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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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480 「文化祭」

 『夢』の向こうで、地皇の聖地から神々の塔へと向かう間、こっち、現実ではオレ達の学校の文化祭が開催されていた。


 一方で向こうで目的地に到着する頃には、11月も中旬に差し掛かる。そしてその頃に、もう一度ハルカさんのお母さんに連絡を取る予定だ。

 おおよその話は仲間との間についてるけど、連絡が早すぎても失礼な場合もあるし、何より神々の塔で得られる情報を待ってからにしたいからだ。


 そういうわけで、文化祭に全力投球だ。

 しかもオレはクラスの出し物と文芸部の両方の準備をしなければならず、『夢』でののんびりした旅とは対照的に、忙しい日々を送っていた。


「そうかあ、月待達は神々の塔に向かってるのか。ノヴァから飛行船が出てる事知ってたら、俺も乗ったのになあ」


 鈴木副部長が、文化祭前の水曜日の部活で嘆息していた。

 本来水曜日は公民館で『アナザー』講演会なのだけど、流石に学祭前は中止。情報だけ簡易版で公開するだけにしている。

 場所を公民館に移してから来るようになった学外の『アナザー』信者の人達も、今週会うことはない。


「オレにはサプライズで教えなかったって言ってたんで、内々に準備してたから気づくのは無理だったと思いますよ。来たのも飛行船1隻で、火竜公女さんが領地に戻ったと思わせたらしいですから」


「そうなのかあ。まあ、今の俺じゃ足手まといだから、次の機会に誘ってくれ」


「とにかくノヴァかエルブルスに戻ったら、一度会いましょう」


「そうだな。あ、そうだ、リョウさんから画像というか向こうの絵は、どんどん送られてきてるぞ。昨日もまた何枚か送ってきた」


「向こうでは、暇さえあればスケッチしてましたからね。戦闘中でも、スキあらばって感じでしたよ」


「まさに従軍画家。ある意味命知らずだな」


「出来る限りですけど、危険が及ばないようにはしてますけどね」


「ショウ、それに鈴木先輩、駄弁ってないで手を動かしてください」


 二人で話してると、少し離れた場所からタクミの声。

 設営自体は金曜の午後からだけど、それまでに出来る展示の準備の真っ最中だった。


 もっとも、昨今はICT化とか電子化とかが進んでいるから、紙媒体の展示物とかは少なくなったそうだ。

 文芸部伝統の部誌は発行してるけど、ネット上にそのまま読める形のデータをアップした上で、ハッシュタグ設定して無料ダウンロードも出来るようにしてある。


 展示の一部も、学校から借りたパソコンやパッドを使った展示だ。

 昔ながらの壁新聞的な展示や研究発表的なものも、過去の展示物の紹介というところで扱うだけで、もはや新規でしなくなってる。


 参考でトモエさんの学校の文芸部を見学してみたけど、学校全体がうちの学校のずっと先を進んでるから、すごく先進的だった。


「こんなんで客呼び込めるのかな?」


 呼び込み用の看板をみんなで作りつつ、そんな愚痴を誰いうともなく言うのも無理もない。


 そしてこの週は放課後は終始こんな調子で、シズさんの家庭教師も1回休みにしてもらっていた。

 バイトも最小限にしてある。

 学校を出るのも下校時間ギリギリが多い。

 それでも、行き帰りは玲奈と一緒だし、部活もクラスでの作業中も一緒にいることが多いから、オレ的には十分満足できる一週間だった。


 クラスもクラブも、オレと玲奈の事に面倒臭いことを言ってくる事もないし、大沢先輩もあれ以来沈黙しているので、忙しい以外は平和そのものだった。




 かくして文化祭。

 文化祭は土日の2日開催で、土曜は生徒のみ、日曜は外から一般客が自由に来ることが出来る。

 しかしトモエさんの母校と比べると、明らかに地味だし、生徒のモチベーションも低い。生徒で何らかのコスプレをしている人の数だけでも、圧倒的な違いがあった。

 そしてうちの学校の場合、外から来るのは近所の人、他校の友達、それに親族くらいだそうだ。


 アニメやラノベでは派手な文化祭や学園祭が定番だけど、実際やるとなると手間暇と技術、そして予算から、到底不可能なのが実感できる。

 ガチな学生のメイド喫茶なんてものが、二次元以外で存在するのかと逆に聞きたい。


 けどうちの学校は、普通といえば普通、他も似たような感じというのが先輩たちの総評だ。

 しかもシズさんに聞いたところ、大学の学園祭でも派手なのはともかく凝っているのはごく一部なのだそうだ。

 造形的な派手さを見たければ、芸大にでも行くしかないらしい。


 それでもやる気や工夫で変わりそうなものだけど、うちのクラスはそのどちらもなかった。

 クラス内にまとめ役もいなければ、やる気のあるやつもいなかった。

 どちらか、あるいは両方いるクラスは、もう少し頑張っている感じが出し物の題材や教室のデコレーションなどからも感じられる。


 そして高校の文化祭のクラスの出し物といえば、簡単な食べ物系以外だと、お化け屋敷、クイズ大会、何かの映像上映、輪投げなどの縁日系の遊びなどになるだろう。

 講堂の舞台を使って、演劇やダンスをする場合もある。

 トモエさんの学校だと、家庭用のプラネタリウムやプロジェクションマッピングとか洒落た展示も見かけた。


 そしてやる気がない出し物の代表の一つがアンケート発表で、うちのクラスが二学期から全校対象とネット上のSNSで行ったのがそれだ。

 けど、文芸部の店番もあるオレとしては、交代の店番しかしなくていいので、文化祭当日までくれば気楽なものだ。

 しかもクラスメートも文芸部員もそれなりに気を使ってくれて、オレと玲奈が店番になるようにしてくれていた。



「それで、玲奈としてはもう一人のレナに全部委ねて良いんだな」


「うん。完全入れ替わり以外ならね。それに、もう一人の私だから信じてる」


「そっか。じゃあ、釘刺しとくよ」


「そこは伝えておく、でいいから」


「何の話だ?」


 文芸部の展示に使っている教室前に椅子と机を並べた受付。

 たまーに来る人にアンケート用紙を渡し、ハッシュタグ読み込みしますか、と聞くだけの簡単なお仕事を二人している最中だ。

 タクミが戦利品を抱えて戻ってきた。

 ちゃんと3人分あるところが、タクミらしい。


「大切な話」


「それじゃあ、こんなところで話ちゃダメだろ」


「誰もいなかったからな」


「う、うん。今、教室の中も誰もいないよ」


「それはそれで問題だな。それより、何とかゲットしてきたぞ」


 そう言って戦利品のチョコバナナを差し出す。

 これが我が校の文化祭での人気スイーツの一つだ。


「トモエさんとこの学校、もっと色々あったのになあ」


「凝ったパンケーキとかあったよね」


「うちは、外以外で火を使えるの調理実習室だけ、教室はコンロすら持ち込み禁止だからな。でも3年のクラスに、有名どころのスイーツ買い込んだカフェがあったぞ」


「それならトモエさんとこは、その場で焼くフレンチトーストすら見かけたって」


「愚痴ばっか言ってると、あげないぞ」


「悪い悪い。いくら?」


「200円。で、話って向こうの事?」


「聞こえてたの?」


「入れ替わり、のあたりからチラチラと。で、また入れ替わってるのか?」


「ううん」


 そう言いつつ玲奈が首を横にフルフルと振る。

 最近は、シズさんの行きつけの美容室に短い間隔で行ってるせいか髪が短めなので、首を振っても髪はほとんど揺れてない。


「けど無関係じゃない。もしかしたら大詰めだから、確認取る必要があったんだよ」


「大詰め? ショウ達の目的のか?」


 そう言って真剣な視線を向けてくる。

 それを見返していると、真実を話してもいいだろうかと思えた。


「タクミなら話しても」


「秘密は厳守する。前々から、何度か話そうとしてただろ?」


 相変わらず察しがいい。


「何だ、バレバレか。本当は、タクミがあそこでドロップアウトしてなかったら、多分話してた事なんだけどな」


「マジか。いや、まあその件は言うまい。で、何? ここで話せる事か?」


「あー、長話になるし、できれば3人。もしくは、向こうでの仲間と一緒の時で」


「それってトモエさんも入る?」


「うん。もう全部知ってる。て言うか、居てくれて助かったし、逆に居なかったら大変な事になってたな」


「なるほど、了解。じゃあ、出来るだけ仲間が多い時が良いかな。その時が来たら呼んでくれ」


「なるべく近いうちに話すと思う。最短、明日になると思うから」


 「りょーかい」とタクミが気軽に返した。




 土曜日はそれ以上何もなく翌日の日曜日。

 土曜日より人が増えた、オレ達の高校の文化祭。

 けど、所詮は普通の高校の文化祭なので、土曜日と大した違いは無かった。

 だがしかし、終わりも見えた午後3時頃、状況が変化する。

 何の連絡もなしに、常磐姉妹が突然オレ達の教室に顔を出したのだ。

 しかもオレも玲奈もいない場所に。



 もう回るところもなく、文芸部の展示室の片隅でぼーっとしてたら、突然玲奈のグループのリーダの伊藤が小走りでやって来た。


「玲奈、シズトモがあんたを探してる!」


「えっ?! 何も言ってなかったのに」


「トモエさん、オレ達へのサプライズとか考えたんだろ。それでどこ? 教室?」


「何でツッキーが仕切るんだっての。でもまあ、あんたもついでに来て。リクエストされたら、後で探すのめんどい」


「てか、あの二人なら、勝手にオレ達探しそうなもんだけどな」


「そうだよね」


「あんな目立つ人達に学校ウロウロされたら、周りが混乱するでしょ。いいから早く!」


 そう急かされて言った先には、双子のようによく似たファッションモデルが二人、優雅に佇んでいた。

 服装はある程度地味だけど、顔と髪型が気合入りまくりだ。恐らく、撮影とかの仕事帰りにここに寄ったんだろう。


「おっ! キタキタ。連れて来ててくれてありがとね、伊藤さん」


「い、いえ、全然。それじゃあ、私はこれで」


 トモエさんのフランクな応対にも、あの伊藤がガチガチになってる。

 ちょっと面白い。


「トモエが行こうって聞かなくてな。ちょっと遊びに来させてもらった」


「えーっ、シズは私の文化祭にも来てないんだから、玲奈とショウのやつくらい来なきゃ。それに私は来てもらったからね」


 そう言って軽くウィンク。

 もう、CMや雑誌から飛び出してきたようにしか見えない。


「あの、仕事帰りですよね?」


「分かる?」


「はい、素敵です」


 玲奈は即答だ。

 それにシズさんが小さく苦笑して、そのまま手を伸ばして横から軽く頭を撫でる。

 玲奈へのスキンシップはいつも通りだ。


「ありがとう。まあ分かるよな」


「そうかな?」


「友達に会うって言ったら、メイクさんが帰り際に顔と髪を弄ってくれてね」


「友達の文化祭に遊びに行くって言っただけなのに。あれ、絶対彼氏に会うと勘違いしてたよね」


 そう言ってケタケタと笑う。

 多分、いや確実に、そういうフリをメイクさんに見せたに違いない。

 それはともかく、その後1時間ほど常磐姉妹の案内を玲奈と二人でした。

 ただ、5時終了でほぼ終幕間際なので、教室での演劇なども、講堂の演目も、ほとんど終わってた。

 数の少ない食べ物系の出し物は、不人気店と材料を買いすぎた店が1件ずつ残ってただけ。

 展示を見るくらいしか、回るところが無かった。

 しかし常磐姉妹には目的地があった。

 文芸部だ。


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