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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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162「入れ替わり(2)」

 そして『夢』での翌日、気が焦っていたせいか、起きるとまだ夜が明けてなかった。


「最近こんなんばっかりだな。て言うか、こっちの体は寝不足にならないのかな?」


 しょーもないことを思いつつ起きたが、流石にまだ夜のうちに女性陣の部屋に押し掛けるのは流石に気が引けたので、オレの部屋の扉を少しだけ開けて、そこから隣の部屋の扉を見張ることにする。


 ちょうど開けた先に、彼女たちの部屋の扉が見えているので、椅子を持ってきて陣取る。

 これで玲奈が起きてパニクッて部屋を飛び出したりしても、すぐに引き留めることができるだろう。


 現時点での懸念としては、既に起きて二人に気付かれないまま部屋を抜け出している可能性だけど、流石にないだろうと思いたい。


 少し不安に思いつつ扉の監視を続けていると、隣の部屋で騒ぎ声が響いてきた。小さな悲鳴も聞こえたように思う。

 そこで彼女たちの部屋まで言って、扉をノックしようとしたところで向こうから開いた。


 扉の先に、少し驚いた表情のハルカさんの顔があった。

 寝起き姿で、寝間着に大ざっぱにまとめた長髪という、なんだか見慣れた姿でもある。


「完全武装でずっとここに突っ立っていたんじゃないでしょうね」


「隣の部屋の扉を少し開けて、起きるの待ってただけだよ」


「どうだか。それより状況理解してるわよね」


 それに大きく頷くと、「入って」と促された。

 部屋は4人用を3人で使っていて、そのうち一つで恐らく玲奈の方のレナが毛布を抱えて縮こまっている。

 別のベッドでは、シズさんが起きたばかりのようだ。

 こちらを見ると、まだ眠そうな、そしてバツの悪そうな顔をする。


「早く起きようとは思ったんだけど、体質だけはどうにもならないみたいだ。済まない」


「ノープロブレムですよ。レナ、オレ、いやオレ達が誰か分かるか?」


 ゆっくりと玲奈に問いかけると、彼女もゆっくりと頷いた。

 けど、不安そうな目が、キョロキョロと目まぐるしく動いている。


「ショウ君、だよね。ちょっと見た目が違うけど。で、耳と尻尾のあるシズさん。それと神官戦士さんですよね。は、初めまして」


「初めましてレナ、いえレナさん。私はハルカ。よろしくね」


 ハルカさんがこちらもゆっくり、そして優しげに応え返す。

 そして小声でオレに命令する。


「ちゃんと説明できる?」


「向こうでボクっ娘に接触してる。ハルカさんよりは状況把握してるよ」


 オレの言葉にハルカさんがうなずくと、ゆっくりと玲奈の方に近づく。

 オレもなるべく刺激を与えないように近づき、少し屈んで目線を合わせる。


「レナ、少しは状況分かるか?」


「う、うん。ここは『夢』の向こう側、『アナザー・スカイ』なんだよね。でも、どうして私が突然……」


 どうやら玲奈には、ボクっ娘の知識や経験はフィードバックされていないらしい。

 が、彼女を改めて見て、取りあえずするべき事は説明ではないと理解した。それは玲奈以外も同感のようだ。


「色々と話さないといけないみたいね。けどその前に、ショウは一旦部屋の外に出て。理由は分かるわよね」


「そこまで鈍感じゃないよ。オレも武装置いてくる。着替え済んだら呼んでくれ」


「身だしなみまで済んだら呼ぶわ」


 その後、宿の人に代金にチップをはずんで、彼女たちの部屋に朝食を運んでもらう。

 そして食べながら『ダブル』としてのレナの事、天沢玲奈が二重人格で、その片方の人格が『ダブル』としてのレナであること、そして今現在、本来はそれぞれ向こうとこっちでしか出現しない人格が入れ替わっている事を簡単に説明した。


 さらに補足として、天沢玲奈が友達だと思っている『ダブル』は、もう一つの人格のレナではないかと付け加える。

 また、この説明の後半は、ハルカさんに向けての補足説明でもある。


 そして全部ぶっちゃたのは、ある種のショック療法を狙っての事だった。

 ボクっ娘のレナには悪いが、もともとこれほどキレイに人格が分かれ、さらに片方がもう片方を認識できている二重人格は歪だろうから、解消してしまう方が天沢玲奈の精神的負荷を解決できるだろうと、以前からオレ達は話し合っていたからだ。


 しかし真相を全部聞いても、天沢玲奈の人格が統合したり、再び入れ替わったりしたりはしなかった。

 

「わ、私どうしたらいいの?」


「取りあえず、こちらで過ごすしかないだろうな」


「向こうのレナは、明日には戻って欲しいって悲鳴あげてたぞ。家族を誤魔化せる気がしないって」


「そういうプレッシャーかけない」


 言った途端、ハルカさんに頬を抓られた。


「イレレ、和ませようとしたんだけど」


「和むわけないでしょ。ゴメンね、鈍感野郎で」


 ハルカさんとオレのやり取りに、玲奈が少し笑った。


「こっちのショウ君は、なんだか生き生きしてるね」


「まあ、一旦こっちに来たら開き直るしかないしな」


「じゃあ、私も開き直らないとね。でも私、二重人格なんだよね。どうしたらいいのかな?」


 すぐに不安そうな表情に戻るのが痛々しくすら感じる。

 状況は少し違うが、前兆夢なしでも状況を受け入れていたオレの方が、少し変なのだろうかとも思えてしまう。

 まあ、オレのことはどうでもいい。


「レナは逆にどうしたい? もう一人のレナは、人格が一つに戻る覚悟は最初からあるって言ってるぞ」


「そう、言っているだけだよね。私だったら消えたくない」


「それでも二重人格は解消する方がいい。気が付かなくても、精神的な負荷は必ずある筈だ」


 シズさんの言葉には、知識に裏打ちされた重みがある。

 以前からボクっ娘の事を知っていたので、何年も前から色々と調べたりもしたんだろう。

 しかし、だ。


「けど、何年も問題なかったんですよね。体も二つあるんだし、それぞれの居場所が元に戻ればいいだけじゃあ?」


「レナは、こっちに来て3年ほどだと言っていたな」


「いっその事、二人がキレイに合わさればいいのにね」


 ハルカさんの言うことは、理想論というより願望に近いだろう。ただ、そんな二重人格は聞いたことがない。

 言ったハルカさんも、その事はよく分かっている顔だ。

 その言葉で場が少し沈んだけど、玲奈の「あっ」という言葉で全員の意識が戻ってくる。


「そう言えば、もう一人の私は私のことを知っているんですよね。どうやって?」


「現実世界の方では、夢を見るような感じだけど五感は共有できてたみたいだ。いや、共有と言うより情報が得られているという方が正しいか」


 ボクっ娘は見ていたというが、よく知っているシズさんの言葉の方が正確なのだろう。言われてみると、そんな気もする。


「怖いのは嫌だけど、それなら私もこの世界に来れるかも」


「レナが望むなら、そうできるかもね。何しろ心の問題だから」


「そうだな、まずはレナの思う通りに考えてみればいいと思う」


「みんな、ありがと……」


 少し安心したような表情を浮かべた玲奈は、最後まで言葉を言う前に貧血で倒れるようにフッと意識が遠のいていった。

 それを隣で座っていたシズさんが慌てて支える。


 そして息があることと意識がないことを確認して、3人で顔を合わせる。


「また入れ替わるのかしら?」


「それとも一つになるか」


「単に気を張りつめていたのが緩んだだけかも」


「何にせよ、対策を考えましょう」


「そうだな」


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