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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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172「内部探索(2)」

 オレは大物しか相手にできないので、ゴブリンどもが接近するのを待つ。

 幸い強いモンスターは皆無なので、数が多い以外は特に苦労はしないだろうと考え、突っ込むことにした。


 そして突出したオレに群がろうとしたネズミの群に向けて、シズさんの炎の範囲攻撃魔法の一つ「火焔陣」が炸裂する。

 髪の毛の先がチリチリになるほど目の前の炸裂なので、ボヤキの一つも入れたいところだけど、そのおかげでオレに一斉に飛びかかろうとしていたネズミもどきのような魔獣の群れは、ほぼ全滅していた。

 燃えたままオレにぶつかってきたヤツもいたが、ハルカさんの防御魔法でなんともない。


 そしてオレはゴブリンどもを蹴散らしにかかったが、しばらくすると後方で悲鳴があった。

 慌てて振り向くと、レナに小さな動物型の魔物が複数襲いかかっていた。

 魔法で蹴ちらすにも限界があり、接近戦になると数が多くてハルカさんだけでは防ぎきれなかったみたいだ。


 オレは手近なゴブリンを急いで蹴ちらすと後方に戻るが、状況はかえって悪化した。

 大物を振り回すオレでは、イタチサイズの魔獣を倒すには非効率極まりない上に、武器の命中率もいいとは言えないからだ。


 結局10分近くかけて、ようやく小さな魔物の集団を倒すことに成功したが、お世辞にも褒められた結果ではなかった。

 戦闘が終わった時には、全員小物に噛まれたり引っ掻かれたりで、そこかしこに小さな傷ができていた。


 怪我の治癒と念のための病気よけの魔法をハルカさんにかけてもらったので傷はすぐ癒えたが、戦闘中盤からはレナは無茶苦茶に短剣を振り回すなどして、混乱するばかりだった。


 だから、玲奈を宥めて落ち着かせるまで動くこともできなかった。

 玲奈は何度も何度も謝るも、精神面での戦闘での慣ればかりは仕方ないことが全員分かっていたので、慰めるくらいしかできなかった。



 そうしてようやく冒険者ギルドへと戻ったが、そのときにはすでに夕闇が迫る時間になっていた。

 もともと探索開始が午後をかなり回っていたし、下水道などが思った以上に複雑で大規模だったせいだ。


 他のみんなも戻りつつあり、誰も収穫がない上に、オレ達同様に小物の魔物に襲われたグループも少なくなかった。

 そして夜の探索は、睡眠の時間調整をしていない『ダブル』にとっては御法度だ。

 強制睡眠のリスクは冒せないからだ。


「お疲れー。今日はここまでだね。食事用意したから食べてってねー」


「戻ってない人たちはいないかなー? まだ地下にいる人たちがいたら連絡よろしくー」


 ウェーイ二人組の気遣いで、ギルドの一階にあるラウンジのカフェ&バーには沢山の料理が用意されていた。

 そして続々と戻ってくる『ダブル』たちが、思い思いに席について食事をしていく。


 オレたちもその中に入り、ご相伴にあずかった。

 それと事情を説明すると快くここの宿泊施設を借りる事ができたので、遠慮なく使わせてもらうことにした。


「みんながギルドに居てくれる方が心強いから、渡りに船だよ。で、島の下から内部に入る案だけど、街の船や翼龍はすぐに借りれずだった」


「じゃあヴァイスでピストン輸送するんですか?」


「大丈夫大丈夫。俺達の中に小型の飛行船持ってるヤツらがいるから、そいつらが船を出してくれる事になった」


「すごい。そんな人もいるんですね」


「冒険より交易してる連中だから、運ぶだけだけどね」


 ハルトさんにオレが質問を重ねる。そこに女子3人も会話に加わってきた。


「一度にどれくらい運べるんだ?」


「今積んである貨物降ろしたくないから、甲板とかに10人くらいだろうってさー」


「私達と合わせたら15人くらいですね」


「アレ? 畏まらなくて、いつも通りでいいよ?」


「う、ウン」


「うん? ま、それじゃ、明日朝7時に行動開始の予定だから、今日は宴会とか控えてね」


 さすが陽キャのウェーイ二人組だ。レナの変化にすぐに気づいている。

 とはいえ、別に何かを疑ったりするわけじゃないし、そのあとすぐに解散となったので特に問題もなかったが、それでも注意した方がいいだろう。


 それに玲奈にボクと言わせてみたい気もする。

 玲奈の普段のオクターブで言われると、かなり萌えそうだ。


 なお、冒険者ギルドの建物は4階建ての元豪商のお店兼屋敷だっただけあって、贅沢さえ言わなければ泊れる場所自体はかなりあった。

 しかし普段は警備と宿直以外は滞在しないので、宿泊施設としての内容は充実しているとは言いがたい。


 また、今日は他にもギルドに宿泊する連中が多いので、パーティごとに大部屋で放り込まれている。

 オレたちも例外じゃないので、今日は宿での一泊というより屋内での野営といった雰囲気だ。



「そう言えば、ここのギルド長とか支部長に会った事無いな。ギルドの定番の一つじゃないのか?」


 オレの何となくな言葉にハルカさんとシズさんが、ほぼ同時に反応した。


「『ダブル』の組織は、たいてい委員会形式よ」


「ある日突然目覚めなくなるという可能性を考慮して、組織作りしているからな」


 そうだ。『ダブル』は、以前のオレのように突然この世界に来なくなることがあるのだから、当然の措置だろう。


「あ、なるほど。それじゃハルトさん達は、委員なのかな?」


「自警団を仕切っているし、間違いないだろうな」


「私は、ここくらい緩い組織の方がいいわね。ノヴァは大きい分、色々面倒だもの」


 ハルカさんから「ふぅ」と軽く溜息が漏れる。

 遊び半分の気持ちの何百、何千もの人の組織を運営するとなると、溜息の一つもしたくなるのは分かる気がする。


「そういや、評議員してたんだっけ」


「半ば惰性でだけど、一応は貴族位を手に入れるためにね」


「今もそうじゃなかったっけ?」


「だからここで文句の一つも言えと?」


 ハルカさんのオレへの視線がちょっとキツい。

 あまり本気ではないが、嫌なのはわかる。


「いや、そうじゃないよ。ハルトさん達うまく運営してると思うし」


「そうだな。それにここのギルドは結束も固いな。……レナ、大丈夫か?」


「やっぱり、オレが同じ部屋はまずいんじゃあ?」


 部屋にはベッドが二段ベッドで4つあるが、お世辞にも広いとは言えない。

 ギルド内には客人用の立派な部屋もあり最初はそこを勧められたが、特別扱いを辞退した結果だ。


 このところ豪華な部屋に泊まり慣れていた身としては少し窮屈に思えるが、その前は野営や粗末な農家が多かったので、特に気にもならない。

 とはいえ、玲奈はそうはいかないだろう。


「ぜ、全然平気だよ。ホント」


 と言いつつも、さっきから顔が少し赤いし無口だ。


「やっぱりオレが外のどっかで寝ようか?」


「そのうち慣れるわ、と言いたいけど今夜は難しいかしら」


「私と一緒のベッドなら大丈夫じゃないか?」


「そ、それなら」


「えっ? それで大丈夫なの?」


 ハルカさんが少し固まった。どうもハルカさんに百合属性はないらしい。


「何年か前までは、うちに遊びに来た時に3人一緒に寝ていたからな」


「3人?」


「私の妹のともえと一緒に川の字になってな」


 一瞬お兄さんとも一緒に寝るのかと焦ったが、シズさんちは3人兄妹だったらしい。


「わ、私一人っ子だから、よく遊びに行ってたの」


「妹さん、オレ見た事ないですよね」


「遠くの私立高校通いで、通学の時間ロスを考えて一人暮らしだからな。土日には戻って来ている事もあるぞ」


 そんな向こう、現実の事での会話に、ハルカさんがほんの少しだけ寂しげな表情を見せた。

 だから、ここは気を紛らわせるのがオレの勤めだろうと名乗り出る事にした。


「じゃ、レナはシズさんと、オレはハルカさんと一緒ってことでいいかな?」


「いいわけないでしょ。なんで私がショウと同じベッドで寝ないといけないのよ」


「ハルカさんがオレをガッシリ監視しておけば、オレがレナにちょっかい出すのは無理だろ」


「そ、それじゃ、逆に眠れないよ!」


 オレが言葉と共にハグする仕草をするも、レナの悲鳴で却下となった。ハルカさんも重い溜息を漏らしている。

 シズさんは面白そうなものを見る目で見ていたので、いけそうだったのに。

 それはともかく、これでハルカさんの気分が紛れたのならノープロブレムだ。


「はぁ。それで真面目な話だけど、不測の事態に備えて入れ替わりで寝るのはどう?」


「ギルド自体で不寝番はいるだろうし、そこまでしなくてもいいだろ」


「それに今日、オレら3人顔合わせるんで、できれば記憶抜けは避けたいんだけど」


「ああ、そうか。あっ、そうだ、向こうでもう一人のレナに話聞いといてね」


「そりゃもちろん」


「お願いね」


「じゃ、明日も早いし寝ようか」


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