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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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495 「目覚めの方法(1)」

《異常があるのは3名です》


 いよいよ神々の塔の中、そこで見ている『夢』の中で、『世界』と自らが言うこの世界の根幹に関わるのであろう存在が、オレ達の事について話し始めた。


 普通のお話やゲームなら、この世界の謎、この世界の成り立ち、なぜ『ダブル』が呼ばれたのか、どうやって呼んでいるのか、魔物とは何なのか、その辺りを聞くのがお約束だろう。

 けど、そんな壮大な事を聞いたところで、何かが出来るとは到底思えない。

 何かが出来るのなら、『世界』やこれまで「異界」からやってきた沢山の「客人」達の誰かがもうしてるだろう。

 それ以前に、世界の危機などもないのだから、聞く必要自体を感じない。


 それにオレが、いやオレ達がしたいのは、一人の少女を救う事だ。


 もちろん他にも多少の目的や願望はあるけれど、全て身近な事を求めてここまで来たのだ。

 勿論ここまで来たのは半ば成り行きだし、来ようと思ったのも偶然に特殊と思われる魔導器を手に入れたからに過ぎないかもしれない。

 けどオレとしては、一人の少女を救い、その少女の側に居られたら、それで十分だ。

 それを叶えるために世界を救えとか、救わないといけないとかの事態なら、初めて世界の事でも考えれば良いだろう。



「うち一人は吾輩だな」


 レイ博士がなんだか堂々とした態度で口を開く。


《そうです。あなたはすでに「異界」で死去しており、「異界」に返すことは不可能です》


「向こうで蘇生はできぬと言うことだな」


《その通りです。蘇生が願いでしたら、申し訳ありません》


「いや、吾輩は蘇生など望まん。スミレとずっと一緒に居させてくれ。それで十分だ」


 なるほど、博士らしい願いがあったのだ。

 ちょっと感心する。

 ただ、恥ずかしげなポーズを付けているのは、やっぱりちょっとイタい。痛いではなくイタいだ。


《それは、あなたとその魔導器が決める事です。他に要望や願いがあれば聞きましょう》


 レイ博士が言葉に詰まる。

 けど博士といえば、知識好きだ。


「この世界の謎を聞きたいとか、他にないんですか?」


「そんなもん聞いてどうする。クソの役にも立たんだろ。なんで吾輩が、世界の為とかの慈善活動をせにゃならんのだ。慈善家など、もう沢山だ。

 それなら、魔導の真髄とか錬金術の全てとか、唸るほどの財宝とかの方がマシだ」


 ごもっともだけど、意外にロマンのない人だった。

 けれど、なんとなくレイ博士らしくも思えた。


《我々は、即物的なものを与える事は出来ません。その力を持たないからです。ですが、知識や魔力なら持てる限り、もしくは与えられる限り与える事は可能です。それを望みますか?》


「マジか? 全部オーケー?」


「ちょっと待てレイ博士。勇み足だ。例えば『この場の全員の魔力総量を最大まで引き上げる事』を、一人の願いとして可能か?」


 シズさんが手でレイ博士を制して球体に話しかける。


《可能です。魔法の知識についても可能です。ですが、どの程度与えられるかは、各個人ごとの許容量に左右されます。個人差を改善もしくは変更する事は不可能です》


 そこですかさずトモエさんが口を挟む。


「姿形を変えるとかは?」


《人を妖人とする事は可能です。他の種族への変化、性別の変化は不可能です。魂に刻まれた最良の姿以上のものは、基本的に与えられません》


「そっか、獣人になるのは無理か」


 常磐姉妹への答えはかなり重要だ。

 『世界』の言う魂とは、遺伝子も含まれているとしか考えられない。

 そこに小さく手が上がる。

 ボクっ娘だ。


「3人のうち一人はボクで良いの?」


《そうです。ですが、問題はほぼ解消されています。そして正常化する事が可能です。正常化しますか?》


 『世界』の言葉に、ボクっ娘が少し厳しい表情を浮かべる。

 そしてその表情のまま口を開く。


「どう異常で、正常化したらどうなるの?」


《現在、当世界と異界の双方の別々の人の魂が繋がっており、双方が望めば1日間隔で入れ替われるようになっています》


「その繋がりを切るって事?」


《その通りです》


「今のままでのデメリット、じゃなくて欠点や問題点は?」


《こちらの世界から見て「異界」の方の支配力が強く、「異界」側の魂が不安定化すると、状況が悪化する可能性があります。加えて、別人同士が入れ替わるのは、大きな問題と認識しています。我々は魂の切断をお勧めします》


「どう状況が悪化するの?」


《突発的に入れ替わりがおきます。また、「異界」側にわずかですが魔力が漏れる可能性があります》


 『世界』の言葉の頭で、ボクっ娘の緊張が緩む。


「なんだぁ。ちょっと前とおんなじね。びっくりさせないでよ。ボクは「異界」の側の人を信頼しているから平気だよ。

 それよりさ、ボクとしてはその繋がりを強くして、簡単に入れ替われるようにして欲しいんだけど。無理?」


《繋がりを強くすると、魂の混濁が起きる可能性があり、最悪どちらかの魂が飲み込まれます。また「異界」に魔力が漏れやすくなる点に変化はありません。

 入れ替わりの了解方法については、相互の連絡方法の確立が最も負担の少ない方法でしょう》


「えっ? 向こうの私と話せるの?!」


 めっちゃ驚いている。

 みんなもそうだ。


《厳密には、現状、『夢』の状態で連絡が取れるだけです》


「了解了解。全然オーケー。あ、あと、念のため聞くけど、今繋がっている人をこっちに呼んだり出来る?」


《準備が必要ですが、期間中に十分可能です。また依り代もご用意できますが、獣人の場合は、あなた方が持ってきた魔導器に用意させれば問題ありません》


「えっ、そこまで出来るの? でも、向こうの人が別の依り代に入っちゃったら、ボクとの繋がりは?」


《自動的に切断され、異界の「客人」は正常な状態になります》


「ボクは? 入れ替わりがなくなるって事は、向こうに、「異界」に行けなくなる?」


《その通りです。状態としては、そちらのレイ様に近くなります》


「えっと、それじゃあ今繋がっている人をこっちに呼ぶのは、いつでも出来る?」


「権利保留という事でしたら可能です。その折は、魔導器を一つお持ちくださ」


「お、ちょっと良い事聞いたかも。じゃあじゃあ、『夢』で話せるようにするのと、その後の呼び込みの二つをボク一人のお願いってオーケー?」


「その程度でしたら、全く問題ありません」


「よっし。じゃあ、『夢』で話せるようにして。それと今度来る時に、もう一人の私をこの世界に呼んで。それがボクのお願い、の予定。一応もう一人の天沢さんと相談って事だけど、とりあえずは良いかなハルカさん?」


「え、ええ、レナがそれで良いなら」


 唐突に振られて、ハルカさんが少し驚く。

 けどそれも一瞬で、一度小さく深呼吸すると球体に視線を据える。


「最後の1人は勿論私よね」


《そうです。現在「異界」の肉体の体に魂を戻すことができません》


「私の「異界」の体がどうなってるかは分かってる?」


《体に何らかの大きな障害があると認識しています。ですが我々の力では、詳細に調べられません》


「それで治せるの? それともう一つ、こちらの体がまた倒れるかもしれない状態を何とかして欲しいんだけど?」


「願い事が一人一個なら、オレの分使ってくれ」


「わ、私の分も!」


「私もいらないから使って」


「私もだ」


 オレに続いて、悠里、トモエさん、シズさんが同じ名乗りを上げる。


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