486 「決戦前(2)」
「ショウ君、ハルカさん、手筈通りするけど、ピンチの時は独断専行させてもらうかもしれない。魔物相手に、犠牲者は一人も出したくはないから」
「はい。オレも犠牲者をってところは同じ気持ちです。だから、自分達の担当の魔物を倒すまでは、出来るだけ作戦は守って下さい。オレは言えた義理じゃないんですけど、守らないと作戦自体がうまくいかないかも、ですから」
「そう、その通りだな。でも、今の言葉で納得したよ。僕達が強くなれない理由が」
「そんな事ないでしょう。めっちゃ頼りにしてますよ」
「相手が上級悪魔1体程度ならね。だけど、僕達はパーティー以外ではいつもバラバラで、他の『ダブル』と張り合ってばかりだった。ノヴァを気に入らないと出てきたが、ノヴァの軍の方がよほどしっかりしている。
それに、この世界の人達中に入って行っているショウ君達の方が、余程ものが見えている。本当に恥ずかしいよ」
「そんな事ないですよ。それに今はオレよりものは見えていると思いますよ」
「そうだと良いけどね。それじゃ、また後で」
「はい」
そうして一同が丁寧にお辞儀して部署へと戻って行くと、入れ替わりにジョージさん達が歩み寄る。
「あの勇者様も、色々考えすぎだろ」
「良くも悪くも現代日本の若者って感じだな」
例によってオレがジョージさんとレンさんの相手で、ハルカさんはマリアさん、サキさんの相手を主にする。
ハルカさんとマリアさんなど、いきなり戦いの前のグータッチだ。
何でこうマッチョなんだろうと、ちょっと思えてしまう。
その思いは同じだったようで、ジョージさん、レンさんも苦笑気味だ。
「まあ、見ての通り士気は高いが、ぶっちゃけ俺らは二軍、いや下手したら三軍だ。いざという時のカバーリング以外は期待しないでくれよ」
「地上に来た翼竜や獅子鷲とかはお願いしますよ。どんな相手にも、足元を掬われたくないですからね」
「初心忘れるべからずだな。ゴブリンでも、一瞬足を掴むくらいは出来るからな」
「今回は最低でもエルダーゴブリンでしょうけどね」
「そうか。こんな強敵ばかりの戦いは初めてだな」
「でも、勝算はあるんだろ?」
レンさんの言葉に即座に頷く。
「はい。こっちはSランクだけで、半ダース以上いますからね。それにハルカさんとシズさんには第五列があります。
状況が許せば、疾風の騎士のソニックボミングすらね。
これで負けるなら、無理ゲーどころじゃないでしょう」
「違いない。じゃあ、大物は頼む。派手なやつを見せてくれ」
「オレは半ば囮ですよ。その為に急いで準備しましたから」
「そうだったな。まっ、俺は見てただけだがな」
「俺もだ。と、あっちも話は済んだらしい。そろそろ行くか」
「おうっ、相棒。じゃあな兄弟、また後でな」
「後でな」
そう言ってグータッチを交わす。
「はい、また後で。マリアさんとサキさんも」
「ええ、ルリさんの夕食期待しているわ」
「マリ、それって確かフラグってやつよ」
「あら、そうなの? まあ、言葉一つでどうにかなったりしないわよ。じゃあねハルカ」
「それじゃあハルカさん」
「ええ。マリもサキさんもまた後で」
「ええ、またあとで」
向こうでも別れのグータッチで締めだ。
そしてそれを、少し離れた場所でうちの家臣達が見ていた。
「坊主や嬢ちゃん達のその風習、こうやって見ると様になるもんなんだな」
「そうだな、エルブルス領でもするか、領主よ」
「気に入ってくれたなら、取り入れても構いませんよ。他に、腕のこことか、こことか合わせる挨拶とかもあるから、好きなの選んでください」
「まだあるのか」
「興味深い文化だ」
オレが腕タッチ、肘タッチをゼスチャーしようとすると、ハルカさんも乗ってくれたので、二人して陽キャじみた挨拶を家臣の前で披露する。
戦いの前にこれってどうなんだと思わなくもないけど、辛気臭いよりは良いだろう。
なおフェンデルさんは、いつも通り船の維持。魔力も多少あるので、防御魔法は初期の頃から手伝ってくれている。
そして船での格闘戦は、聖地の辺りからホランさんに任せてある。
ホランさんも、次元の違う戦いに巻き込まれるのは流石にゴメンだと言っていたけど、帰る場所、帰る手段を守るのが重要な事を理解してくれているからだ。
こんな何もない場所で、衣食住が確保された飛行船は、まさに生命線だ。
また船の方は、ルリさん、ハナさんが負傷者対策で待機。ハナさんは他の人と連携して、船内に運び込むという役割は、聖地の戦いと変化ない。
船の魔法防御担当は、レイ博士とリョウさんだけど、二人は今も魔法陣の準備などで忙しい。
魔物の襲来までに間に合うかどうかというところだ。
「なんだか、最後の戦いみたいな雰囲気ね」
ジョージさん達を見送りつつ、ハルカさんがポツリと零した。
「それもフラグ」
「そうなの?」
ちゃんと突っ込むところまでがセットだから、フラグクラッシュのためにもツッコミを返す。
「まあ、こういう場合『オレ、戦いが終わったら○○するんだ』が定番だけどね」
「前にも言ってたわね。映画なんかで、帰ったら結婚式だとか言うやつでしょ」
「そうそう、それ。アニメやラノベの定番。定番すぎて、今じゃギャグになってるけど」
「ギャグで終われば良いのにね」
「まったくだ。あ、そうだ、もう一つそのフラグの定番があるんだけど」
「何?」
あまり興味なさげに、付き合いで聞いてくれている。
「ラブシーンを後回しにするとダメなパターン」
「バーカ。そんな事言ってる暇あったら、再点検くらいしときなさい。その方が、よほど生存率が上がるわ」
一瞬の間があったが予想通りな返答。
「そりゃごもっとも」
「それに、ショウがピンチとかになるのが今更すぎて、死神とかも愛想尽かしてるわよ」
「その言葉、それはそれでフラグっぽいな」
言い返すと心底呆れたような表情が向けられた。
「もう何言ってもフラグって言う気? それって、もはやモンスタークレーマーよ。さあ、口より体を動かす!」
怒られてしまった。
けど、こういう感じの方がオレ達らしい。





