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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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169「ギルド自警団(1)」

 飛行場はかなり混乱していた。


 それでも、オレ達に街を警備している翼龍が近づいてくる事はなかったが、それどころではないのだろう。


 飛行場に戻れるかも怪しい状況だけど、何度も翼を左右に振って友好サインを送ったので、敵視されるのは何とか回避できた。

 それでも、狙いをつけてくる魔法の仕掛けらしい大きな弩とかすげー怖い。


 もっとも、警戒されるのは仕方ないようで、オレたちが降り立とうとすると、その時点で複数の警備兵が走って近づいてくる。


 けど降り立った時点で、オレも警備兵どころではなかった。

 ヴァイスがふわりと降り立つと、玲奈がホッとしたような表情を浮かべてオレに笑いかけると同時に気を失ってしまったからだ。


 ヴァイスが足を羽でホールドして、オレも慌てて上体を支えることで何とか地面に落ちるのを防いだけど、かなり慌ててしまった。

 魔力を使いすぎたか気を張りすぎていたのだろう。


 そしてゆっくりと抱きかかえ、なるべく慎重に地面に降り立つ。

 そこに警備兵が近づいてきたので、オレが対処するしかなかった。



「あの化け物を倒したのはお前たちで間違いないか」


「空中戦を見てなかったのか?」


「多くの者が見ていた。けど、別の証言では、化け物になった人が最初にお前達に襲いかかったと聞いている。これは事実か」


 オレの言葉に少したじろぐような姿勢を見せるも、向こうも仕事なので詰問口調は変えてこなかった。


「襲われたのは事実だ。何だったんだあの化け物は?」


「知らないのか? 何か話していたと言う証言もあるぞ」


 本当の事は言えないと思ったので、咄嗟に適当に取り繕う事にした。

 嘘も方便と言うし、結果が合っていればいいだろうという程度に。


「最初は突然攻撃してきたから抗議したけど、会話にもならなかった。それでヤバいと思ったから逃げたら何故か追いかけられて、仕方なく戦っただけだ」


「本当か?」


「嘘言ってどうする。それよりこっちは急いでいるんだが」


「疾風の騎士が負傷したのか?」


「そうだ。仲間に神官がいるので、そこに連れて行きたい」


「飛行場は混乱しているので、治癒できる者がいるならそっちに行ってくれ。

 ただ、あんたらからは後でちゃんとした証言を取らないといけないので、滞在場所の確認のため一人付けるがいいか?」


「お役目ご苦労さん。それくらいいよ。それと、ほんの少しだけど島が傾いていると思うんだけど、大丈夫なのか?」


 オレの最後の言葉に、警備兵は首を傾げる。

 全く気付いてないようだ。


「そんなわけないだろ。派手に暴れ回っていたようだから、そっちの感覚が少し狂ってるんじゃないか?」


「かもな」


 適当に言葉を返したが、相手は本気で言っているとしか思えない。それに、確かに地面に立っていても傾いている感覚はない。

 本当にごく僅かにしか傾いていないせいだろう。それにこの程度の事は、浮島では日常なのかもしれない。


 それより今は、島のことよりレナが最優先だ。

 それにオレたちが襲われたのだから、ハルカさんとシズさんも気になるので、一刻も早く合流したかった。


 ヴァイスは、緊急事態の際は自力でいつでも飛び立てるようにしてもらっておいて、急ぎ宿へと向かう。

 そして玲奈を抱えて走り出したのだけど、ついてくる警備兵の足が遅すぎた。

 それに町中を非常識な速度で走るわけにもいかないので、せいぜい小走りでの移動となった。


 その間道中の人々を観察してみたが、街は平穏で混乱が起きているのは飛行場だけだった。

 オレと玲奈が見た情景は、錯覚だったのだろうかと疑いたくなる。やっぱり、傾くのは普通の事なのかもしれない。


 そして宿に着いて、宿の従業員の立会いでどの部屋に滞在しているのかなどを確認させると、飛行場の警備兵は一旦戻って行った。

 それでようやくオレも二人の待つ部屋へと戻る。

 一見して宿もその周辺も平穏なので異常はないと思いたいが、念のためできる限り慎重に行動して部屋の扉へと至る。


「ショウです。戻りました」


「合い言葉は?」


 数瞬すると中からハルカさんの声がする。

 一見警戒しているように思える。

 だから慎重に日本語でやり取りすると、少ししたら扉が少し開き「入って」と声がする。

 そして部屋に入ると、そのままベッドの一つに歩みを進める。


「レナは大丈夫なの?」


「大丈夫。戦闘があったから、緊張で気を失っただけと思う。で、順番に説明していいか? それとこっちは何もなかった?」


「平穏そのものよ。それより、もう居ないみたいだけど、宿に一緒に戻ってきたのって飛行場の警備の人よね」


「うん。その辺も含めて」


「では手短に頼む」


 シズさんが、オレがレナをベッドに寝かせるのを手伝いながら問いかけてくる。

 二人とも落ち着いているし、オレが一人連れてきた事を警戒していただけのようだ。



「……と言うわけだ」


 言いながら、テーブルに置いたカップに水差しから水を注いでいく。すると水面潮力の限界に達する寸前に、片方からこぼれ始めた。

 それだけなら、普通に水が溢れたようにしか見えないが、その水が一つの方向を目指して動くことで二人も納得の表情を浮かべる。

 高級宿だし、普通なら傾いている筈ないからだ。


「この宿か机が傾いていない限り、地面つまり島が僅かに傾いているというショウの話しに信憑性が出たわけだ」


「もともと傾いていたのを、ショウが改めた気付いただけじゃないの? 浮島だし」


 二人はまだ半信半疑だ。オレだったそうだから、仕方ないし、オレの話ぶりも説得力がなかったのだろう。


「けど、レナも同じように感じてた」


「だが、街は平穏だったのだな」


「だからもしかしたら、この島ではちょっと傾くくらいは普通なのかもって気もするけど」


「いや、それはないだろう。普段から傾くようでは、建造物など作っている場合じゃない」


「けど、確証はないのよね」


「うん……」


 オレだけでは埒が開かないので、もう一人というか一体の証言者を出すことにした。


「クロ、お前も証言してくれ」


「畏まりました」


 取り出した黒いキューブが短く言うと、見る間に人の姿を取り猫耳イケメン執事が出現する。

 キューブのままでも良かったんだけど、今度からちゃんと言おうと思う。


「私が有している情報ですと、前回皆様が訪れた時、並びに先ほどヴァイス様で飛び立つ直前まで、浮遊島ハーケンには0・1度以下の傾きしかありませんでした。ですが今現在、約0・5度の傾きが確認されております」


「分かるのか?」


「はい、ある程度可能です。今回は空中での行動でしたので、地表と浮遊島、飛行船それにヴァイス様を観測していたので、間違いございません」


「計測機器も詰まってるとか便利ね」


「周辺状況の観測も、我が役目なれば」


「戦闘もできるし、キューブ本体が大丈夫ならやられても平気だぞ」


「全てに平気とは参りませんが、皆様の盾となる程度の事は可能かと存じます」


「私たちは壁役が不足していたから、その点は朗報だな。とはいえ、貴重で我々にとって重要な情報源となる魔導器を危険にさらすのは問題だろう」


「ウッ、確かに」


 痛いところを突かれてしまった。

 今度から、安易に戦闘には出さないようにしよう。と思うも、二人にはまだあるらしい。

 まあそりゃそうか。


「取りあえず、ショウの言うところの例の因縁を付けてきた3人組の残り2人はともかく、類似する魔導器から魔力の供給を受けていたってのと、」


「魔導器に魔力を供給していた魔導器の、おおよその場所というのが問題だな」


「クロ」


「はい。何なりとご質問下さい」


「それで、その供給元というのはお前の同類で、そいつはどこにある?」


「まだ同類と断定するには情報が不足しております。場所については、この方向になります」


 クロが指さしたのは斜め下だ。


「階下か地面、それとも地下か?」


「地下。先ほど空から確認した限りでは、浮遊島下部のちょうど中心辺りになります」


 と言われても分からない。ハルカさんも同じようだ。


「シズはこの町詳しい?」


「何度か来たことはあるが、島の地下や内部など関心すら無かった」


「普通そうよね。となると、地元の人にアポ取れるところに相談にでも行くべきなんでしょうね」


「レナをこのままにするのは……」


 そこまで言うと、ベッドの方から細いがしっかりした声がした。


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