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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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165「魔人(1)」

 オレと玲奈は深くマントのフードを被り、宿の者にチップを渡して裏口から街中に出て、さらに午前中とは少し違うルートで飛行場へと向かった。

 そのお陰か、特に誰かに尾けられた様子はなかった。


 そして飛行場の飛行生物の厩舎のような場所に行くと、巨鷲のヴァイスがレナに甘えるように小さく鳴いて出迎えてくれた。

 しかし異常に大きな鳥を前に、玲奈がすくんでしまう。


「大丈夫。あいつもお前をご主人様だって分かってるよ」


「で、でも」


「ホラ、オレも一緒に近くまで行くから」


「う、うん」


 そうしてオレの指2本をちょっとだけ摘むように握ると、一歩一歩近づいていく。

 オレも彼女の歩調に合わせて歩いた。


 そして目の前までくると、彼女は少し怯えながらも優しげに見つめるヴァイスの首元をに触れ、そして撫でていった。

 ヴァイスの方は、されるがままになっている。

 最初はぎこちない撫でかたも、一回ごとに慣れたいつもの手つきにと変わっていき、そしてガバッと抱きついた。


「うん、うん、心配してくれてありがとう、ヴァイス」


 しばらくそのままにしていたが、ヴァイスに抱きついていたレナがゆっくりと顔を上げてオレの方を向く。

 ただ、オレに向けられた瞳は、玲奈なのかボクっ娘なのか判断が少しつかなかった。


「どっちのレナなんだ。それとも一つになったのか?」


「『夢』じゃない方。多分だけど、一人にもなってないよ。でも、もう一人の私の記憶や知識は、多分全部認識できるようになったみたい。だからそう言う意味では一つになったのかも」


「そうか。どうする、ちょっと飛んでみるか?」


「それはまだ無理そう。ごめんねヴァイス、もうちょっとだけ時間ちょうだい」


「そうか。じゃあ、気が済むまでじゃれ合ってから宿に戻るか」


「うん」


 そう言って、玲奈はしばらくヴァイスに抱きついたり、少しじゃれたりしている。

 ヴァイスもちょっと放っとかれただけなのに、甘える様な仕草を見せている。

 少なくともヴァイスは、玲奈とボクっ娘を同じと考えているという事はよく分かった。


 それに少し離れて見ていると、ヴァイスが今まで思っていた以上に人間臭い気がした。

 高い知性を持つせいなのだろうが、どこかボクっ娘と重なるところがある気がした。


 そうして数十分程過ごして、ヴァイスに別れを告げ宿に戻る事にした。

 そして気づいた事だけど、ヴァイスから離れて歩き出した玲奈は、今までと違ってボクっ娘と同じような軽快な歩き方に変わっていた。

 これでひと段落ついたように思えるが、この後どうなるのかという不安はむしろ高まった気がした。



(落ち着いてから、これからの話しもしないといけないな)


 ヴァイスにお別れをして、飛行場の外に向けて歩きながらそんな事を思っているが、どう話して良いか見当もつかなかった。

 そして玲奈に気を取られていたので、進行先にいる人影に気づくのが遅れた。

 それでもオレの体が半ば本能的に何かを感じ、反射的に腰の剣を抜いていた。


「バキっ!!」


 剣に何かがぶつかり大きな音をたて、同時に大量の破片などが周囲に飛び散る。

 手には痺れに近い感覚があったので、痛みを感じないくらいに強い痺れが走ったということだ。

 よほどの物が飛んで来たか、すごい速度で投げつけられたのか、その両方かだ。


 とっさに玲奈を見るが、何の行動も、防御姿勢すらとっていない。これはさっさと逃げるに限ると感じたが、その時間は与えられそうになかった。

 卑下た高笑いが前方から響いて来たからだ。


「ハーッハハハっ!! 流石クソチート野郎だな! じゃ、こいつはどうだっ!」


 20メートルほど離れた場所にいたのは、先日因縁を付けてきた3人組の一人だ。最初に剣を飛ばしただけのヤツだけど、名前は覚えていない。


(こいつらオレに名乗ったっけ?)


 そんな事を思える程度に、次に飛んで来たものを避けるのは余裕だった。


 玲奈の方はまだ呆然としていたが、抱きかかえて飛び退く余裕も十分にあった。

 分かっていれば、この距離で大きなものを投げられても十分に対応出来る。

 飛んで来たのは、何か重い荷物を詰めていた貨物用の樽だ。最初に飛んで来たのも樽で、足下で中の荷物と緩衝材ごとバラバラになっている。


「レナ、大丈夫か?」


「だ、大丈夫。な、何が? それにあの人?!」


「前にオレに因縁付けて来たやつの一人だよ」


「お前らを見かけたって情報を聞いたが、ここで待ち構えていて正解だったな。こないだの借りを百倍にして返してやる。そこを動くな、八つ裂きにしてやる。その為の力も手に入れたから、前みたいにはいかないぞ!」


「ご免被るよ、それじゃあな!」


 玲奈が驚いているように、目の前のヤツは見た目で分かるほど常軌を逸した雰囲気を醸し出していた。

 しかもヤツからは、陽炎のように何か黒いものが漏れ出ている。何かではなく魔力で、遠目にも瞳が怪しく揺れているのが分かった。

 魔法使いが、魔法を使うときに時折なる魔力酔いに見えたが、ヤツは戦闘職に見えて実は魔法職だったのだろうか? 魔法戦士だったのかもしれない。


 けど今は、そんな事はどうでもよかった。

 ヤツがオレもしくはオレ達を襲って来ているのだから、対処するのが先決だろう。

 もっとも、オレが何かしなくても、飛行場の警備員たちも異常に気づいて動き始めている。中には魔力持ちもいるし、オレ達とヤツの距離も少しあるので、このまま取り押さえられて終わるかもしれない。


 と楽観するほど、オレもおバカではない。こういう時、取るべき手段は一つだ。


「レナ、逃げるぞ。ヴァイスの方に行こう」


「う、うん。でも、私まだヴァイスに乗れる自信ないよ!」


「大丈夫だ。くわえてもらうなり、掴んでもらえばいい。ヴァイスは賢いから、レナの言う事を聞いて、安全な空に逃げてくれる筈だ」


「ショウ君は逃げないの?」


「一緒に逃げるに決まってるだろ。あんないかれたヤツ相手にできるか」


「そ、そうだよね」


 そう言ってもと来た道を走って戻ろり始めたが、回れ右してすぐに断末魔の悲鳴というやつが複数響いてきた。


「振り向かず全力で走れ!」


「う、うん!」


 恐らく人が襲われた悲鳴だ。今の玲奈が見ていいものではない。

 オレはほんの少しだけチラ見したが、警備兵らしき人が二人まっ二つに切り裂かれていて、取り囲んでいる警備兵は完全に及び腰になっている。


 ヤツは、オレが僅かに期待したこの世界の法や秩序を守る気すらなくしているらしい。

 オレが目の前に現れて、最後のタガが外れたとかそんなパターンなのだろうか。

 後ろからは阿鼻叫喚の声が聞こえてくるが、これは逃げるに限る。


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