475 「茶番の戦い(1)」
その後、さらに『帝国』の艦隊にも行ったけど、『帝国』は『ダブル』を乗せるくらいなら自分たちが乗るので余裕はなかった。
そして『ダブル』達の前まで戻ってくる。
「と言うわけです! それにオレ達の船にも10人くらいまで便乗オーケーです」
「それに私達の船は、女性用の船室もあります。あとは皆さんで選んで下さい」
「それと、決めるのは30分以内でお願いねー。これから邪神大陸横断の旅になるから、なる早で出発したいからー!」
オレの言葉の後を、ハルカさん、ボクっ娘が継ぐと、目の前の『ダブル』達が俄かに騒めき始める。
ここまでだと思っていたらしく、次に進めると言う興奮で包まれるのが良く分かる光景だ。
「合わせて20人か」「私、行ってみたい」「俺も見てみたいな。すげー景色って噂だ」「俺、ここで魔物狩りするからいいよ」「神々の塔って魔物いないんだろ」「大陸横断とか危険すぎだろ」「危ないって言ってるしな」「僕は行かないから」「神々の塔行って何するんだ?」「神様に会えんじゃね?」「行けば願い事でも叶えてくれるのか?」「叶えてくれるなら、こっちよりリアルの方のお願い叶えて欲しいなあ」「あ、それ言えてる」「流石に無理だろ」「フンッ!」
騒然としていて簡単に決まりそうにない。
けど、浮遊大陸のギルドのまとめ役と、マリアさんが仕切り始めて、まずは行きたい人が前に出てくる。
まとめ役の人は男性で、どこか勇者様っぽい出で立ちだ。
そして行きたい人だけど、意外に少なく全体の3分の1くらい。
それでも約40人もいるので、行けるのは二人に一人。
少し嬉しいのは、ジョージさん達も行きたい組だった事だ。他にもハーケン組は半数くらいが行きたい組だ。
何で決めるんだろうと思っていると、2つのグループ、それぞれ4、5人のグループがオレ達の方へと向かってきた。
片方は、真面目そうな男女混成の集団。リーダーっぽいのは、まとめ役の人だ。
もう片方は、装備は良さそうだけど、なんとなく雰囲気の悪い男の集団。
そのうち先に目の前に来た真面目そうな方が話してきた。
「初めまして、僕は浮遊大陸のギルドのまとめ役の一人、ヒイロです。一つ質問だけど、君たちの船はもっと乗れるんじゃないか?」
「見ての通り龍巣艦だから、見た目ほど船室はない。それはノヴァから来た飛行船も同じだ」
生真面目すぎて、なんだか背中がむず痒くなる感じの喋り方な言葉をシズさんがバッサリと断る。
オレでも同じことを言っただろう。
目の前の人達は、真面目系イケメン。しかも融通の利かないイメージが強い。
オレが苦手なタイプの一つだ。
その人が、真面目オーラ全開で話を続ける。
「でも、載せているのがジャイアント・イーグルとドラゴン1体ずつなら、片方の格納庫を空けられるだろう。そこに雑魚寝で乗れば、10人や20人楽勝だと思うんだ。
多少無理を言っているのは承知だし、便乗する僕達はそれで十分構わないと思っている」
「悪いが、余分な食料も毛布もないのだが?」
「食料と毛布は『帝国』から買えばいい。『帝国』も分けてくれるだろうし、それくらいなら乗るやつらが払う。神々の塔に行けるチャンスはそうそうないんだ。その条件なら良いだろ。頼む」
頭まで下げられた。しかもその人の仲間全員が頭を下げる。
これは断り辛い。
そしてオレ的には「そこまで言うのなら」と思いかけていたら、その話しかけてきていた男が後ろから半ば横合いに突き飛ばされる。
「どけっ! 何まどろっこしい事してんだ。『帝国』に取り入ってチヤホヤされてるだけで、悪魔ごときに苦戦する連中に頭下げる必要がどこにある」
そしてここで一呼吸。ビシッとオレ達を指差す。
悪い意味で絵になる。
いや、かなりのドヤ顔だから、悪いとは微塵も思っていなさそうだ。
「いいか、一度しか言わない。金は出してやるから、船ごとよこせ!」
凄い奴が現れた。
「傲慢」って名札を付けたくなるくらいのクズ野郎だ。突き飛ばされて半ば呆然としている真面目勇者と足して二で割れば、いい塩梅になるだろう。
しかも、連れの後ろの3人も同じ雰囲気を醸し出している。
片方のグループは女子が2人いたけど、こっちは男だけの4人組。一見強そうな装備で動きも悪くはない。
しかもイヤラシイ笑みを浮かべている奴もいる。
チーマーや半グレでももう少し礼儀正しいんじゃないだろうかと思えてしまう。
「そこのモブ男以外は、そのままでも良いんじゃないか」と、聞こえるように言っている。しかも他のやつも「それが良いかもな」などと顔と雰囲気共々乗り気らしい。
何を目論んでいるか、いや妄想しているかは想像に難くない。
(そう言えば、随分前に似たような相手に出くわしたなあ)
オレが多少なりとも思ったのはそんな昔の事だったけど、後ろ3人の言葉でオレは横と後ろを見たくなくなるほど空気が変わった。
けど、クズ連中は気づいてすらいない。
漫画とかなら「オイオイオイ死ぬわアイツ」状態だ。
「お断りします。あなた方の事は他の方々にも伝えますので、別の手段でご自由に神々の塔を目指して下さい」
(ホラ、やっぱり)
ハルカさんにきっぱり言われてしまっている。
そしてオレとしては、守護騎士としてのお勤めを果たす心の準備を整える。
この先荒事の確率99%ってところだろう。
(まあ、こいつらなら、最悪半分こにしても良心は痛まないか)
そう思う間もなく、クズのリーダー格の顔色が一変する。
予想通り我慢のないやつ。隠キャの勘が大当たりだ。
「ハァ?! 人が下手に出てれば図に乗りやがって! 女でも容赦しないぞ! リアルと違って、ここじゃあ何しても咎めるヤツはいないからな!」
そう言って腰の物を抜き放つ。派手な装飾がかなりイタイけど、魔法金属を使った立派な剣だ。
もっとも、動きがなってない。
他の3人も、とりあえず装備を確認しておく。
ガチガチの甲冑にハルバードの重戦士、弓系の軽戦士、杖にローブというオーソドックスな魔導師。
魔導師は、魔法属性が多い分だけ体力がない上に、触媒とか魔石とか使うものが多いので、どうしても防具が軽装になるので見た目で分かりやすい。
他の二人の装備もマジックアイテムマシマシだけど、キラキラと言うよりギラギラで見た目重視な感じがする。
それはともかく、リーダーの方は重でも軽でもなく、その中間くらい。あえて言うなら勇者様スタイルだ。
横の真面目勇者と張り合っているんだろうか。
そして全員、魔力を抑える指輪を付けていないので、魔力が丸わかりだ。多分Aランクの下位といった魔力総量で、リーダーが少し多いかもしれない。
けど、手の内を晒しっぱなしなのは、暴力を生業とする人達が一般人を威嚇するのと同じなのだろうかと疑問がよぎる。
(て言うか、回復職なし? 魔道師が兼ねてる? 攻撃特化の編成ってやつなのかなぁ。編成だけは、マリアさん達に少し似てるかな)
互いに値踏みしつつ、間合いを取り合う。
けれども、魔法使いは魔法の構築には入っていない。入れば言い争いや喧嘩では済まず、戦闘開始となってしまう。
けど向こうに、『ダブル』を相手にすると言うのに心理的な躊躇が見られない。今までも、自分たちの強さに任せて似たような事をしてきたんだろうと思わせる。





