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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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170「ギルド自警団(2)」

「私は大丈夫、です。さっきは、ちょっとホッとしただけだから。それに、もう一人の私の能力や技術、知識もどんどん把握できるようになっているから、もう一人の私ほどじゃないけど私にも何かできると思う」


 3人が玲奈に視線を注ぐと、こちらを真っ直ぐに見つめる彼女の顔があった。


「大丈夫なんだな。オレたちけっこう荒っぽいぞ」


「荒っぽいのは主にショウでしょ」


「ショウの場合、無茶とか無謀の方が相応しいだろ」


「フフフっ、いつも聞いている話でもそう思ってた」


 そこで4人が小さく笑うと、次の行動に移る算段となった。

 玲奈も起きあがり、オレたちのいるテーブルへとしっかりした足取りでやって来る。

 だからそのまま会話を再開する。


「それでアポだけど、役所か神殿、あとは冒険者ギルドになるけど、どこに行く?」


「神殿はハルカさん面倒だろ」


「それに街の役所や議会は、神殿が関わりたがらないんじゃないか?」


「でしょうね。じゃ冒険者ギルドになるけど、また留守番に分かれる?」


 その言葉に、オレは首を横に振った。


「飛行場みたいな事あったらヤバいから、もう全員でギルドに転がり込む形でいいんじゃないか? 確か多少は泊まれるんだろ」


「島の傾きも残り二人が関わってそうだし、それでもいいかもな」


「『ダブル』の問題だから、ギルドも取り組んでくれそうね。じゃ、善は急げね」



 という訳で、クロを元に戻して荷物をまとめると、すぐにも冒険者ギルドへと赴いた。

 クロは放っておくと、どんどんオレたちの身の回りの世話をし始めるので便利と言えば便利だけど、外では悪目立ちしそうな姿すぎる。

 冒険者が猫耳の執事服を連れ歩くとかあり得ない。

 そして宿の従業員に、警備兵向けの言付けも忘れずに宿を後にする。


 なお、徒歩時の荷物持ちは志願でオレの担当となったが、彼女達も着替え等は自分で持っているので、フル装備状態と合わせて冒険に行く装束っぽい。

 しかも宿から冒険者ギルドへと足を運ぶんだから、少しばかりテンションが上がってしまいそうだ。


 そうして冒険者らしく扉を開けて中に入ると、少しざわついていた。

 何かしらの異変を察知しているのかと聞き耳をたてると、飛行場の騒ぎが伝わっているらしかった。

 そして受付に行こうとしていると、聞き慣れた声がした。


「ハルカ!」


「マリ! こっちに来てたのね」


「ノール王国の魔物もほとんど消えたから、船で戻って来たところよ。そっちは?」


「取りあえず中継で寄っただけよ。それより、ざわついてるみたいね」


「当事者がそれ言う? 飛行場に突然現れた魔人が暴れて、シュツルム・リッターが飛行場の近くで見た事もない化け物と空中戦したって。そんなの、そこの元気なお嬢さんしかいないでしょ?」


 そう言って玲奈に視線を向けるが、すぐに雰囲気の違いに気づいたようだ。

 オレは玲奈をかばうように少し前に出て、その場で思いついた法螺を口にする。


「レナは、今ちょっと化け物の魔力にあてられてるんです。それと仕留めたのオレです」


「そう言えば、鷲から化け物が乗っ取った飛行船に人が飛び降りたって話もあったわね。相変わらず無茶な事するわね」


「それよりボクっ娘大丈夫かー?」


「化け物はすごい魔力を溢れさせてたって言うものね」


「急な魔力酔いは気をつけないとな。お大事に」


「う、うん。ありがとう」


 マリアさんのパーティーメンバーが、中の人が玲奈とは知らないレナを心配してくれる。

 ちょっと罪悪感を感じなくもないが、こればっかりは何かを言う訳にもいかない。


「それでマリ、これから予定空いてる?」


「依頼料は高く付くわよ」


「それはギルドかこの街に言って。私達も被害者なんだから」


 ハルカさんの言葉にマリアさんが片眉をあげ、ハルカさんは軽く肩を竦める。


「じゃ、その辺の事、詳しく聞いていいかな?」


「グッド・タイミング。探してたのよねー」


 自然な形だと言いたげにウェーイ勢2人、ハルトさんとトールさんが会話に加わって来た。今日は腕に腕章をしている。

 しかも漢字で「自警団」と刺繍されている。あえて漢字なのは、『ダブル』しか分からないようにとの事らしいけど、意味はあるのだろうか?



 その後、そのまま会議室へと案内されたが、ハルカさんとマリアさんの両方を口説いたというトールさんだけど、一向に気にしていないばかりか気軽に話しかけている。

 二人は違うタイプなのに、どっちも好みの女性なんだろうかとか、お子様な事を考えてしまいそうになる。

 まあそんな事よりも、まずは事情の説明だ。


「あいつらハーケンを出てなかったのか」


 主にオレの話で状況を伝えた。玲奈は体調不良ということで、端っこに座らせてある。

 会議には、オレたち4人、協力を決めたマリアさんたち4人、ウェーイ勢2人参加している。


 ハーケンの街の冒険者ギルド自警団は、アインさん達男女5人組など20名以上いるが、交代制で常時活動しているのは3分の1程度。そして今日活動しているメンバーは、不測の事態への待機や飛行場への情報集めなどに出向いている。


「それでマリアさんたちは、有志って事でいいの? ギルドからは、お小遣いくらいしか出ないよ」


「乗りかかった船と思ってるわ。それに同郷の不始末を見過ごすわけにはいかないもの」


「だな」


「私達には聞かないのか? 当事者というより被害者なんだが」


 いつも通り、シズさんが獣人として一言突きつける。


「えーっと、ご協力お願いできませんか。ぶっちゃけ、今ハーケンで一番強いのって皆さんだと思うんですよ」


「北の方でのお噂もお聞きしてます。ここは是非お願いします」


 シズさんの目力と迫力を前に、ウェーイ勢がたじたじの低姿勢になっている。

 ただ、シズさんは本気じゃない。シズさんは外見が獣人なので、『ダブル』の流儀に従う理由がないという姿勢を見せないといけないからだ。


 こういう細かい価値観や習慣の違いを見せておかないと、『ダブル』ではないかと怪しまれるかもしれないと想定して、以前からどう行動するか決めていたことだ。

 当然、フォローも忘れてはいない。


「シズ、あなたも冒険者として登録したんだから、流儀に少しは馴染んで。お願い」


「フム、流儀なら是非も無しだな。しかし我々は先を急いでいる。長期間は手伝えないぞ」


 分かったと言いつつさらに一言を忘れない。

 これは獣人としてよりも、オレ達全員の負担を減らすためだろう。


「分ってます。それに我々も長期戦は考えていません」


「どうするんだ? 島の中央というか地下があるのか。あったら、そこに入る許可は取れるのか?」


 早速シズさんが質問をぶつけていく。積極姿勢を見せているというよりも、これは情報や判断材料を欲しがるシズさんの普通の行動だ。


「大丈夫さ。少なくともこの町の冒険者ギルドの自警団は、この町の警備の一部を担っている。それに街には幾つか貸しもある。だから、たいていのところに入る事も出来るよ」


「ただ数が少ないし、基本歩く兵器とか言われる『ダブル』の面倒を見ることだけどな」


 そこでマリアさんたちが口々に質問を始めた。事を動かそうという流れを作りたいんだろう。


「この町って、『ダブル』はどれくらい居るの?」


「そうだな。家を持ってるのが200人。ここを一時的な拠点にしてるのが、さらに2〜300人。そのうち100〜150人が常時滞在だが、戦わない連中と一時滞在を加減して、街で動いてくれるのは最大で100人ってところだな」


「ノヴァの10分の1くらいか。意外に多いな」


「ギルド置いてる都市は、だいたい同じくらいって言うぞ」


「とにかく、この町にいるこっちの魔力持ちの何倍もの数がいるわけか。そりゃお前らで管理しろって言われるわけだな」


「そういうこった。だから皆さん、よろしく頼んまっす」


 そして最後に、ウェーイ勢二人が軽く頭を下げて頭の前で手を合わせた。


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