171「内部探索(1)」
ウェーイ勢2人組は、一度動き出すと早かった。
もうギルドメンバーの招集をかけたあった上に、街にいる暇をしていた連中も得意のコミュ力であっという間に動員し、俄かにハーケンの街の地下迷宮探索クエストが始まった。
「いいっすかーっ! 全体としての報酬は街の信用を得ること。目的は、魔力の反応の高いマジックアイテムと、不始末をしでかした『ダブル』の調査・発見。できれば捕獲。ただし、ヤバいやつが出たら迷わず逃げること。これ、忘れないでね!」
「「ウェーイ!!」」
仕切っているのがウェーイ二人組なので、『ダブル』の人たちも分かって乗っている。
そしてギルドの一階ホールに集まった人たちを見て分かったが、ノール王国で魔物鎮定をしていた人たちがチラホラいた。
そしてそうした人たちは、「お前らもいんのか。心強ぜ」「ヤバいの出たら頼むわ」など、オレ達に期待を込めたちょっとした挨拶などもしてくれた。
「き、期待されてるね」
「みたいだな。なんか、自分が強くなったような気にさせられるなー」
「もう十分強くなってるわよ。少しは自覚持ちなさい」
ハルカさんのピシャリと厳しめのお言葉。
間違いを正してくれているのだろうけど、それでも実感は薄い。
「そうして浮かれたら、たいてい酷い目に合うからなあ」
「ショウの場合、臆病ではないから大丈夫だろ」
「最近は大胆すぎて困るほどだものね。あれで浮かれてないとか、ホントにそう思ってる?」
「出来ると思ったことしかしてないぞ。ダメそうなら逃げるし、飛行場でも逃げられるなら逃げようとしたぞ」
こっちが雑談を交わしていると、ウェーイ二人組がテキパキと街と地下の見取り図で示して分担を決めていく。
オレ達は、最初からクロが示した場所のあたりに向かうと決めているので、特に動かない。
そしてよく見知っているマリアさん達をサポートに指名しているので、ジョージさんたちも隣で打ち合わせしている。
「よう兄弟。作戦もなしとか余裕だな」
「オレは突っ込むのが仕事ですからね」
「脳筋だな。けど、その開き直り、嫌いじゃないぜ」
ジョージさんが、ウインク&サムズアップする。
そして即突っ込まれるまでが様式美だ。
突っ込むのは、主にサキさんだ。
「嫌いじゃないぜって言いたいだけでしょ」
「けど、実際化け物に出くわしたらどうしたらいいかしら?」
マリアさんの真面目な質問に、気を改めて少し考える。
「飛行場のヤツと同じタイプなら、相手は狂った魔力の塊みたいなもんですから、上っ面の魔力の膜を何かで吹き飛ばして、その上で攻撃して本体になってる魔導器を露出させて、物理的に破壊するのが一番でしょうね」
「化け物化した魔人と似たような感じか」
「マリたちは何か手段ある?」
「風の魔法と炎の魔剣で、覆っている魔力を吹き払うってのが有効そうね」
「兄弟はどうした?」
マリアさん達は、あんな感じの化け物を見知っているらしい。と思ったが、魔力で暴走した魔物や人の末路は、だいたい似たようなものなのだそうだ。
「ヴァイスにぶっ飛んでもらって魔力を吹き払って、懐に飛び込んでバッサリって感じです」
まあ、切り札があればこそだけど、説明するとほとんど策を立ててはいないのが丸分かりだ。
当然、みんなもそう感じているようだ。
「それだけで、見た目からしてヤバそうなやつがやれたのか?」
「まあ、何とかなりました」
「強引に何とかしたって感じだな」
「ええ、突然でしたから。けど、強引なことはしない方がいいと思います。あれはかなりヤバかった」
「兄弟が言うなっての」
そこでみんな軽く笑ったが、みんなとの相談で魔力相殺は出来る限り伏せておく方がいいだろうと決めていたので、迂闊に話すこともできない。
「んじゃ、頼んだねー」
「何かあったら呼んでね。すぐ飛んでいくからー」
他の『ダブル』のパーティーが出払う頃、オレたちも出発となる。見送ってくれたウェーイ勢二人組は、非戦闘員スタッフと共に基本ここに残って情報収集だ。
オレたちはギルドの近くの裏手へと赴き、そこから地下の下水道へと入る。
開発が進んでいるこの街は、上下水道完備な上に街の地面の下に当たる層は古い時代の建造物や街並みなどまであるので、かなり複雑な地下構造をしている。
しかもかなり広く、ある程度目的と地域を絞らないと、数十人程度では埒があかない広さだそうだ。
下水道中心の構造じゃなければ、ダンジョンと言ってもいいだろう。
探査には街の警備兵も一部参加しているが、それでも人出が足りていない。
簡単な地図の写しも渡されたが、あまりあてにはならない。
まずは探索を優先することになって、マリアさん達とも別行動となった。
「ここからは古すぎて地図もないし、適度にマッピングしながら進むしかないな。マッピングは私がしよう」
「こういうの久しぶりだわ」
「レナ、大丈夫か?」
「平気。ちょっとワクワクする」
強がりではなく、言葉通り少し気持ちが高揚している雰囲気を感じる。
その顔を見て、シズさんが優しげに目を細める。
「そういうところは、もう一人のレナと同じだな」
「そうみたいです。今なんとなく分かります」
「もう一人のレナが意識出来るようになってきてるの?」
ハルカさんが玲奈の顔を覗き込む様に尋ねる。
そう言えば、レナの中の人が玲奈になってから、ハルカさんは同じような仕草が増えていた。
シズさんも、スキンシップが増えている。
二人とも玲奈に気を使っての事なのだろう。
「うん。何となくですけど」
「それでも戦闘になったら、安全な場所に下がってろ」
「弓なら出来そうなんだけど」
少し不満げな顔が、ボクっ娘と違っていて興味深いし、また違う可愛さがある。
なとど思っている間にも進んでいくと、外の明かりが見えて来たので、更に進むと下水道の出口だった。
そこは街からは外れた、島の中央の湖の近く。
湖とは別に大きく窪んだ地形で、その窪みの上層辺りに出る。そこから窪みはさらに深くなっていて、底まではまだかなりある。
窪みの周囲には、一部使われているところがあるとはいえ、かつての古代都市の遺跡が広がっている。
昔は隠れ里のようになっていたらしい。
けど今は、多くは植物で覆われたり半ば朽ちているので、外周以上にアニメで有名な空に浮かぶ城を思わせる。
そしてその古代都市の最下層から、さらに下層の水道や下水の地下道へと入る事ができるし、かつての中枢に通じる道があると言われている。
しかしここに出てしまうのは、取りあえずゲームオーバーだ。
「遺跡に出てしまったな」
「この地下道は外れね」
「ここの遺跡も探し尽くされているんでしたっけ?」
話しつつも、全員が見晴らしが良くなった一帯をそれぞれ見渡す。
「軽薄男どもが、街の役所の情報として、この遺跡からは目的の下層に行くルートはないと言っていたしな」
「じ、じゃあ別ルート探るんですよね」
「そうね」
そう言うとハルカさんが、下の方を凝視している。同じようにシズさんも見ている。
「何かあったのか?」
「ええ。下の方が魔力が濃いと思う」
「間違いないだろうな」
「シズも感じるんだ」
魔力に敏感な魔法職が言うから間違いないだろう。
そして窪みの底辺のさらに地下には、恐らく岩盤を挟んで魔力の発生源がある筈だ。
「やっぱり、更に下に行かないといけないわけですね」
「穴でも掘るしか無いのかな」
「し、下から行けない、かな?」
玲奈の言葉に全員が注目した。
それに少し気圧された玲奈だけど、シズさんが手にもって広げたままだった断面地図の写しに手を伸ばして指差す。
「さっき飛んだ時に外から少し見えたし、ハルトさんの説明でもあったけど、浮遊島の下にも遺跡があるって。だから」
「オレ達なら、ヴァイスで下から行けるな」
「だが他はどうする? 飛行船のチャーターなどできるのか?」
「小さい船なら、街が保有しているのがあったと思うわ」
「翼龍は?」
「精々二人乗りだから、船が出せるなら船の方が良いだろうな」
「それじゃ急いで戻って、作戦変更伝えてみよう」
「そうもいかないようだぞ」
シズさんの視線の先を見ると、何かの魔物が急速に近づいてくる。1体や2体ではない。
見た感じ矮鬼のようなものもいれば、ネズミの群れっぽいやつ、イタチっぽいやつなど下水や遺跡にいた動物が魔力に当てられて魔物化した魔獣もいる。
今回の魔力の放射で発生したか活性化でもしたのだろう。
そして、魔力の多いオレ達は、魔獣にとってさぞ美味しそうな獲物なのだろう。
オレ達が魔力を稼ぐために魔物を倒すように、魔獣も同様だからだ。
ゴブリンからは逃げられそうだけど、すばしっこそうな奴らはダメっぽいのはすぐに分かった。
即座に3人は戦闘態勢に移行したが、玲奈は一歩遅れた。
「レナ、無理するな」
「で、でも」
「私、小さいのは苦手なのよね」
「細かいのは、私が一掃しよう」
先制はレナの新しい弓となった。
魔力の矢を放てるので、弓に簡単に強弱をつけたり弓の数を気にせず放てるし、普通の弓も打てる優れものだ。
そして射撃する分には、ボクっ娘と同じように次々に目標を射抜いていく。そこにハルカさんのマジックミサイルが殺到するが、6本から7本に増えていた。
しかしどちらも、ネズミサイズを無視してイタチを狙うが、それでもオーバーキル甚だしい感じだ。
これがゲームなら、バランス無視だとブーイングもいいところだろう。





