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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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500 「報告と準備(2)」

「うわっ? 人多くないか?」


 放課後、玲奈と一緒に駅前の公民館に行くと、いつもより人が多かった。

 しかも知らない顔もいる。

 そして一斉に注目された。

 そしてさらに、殆ど一斉に質問を浴びせられた。


 その質問を総合すると、ネット上で神々の塔到達が話題になっている。

 さらに一週間以内に来れば、願いが叶うという半ば間違った情報までが出ていた。


 しかも塔に入る為に、キューブ型の特殊な魔導器が必要という話も既に漏れ出していた。

 さらに、300年前の遺跡を探すか、大量の魔力を用いてる施設を探すか、魔将軍以上を倒す事で、それを新たに6つ集めるというところまで。


 最初の騒ぎを鈴木副部長達が鎮めて、ようやくオレが話をする事になる。

 そして話と質問を2時間近くかけて消化して、オレにとっての本題に入れた。


「オレとオレの仲間達が、色々な所を回って、それこそ死ぬ気で神々の塔にまで行った理由は、一人の人を救う為です。

 その人はこちら、現実の世界で1年半も意識不明の状態で、『夢』の向こうでしか会って話す事が出来ません。

 そして向こうの力を利用して治す、奇跡を探すような事にやっと光が見えたんですが、それには沢山の『ダブル』の協力が必要です。と言うのも、」


 そうして数分間なぜ協力が必要なのかの話続け、最後に「ご協力よろしくお願いします」と深く頭を下げた。

 そして聞いていたみんなが、オレからの予想外の話の反応に困っていると、リョウさんが観客側からオレの側に歩み寄る。


 別に協力を申し出る為ではない。

 事前にリョウさんから聞かされていたが、カミングアウトする為だ。


 その手には、この2週間ほどかけて書き溜めたという、邪神大陸、地皇の聖地、あの世界のカリブ海、太平洋、ガラパゴス諸島、そして神々の塔のスケッチと言える絵が何枚もあった。

 戦闘中に見たという光景も、1枚や2枚ではない。

 向こうの人限定だけど、人物のスケッチもある。

 マーレス殿下の姿もあった。


「協力は、僕からも深くお願い申し上げます。というのも、僕はこのサークルの協力者というだけではなく、僕も『ダブル』で月待君ところの飛行船に乗せてもらっているからです。

 今まで発表した向こうの絵と、ここにある絵は、月待君から話を聞いて想像で描いたものではなく、僕自身が実際に見た情景を絵にしたものです。

 でも向こうじゃあ、僕は絵を描くくらいしか出来ないので、この場で皆さんに協力をお願いさせて頂きます。どうかよろしくお願いします」


 今度は声なき唸り声のどよめきが起きた。

 公開された絵が、相当のリアリティーを持つ事。

 この場にいる『ダブル』が2人ではなく3人(本当は5人)な事。

 この二つは、信者な皆さんにとっては相当大きなインパクトだ。

 これでダメなら、もしかしたら何人かが向こうに行けるように出来るかもしれない、という話もする予定だったけど、不要な事がすぐに分かった。


 少し興奮しつつ、これで確率がまた高まったと喜ぶ人、絵が実質本物だと喜ぶ人、そして一通り喜んだ後で、ほとんどの人が口々に協力を伝えてくれた。

 そして初見の人にもSNSに参加してもらい、今後一週間何かあればすぐに連絡を回す事にした。


 みんなにしてもらう事は、タクミと同じだ。

 そしてそのタクミが、小さく挙手して立ち上がる。


「ちょっと良いかな? 単に1000人の日本人『ダブル』が、2時間向こうで睡眠時間が長くなる出来なくなるってのを伝えるより、協力を呼びかける形の方が良いんじゃないか?」


「心情に訴える形にするわけか。だが、1000人だぞ。その気がない奴が2時間寝坊したら、クレーム来ないか?」


 鈴木副部長がすぐに反応した。

 そして口々に言い合うけど、大勢としてはタクミの意見の肯定だ。


「じゃあ、協力する気がないやつ用に、その人は素質があるから神々に選ばれた的な話を付けとけば?」


「優越感とかを刺激しとくってわけだな。だが、積極的に協力する意思を見せた奴、少なくとも自身ではそう思った奴は、そうでない奴より恩恵なりがあって当然とか思わないか?」


「基本無償の協力って事にしておけば?」


「誰がどう思ったとかまで、お互いほとんど分からんだろ」


「それで月待、その1000人ってのは、無作為&問答無用で選ばれてしまうのか?」


「向こうは人数を言っただけで、どう選ぶのかまではまだ聴けてません」


 ここまでの議論になるとは予想して無かったので、もっと話を具体的に聞いておけばと、自分の落ち度にちょっと凹む。

 けど今は凹んでる時じゃない。


「皆さん、色々考えてくれて有難うございます。今の案の中から良いところを選んでまとめて、それで情報を拡散して頂けますか。

 今回の件でのお礼は、日を改めて考えさせて頂きます」


「良いよそんなの。好き来てるんだし」「だな。それに話させてるのこっちだし」「どうしてもって言うなら、もっと話を聞かせてくれ。それで十分だ」「ここに居るだけで、向こう行ける確率上がるって考えるだけでテンション上がるし」


 口々にそんな言葉が返って来た。

 それにオレは頭を下げることしか出来なかった。




 そして今日はまだ終わりではない。

 ハルカさんのお母さんに、早急に、できれば今週末にお見舞いに伺えないか、というメールを入れないといけない。


「なあ、もう結構バズり始めてる」


 メールを送る前にスマホをいじっていた悠里が、オレにその画面をかざす。

 オレ達のサイトにリンクするSNSだ。

 ハルカさんを目覚めさせる為の協力を求めるお願いに、かなりのアクセスやリンクがある。

 それを見て、他にも今日集まった人たちが書き込んだり拡散した場所を二人で見てまわる。


「随分拡散もしてるな」


「けっこー注目されてたからな。私ら」


「そうなんだ」


「見てないのかよ」


「あんまり興味ないし。けど、今回は助かったかもな」


「まあ、炎上にはなってないしな。けどさ、ダンマリのままでもよかったんじゃね? 私らしか知らない話なんだし、他の人らはちょっと不思議な事が起きたってくらいにしか思わないだろ?」


「そうだろうけど、目覚めるのが遅れて危険地帯でドロップアウトとかされたら、寝覚めが悪いだろ。それにダンマリのままは、ハルカさんスッゲー嫌がるって」


「まあ、そうだろうけど。ま、もう言ってしまったし、次、次。ハルカさんのお母さんへ送るメールの文章見せてよ」


「おう、見てくれ」


 その後しばらくオレが考えた草案から文面を悠里と考え、それをそれぞれの仲間に送信。

 さらに常磐姉妹に添削されたものを、あまり失礼にならない時間帯にハルカさんのお母さんに送信する。

 そしてメールを送り終わって、悠里と二人してオレの部屋でホッとしてボケーっとしてると、何かを知らせるスマホのサイン。


 慌てて手に取ると、メールの着信。

 アドレスを併記しておいたノートPCにも同じ時間に着信。

 ハルカさんのお母さんからだ。

 そしてメール内容は短く、『今お時間あればお電話頂けますか』とのことだった。


 ハルカさんに容態急変とかの異常事態が起きたのかも、と慌てて、悠里が呆然と見る前で、急ぎハルカさんのお母さんへ電話を入れる。

 数コールすらもどかしい。


「あのっ、月待です! ハルカさんの容態に何かあったんですか?!」


 スマホに叫ぶ様に問いかけるも、数秒間向こうからの返答はなし。

 だから、さらに言葉を続けようとすると、向こうから小さな笑い声が聞こえた。


「御免なさい。本当にハルカの事、心配して下さっているのね。大丈夫、ハルカは今日も心地好さそうに眠っていました」


 その言葉に、思わず大きく息を吐き出してしまう。そうすると、もう一度クスリとスマホの向こうで笑われた。

 けどハルカさんが大丈夫なら、オレが赤っ恥をかくくらい安いものだ。


「では、何か? 見舞いの件で問題でも?」


「そうね。問題ね。単刀直入に言うと、今週末、出来れば土曜日に、お見舞いの日程を組んで頂けますか。出来れば午前中に」


「むしろ有難いお話ですが、理由をお聞きしても構いませんか?」


「そうね」


 数秒考えた上で、そう返事があった。


「主人が、遥の父親が週末に海外から帰国するんです。ですけど主人は、殆ど海外で仕事漬けなくせに、ハルカには行き過ぎたくらいの過保護なんです。

 だから、お友達のお見舞いとか言ったら、まずは合わせろって話に戻ると思いますの。

 けど、そちらの都合もあるでしょうから、土曜日の午前中ならお邪魔虫も入らないと思った次第よ」


「そうでしたか。では、土曜午前中のお見舞いで、是非お願いします」


「分かりました。場所は後ほど指定しますので、朝10時にそこにいらして下さい。そこで時間までに私が見つからなければ、お互い電話で連絡しましょう」


「分かりました。ご連絡お待ちしています。本当に有難うございます」


「お礼を言うのは、私達の方ですよ。それでは、失礼します」


 それで沈黙したので、電話はこちらから切った。

 と、すぐに横から別の声。


「なんなんだよ! てかさ、今のハルカさんのお母さん?」


「うん。見舞いに土曜の朝来てくれって。あとで、落ち合う場所の連絡が来る」


「マジか。でもなんで?」


 その後は、悠里に電話内容を伝え、そしてすぐにも玲奈と常磐姉妹にメッセージとメールの速報を入れる。

 そしてさらに10分ほどしたら、メールに落ち合う場所の住所と地図が送られて来たので、それもさらに詳しい情報と共に送信した。


「フーッ、これでXデーは決まりだな」


「そうだなー。うまくいくと良いな」


「いくに決まってるだろ」


「けどさ、なんか話が上手く進み過ぎてない?」


「不安になる様な事言うなよ。こう言うもんは、上手くいく時は続くもんなんだよ」


「マジそうだと良いな」


「うん」


 本当に悠里の言う通りだ。


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