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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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175「島の下層にて(1)」

「下から見ると、でかいなー」


「そうね。私も真下ってのは初めて」


「これを見られただけでも、入れ替わった価値あったかも」


「島の下は、空中も海も立ち入り禁止だそうだ」


 ハーケンの街がある浮遊島を下から眺めている。

 と言っても島の下は海なので、レナの操る巨鷲のヴァイスの背中から見ていることになる。


 少し後ろの空には、『ダブル』の交易商が出した飛行船も進んできていて、甲板上の荷物の隙間には『ダブル』のご同輩と街の技師が乗っている。


 それにしても、岩の上に乗っかるような形の船を、複数の空を飛ぶ馬が牽いているのは、かなりシュールだ。

 蹄が魔力で浮いている天馬達が牽いているのが岩の上に漁船が載った感じなので、少しだけサンタのトナカイっぽいと言えなくも無い。



 なお、ギルドから飛行場まで行くのは、かなり骨だった。

 というのも、島の傾きが明らかになったので、日が登り時間が断てば経つほど街の混乱が広がりつつあったからだ。

 陸地を結ぶ浮遊石のリフトも、既に下に降りるものは満員御礼らしい。

 海上の港にも、周辺から脱出の為の船が緊急で集まりつつある。


 飛行場も、空から逃げようとする人々が早くも押し掛けつつあった。朝早くなければ、人ごみに阻まれて動けなかったかもしれない。

 そうした混乱が広がりつつある飛行場を後にして、飛び立つとすぐに島の下へと降りて行く。


 島の底にある遺跡は古い昔に作られたものだけど、丈夫な岩やコンクリートのようなもので作られていて今でも十分な強度を持っている。

 一部には魔法金属が使われていたり、魔力で強化もされているらしい。


 そして空から遺跡に入れるように、小さな港のような飛行場もしくは空の船着場も合わせて設置されている。

 と言っても、岩から張り出しているそこか、巨鷲や飛竜なら2、3体が降りられるくらいの広さはあった。

 ただ、一部が既に崩れているので注意は要りそうだ。


 普段は空域一帯が立ち入り禁止で、近づくと魔法の警報が出てすぐにも警備の翼龍や獅子鷲、さらには警備隊の飛行船まで飛んで来るようになっているそうだ。

 今は警報が切られているが、飛行船の護衛を兼ねて翼龍(+ライダー)が2匹同行している。


 また、施設の奥に入る事はできるが、普段は丈夫な扉で普通の鍵と魔法で鍵の両方をかけて閉ざされ、入る事はできない。

 しかし今は、遠目からでもその扉が開かれているのが見えていた。


 そして空からしか行く事ができないので、定期的なパトロールと下に向かう者を監視するだけで、防備は特に行われていないらしい。

 そして潜入した連中は、警報を作動させず魔法の扉を開ける事ができたという事だ。

 本当にあの3人組にできるような事なのだろうかと思い、何かの陰謀でもあるのかと勘ぐりたくなる。


 それ以前の問題として、基本的にこんな重要な場所が実質的に直接の警備なしとか不用心なんじゃないのかと思うが、今まではこんな島を傾ける事ができるとは想像の外だったようだ。

 少し昔に流行ったらしい言葉で言えば、想定外といやつだそうだ。



 そして目的地の小さな空の港だけど、その奥の扉が開いているのに一見無人で沈黙している。

 だからこそ、オレたちが最初に一度通過して様子を見て、そしてもう一度アプローチして静かに降り立つ。


 空での事はレナに一任しないといけないが、中身が玲奈なレナは特に問題もなく一連の動きをこなしていた。

 また優れた視力も発揮していて、動くものがないと断言もしている。戦闘しない分には、十分能力を発揮出来ているようだ。


「誰もいないね」


「港にも連中の見張りとかいなさそうだな」


「ホント、不気味なくらい何もいないわね」


「けどさ、ここにあの連中が来てたなら、飛行船とかあってもいいのにな」


「ショウを襲ったヤツが乗って戻ったのかもしれないぞ」


「それでも、あと二人いるかもしれないんだよね」


「とにかく私とショウで、少し入り口辺りを見てくるわ。二人はここで警戒してて。当面の安全が確認できたら合図するから飛行船を呼んで」


 予め決めていた役割に従い、ヴァイスが空の小さな港に降り立つと同時に動き出す。

 開け放たれた青銅作りの丈夫そうな扉の先に伸びる通路は、幅3メートルくらいだろうか。中に照明が灯ってないので、暗くて奥は見えない。


 ハルカさんが灯した魔法の明かりで照らされた遺跡の入り口付近に、特に動くものは見られなかった。

 開け放しの扉が、何だか不自然で少し不気味だ。

 それでも少しだけ進んでみる。


「何もいないけど、不自然に溢れる魔力の流れは感じるわね」


「オレには、まだ漠然としか感じられないな」


「薄いし、奥に強い反応があるからでしょうね。ショウが詳しく感じられるくらいだと、きっともうレッドゾーンよ」


「それ、デンジャーゾーンの間違いじゃないのか」


「かもね。けど、取りあえずは安全そうね」


 そうして飛行船を呼び寄せると、すぐにも10人ばかりが船から降りてくる。上方での魔物の討伐もあるので、こっちに来たのは自警団の一部とマリアさんたちだ。

 『ダブル』のほとんどは、上で魔物退治などの活動している。


 それ以外には、街の役人と専門技師が2人ずつ。

 あと飛行船には、船の持ち主達が3人乗っている。彼らも戦えなくはないが、万が一に備えて守る事にも専念してもらう。


 そして送り迎えだけど、飛行船はそのまま船着き場で待機して、ヴァイスは自由に飛んでいてもらい、必要になったらレナの魔法で呼び寄せることになっている。

 船着き場は飛行船とヴァイスの両方が止まるには少し狭いし、玲奈を通して外のヴァイスに外の様子を警戒してもらうためだ。

 それに巨鷲は、空にいてこそ価値がある。


「レナ、いけそうか?」


「大丈夫。もう一人の私の知識とかは全然問題なく使えるから。それじゃヴァイス、外の見張りとお迎えお願いね」


「頼むなー。……もう一人と違って、ヴァイスに結構声かけてるよな」


「声に出さなくても大丈夫だけど、私は慣れてないから声にする方が伝わりやすい気がして」


「そういうもんか。じゃ、奥に進もうか」


「うん」


 ヴァイスを見送ると、いよいよ遺跡と言えそうな構造の制御区画の調査だ。

 通路は幅3メートルほどと十分だけど、役所の地図によると経路も比較的簡単ながら幾つかルートがあるので、念のため班を大きく二つに分ける事になった。

 出入口で誰か出入りしないか見張る班と、中枢に向かう班だ。


 そして問題に首を突っ込んだオレたちとマリアさんたち、それにウェーイ二人組が進み、さらに街の役人と装置に詳しい技師が2人ずつ同行。

 残りの自警団が出口で見張ることになる。


 そして魔物か魔導器に乗っ取られている可能性の高いヤツらが出た場合は、中枢部で戦闘になって破壊したら事なので、外におびき出してそこで挟み撃ちの予定だ。

 オレが囮になって出口に向けて逃げ出せば、理性が吹き飛んでる可能性の高いあいつらは、何も考えず追いかけて来るだろうという読みだ。


「進めば進むほど魔力が濃くなっているわね」


「魔導の装置から漏れているのだと思われます。だから島が傾くような事になっているのでしょう」


 ハルカさんの言葉に、街の技師が答える。

 技師の一人は錬金術師で、魔力の漏れを同じように感じているのかもしれない。


「だからこそ、こうして出向いているわけだからねー」


「ところで、深く入るまでにみなさんの実質のランクとメイン職踏まえて、陣形、段取りの詰めしときたいんだけどさー」


 気軽な口調だけど、そこに真剣さを載せてウェーイな二人組が話しかけてくる。

 冒険者ギルドへの登録は申告は、ある程度さばを読んだり過小に登録したり、逆に誇張する人もいるので、ガチの時には本来の能力を確認し合う事がある。

 今がまさにそうだ。


「お二人以外は一緒に戦った事もあるから、だいたい見えているけどね。けど、いいかしら?」


「まあ、しといた方がいいよな。俺達もお二人さんの実力知らないし」


「だな」


 ウェーイ勢二人の言葉に対して、マリアさん達の言葉のフォローがあって、ある程度手の内を見せることになった。


「ところで兄弟、あのキラキラ騎士様との試合でタメだったってマジ?」


「奉納試合ですか? 一応引き分けってことになってます。どっちが負けても都合悪いみたいでしたから」


「キラキラ騎士様って?」


「アースガルズの騎士、アクセル卿だ」


「確か、北方一の使い手とかいう騎士だろ」


「この辺じゃ、けっこう有名人だな。あれと戦ったのか?」


 ウェーイ勢二人が、普通に感心している。言葉遣いまで普通になっている。


「ノール鎮定の指揮官があの騎士様だ。で、理由は知らないが、ショウがあそこの都で公式な試合したって噂だ。マジだったんだな」


「ハルカ達とウルズの王宮の地下で『魔女の亡霊』と巨大ゴーレムを倒したのも、その騎士様よ」


「ヤバっ。勇者様みたいな人ってマジいるんだな。やっぱ強いの?」


「一応全力出しましたけど、技量が違いすぎますね。マジのマジなら負けてました」


「マジか。あの人Sランクって噂だもんな」


「おーい、脱線してるっしょー」


 そこから戦力算定したが、ウェーイ二人組はどっちも戦士職。

 ハルトさんは細剣使いの軽戦士で風系の魔法戦士、トールさんが名前の通り鎚をメイン武装にした重量級でこっちも魔法戦士。さらに名前通り雷を使う。


 さらにどっちも魔法の武器で武装しているので、魔力総量も考えるとかなりの戦力だ。

 オレ達とマリアさん達は、どっちも『帝国』の装備で武装を大きく強化しているので、装備面ではオレたちの方が上回っている。


 ただ全体として前衛が多い。魔法職はシズさんとサキさん、それに前衛が多いのでマリアさんも護衛を兼ねて魔法組に入る。

 また高位の治癒職はハルカさんだけなので、あわせて後衛に置かれた。あと弓が主武装の玲奈とレンさんも中衛、残りの男どもが前衛となる。


 しかし脇道から後ろに出て来る魔物の対策で、戦士職を後衛にも置くことにする。

 そして息が合うということと、念のためのボス戦の戦力温存という理由で、ハルカさんと合わせてオレが後衛に回された。


 前衛は防御力の高いジョージさんを真ん中に、ウェーイ二人組が脇を固める。

 そしてオレ達の前に、街の役人と技師をいれて陣形完成だ。


「一応地形分かっているし罠もないからガチ陣形にしたけど、広い場所以外はこれでオーケー?」


「「ウェーイ!」」


 オレはいまだについていけないが、ノリよく前進を開始する。

 けど、予想通りというべきか奥から溢れた魔力に影響され、即席の魔物化した内部に住んでいる小動物の魔物が襲いかかって来る。


 魔力が溢れて時間が経っていないせいのか、純粋な魔物の矮鬼などはいないが、小物は意外に厄介だ。

 装置のある場所までそれなりの距離もあるので、魔法の使用も無制限とはいかない。


 後ろからも襲撃される事も少なくなく、オレは大物だとかえって対処が難しいので、慣れない短剣で対応せざるを得なかった。

 真ん中の玲奈にも漏れた小物が襲いかかっていたが、今度は何とか対処できていた。むしろ小柄で身軽なので、オレよりもうまく対処できているほどだ。

 そうしたところにも、何か吹っ切れたように見えた。


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