイ。全然構いません。そ、その」


「私のことは好きに呼んでくれ。ショウは下の名前で呼んでいるよ」


「は、ハイっ、シズさん!」


 シズさんの優しげな微笑みの前に、悠里は完全に撃沈されていた。

 めっちゃ嬉しそうだ。


「それじゃ、今日は悠里ちゃんの現状を少し確認しておこうか。ショウ、レナ、悪いが少しの間、自習なり遊ぶなりしていてくれ」


「うーっす」


「うん」


 シズさんと妹が勉強方針などを決める間、同じ部屋で邪魔するのも悪いので外に出た。

 勉強している場所は、神社の社務所の普段は使っていない部屋だ。


 隣が物置でこっちは待機所のような場所だけど、椅子と作業机だけでなくホワイトボードなど会議に使うようなものも置いてあるので、家庭教師の部屋というより小さな塾の一室っぽい。


 今はスチールの本棚と参考書なども置いてあるので、さらにそうした雰囲気が強まっている。

 見てもらう値段面からも、家庭教師ではなく塾の個別指導を意識したのかもしれない。

 ただし秋祭りや年始など神社が忙しい時期は使えないので、それが今後の課題だった。



「「えっと」」


 少し散策するように歩き静かな神社の境内のはずれまで行ったところで、レナと同じ言葉をハモってしまう。

 周囲は木々が茂っていてセミがかなり煩いので、話そうと思って自然と距離も近くなっている。


 「先にどうぞ」とまでハモりはしなかったが、まあオレにとっては、もうこれ以上言葉はいらないくらいだ。

 まずは、今のこっちでのレナがどっちのレナかを念のため聞こうとしただけだからだ。

 もっとも、雰囲気でもう分かってはいるんだけど。


「玲奈でいいんだよな」


「う、うん」


「それでオレに何か?」


「ちゃんと話しておきたいことがあったの」


 少し顔を赤らめているが、決意に満ちた瞳を真っ直ぐオレに向けている。

 だから、玲奈の真正面を向いて居住まいを正した。

 そして少しの間、見つめ合う。


「あのね、もうハルカさんから聞いていると思うんだけど、勿論こっちでだけでいいから、あの、その、私と……」


「待った。確かにハルカさんからは話聞いてきた。だからこそ、先にオレから言わないといけないと思うんだけど、いいかな?」


「私から言わなくていいの?」


「まずは、オレの今の気持ちと向こうでの話しをするよ。それで決めてもらった方が良いと思う」


「うん。でもね、私もちゃんと言いたいの。それに聞いても気持ちは変わらないよ」


 確かにオレの話で玲奈の返答が変わるとは思わないが、まずはオレが言うべきだろう。彼女もそう思っていて、お互い頷き合う。


「分かった。じゃ、聞いてくれ」


 そこからまずは、向こうでの昨日のハルカさんとの話を聞かせた。なるべく冷静に聞いている様だったが、流石に告白とオーケーのところでは、瞳に大きな感情の揺らぎが見えた。

 そしてオレにとって、オレと玲奈の関係がどうなるかは、この先からが本番だった。


「向こうでの話はこれで終わりだ。けど、オレから言う前にもう少し聞いてくれ」


「うん。でも、ショウ君は本当にいいの?」


「オレはもう覚悟は決めた。けど、この話を聞いてレナがどう思うか分からないから、話した後で言って良いかだけ答えてくれ」


「分かった」


 彼女の決意に満ちた強い視線を受けてオレも頷き、そして話を続けた。


「うん。オレさ、『アナザー』に行った最初の日にハルカさんと出逢って、たぶん一目惚れだった。あんなに奇麗で素敵な人だから、有頂天になってた。

 で、そんな気持ちのまま、その翌々日にレナに気軽に話しかけたと思うんだ」


「うん。ちょっと意外な感じはした」


 彼女が言葉の最後で小さく苦笑する。


「だろ。まあ、向こうでの経緯は色々話してるから察してるかもだけど、オレはハルカさんがずっと好きなんだ。しかも気持ちは日々強まり続けた。

 だからレナの事は、親しくなれた友達としか思えてなかった。もちろん、レナと仲良くなれたり遊んだりは凄く楽しいよ。オレはバカだから。

 それでも、レナが想ってくれているオレへの気持ちには応えられない。というのが、昨日までのオレの正直な気持ちだ」


「……うん、それは何となく分かってた。でも、でもね!」


 少しうつむきながら話を聞いていた玲奈が、言葉尻で顔を上げてオレを強く見つめてくる。

 いつもの怯えや控えはどこにもない。


「それでも私はショウ君が好き。気持ちの強さとか勝ち負けとか分からないけど、それが私の気持ち。

 ショウ君は、私が初めて普通に話せた同じくらいの年の男の人だし、こうして色々話せるようになったのもショウ君のおかげ。ショウ君とハルカさんみたいに、生死を賭けたり出逢えなくなるかもってピンチもないけど、私にとっては凄く大切なの」


 それだけ言うと、さらにオレを見つめてきた。


「……分かった。じゃあ、オレから言っていいんだな?」


「私から言わなくていいの?」


「今はオレにボールがあると思う。それにハルカさんに言った同じ事を口にするのが筋じゃないかって思うんだ」


 その言葉に彼女が強く頷いた。


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