174「レナの決断(2)」
家の寝床に就いて感覚的にはすぐ後に、体を揺すられている事に気づいた。
そして慌てて起き上がると、ガツンと頭を何かにぶつけた。何かではなく、二段ベッドの上段の底に頭をぶつけたのだ。
痛くないけど、コブが出来てそうなくらいぶつけたみたいで首がガクンとなる。
せっかく美少女に起こされたというのに、締まらない事この上ない。
「……そ、そうだった」
「何やってるの。家とこっちの寝床の違いくらい、いい加減慣れなさいよ。それより大変よ」
ハルカさんは呆れたが、それも一瞬の事だった。
「何が起きた?」
「もう街中、いいえ島中が騒ぎ始めてるわ」
「何か出たのか?」
「ショウの言っていた島の傾きが本格化したみたい。気づかない?」
地面が傾いていると言いたいのだろうけど、ちょっと分からない。
「クロに聞いたら、もう2度以上傾いてるわ。それに地下から魔物も溢れ出し始めてる。それで緊急にみんなを起こそうとしてるけど、寸前のショウと同じで、まだ起きられない『ダブル』が多くて行動に移れないのよ」
「時間は?」
そう言って外を見るが、まだ暗い。ちょっと明るいかもというくらいだ。
「半分の鐘があってからしばらくしているから、朝の4時前ってとこね」
「そんなに夜更かししなかったのにな」
「普通に寝ると、2時から4時は一番起きにくいって言われてるからね」
横を見ると、シズさんがレナを抱き枕代わりにして熟睡している。レナの方も、同じように熟睡しているようだ。
だから、まだどっちのレナかは分からない。
「じゃ、オレは準備したら少しギルド内の様子だけ見て来るよ。その間に2人起こしといて」
「うん。出てる間に着替えと準備も済ませておくわね」
その場で着替えて部屋から廊下に出るが、沢山の『ダブル』がいる筈だけどほとんど音は無い。
ハルカさんの言葉通り、まだみんな寝ているんだろう。もしくは、向こうで過ごしているということになるのだろう。
そして歩いていて気づいたが、確かに少し傾いているのが分かる。
傾いているせいで、少し変な感じがしつつも階下に降りていく。
けど1階ホールもまだ閑散としていた。こっちの人のスタッフが数人、早めの朝の準備を急いでいるくらいだ。
そこにオレに声をかけて来る人がいた。自警団のアインさんだ。
「おはようショウ君。早いね」
「おはようございますアインさん。不寝番ですか?」
「そうだ。だから強制睡眠縛りで君たちについては行けないから、現状の情報だけ託したい」
「浮遊島が傾いているんですよね」
「ああ。みんな起きて来たら詳しく説明するが、島を制御していた魔導器に何らかの異変が起きているようだ。
しかも装置のある場所の辺りからは、昨日以上に魔力が溢れている。その魔力にあてられた地下の動物が急速に魔物化し、さらに元からいたらしい雑多な小さな魔物が活性化している」
「じゃ早く鎮定しないと」
「地下から街の出口にあたる場所は、もう街の警備兵がしている。とはいえ大物が出て来たら、彼らでは手に負えないだろう。街は魔力持ちの傭兵も雇っているが限界があるし、自由都市に騎士団のような強力な戦闘部隊は、街とは関係ない神殿騎士団の一隊くらいだからな。
しかも神殿も、常駐の神殿騎士団がちょうど出払っていて自衛で精一杯だ。そのせいで、大商人の私兵やマフィアに協力を頼む向きすらあるようだ」
(その上『ダブル』はお寝坊さん揃いときたんもんだから、現状は八方ふさがりだな)
「大本やボスっぽいやつは?」
「犯人は全く不明だ。とにかく街の役所は、魔法使いや錬金術師の技術者を島を制御している地下の地区に空から向かわせ、傾きを戻す考えだ」
「やっぱり地下深くなんですか?」
「そうだ。昨日ショウ君たちが話した、島の下からしか入れない場所にある」
「厄介ですね」
「そうだな。街からは護衛も依頼されている。だから、起きた者から朝食を済ませて、いつでも出れるようにしておいてほしい」
「分かりました」
それだけ聞いて部屋へと戻ってノックすると、「あと5分待って」というハルカさんのくぐもった声。
だからそのまま扉の反対側の壁にもたれかかって待っていると、多分10分くらいしてから身繕いを済ませた3人が出て来た。
「何か分かった?」
「自警団の人に会えたから多少は。自警団の人は、みんな揃ってから詳しく話すって。その前に飯食っとけって」
「腹が減ってはなんとやらだな」
「おはよう、ショウ君」
いつもの服に着替えていたが、レナはまだ玲奈のままのようだ。けど玲奈の雰囲気が少し変わっているように思えた。
オレの視線に気づいてか、レナはそのまま続けた。
「ショウ君、向こうのこと夢を見るみたいに感じる事ができたよ」
「と言う事は、もう一人のレナと同じ状態になったってことか」
「うん。でも、何も出来ないのは、ちょっともどかしいね」
「だろうな。それで入れ替わったり、一つになったりする何か掴めたりしたか?」
それには首をゆっくり振る。そりゃそうだろう。
けど、「でもね」と続ける。
「私にはこの世界は刺激が強すぎるのは、もう十分に分かった。だから多分、私の中で何か踏ん切りを付けたいだけだと思うの。だからショウ君、シズさん、ハルカさん、もう少しだけ時間を下さい。そうしたら、こっちではボクに戻ると思うから」
「一つには戻らないのか?」
「たぶん。それに体が二つあるんだし、前のままでいいと思うの」
「了解。それじゃあ、気が済むまでやってみたらいいんじゃないか」
「うん」
元気にうなずく玲奈に、オレたち3人も素直にうなずき返す。
だが、二人のその後の言葉には、ちょっとがっくりだ。
「けど私は、今のレナのままでも構わないわよ。妹が出来たみたいだし、それに可愛いし」
「だろ。あっちのレナもいいんだが、こう何と言うか、庇護欲をくすぐられると言うか」
「……二人ともオレの事言えないと思います」
二人の妙な意気投合に半目で見返してやった。





