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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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157「巡礼先(1)」

 話が逸れたが、明日朝に出発という日の夕食後は、明日に備えると言うことでのんびりと過ごしていた。

 お茶や軽食、お菓子の準備だけするとお仕えの人たちも下がるので、オレたち4人だけだ。

 そして駄べりがひと段落すると、いつものようにハルカさんが仕切る形で具体的な話が始まる。


「で、一応おさらいしておくけど、いい?」


「最初はどっちにしろハーケンで、そこを経由してウィンダム。確かウィーンのある場所だっけ?」


「そうだ。ここから一番近い聖地がある」


「いつもは神々って一括りだけど、聖地にまつられている神様って何柱あったっけ? 神様の数だけ聖地があるんだろ」


 今更ながらだけど、オレは思った疑問を口にした。

 この世界は、あっちと違うことや覚えていた方がいい知識が意外に多い。

 ハルカさんと二人旅の時にも軽く聞いていたが、その時はオレに一度に知識を詰め込んでも仕方ないということで、全然詳しくはなかった。


 そしてオレの疑問に対して、ハルカさんが心得たとばかりにオレを見つつチュートリアルを始めてくれる。


「何度か言ったことあるけど、基本は天の三柱みはしら、地の六柱むはしらね」


「地水火風とかじゃないんだよな」


「似てる神様もいるけど、どちらかと言うと、あっちの世界の普通の多神教みたいなものね。オクシデントだと、ギリシャ神話やローマ帝国っぽいかしら」


「アニミズム、だっけ?」


「そこまで素朴じゃないな。壮大な神話があって、その中に色々な役割を担う神々がいるという形だ。そしてこの世界では、神々が魔法の力の大元の一つとされている。

 恐らく、魔法の知識を残し伝えるために、神々や神話が作られたんだろうというのが定説だ」


「ボクなんかは、属性は空の神様って事になるね」


 シズさんの補足にボクっ娘が、右手を飛行機のようにして平行移動させている。

 風ではなく空の神様という点で、地水火風が関係ないことが分かる。


「空飛ぶもんな」


「そこまで安直じゃないけど、自然現象がそのまま神様ってパターンは多いわね」


「あとは人の行いを具現化したものだな」


「例えば?」


「戦いの神、知識の神、魔法の神などだ」


「けど、天の三柱みはしらって大陽、月、星で、名前だけ見ると大まかだよな」


「それぞれ陽帝が主神格で祭祀、月帝が魔法、星帝が知識を司るわね」


「地の六柱むはしらが、陸皇、海皇、地皇、空皇、炎皇、水皇だな」


 シズさんが取り出した薄い冊子を開くと、日本語と現地語の併記で概要が書いてあった。

 『ダブル』の間で普及しているものだけど、ここの迎賓館の図書室にもあったので、オレの教材の一つとなっていた。


 他にも同じような本が数冊置かれているし、この世界の羊皮紙で出来た人を撲殺できそうなゴツイ本もある。

 そしてその薄い冊子の一面にはこう記されていた。



 天の三柱みはしら


陽帝(男神) 主神、祭祀、光  =白

月帝(女神) 魔法、魔物、時  =黄

星帝(女神) 知識、医療、旅  =紫



 地の六柱むはしら


陸皇(女神) 豊穣、出産、慈母   =緑

海皇(男神) 海、水、酒、航海   =藍

空皇(男神) 風、雷、天候     =橙

地皇(男神) 冥府の王、法、闇   =黒

水皇(女神) 水、美、芸術、工芸  =青

炎皇(男神) 火、鍛冶、竈、戦い  =赤



「こうしてみると、けっこう地水火風ですね」


「この世界の魔法に四大元素や精霊などの考えはないが、見た目の現象や人の営みに関わるから自ずと似てくるんだろうな」


「あと、司るものも一番得意とされているだけで、戦いも司る神は多いし、女神の半分は処女神だったり、その辺もギリシャ神話っぽいわね」


「空の神様も戦いの神様だからねー」


「それにこれはあくまで主要な神々で、それぞれの下に沢山の従属神がいるわよ」


「そう言えば、そんな事書いてたな。案外面倒くさいな」


 そう、主な神々は9体だけど、その下に3の倍数のような形で沢山の神々がいる。

 当然だけど、とても覚える気にはなれない。


「そうよね。だから自分の生活や職業、行いに関わりのある神様だけその時崇めるってところも、ギリシャ神話とかと似ているわね」


「えーっと、崇めたり拝んでも、物理的というか現実的な恩恵とか加護とかそう言うのはないんだよな」


「魔法の言葉の中に関連する神様の事が出てきたり、神官とかがそれっぽい魔法を使うことで与える形になってるけど、実際神様から力を与えてもらったり、神様の力の経由先になったりするわけじゃないわよ。……いないと思うし」


 最後の「いないと思う」という言葉に、3人とも頷いたり苦笑したりしている。

 と、そこで、シズさんへの疑問が生じた。正確には魔法使いの使う魔法についてだ。


「知識や技術を伝えるために神殿が神話や神々を使うのはいいとして、魔法使いはどうなんですか?」


「基本は、神々が伝説の魔導師や魔導書などに変わるだけだ」


「レインボーカラーに白黒足して九色だよね。おかげで空が橙色とか変なことになってるけど」


「空は雷の色と言われるな」


「九色の魔導書よね。ショウは聞いたことない?」


 ハルカさんの言葉を受けて、少し記憶を漁ってみる。

 すぐにも、シズさんには遠く及ばないが幾つかヒットがあった。


「ネット上で見た。写本が世界中にあるとかないとか」


「東洋に行くと、巻物全集みたいになっているらしいよね」


「やっぱ日本は巻物だよな」


 ボクっ娘と二人して、忍者が巻物をくわえて印を結ぶ仕草をして遊ぶ。


「そう言う問題でもないけどね。保存のため石版や青銅板に記してる例もあるわよ」


「丈夫な魔石で出来た石版集が、大きな大学の地下に安置されていたりするな」


「遺跡にもたまに眠っているって言うよね」


「滅びた国、魔物の領域に沈んだ国とかで保存されていたものだな。だから欠損もある。その点は神殿が羨ましい」


「失われた英知の大秘宝って事で、探し回ったこともあるわ」


 ハルカさんが、少し懐かしげな目をしている。

 それにボクっ娘が首を傾げる。


「アレ? ハルカさん神官なのに魔法使いの知識探してどうするの。売り払うため?」


「私、もともとは魔法戦士なのよ。神殿御用達の陽と陸の属性だから、神官になるのは寄付、極論賄賂だけでいけたけど」


 その言葉に、ボクっ娘がそうだったんだという表情を浮かべる。少し意外だけど、話してなかったらしい。


「そうだったんだね。それにしても、魔法2属性もあるのにボク以上に動けるってハルカさん凄いねー」


 ボクっ娘の素直な賛辞だったが、それに今度はハルカさんが苦笑気味の表情を浮かべる。


「それなんだけど、殆ど誰にも話した事ないんだけど、私、属性1つオマケ付きらしいのよ」


「ほおっ。魔法極振りの『ダブル』が一番欲しがるユニーク持ちだったのか」


「ええ。確証はないんだけどね」


 今度はシズさんが感心した。

 どうやらユニークには色々あるらしい。


「なるほどねー。ハルカさんの強さがちょっと分かってすっきりしたよ。ていうか、ボクら疾風の騎士と竜騎兵も、ちょー強い相棒がいるって時点でユニークなんだけどね」


「それを言えば、今の私は『ダブル』の中ではユニークどころじゃないだろうな」


 シズさんが言葉の最後に、もはやお約束で耳を動かす。


(なんだ、オレのユニーク持ちは珍しく無いんだ)


 みんなの言葉でそんな事を思ったが、その表情をハルカさんに見とがめられる。


「一応言っておくけど、シズは例外としてショウのユニークは本当に特殊よ。私は一番有りがちで、『ダブル』の30人に1人はいるってほどだから」


「そうなんだ。魔法の属性って今ひとつ分かり辛いんだけど、どういうものなんだ?」


 オレの言葉にみんながチュートリアル必要と思ってくれたようだ。

 うん。オレに向いた矛先が上手く逸れてくれた。


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