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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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160「合宿へ(2)」

「じゃ、やっぱり!」


「うん。私も向こうの住人でもある。そして今はショウと行動を共にしている。これでいいかな?」


「はい! それだけで十分です。ありがとうございます!」


 向こうの言葉を続けることで、信憑性はオレの与太話より高いくらいだ。

 それと今のシズさんの向こうの言葉が、少し理解できるようになっていた。


「他の『ダブル』の近くにいれば自分も、と言うヤツを狙ってるんだろうが、そんなに向こうに行きたいのか?」


「はい。ショウが行けるようになって、ますますそう思うようになりました」


「えっ? オレのせい」


 ここは一応突っ込まないといけないだろう。

 答えはだいたい分かってるけど。


「そりゃ近くに居れば、思いも募ろうと言うもんだろ」


「それちょっと分かる。でも、やっぱり怖そう」


「ショウのように厳しい事は珍しいよ。逆に、何でもない事での即リタイアはけっこうあるがね」


「常磐さんは長いんですか?」


「もう十分じゃなかったのかな?」


 シズさんが、オレ以外でも軽くからかうのは変わらないらしい。

 さすがのタクミも、シズさんのからかうような目線を前に「えっ、あっ、」と困り果てている。


「フフッ、私はもう6年以上になる。だから向こうで過ごした月日と合わせると、20台半ばの人と同じくらいの時間を過ごしている事になるな」


「そうか、そういう計算になるのか」


 ちょっと意外な視点だった。

 そう思えば、みんなが少し大人びているのも頷ける。


「じゃあ最高齢の大賢者が、実質還暦とか言ってるのも間違ってないんですね」


「そうだ。あのデイブなんて孫までいるぞ」


「それ個人情報でしょ」


「こっちで向こうだけの話しをしても、ただのホラ話だよ」


 そう言って軽く笑う。


「大賢者デイブとお知り合いなんですか?」


「ああ、一応師匠、いや先生の一人になるかな」


「じゃあ『轟爆陣』の魔法使えますか?」


「もう一つ上の魔法も使えるぞ。だから、彼女も肩の荷が一つ下りたとか言っていたな」


 彼女とはハルカさんの事だ。

 講演会で個人情報伝えていない事はちゃんと話していないが、話すまでもなかったようだ。


「あれの一つ上が有るんですね。まあ仲間が増えれば、役割分担できて負担が減っていいですよね」


 思わず深く頷いてしまう。確かに二人きりの時は、ハルカさんがなんでもしていた。これからの戦いは、随分違っていくのだろう。


「ショウの役割は?」


 そしてちょうどおあつらえ向きの質問が、タクミから寄せられた。これからの事も踏まえて、思わず少し考え込んでしまう。


「……なんだろ。戦闘だとたまに突っ込むけど、基本壁役じゃないかな」


「まあ戦闘職の基本の一つだって言うけど、それでいいのか?」


「それしか能がないし、あっちじゃ普通だぞ」


「そう言いきれるところは、ちょっと尊敬するかも」


「で、タクミ君は何になりたい。いや、何がしたい?」


 シズさんの言葉に、タクミが思いの外真剣に考え込んでいる。


「ショウにも言われて考えたんですが、ショウ達って何かを始めようとしてますよね。だから手伝いができたらと思ってます。

 仮に今すぐ向こうに行けても、『アナザー・スカイ』で何か世界の為になることが出来るわけじゃないですから」


「なるほど、出来る事からか。あっちに行けるといいな。来れたら歓迎するよ」


「はい、ありがとうございます」


「けど、あっちの最初の出現位置ってランダムって言うから、探すところから始めないとなー」


「そん時は頼むよ」


 結局、道中後半の車内での会話は『アナザー・スカイ』での話しばかりとなった。

 ついで、に最近向こうで何があったのかを、タクミに話すハメになったほどだ。そして「そういう風にいつも話しているのか」とシズさんに言われ、そしてちょっと厳しい目な添削をされしまった。



 そうして実質この合宿のリーダーになる鈴木副部長が選んだ合宿先の現地は、完全にキャンプ地だった。

 隣接してペンションやロッジのような宿泊施設もあるが、自分たちで道具や食材など色々と持ち込む本格的なタイプだ。


 逆に、今はやりのグランピングも可能だった。

 また、施設内に大浴場やトイレ、カフェなどもあるから、緩めのキャンプも楽しめる。

 一ヶ月程前のハルカさんとの野営の方が余程ガチだ。


 テントなどキャンプ用品の現地レンタルもある程度可能で、鈴木副部長の知り合いか親族が運営に関わっているので、テントの半分以上は格安でレンタルしてもらうことになっていた。

 そしてレナが用意すると言ったキャンプ用品のほとんどが、お兄さんがアウトドア大好き人間と言ったシズさんが、事前に車に積み込んできていた。


「個人で大型テントって、家族でキャンプ行くんですか?」


「ああ。父もアウトドア好きだからな。で、これは6人までいけるから、女子全員入れるぞ」


「それじゃあ、男が2組に分かれればいいな」


 言いつつ軽く見渡す。男子は7人なので4人用二つで十分だ。

 問題があるとすれば、テントの設置の方だろう。


「とにかくテント設営だな。ショウできるか?」


「こういう近代的なのはちょっと」


「近代的って。どういうのなら出来るんだよ」


「向こうのテントが一番だな。他は、大きい防水布とロープがあれば、木の根もとに簡易の一人用の天幕と寝床作ったりできるぞ。あの枝振りなんか、ちょうどいい感じだ」


 身振り手振りも加えて、分かりやすく説明していく。

 ハルカさんに仕込まれたので完璧だ。


「相変わらず無駄にリアルだな」


「じゃ、火を一から起こしたりとかは?」


「火は魔法でつけるから、ちょっと苦手。薪集めとかまで」


「キャンプ飯ってやつは?」


「キャンプ飯じゃなくて野営飯になると思うな。使う食材も微妙に違うし」


「ホント、中世の人にみたいだね」


「返す言葉もないなー」


 そう言って笑いあいながら、キャンプの設営をしていく。

 台座があれば現地で薪集めしてのたき火オーケーなキャンプ場なので、林に入って薪集めをしたが、夏場はあまり見あたらないのでオレの薪探しスキルを使うもふるわず、結局買う事になった。


 調理は専用の調理場もあるので、道具が無い場合はそこを利用する。

 その場で作る場合は家用、キャンプ用を問わず簡易コンロなどを使えばオーケーだけど、大人数なので鍋を使う料理は調理場で、その場で焼くバーベキュー等はテントの側で行う。


 そして料理は慣れている女子中心にと言いたい所だけど、男女平等の昨今はそうも言ってられない。

 それにタクミとオレ、とくにタクミはファミレスのバイトが知られているので、料理では戦力扱いされていた。


 そしてそこで、包丁さばきが怖いと言われた。

 危なっかしいのではなく、違う意味で慣れている感じがするからだそうだ。

 特に、ジャガイモやニンジンなど野菜の皮をピーラーを使わずナイフで剥くのを地味にビビられた。

 向こうの野営で、動物を捌いたり野菜の皮むきなどの下処理は嫌でも馴らされたのだけど、どうにも現代社会とのギャップが大きいようだった。


 まあ、その日の特筆すべき事はその程度で、単に高校生同士のキャンプを楽しんだだけだった。


 なお、シズさんともう一人車を出してくれた人は、3日後の午後に迎えに来てくれることになっている。

 しかし二往復するのではなく、この間シズさんはキャンプ地の近くの友人に会いに行くというので、オレ達の送り迎えは一応「ついで」だそうだ。



 そして騒いだ末に夜遅くに就寝すると、オレたちは『夢』の向こう側『アナザー・スカイ』での目覚めとなる。


「なんだか、あっちでもこっちでも同じ日に同じ人と会うってのは、少し違和感を覚えますね」


「レナとは、毎日のように会っているだろ」


「レナの場合は、こっちのボクっ娘と天沢玲奈の雰囲気や仕草が全然違いますから」


「私も違うんだがな」


 シズさんが悪戯っぽく言って頭の狐耳をピコピコ動かすが、問題なのはその人が持つ雰囲気だ。

 だからそのまま口にした。「やっぱり、こっちとあっちのレナは別々ですよ」と。その言葉に、シズさんも全く同意してくれた。


 その日のアースガルズ王国からの旅立ちはそれなりの盛大さだけど、オレには茶番で空虚に思えた。

 それは3人も似たようなものらしく、形式上の受け応えをして表面上愛想笑いして手を振っている程度だ。


 まあ旅の路銀として餞別までもらったので、愛想を振りまくくらいはノープロブレムだ。

 それよりもアクセルさんとはこれで当分会えない事の方が、オレにとっては大きかった。

 それでも永久の別れとかではないので、できるだけ気軽に別れの挨拶だけ交わした。



 そして飛び立って約5時間後に、2週間ほど前にも来た浮遊都市ハーケンへと到着する。フリズスキャールヴを飛び立ったのが昼過ぎだったので、到着は夕方となった。

 そして今回は一泊だけしたらすぐに南へと飛び立つので、冒険者ギルドに顔を出すことも無かった。


 そして翌朝は早く飛び立ちウィンダムを目指すので、その日は早めに就寝を取ることになった。

 これからいよいよ、オレにとっての未知の旅の始まりだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] イタリアンと言う文字をみて、新潟県のあれに自動変換されてしまったのは内緒です。
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