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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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156「引きこもり」

 アースガルズ王国の都フリズスキャールヴの王宮での、オレ達の旧ノール王国での活躍を讃える式典は盛大に行われた。

 そして盛大という以上のものではなかった。


 もともとは、アースガルズ王国が旧ノール王国の主要部を領土化した事を内外に印象づけるのが一番の目的で、その功労者を讃えるというのは半ば名目でしかない。

 しかし領土は広いが人口が5、60万人の国が、10万人ほどの人が住む領域を飲み込むので、国としては近年稀な大事業だ。


 また一方で、この街にある大神殿を立てる意味で、大巡礼に旅立つ壮行会のような雰囲気もあったように、この国にとってのオレ達は、所詮よそ者の助っ人もしくは客人に過ぎないからでもあるのだろう。

 だからお互い気楽なものだったのは、変に気負わなくていい分だけ助かった。


 そして自分たちに利益をもたらした一時的な客人だからこそ、盛大な式典もしてくれたし、色々と用立ててもくれた。

 おかげで、旅の便利アイテムを中心に幾つか物品をもらえたりもした。

 中でも、ヴァイスの脚につける浮遊石の結晶が埋め込まれた大きな浮遊鞄をもらえたのは大きかった。

 これはその気になれば、人も乗れるらしい。あくまでその気になれば、ではあるが。


 他にも幾つか、旅のお役立ちアイテムをもらった。

 また旅立ちに関しては、ここを出発の起点としすることを願われてしまい、特に断る理由もないので受け入れ、その上式典の終わりとともに旅立つことになった。


 そして滞在している7日間の暇な時間を使って、オレはハルカさんからは数学の基礎を見てもらい、シズさんからは魔法の基礎の講義を受ける。

 今までと違い移動しないというだけで、かなりのんびりした7日間を過ごせた。


 本来ならアースガルズ王国の色んな人達から、色んな目的のアプローチがあるのだけど、迎賓館の奥で旅の準備中ということで殆ど遮断してもらえた。

 ひとえに、大巡礼の前に心を乱すのかという脅しと、何よりアクセルさんの働きのおかげだ。

 アクセルさんマジ有能。イケメンは伊達じゃない。


「とはいえ、これじゃ引き籠りだよなー」


「今度ボクに付き合う?」


 そう言ってくるボクっ娘は、ロングソファーにダラけきった猫のように寝そべっている。


「巡業みたいに国の方々回ってたんだっけ?」


「そうだよ。ボクたちは人気者だからねー」


「人気者なら、ハルカもそうだろ」


「よしてよ。それに面倒よ。ここでショウの相手してる方がまだマシよ」


「マシって、そりゃないだろ」


「文句言ってると、剣の稽古も付き合わないよわ。それにそこ間違ってる」


 ハルカさんは色々言いつつも、数学を根気強く教えてくれている。気分転換と運動不足解消も兼ねて、中庭での剣の稽古もいつも通りしている。

 もっとも剣の稽古は、ハルカさんにとっても同じなので、付き合わないというのは単に言っているだけだ。

 ただ、勉強がちょっと厳しいのは相変わらずで、1週間で何だか少し賢くなれた気がする。


「中学からおさらいするか?」


「今見てる限り、ほぼ大丈夫と思うわ。まだ高一の夏だから頭から抜けてないし、教えれば解けてるから、数学が苦手ってのは面倒くさがってただけでしょ」


「じゃあ、これ以上向こうで参考書を覚えてこなくていいな」


 そう、今は教師は一人じゃなかった。

 オレを挟んでハルカさんの反対側には、シズさんもオレの勉強を見てくれていた。

 そして数学の後は、シズさんの魔法の勉強が待っている。


 オレがしている数学の問題も、シズさんが向こうで紙面ごと写真のように記憶してきたものを、こっちで書き出して作ったものだ。

 シズさんはどんだけ記憶力が高いのか、かなりビビるレベルだ。


 今も、記憶してきた教材を紙面に書き移している。なんでも、覚えようと集中すると写真のように記憶出来るそうだ。魔法もこれで覚えたそうで、当人は便利だと言っている。

 その能力を、オレにも少し分けて欲しくなる。


 加えて言えば、オレたちの対面でボクっ娘が長椅子でお寛ぎ中なのが、羨ましく思えるほどのオレとの格差だ。

 もっとも、そのボクっ娘は、「ヨッ!」という掛け声と共にバネの要領で元気よく起き上がり、そのまま軽く飛び上がって2メートルほど先にスタッと体操選手のように降り立つ。

 相変わらず身軽なことだ。


「さて、ボクはそろそろヴァイスの様子見てくるねー」


「夕食までに戻ってきてね。食後にこれからの旅のおさらいしときたいから」


「りょーかーい」


 可愛く敬礼しつつそれだけ言うと、軽快な小走りで部屋の外へと出て行ってしまう。

 そしてそれを3人とも何となく目で追ってしまう。


「あの子だけよね、この1週間の生活が普段とあんまり変わらないの」


「そうだけど、やっぱり退屈だった?」


「ううん。ただ私、全然動いてないなあって」


「確かに……」


 シズさんの一言がヤケに重い。しかも二人の視線は、それぞれ自分の体に注がれている。

 そして二人ほぼ同時に、その視線がオレへと向く。しかも非難がましい視線だ。


「えっ? 何?」


「……なんでもない」


「まあ、な。たった1週間だ。さすがに、仕立て直した鎧のサイズを調整し直す必要はないだろ」


「シズは帯やベルトで調整できるから大丈夫でしょ」


「ハルカのはダメなのか?」


「……私のミスリルメイルは、ある程度鎧の魔力で勝手に調整してくれるから平気。けど、新しい追加分は、ちょっと不安かも」


 そこまでの会話で、さすがにオレも察しがついた。

 何しろこの1週間というもの、三食昼寝&好きなだけオヤツ付きだった。しかも食事の準備、ベッドメイクなど家事一切もしてもらっていた。


 その上シズさんは、オレが知っている限り運動は気分転換程度しかせず、ハルカさんは持ち前の食欲を無意識に発揮していた。

 『ダブル』は魔力量に応じて食事量が増えると言われているそうだけど、それにしても多すぎだ。


 加えて言えば、北の大地の食事らしく、食事は高カロリー食品がずらりと並んでいた。

 つまり、平和な世界のお年頃の乙女が最も気にする、体重やウェスト周りなどを気にしているのだ。

 圧倒的ハイスペックを持つ二人だけど、そういうところは普通の女の子なのでちょっと安心する。


「何よ、ニヤついて。刺すわよ」


「ペン先は止めて」


「まあ、男子の前で話す事ではなかったな」


「そうね。ショウだから油断してたわ。全部忘れなさい」


 シズさんは半ば諦め口調だったが、ハルカさんはジト目ではなく攻撃的な視線だ。

 しかし、と思う。


「イエス、マム。けど女子は……」


「それ以上言ったら刺す」


「と言いつつ、絶妙な痛さで抓らないで」


「それ、どうやるんだ?」


 オレの方に首をグイッとやって、シズさんが興味深げにオレの手元を見ている。

 もちろんオレの手の平は、絶妙な力加減で抓られている。


「加減は人によって少しずつ違うから、自分で試した後はその人ごとに微調整していかないといけないから、結構面倒よ」


「なるほど。ショウ、後で実験台になってくれ」


「えーっ、シズさんまで。……てか、長時間だと地味に痛いんだけど」


「レナ曰くショウはマゾだから嬉しいんだろ」


「余計な一言言うからよ」


「言いきるより先に抓ったくせに」


 そうした会話をしていたように、7日を過ごしている間、早くは魔女鎮定の頃から防具の製作や仕立て直しを頼んでいた。

 オレたちの新しい防具や魔力で満ちた繊維で編まれた布で作られた新しい衣服も誂えてもらっていたのだ。


 オレの姿は一見あまり変化していないが、中に着込む胴体を守る鎧として、半袖の裾が長いTシャツに似た仕立ての小さな龍の鱗で埋められたドラゴンスケイルメイルを調達した。


 これは撃墜した龍騎士が着ていたものを仕立て直したもので、少しばかり引け目を感じてしまうが、この世界の流儀として受け入れるしかないだろう。

 実際問題、背に腹は代えられない。

 また、儀式に出るような服も誂えてもらったが、式典礼典などで切る衣服でほとんどが衣裳鞄の奥に一応は大切にしまうことになるだろう。


 オレ以外の3人も、大なり小なり中に着込む形で龍鱗の鎧を追加したり、今までの防具や手足の装備に縫い込んだりした。

 龍鱗は軽くて破格の防御力を提供してくれるし、小さく硬い龍鱗でできた防具は希少だからでもある。


 オレは他にもブーツと手袋も新調した。

 どれも戦闘でさらされる正面の内側は龍鱗を、外側には魔法金属を縫い付けてある。

 旅装束としての面を重視ているので、戦場に赴く騎士や兵士のように全身を鎧うわけではない。兜も同じような理由で装備を見送った。


 シズさんも、今までは尻尾のせいもあって今ひとつサイズの合わない服だったが、ハーケンの街での買い物と合わせて、ようやく体にあった服装になった。

 さらに肌の露出が減ったのは残念だけど、これから旅に出ることを思えば当然だろう。


 ゲームやアニメの中の女の子のような露出だらけの格好では、動くとすぐには乱れたりだけてしまうだけでなく、野外活動ばかりだとすぐに肌も荒れようと言うものだ。

 しかし、がっつり着込でなお細いのにメリハリの効いた体の線がうかがえるのは、流石としか言いようがない。


 ついでに言えば、この世界には合成繊維と合成ゴム、プラスチックがまだ『ダブル』の実験室以上では殆ど存在しないので、アニメっぽい衣装がそもそも難しい。

 権力者や金持ちが着るガーダーベルト付きのパンティストッキングも、質の高いシルクもしくはそれに準じる何かの動物の糸から作られている。

 しかも機械で編むわけではないので、相当に高価な品だ。


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