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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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494 「塔の中(2)」

「というか、我輩が行ってもよかったのか? 我輩、中は見てみたいが、それ以上の望みは基本ないのだが?」


「せいぜい土産話をリョウさんにでもしてあげて下さい」


「そ、そうだな。しかし緊張する。こんな緊張は高校の弁論大会以来だ」


「少しは黙っていろ」


 シズさんにピシャリと言われてしまった。

 そして無駄話を止めた直後、入り口の前に到着。

 幅5メートル、高さ10メートルくらい。強めに光っているせいか中は見えない。

 もしかしたら中の光が漏れているだけかもしれない。


 そして扉らしいものは見えない。ようやく近づいてさらに分かったけど、中はとても無機的だ。しかも職人技ではなく機械が正確に作り上げたようなイメージを受ける。

 さらに言えば、オレ達の住む現代社会では、これほど巨大で精巧なものは作れないだろうと直感的に思える構造物だった。


 そして建物に圧倒されているわけにもいかないので、なるべくゆっくり焦らず中へと入って行く。

 そして光をくぐると、全く何もないノッペリとした広いホールに出た。

 いやホールに入った。

 ホールはお椀をかぶせた感じで、直径は50メートル以上。恐らく100メートルはないけど、その中間くらいじゃないだろうか。小ぶりのドーム球場の中っぽい天井だ。


 そしてすごく明るいのに、どこにも照明が見当たらない。

 それにホールの中には何の調度品もない。

 あとホールの壁があるだけで、他に通じる道がない。

 オレ達が入って来たところは相変わらず光り輝いてるので、瞬間転移テレポーテーションでもないのだろう。

 けど空間そのものは、SF的なまでに無機的だ。


「昔見たSF映画のワンシーンのみたいだ」


 レイ博士が少し興奮しつつも冷静に周囲を見ている。

 けど何もない。

 他の仲間も、周囲を見渡すだけで何かを発見した様子はない。

 そこに『声』が響いてきたのは、仲間達の緊張が大きくなる直前の事だった。


《よく来ました「客人」の皆様。その力と勇気に敬意を評して、我々が出来うる限り便宜を図りましょう》


 大型龍の仰々しい感じの喋りと違い、どこか無機的というか事務的な声と語調だ。

 声の感じは男とも女ともつかない。


(それにしても、どっかで聞いたようなセリフだな。胡散臭さ100%だ)


 それがオレの第一印象だ。

 そしてそう思ったのは、オレだけじゃなかった。


「名乗りもなしとは、無礼ではありませんか?」


(まあ、そう切り出すよな)


 ハルカさんらしい話はじめに、ちょっとホッとする。

 大丈夫、いつも通り話せばいいと思える。


《我々は『個』を持ちません。故に自己紹介は致しませんでした。それでも強いていうなら魔導器達が使う『世界』と名乗りましょう》


「神々ではないのですか?」


《どう捉えるかは、受取手次第です》


「まあ、お前達が何でも構わない。何を知っていて、何ができる。何でも願いを叶えてくれると言うわけではあるまい」


 続いてシズさんが仕切り始める。

 こう言う事には一番向いているので、ハルカさんもシズさんにそのまま譲る。


《我々は、神のように無謬むびゅうでもなければ絶対でもありません。もちろん、万能でもありません。敢えてあなた方「客人」の概念に例えるなら、巨大なコンピュータと自動機械のようなものです》


「つまり、コンピュータや機械ではないのだな」


《あなた方の記憶から今の例えをしたまでです。我々は「客人」並びにこの世界の知性ある者達全てが、「魔力」として認識する力が全ての根幹になっています》


「魔力って何なんだよ?」


《短い言葉で説明するのは難しいので、まずは我々の言葉通り行動して頂けますか》


 悠里の呟きにまで律儀に答えた。

 これは迂闊に言葉にしない方がいい。

 みんなそう思ったので、『我々』からの指示を待つ。


《それではその場で横になって目を閉じてください。そして我々が5つ数えたら、意識して目を開けてください》


 何とも奇妙なお願いだけど、それ以後言葉も聞こえなくなったので、聞かないわけにはいかなさそうだ。

 全員怪訝な表情のまま顔を見合わせるも、言われた通り横になる。


 その際、ハルカさんがオレの手をとったのを始まりに、7人全員が手を取り始め、最終的に頭を内側に円形になって寝転がる。

 そして目をつぶると、「1、2、3、4、5」とゆくっり数えるのが聞こえた。

 どこか心の奥底に響くような声で、何だか全身の力が抜けるような感覚すら感じた。



 そして5つの後、さらにもう1つ数えた辺りで、言われた通り意識して目を開ける。

 そして不思議な事が起きていた。

 手を繋いで円形になって寝たはずが、全員が背を向けた状態で立っていたのだ。


「どういう事だ?」


 誰の言葉かは分からないけど、男言葉なのでシズさんかレイ博士だ。

 しかしレイ博士ではなかった。


「す、スミレがおらんぞ!」


 確かに、人の姿のまま付き従っていたキューブ達がいなくなっていた。

 周囲を見渡すも先ほどと同じホールの中。


「出入り口が無くなってる」


 同じではない状況は、トモエさんが第一発見者となった。


「おい『世界』説明しろ!」


 シズさんがちょっとキレつつ、少し上に向けて声をかける。

 そしてシズさんの声の最後と被るように、『世界』の声が再び響いてきた。


《お待たせして申し訳ありません。移行に時間がかかってしまいました。今現在皆様は、『夢』と同じ状態にあります》


 「夢」と、ほぼ全員が『世界』の言葉を反芻する。

 キューブがいないのがその証拠になるのだろうか。


《より詳細に申し上げれば、「客人」が前兆夢と呼ぶ状態とほぼ同じです》


「つまり、私達はあの部屋で睡眠薬か何かで眠った状態で、『夢』を見てるって事?」


《そうお考えいただいて構いません。そして普通の夢と同じだけの時間の流れになりますので、相当長い時間のご質問にお答えできます》


「とりあえずさあ、どこ向いて話せばいいの? 何かこう、分かりやすい印とかないの?」


「あ、それ、私も欲しい」


 年少組の言葉はもっともだ。

 すると、地面から突然球体がせり上がってきた。

 すごくまん丸な白銀色で淡く光っているように見える。

 そして今度は、そこから声がした。


《これで構いませんか?》


「人の姿じゃないんだね」


《我々は神でもないのと同時に、人でもありません。人の姿を取ると、誤解の元となるでしょう》


「一理あるな。それでは『世界』、単刀直入に問う。我々の体と魂の状態をどう把握している。異常のあるものだけ答えてくれ」


 その言葉に思わず全員が息を飲む。

 シズさんの言葉で、いよいよオレ達の目的がどの程度達成出来るのかが分かるのだ。


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