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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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513 「電話(2)」

 そしてその日は忙しく過ぎていき、夜。

 客足が引くのが遅かったので、10分ほどバイト時間を超過したから、慌てて着替えて駐車場脇で彼女からの電話を待つ。

 そして1コールあるかないかで出た。



「ハイッ!」


「がっつきすぎ。もう、逃げも隠れも、倒れもしないわよ。それで、もう家?」


 少し笑いながらの彼女の声。

 朝よりさらに話し方が滑らかになっている。


「いいや。今バイト上がったとこで、バイト横の駐車場」


「そ。お疲れ様。退院したら、一度行ってみたいわね」


「みたいじゃなくて、もういつでも来られるだろ」


「そうもいかないでしょ。私、ううん、私達には約束があるから」


 真面目な言葉が、真面目な口調で返ってくる。

 こういうところは本当に彼女らしい。


「そうかもだけど、玲奈もレナと自由に入れ替われるようになったし、最初の約束に拘る事もないんじゃないか?」


「うん。とにかくレナ、いいえ天沢玲奈さんと一度話してからね」


「あれ、玲奈に電話してないのか?」


「したわよ。お見舞いのお礼と、簡単な挨拶だけ」


「それだけ?」


「ええ。私の番号をシズ、トモエ、悠里ちゃんに回してもらって、3人からもすぐに電話してもらったから。そのあと、マリにも電話かけたわ。マリったら、このところは向こうでずっと一緒なのに、電話の向こうで号泣しちゃって、ほんと困っちゃった」


「マリアさんとはリアル知り合いなんだ」


「私が死んだと思った後、調べてもらう為に電話番号だけ教えてたの。その後、ルリとハナにも。けど、検査が夜にもあったから、ほとんどは二言三言よ」


「こうして長々話せてもらえて光栄です」


「そう思うなら、戻ってきたら誠意を見せなさい」


「何でもするよ」


「言質とったからね」


 電話の向こうではドヤ顔してそうな声だ。

 少しおかしいので、思わず笑ってしまう。

 そうすると、今度は少し不機嫌な声が返ってくる。


「何がおかしいのよ」


「こうして電話越しに話してる事が」


「確かに、ショウと電話で話せる日が来るなんて、正直思ってもみなかった」


「だろ。それで、こっちの体の調子は?」


「もうほとんど普通に動けそう。今日は念のため車椅子だけど、明日からリハビリ予定。けど、こっそり立ってみたりしたけど、普通に動けるのよね。このままじゃあ、しばらく仮病状態になるかも」


「治癒魔法がこっちでも完全に有効なんだな」


「凄いわよね。魔法構築したのがタカシさんってのがあるかもしれないけど。それより聞いてよ、完全治癒なんて使うから、子供の頃の怪我のあざまで消えてるのよ。事故の跡も綺麗さっぱり。主治医の人とかが目を丸くしてたわ」


「それはもう奇跡を通り越して喜劇っぽいな」


「ほんとそう。もう道化の気分よ」


 その後も10分ほど他愛のない話しをしたけど、病院の消灯時間が近づいて検温が来たとかでそこで電話も終了。

 明日も時間が取れたら連絡くれるというけど、こっちは学校があるし、ハルカさんの方は検査とリハビリがある。さらに明日の朝にはお父さんが海外から帰国するので、電話する時間が取れても夜になるかもという事だった。



 次の日、その間の夜も『夢』を見る事はなく、習慣で朝早起きしても手持ち無沙汰だった。

 そのせいで、この日もガッツリと朝のトレーニングに勤しむことになる。


 ハルカさんとの連絡は、ID交換もしたしオレ達のSNSのグループにも招待したので、朝はメッセージの簡単な挨拶をそれぞれ交わした。

 ハルカさんが加わった事も、なかなかに新鮮な変化だ。


 ただ一方で、オレ達のグループは未だオレ以外は女子なので、オレはかなり浮いていたのがさらに悪化した。

 かといってタクミを誘っても遠慮しそうだし、受け入れるしかないだろう。

 そんな事を考えつつ放課後の文芸部部室に入ると、もう来ていた鈴木副部長がオレを見るやズンズンと歩み寄って来る。


「どうなった?!」


「な、何がですか?」


「決まってるだろ。こっちでの意識不明の人の治癒だよ!」


「個人情報有り有りなので、詳しく話せないに決まってるでしょう」


「そこを何とか。成否だけでも!」


 そこで少し鈴木副部長と見つめあってしまう。

 そしてこの時、デメリットも含めて教えておくべきだと考えを変えた。


「成功しました。けど、その代償で、向こうの窓口になったオレは、向こうに行けなくなりましたけどね」


 言うと同時に、二回のどよめきが起きる。


「念のため言いますけど、両方マジです。嘘は一切ありませんから」


「その割には月待、やたらと冷静だな」


 何だか悲壮な表情になった鈴木副部長に、救済が必要なことを悟る。

 そう、普通のアナザー信者にとって、『夢』の向こう側にデメリットがあってはいけないのだ。


「まあ、今は神々の塔にいますから。願い事で、もう一回呼んでもらう手筈も整えてるんですよ」


「何だよ。ビビらせんなって。けど、そんな事できるんだな」


 鈴木副部長以下数名の肩の力がドッと抜ける。


「はい。塔の中に入れる人の記憶の表層に残るほどの知人なら、『世界オルビス』が呼んでくれるんですよ」


「ちょっと待て。じゃ、じゃあ、ここの面子を呼ぶ事も出来るって事か?!」


「今、オレはドロップアウト中ですよ」


 「そっか」と呟くように言った鈴木副部長の視線が、すぐにも玲奈の方に注がれる。

 そうだった。鈴木副部長は、向こうのレナと顔を合わせているんだった。

 どうしたものかと思っていると、玲奈がオレと顔を合わせると強く頷く。


「あ、あの、それなら私がショウ君の代わりになれます」


 どういう事だ? と、鈴木副部長以外のアナザー信者な部員達が訝しむ。


「ずっと黙ってましたけど、実は私も『ダブル』なんです。そして、ずっとショウ君達と行動を共にしているんです。ショウ君と鈴木副部長がその証人です。今まで黙っていて本当にゴメンなさい」


 そう言って深く頭を下げる。

 そしてオレと副部長は、みんなに強めに頷いて玲奈の言葉に同意する。

 隣では、タクミが「あーあ、言っちゃった」的な表情を浮かべているけど、もうそれどころじゃなかった。

 何しろ、『今ならお買い得、玲奈の顔見知りなら、『夢』の向こうへ旅立てます!』な状態と分かったからだ。

 玲奈が『ダブル』とカミングアウトしたことすら、霞んでしまってる。


 そしてそうと分かればと言った感じで、あまり興味のない部員連中までが寄って来て、みんなで騒ぎ始めていた。

 けど、呼べるのは4、5人程度。条件不明な適性がないとダメ。という基本条件を伝えると、熱気もかなり冷めてくれた。


 そして本当は水曜日と思っていたけど、眠り姫の目を覚ます事が出来た旨を、協力を求めたオレ達のサイト、SNSなどなどに書き込む相談をした。

 そしてサイトの方はすぐに書き込み、そこに協力してくれた『ダブル』達、その『ダブル』達に知らせてくれた人達、情報を拡散してくれた人達、その他多くの人達にお礼の言葉も合わせて載せた。


 その後SNSなどは、返事の書き込みなどでちょっとしたお祭り状態で、中には根も葉もない噂話や非難に近い言葉もゼロじゃないけど、概ね好意的だった。

 また後日談になるけど、すぐにも『夢』の向こうのノヴァ全域でも成功した事が伝えられ、ちょっとしたお祭り騒ぎになったと言う。

 そしてその後、キューブ状の魔導器を探す事がムーブメントになったりもしている。




「話して良かったのか? オレみたいに、これから皆んなの前で話しをさせられるぞ」


 オレの言葉に、玲奈がしっかりとした表情で頷く。


「ショウ君と一緒なら平気だよ。それに呼ぶとなったら、レナの記憶でしか皆んなを呼べないし、実際呼べた時にもう言い訳できないでしょ。それに鈴木先輩も知ってるし、そろそろ話す頃だったんだよ」


「玲奈がそう考えたなら構わないけど、なんか巻き込んだみたいでゴメンな」


「ショウ君が謝る事じゃないよ。でもこれで、いよいよ明日を待つだけだね」


「正確には明日の夜、もしくは明後日の朝かな?」


「明後日って失敗するって事?」


 少し不安げな表情。

 だから明るい表情を向ける。


「いいや、オレの目の前の玲奈とハルカさんの直接対決をいつするのか、伝える事になるだろ」


「直接対決って。もうっ!」


「照れて誤魔化さないでくれ。ちゃんと話し合って欲しい。それと、場合によってはオレも話に加わる。まあ、オレは基本受け入れるだけなのは変わらないけど、どういう結果であれ一度話して決めなおして欲しい。でないと、流石に先に進めないからな」


「う、うん。必ず」


 そう言って、オレの方に顔ごと真剣な目を向けてくる。

 昔の玲奈、天沢玲奈では考えられない。

 いや、似たような視線は初対面の時に見た。

 けどその時とは、抱えている事と向き合う事が大きく違っている。

 何しろ事が事。下手しなくても、一生ものの話し合いと決断をしないといけないのだ。

 ぶっちゃけ、冒険より魔物と戦うよりも大変だ。



 そしてその夜もハルカさんから電話があった。

 玲奈にかけた後、オレにかけてくれたのだそうだ。まだ向こうで会えない玲奈にかけるあたりが、ハルカさんらしい。


 もっとも、オレに話した事は他愛のない事だった。

 主治医を含めて先生達が、いい加減驚き疲れたとか、帰国したお父さんが休暇中で病院に入り浸ってて少しウザイとか、病院食が物足りないとか、次の見舞いで何が欲しいとか、本当に普通の事を話した。

 ただ、向こうの事は、シズにでも聞いてと殆ど何も話さずじまいだ。オレが眠りこけている以上、あまり触れたくもないのだろう。


 ただ、向こうで話を聞くには、まだもう一日必要だった。


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