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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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154「奉納試合(1)」

(どうしてこうなった?!)


 目の前の状況を前にして、オレの正直な気持ちだった。


 場所は、この国の王宮の側にある、観覧席も備えた練兵場。

 兵隊の行進や閲兵なども行うので、貴賓用の大きなテラス付きの立派な建物が隣接している。

 とはいえ見た目のイメージは、ローマの闘技場と言うよりは田舎の競馬場が圧倒的に近い。


 その真ん中に、オレとアクセルさんが立っている。


 一方、中央のテラスの貴賓席には、国王陛下以下、主だった王族が並んで座っている。

 王様、王妃様は、威厳とかはともかくまあフツメンだった。


 王子様やお姫様っぽい人も臨席していたが、日本の軽いお話に出てくるようなキラッキラな王子や王女は見当たらない。アクセルさんの方が、見た目は余程王子様だ。

 アニメに出てくるような若く可憐なお姫様をほんの少し期待していた身としては、少しばかり残念だった。


 その右側の観覧席は貴族や身分の高い人、左側は神殿の関係者がつめている。さらにその両横も、基本的には騎士など国の人間と神殿関係者で埋められている。

 埋まっている席は半分程度だけど、合わせて1000人は下らないだろう。


 神殿側の貴賓席には、ハルカさんとボクっ娘も座っている。

 ハルカさんの聖女どうこうについては、聖杯は特別な反応もなくシズさんの策で無事クリアできた。

 その時のハルカさんの安心具合は、事情を知っている身としては笑い出したくなる程だった。


 ただし、逆にハルカさんの魔力を抱えたオレたち、特に多少の治癒魔法も使えるシズさんが変な判定を受けたらいけないし、減らしすぎても怪しまれるので、意外に際どかったんじゃないかというのがシズさん評だ。


 その結果なのか、ハルカさんは今まで神殿巡察官の下級だったのが中級を飛び越えて上級、つまり上級神殿巡察官ハイ・テンプル・インスペクターと判定された。


 神殿巡察官としてそれ以上の階位はなく、この大神殿で一番偉い大神官すら形式上先に礼をとらないといけないくらい偉くなってしまった。


 神殿の聖杯がそう判定しているのだから、誰もが受け入れるしかなかった。しかもオクシデントの神殿中にも、この通達は順次届くらしい。

 ハルカさんが、随分げんなりしていた。


 そして、実質ハルカさんより偉い神官は、大規模な大神殿や聖地の神殿を預かる大神官(神殿長)か、総本山の総大神官や中枢の連中くらいだそうだ。


 そうした中で組織として問題なのが、短期間で魔力総量を大きく増やす人が、一部の神殿騎士や荒行のような魔物退治をする神官しかいないので、大抵は年齢を重ねつつ力を増して大神官などになるということだ。


 つまり、神官に属する偉いオッサン・オバサンもしくはジジイ、ババアどもの殆どは、若すぎるくらいのハルカさんに先に頭を下げないといけない。

 神殿の権威を保証する聖杯が見定めた能力と、それに付いてくる階位に逆らえる者が制度上いないからだ。


 これらは本来聖人のためのシステムのようだけど、神殿が民衆から支持を得る為のシステムでもあり神々が定めた事になっているので、誰も逆らえないというオマケがつく。


 もっとも、神殿組織が出来た頃は、聖人こそが組織のトップで組織自体も魔法能力が重視されていたのを、それ以外の能力しかない人達が組織を捻じ曲げて作り変えたのだろうという噂もあるそうだ。

 だからこんな事が、たまに起きるらしい。


 それでも若輩の高階位者は滅多に現れないので、組織としては許容出来る。けど、それが目の前にいるというのだから、組織運営の人の心理面で大きな問題になる。


 その抜け道もしくはガス抜きとして、若く強い力を持つ者を神殿組織の実質外にいる神殿巡察官という階位に押しやり、さらに凄い人は聖人としてあがめて奥に押し込んでしまう、とも言える。


 また大巡礼も、魔法能力の高い人を神殿の階級ピラミッドから遠ざける役割も担っているらしい。

 だから大巡礼は、一定の自由が欲しいハルカさん、階位の高い小娘に神殿内に居て欲しくない神殿組織の両方にとってウィン・ウィンというわけだ。


 ただ、大巡礼中に簡単に死なれたりしては、組織としては外聞上困る。

 だから強いお付きが居るんだよというパフォーマンスを兼ね、従者の能力を確かめておこうという事らしい。


 その事を聞いたのが当日の朝だった。

 そしてそれくらいならと安請け合いしたのだけど、この時点ではまだ安易に考えていた。


 けどオレの前に、旅のお付きが獣人であることを小声で小馬鹿にされたシズさんが、この場にいた全員を圧倒する第五列の『炎の竜巻』という豪快な魔法によって力を見せつけて腰を抜かせていたので、周りの期待と不安の視線がオレに集中してしまった。


 オレの目の前には、近隣随一の騎士と言われるアクセルさんが、完全武装で静かに佇んでいる。

 オレはアクセルさんと戦う前に、力を確かめるという名目で、ここの大神殿の神殿騎士3人から順番にあっさり一本を取っていたが、それで場がおさまるどころかかえって期待させてしまった。

 オレが関係してないところで、事態がどんどん大きくされていた。


 けどそれ以前に、オレとアクセルさんの試合は事前に組まれていたっぽい。

 これがアクセルさんが言った『お楽しみに』というヤツだったのだ。


 しかし、これ自体が神殿巡察官ルカの大巡礼を前にしての、神々への奉納試合ということにもなっていた。

 その点は、試合前に役人から受けた簡単な説明でも、やりすぎない様にと注意するように言われていた。

 要するに、それなりに見栄えのいいチャンバラをすればいいだけの筈だ。


(でもアクセルさん、やる気満々だよなぁ……)


 場が盛り上がり、双方歩みを進めて一度お互いの剣を抜いて交差して触れさせ合う。それが奉納試合の手順だ。

 その時点で、審判となる見届け人が後ろにさがり、しばし二人だけで対峙する。

 ここでお互いの気持ちを高めあうのが目的だ。


「ショウ、手を抜こうとか思わないでほしいんだ」

 

 いつものキラキラ笑顔じゃなくて「いい笑顔」だ。

 イケメンなので格好いいけど、ガチすぎてちょっと引く。


「けど奉納試合ですよね。本気すぎたら逆にマズいんじゃ」


「そうでもないよ。これは茶番ではあるけど、ボクには真剣になる理由があってね」


「何か面倒でも?」


「その通り。ボクはウルズで功績をあげすぎたので、ここでルカの従者に負けて株を下げて欲しい人達もいるんだ」


 なるほどと得心する。

 握っている拳にも、少し力が入るのが自分でも分かった。


「そりゃ負けられませんね。それに形だけの腑抜けた試合だと、別の意味で評価下げられそうですね」


「そうなんだ」


「じゃ、お互い死なない程度に本気なりましょうか、アクセルさん」


「ありがとう、ショウ。じゃ、始めよう」


 オレは新しい愛刀を両手で持って正眼の中段に構える。剣道でもよくする構えだけど、結局これが一番しっくりくる。


 一方アクセルさんは、左腕の盾を前にして右手の剣を後ろに構える騎士スタイルだ。

 着ている鎧も、オレはほぼ初期装備の胸甲など重要箇所を覆うだけなのに対して、アクセルさんは分厚い全身甲冑。兜も装着しているが、今回は観衆の目もあるのでフェイスガードは上げたままだ。

 また、既にウルズの王宮の地下で壊れた箇所も完全に修復されていた。


 そんなアクセルさんに隙は見られない。

 しかも今までは模擬戦や練習以外で1対1が珍しいので、かなりやりにくい。

 今までの実戦は1対多が多く、その場合は先手必勝で瞬間的に1対1を作るべく先に動いた。

 また、大き過ぎる敵が相手だと、人同士の戦い方の基本を無視して戦っていた。


 となると、訓練で1対1が多いアクセルさんの方が有利だろう。

 そもそも場数も違うだろうし、鍛錬してきた時間も違う。というか、技量ではアクセルさんが圧倒的に上だ。

 単に技を競うだけなら、オレに勝ち目はない。

 だからオレとしては、様子見せざるをえない。


 そして最初に動いたのは、アクセルさんだった。

 アクセルさんとは今まで何度か稽古をしていたが、どれも真剣ではあっても本気ではなかった。それに比べると、この時の打ち込みは殺気すら感じる鋭さだ。


 そしてアクセルさんは、剣を振るより突く方を得意としている。愛刀も突くのに向いた形状な上に、刀身はミスリルで今も魔力が大量に注がれている。

 確か、剣速が増すと言っていた。

 あくまで模擬戦なのでガチの殺意は感じないが、その突きの真剣さは間違いなく本物だ。手を抜けば、確実に怪我をする。


(一撃必殺の突きだ)


 簡単に捌くのはまず無理と本能と経験で判断し、こちらも一瞬遅れだけど動く。

 そしてギリギリのタイミングで剣を交差させ、アクセルさんの剣筋を反らせる。お互いの剣に込められた魔力が、派手な火花のような煌めきを周辺にまき散らす。


 魔力の煌めきを見て、まるでファンタジーみたいだと頭の片隅で思うくらいの余裕はあったが、それも一瞬のことだった。


 すぐにもアクセルさんの第二撃、第三撃が、鋭く突き込まれてくる。

 剣道でも突きはあるが、両手での突きと片手での突きはやはり違っている。

 それにこっちは大降りの剣を両手で扱うので、どうしても速度という面で劣っていた。


 このままでは格闘ゲームで画面端に追いやられる状態に追い込まれそうなので、剣同士が交差した瞬間につばぜり合いへと持っていく。

 片手と両手の力の差を利用して一気に押し出し、中央へと戻ってくる。

 これで仕切り直しだ。


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