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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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167「怪物飛行船との戦い(1)」

「これで背中に着地できたら格好良かったんだけどなあ」


 オレがそうぼやく場所は、ヴァイスの爪に包まれたわずかな隙間だ。

 高い運動能力にまかせてタイミング良く飛び上がり、ヴァイスに見事にキャッチしてもらった形だ。流石猛禽類。

 しかしキャッチというより、獲物として捕まった感じで、胴体をガッシリ掴まれている。


「だ、大丈夫? ご免ね、ヴァイスに任せたらそんな事になっちゃって」


 玲奈が首もとから申し訳なさそうな表情で覗き込んでくる。

 当のヴァイスは楽しげにひと鳴きしている。


「結果オーライだ。あの化け物から逃げられたからな。それよりヴァイス、オレも首もとに行けないか?」


「えっ? 分かった?」


 ヴァイスの言葉を言ったのであろう玲奈の声と同時に小さく一鳴きすると、オレはヴァイスの爪から解放される。

 それって空に放り出されたって事だろ、と思う間もなく、気がつくとヴァイスの背中にドサッと落ちていた。


 反対向きなので、ヴァイスが急降下一回転で拾い直してくれたみたいだ。どうにも空中での出来事はまだ把握し辛い。

 そして姿勢を戻して首もとの玲奈の後ろまでいくと、地上の騒ぎがさらに大きくなっている情景が飛び込んできた。


「し、ショウ君、あの、ば、化け物が石の飛行船を!」


「ゲッ、節操のないヤツだな!」


 オレたちの眼下で、化け物が近くに停泊していた浮遊石を使った小型の飛行船に襲いかかり、魔力の奔流で包み込んでしまっていた。

 そして少しすると、飛行船が勝手に動き始める。

 しかし今まで見た普通の飛行船の飛び方ではなかった。


 動きが急激だし変な動きをしている。

 だいたい、移動力となる飛行生物抜きで動いている時点で異常だけど、どうやら自らの魔力の奔流の一部を推進力にしているらしかった。


「クロ、何か分かるか?」


「ハッ。浮遊石に自らの魔力を注ぎ込み強引に操作しています」


 うん。クロはなかなかに便利だ。

 オレの足りないオツムを補ってくれるだけでも助かる。

 実体化して超強かったら、もうオレは不要じゃないだろうかと思うほどだ。


「船の中の人は?」


「確認できません。なお、あれだけの魔力に飲まれた者は、一般人であれば魔力酔いで意識を失います。しかも長時間だと体に変調をきたし、命に関わるでしょう。ですが、稀に魔力持ちに覚醒、変化する場合もございます」


「そこまで聞いてないけど、ありがとう。魔力を断つにはどうすればいい?」


「先ほどの体の本体が身につけていた、魔石を中心とした魔導器を破壊もしくは停止させる事が必要です」


「停止は可能か?」


「制御する本体を探して強制停止させるか、命令する必要があります」


「じゃあ、あれは破壊するしか手がないな」


「現状では、それが最良かと」


「えっ、逃げないの?」


 オレとクロのやり取りに玲奈が振り向く。目には驚きと恐れが見える。


「オレに用があったヤツの残留思念とかで動いている筈だから逃げられないだろうし、無関係じゃないから逃げる訳にもいかないだろうな」


「そ、そうだね。……私に何かできるかな?」


 玲奈が不安そうな表情ながらも、何かがしたいと言いたげに問いかけてくる。

 しかし、ボクっ娘のように激しい戦闘をさせるのは重荷過ぎるだろう。


「オレをあの船に落としてくれ。クロ、戦えるか?」


「我が主より日々魔力の供給を受けております。さらに先ほどの吸収もあり、魔力は相応に充填できました。十分にご助力できるかと」


「じゃ、サポートよろしく。オレが降り立ったら、命令で人の姿になって戦ってくれ」


「畏まりました」


 玲奈の方はオレの言葉を聞くと静かになっていたが、どうやらヴァイスと話し合っていたみたいだ。


「ヴァイスにお願いしたら大丈夫だって。それとヴァイスから伝言、ボクの違う力もみせてやるって」


「そりゃ楽しみだ。期待してるぞヴァイス!」


 オレに応えるようにヴァイスが一声鋭く鳴く。ご機嫌な雰囲気を感じるし、どこかボクっ娘ぽい気がする。

 それに気のせいか、玲奈もヴァイスに影響されてボクっ娘と少し重なってきているように見える。


 (実はボクっ娘の実態が、ヴァイスの人格って事ないよなー)などと埒も無い事を思っていると、ヴァイスの飛行が一気に速く鋭くなる。


 化け物となったもと因縁野郎その1に乗っ取られた船は、不安定な動きをしつつもこっちを目指している。

 化け物は船の前の辺りにいて、依然として魔力を吹き出している。

 そこから感じる視線ともいえる気配から、オレたちが目標なのは変わってないようだ。


 とはいえ、高速飛行時の巨鷲に追いつくのは、動きからしても無理だ。逃げるのは容易だけど、落とさないといけないだろう。

 取り付いたらどう対処しようかと考えを巡らせていると、レナの思いの外鋭い声が耳に響く。


「ショウ君、私とヴァイスにしっかりしがみついて。それと姿勢をできるだけ低くしてって、ヴァイスが」


「分かった」


 答えるとともにレナの腰にガッシリと腕を絡め、足に込める力を少し強くする。

 華奢なレナの体に腕を巻きつけた状態だけど、玲奈は恥ずかしがったりしていない以上、こっちが変な気持ちになるわけにもいかない。


 ボクっ娘なら茶化す言葉の一つもありそうだけど、こっちからはそれも止めた方が良いだろう。

 ボクっ娘の体の柔らかさや温かさを感じつつ暢気にそんな事を思っているが、周囲の情景はどんどん速くなっている。

 ヴァイスが凄い勢いで加速しているのだ。


 一旦かなりの高度を取った上で一気に急降下したヴァイスの速度は、以前の空中戦で見せた竜騎兵ドラグーンへの攻撃に似ている。

 しかしヴァイスの周囲を覆う魔力の膜のようなもの、特に前面に覆う膜のようなものはかなりの輝きを持っている。


 レナの体からも大量の魔力が供給されているのも、魔力の放出と供給の光で分かる。

 チラリと後ろを見ると、魔力の航跡のようなものが長く伸びている。


 そしてヴァイスの速度はますます上昇し、交差する瞬間に「ドンっ!」という大きな音と共に強い衝撃波が発生した。


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