182「再々告白(2)」
「ねえ」
「うん?」
「ショウはレナの事、いいえ、天沢玲奈の事どう思ってるか聞いていい?」
「それ、今聞くこと?」
ハルカさんの膝枕には、気を失っているとは言え当人がいるというのに。
思わず眠っているレナに視線を向けてしまう。
そう思うオレと違い、ハルカさんは真剣な眼差しを彼女に注いでいる。
「……私にとって、今まではあっちだけの人だったけど、お互い知ってしまったから。それにもうこっちで目覚めないのなら、今聞いておかないといけないと思うの」
(オレに秘密と言った乙女同士の話の中で、何かあったのかな?)
それはともかく、これは真面目に答えないといけないようだ。
茶化したら、マジ切れどころかガチ切れされそうな真剣度合いが肌で伝わって来る。
ちょっと姿勢を正して、今よりもう少しハルカさんの方を向く。
彼女もオレの仕草に合わせ、こちらに視線を据える。
そしてその視線を受けたおかげか、気持ちが素直に言葉になった。
「好きだよ。けど、友達としてね。そりゃオレはバカだから、可愛い女の子と話したり遊んだりしたりするのは楽しいし嬉しいけど」
「……向こうでお付き合いする気はないの?」
「ないよ。オレはハルカさんだけだ」
「言い切ってくれるのは正直嬉しいけど、レナとの今の関係はどうするの?」
やや顔を赤らめながらも、少し強い非難の目線だ。
照れもあるだろうが、もしかしなくても怒っているのかもしれない。
そりゃそうか。
「今までは、レナが二重人格だから変に心理的ショックとか与えたらと思って、下手な事言わないようにしてた。
けど、これで心が安定するんだったら、機会を作ってちゃんとオレの気持ちを伝えるつもりだ。天沢玲奈もハルカさんの事を直に知ったんだし、尚更言わないとな。
それに、オレが二股とかハーレムとかあり得ないだろ」
「最後に茶化さない。大事な事でしょ!」
少しばかり和まそうとしたけど、逆効果だった。
ここはハルカさんに、例えお子様だと言われようとオレの決意を伝えておくべきだろう。
「ごめん。けど本音だ。オレ、ハルカさんがこっちでしか生きられないって確定しても、ずっとハルカさんだけだ」
「それ、向こう、現実では独身貫くってこと?」
「当然だろ」
「それはダメ」
「えっ、なんで?!」
さらなる告白とも言えるオレの決意を、即答でピシャリと否定されてしまった。
(何が悪かったんだ? 満点じゃないにしても、間違った事は言ってないと思うんだけど)
「私のために向こうで独身貫くとか、ご両親のお気持ちとか考えた事あるの? ダメに決まってるでしょ!」
「そう言われても」
「……まあ、予想通りの答えだったわ。まったく、お子様なんだから」
「じゃあハルカさんは、オレにどうして欲しいんだ?」
そう問うと、小さく溜息をしてから口を開く。
そしてオレにジッと視線を据える。
「向こうで天沢玲奈に、いいえレナに聞いてちょうだい。私達の間で話はついているから、ショウは受け入れてくれればいいだけよ」
「えーっと、何となく想像できるんだけど、ハルカさんはホントにそれでいいのか?」
そこでじっくりと二人で見つめ合うも、オレには全てを汲み取る事はできそうにない。
それでも彼女の顔が今までより紅潮したので、何をか言わんやだ。
「……それくらい察しなさいよ。そりゃ完全に納得できるわないでしょ。けどね、少なくとも私たちは棲み分けできてるし、ショウがあっちで私の知らない人と何かあるより、余程納得できるわよ」
「……えっと、オレの気持ちとか諸々は?」
「少なくとも体が二つあるんだから、自分で何とかしなさい」
「そ、そんな無茶な……」
「ショウなら大丈夫よ。それに、私、いいえ私達が支えるから」
言葉とともに優しくそして強い視線が、オレの瞳に注がれる。これは逃げる訳にはいかないようだ。
一度大きく息を吸って、彼女の瞳を強く見つめる。
「……分かった。向こうでレナとも話して来るよ。回答はその後でもいいよな」
「いいわ。けど大丈夫よ」
「なんだか、妙に信頼し合ってるんだな」
「当たり前でしょ。同じ人を想ってるんだから」
「それって……」
彼女の言葉は、告白への返事とも言える。
けど、今までも嬉しい等の言葉は何度かもらっているので、ちゃんと「はい」や「ok」の明確な返答が欲しいところだ。
「何?」
「いや、そろそろちゃんとしたオーケーのお言葉が欲しいかなーって」
「やっと私の事分かってきたみたいね」
そう満足げに言う彼女は、こういった事で中途半端や曖昧なのが嫌なのだと確信出来た。
加えて、どうにもオレに対しては、常に心理的な上位にありたいのだろうとも思える。
それはそれで、とても心地のいいものだけど。
「なに、ニヤついてるの」
「いいや、何でもない。……それでは。ハルカさん大好きです。オレとお付き合いしてください」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします。私もショウが好きよ。……これでまずは彼女と彼氏ね」
答えたあと少し顔を逸らして赤らめてはいるが、即答すぎる気もする。待っていたという風でもないので、ちょっと引っかかった。
だからオレは、意外そうな表情をしていたのだろう。逸らせたままのやや斜めからの彼女の視線が、オレに注がれる。
そんな顔されたら、思わずギュッと抱きしめたくなる。
「あのね、私可愛いから、告られる事は何度もあったの。けど、本気でオーケーの返事は、これが初めてなの。この意味分かってくれる?」
「うん。だから自分からの返事に拘ってたんだ」
「そうよ。他には?」
顔を耳まで真っ赤にして、少し上目使いながら強気の視線が実に可愛い。
それでも当人も言った事で納得顔なので、直前のような誤解をせず正解を言えて良かった。間違っていたら、またご機嫌を損ねて保留に戻されたかもしれないところだ。
「初めてをいただけて、超光栄です」
「超はつけないで」
「じゃあ、すごく嬉しい。ただ……」
「まだ何かあるの?」
「えっと、言葉だけなのかな? 何かこう儀式的なものが欲しい気も」
「今は我慢しなさい。二人きりじゃないんだから」
それもそうだ。普通、告白するような状況ですらないのだ。ましてや、さっきの玲奈との事を思うと、オレはダメ人間すぎるというものだ。
しかし、玲奈と言えばこれはこれで……。
「それもそうだな。あっ、これってレナにも告白した事になるのかな?」
「そんなわけないでしょ。向こうでもちゃんと告白して来なさい!」
言葉とともに振り上がった右手が、オレの頬に派手にランデブーする直前に急減速し、やさしくペチリと触れるだけにとどまった。
さっき、治癒の時の触診のため手袋を外したままなので、少しひんやりした柔らかい指先が心地いい。
そしてその先に、包容力に溢れた彼女の優しい表情があった。
とても心地いい感覚で、この状態にしばらく浸っていたいところだったが、数秒後に地面が動いたような気がした。
気がしたのではなく動いているのに気付いたのは、さらにもう少ししてからだ。
「みんなが上手くしてくれたみたいね」
「これで一件落着かな」
「だといいわね。それにしても、旅の最初からこれだと先が思いやられそう」
「そんな先のこと考えるのは後にしようぜ」
「そうね、取り敢えず後始末のことね。みんな戻って来たら考えましょ」





