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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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179「空中での戦い(1)」

 化け物を追いかけて、浮き島の下部を抜けてかなり上空まで上がる。


 そうすると島の岩肌にへばり付くように建っている安普請の建造物群を通り過ぎ、街が眼下に見えるほどになっていた。

 街の方では、浮島が傾いた事による混乱が広がっているらしく、人々が混乱する様子が上空からでも見て取れる。


 そして島全体は、明らかに傾いていた。

 島の中央にある湖の一部から溢れ出したのだろう、どこをどう通ったのかは分からないが、島から地表に向けて島の水がこぼれて滝のようになっているのが遠望できる。


 これでは、上方から地下の魔物を潰している『ダブル』たちも、混乱しているんじゃないだろうか。



「ヤバい。これマジヤバい。しかも奴、街に向かってないか?」


「ショウ君、ハルトさんたちの口癖移ってきてない?」


「そうか? けどマジヤバそう。島もヤバいけど、あれが街に降りたりしたらとんでもなくヤバいぞ」


「そうだね。化け物だけでも止めないと」


 そう、もっとヤバいのはオレ達が追いかけいる化け物だ。

 そしてその化け物は、一度浮島を俯瞰して見るような場所に位置すると、狙いを定めたように島へ接近しつつあった。


「じゃ、急いでくれ!」


「うんっ!」


 レナはうなづくと、ヴァイスが機敏な動きで速度を増して一気に距離を詰めていく。

 そして予定通り、奴の鼻面を掠めて通過する。

 しかし一回では反応を見せない。

 島はもう直ぐで、化け物を見て逃げる人影も見えている。


「もう一度鼻面掠めるか?」


「私が弓で牽制してみる」


 そう言って、肩にかけている魔法の大弓を手にする。


「オレも飛び道具があればなあ」


「ショウ君自身が飛び道具みたいなもんだよ」


 冗談まじりにそう笑って話してくれたが、笑顔の下に強い緊張が見て取れた。


「ハハハっ、そうかもな。じゃ頼んだ」


「うん!」


 玲奈は静かに頷くと、背中にかけていた魔法の大弓を手にして、適度な距離から魔力で打ち出す矢を次々に放っていく。

 この場合、ノーダメージでも問題ない。奴がオレたちを認識してくれれば、取りあえずオーケーだからだ。


 しかし数発喰らったくらいでは、全く相手にしてもらえなかった。次に放った照明弾のような矢にすら反応がない。

 もう残留思念のようなものも残っていないのかもしれない。


「もっと接近するね」


「気をつけてな」


 ボクっ娘並みに大胆になってきている玲奈は、さらに近づくとかなり慎重に狙いを定めて、今度は何かの魔法の矢をつがえて放つ。

 矢は魔力のきらめきを残しつつ凄い速度で奴に到達。

 船を飲み込んで図体が大きくなりすぎているせいか、魔法の瘴気の奔流をまとっていないので防がれたり逸らされることもなく、不気味に光っていた目もしくは目のようなものの一つに見事突き刺さる。


 そして命中した瞬間「ギャーッ!」と聞こえなくもない音が響いて、奴の体が震えた。


(痛みは感じるらしいな。もう完全に魔物になっているのか?)


 オレが頭の片隅で奴の魔物としての分類について少し考えている間に、玲奈はもう一度奴の鼻面の前を通過する。

 これで流石に気づいたらしく、何かしらの視線のようなものを感じたオレは、後席からこれ見よがしの小馬鹿にしたような挑発を試してみた。

 公共放送に映っていたら、手にモザイクがかかるところだ。

 すると効果覿面。何か意味のない言葉を喚くように叫ぶと、こちらに向かい始めた。


「かかったぞ! レナ!」


「うんっ! 丁度いい距離で連れて行くね」


「頼むぞ。オレは奴を見張って知らせるから、攻撃されたら避けるのに専念してくれ」


「うん。頼んだね。ヴァイス、正念場だよ。ガンバロウ!」


 ヴァイスが大きく鳴くと、いつもより遅い速度で下へと降りていく。それに化け物もつられるように降りてきたが、速度が思った以上に速い。

 しかも魔力の奔流が噴き出し始めて、数本の触手のような束が形成されていっている。


 けどその束は、中には何か物理的なもので構成されているものも見受けられる。元は飛行船の部品か、何かの生き物の一部だったのだろう。

 地味に気持ち悪いので、生き物系の何かっぽい。

 本体自体も、時間が経てば経つほど化け物度合いがアップしていっている。

 化け物と言うより、悪魔とでも表現したくなるほどだ。


「思ったより速い。気をつけろ。それに魔力の触手が伸びて来るかもしれない!」


「速度上げるね。あと避けるのに揺らすと思うから、落ちないでね」


「揺れるのはもう慣れっ子だ。いくらでもやってくれ」


「ウンっ!」


 玲奈が返事をするか早いか、まずは触手が何かを投げつけてきた。

 飛行船の部品だ。

 オレは直撃した時に備えて、剣を抜いて迎撃に備える。


 ヴァイスとレナはオレの「次は右、そのまま少し斜め下に!」などの指示もあって、それを巧みに避ける。

 それでも幾つも投げてきた時は直撃もあったが、それは迎撃しやすいよう体を完全に逆向きにしたオレが対処した。


 けど、時折ヴァイスの羽先などに当たり、ヴァイスの表面を覆う魔力の防壁のようなものが煌めきを放ち、さらに一部の羽が飛び散ってもいる。

 しかし羽だけで体に負傷はしてない。


 鳥の体は特に飛んでいる時は多くの部分が羽だけなので、例え羽が貫かれても羽が少し痛む程度だ。

 しかも巨鷲は、飛んでいる時は傷ついた羽を魔力で臨時に形成することもできる。

 それに敵の動きと避ける動作から、ギリギリの間合いで避けているがオレにも分かった。

 だからオレも、敵の動きを出来る限り玲奈に伝えることを心がける。


 そして物を投げつけても効果がないのと、徐々に距離を詰められていたこともあって、今度は魔力の触手が何本も凄い速度で伸びてくる。

 その触手は距離があるためか、細く長く、そして鋭い。


 それも十分対処できるものだったが、徐々にヴァイスに対してよりも、背中に乗るオレ達を狙うようになっていった。

 ヴァイスの頭部や胴体への直撃狙いと、オレ達への直接攻撃の両方が出来ると考えたからだろう。

 それともオレへの憎悪からだろうか。


 オレが感じるイメージとしては、オレへの憎悪のようにも思えたが、それならそれでヴァイスに攻撃がいかないので好都合だ。

 この際なので挑発もしてみると、心なしかオレへの攻撃が増えた様に感じられた。


 それでも、化け物の魔力できた触手の攻撃に対して、オレヴァイスの上で立つ形で剣で弾きとばしたが、攻撃回数が増えてくると剣だけでは捌ききれなくなっていく。


 しかし、ヴァイスの急所を攻撃させるわけにはいかないし、レナに怪我をさせたらヴァイスのコントロールに響くはずなので、オレが守るしかない。

 それにオレ自身が落とされたり致命傷を受ける訳にもいかない。


 勿論、敵の手が届かないところまで逃げるのは、最速を誇る巨鷲なら余裕だろう。けどそれでは、敵がオレたちに興味を失って、再び街に向かってしまうかもしれない。

 だから今の状態を維持するしかなかった。


 体をかすめたり何かを叩きつけられるような感覚はあったが、とりあえず体は動いているので、玲奈への指示を出して触手を弾くことに専念する。

 そうすると、いつしか大きな影の中に入っていた。

 島の下部に入った証拠だ。


「もうすぐだよ。ショウ君、大丈夫?!」


「体は動いてるから大丈夫だ! こういう時、痛みを感じない体は便利で助かるよ!」


「ゴメンね。私とヴァイスを守るために。でも、もう少しだけ踏ん張って。あと10数えるくらいだから!」


 いつもの玲奈からは程遠い、力強い声が返ってきた。

 しかし今のオレには、執拗にヴァイスではなくオレ達を狙う奴の攻撃を捌くのに精一杯で周囲を見る余裕がなかった。

 ただ玲奈がカウントダウンする声だけが、体に響いていた。


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