470 「様々な人との再会(2)」
「無理、なのか?」
「まだ半々な感じです。行くだけなら、妨害がなければ、ただ空飛べば着けると思います」
「だが、この世界の人でも、中に入ったやつは殆どいないって噂だぞ。その辺の策は何かあるんだろ」
「はい。多少目処はあります。まだ確定じゃないし、足りないかも、ですけど」
「流石だな。で、妨害って?」
「今日襲ってきた魔物のボスが、塔に入る為の鍵になるアイテムを狙ってきてるんですよ。しかも、オレ達が『帝国』に居る頃から」
「そいつらが追いかけてくるのか」
「1体は、中核だけになるまで潰したから流石に簡単に復活はないと思いますけど、もう1体いますからね」
「なっ! 上級悪魔が2体も!」
「いえ、その上の魔将クラスが2体。上級悪魔は取り巻きに2体いましたけど、今日の魔物の大群の中にも他に何体か居たんじゃないかな?」
「なに怖い事を平気な顔で話してんだよ」
「魔将クラスの奴は、ノヴァでも一戦してますから」
「……呆れてものも言えんな」
二人が完全に絶句してしまった。
多少は非常識な強さの連中と戦っている自覚はあったけど、ここまでとは思えない。
けど、呆れられっぱなしなのもまずい気がするので、ここは方向転換するべきだろう。
「そ、それより、『帝国』軍の大艦隊にオレ達の状況を知らせたのって、ジョージさん達なんですか?」
「オレ達と言うより、マリアさんだ。兄弟達の行動聞いて、『帝国』の商館に兄弟達の知人って事で話通して、ゴード将軍への紹介状を書いてもらったんだ」
「マリアさん、ハルカさんには結構過保護だからな」
そう言ってレンさんが苦笑する。
三月に一回ペースで会っていたと言うのだから、確かにそうだろう。
「もっとも、ゴード将軍は邪神大陸に飛び出して行った皇子様が気になって、後追いの準備を進めてたらしい。
ただ、兄弟達が地皇の聖地でハルカさんの治癒をするって話は全然知らなかった」
「マーレス殿下にしか話してませんからね」
「そうなのか。まあそれで、短時間の巡礼ならともかく、長時間聖地に居れば魔物が動くと考えて、引き連れられるだけの兵力で慌てて飛び出したってところだな」
「なるほど。有難うございました。このタイミングで援軍が無かったら、マジでやばかったです」
「そこまで?」
「もう、殿残して逃げようかって話にまでなってましたから」
「兄弟達の冒険は、いつも綱渡りだな。マジ気を付けろよ」
「だが、おかげで良い狩りが出来たぞ!」
ジョージさんの言葉に返そうとしたところで、元気なおっさんの声。
空軍元帥だ。
お供を連れて、のしのしと機嫌よく近づいてくる。
それに取り敢えず頭を下げる。
「空軍元帥。本当に助かりました」
「ヨイヨイ。それより、後を尾けるように来援してしまい申し訳ない。私は、ノヴァで会った時に話しても良いかと考えたのだが、そこの派手女が話すなビックリさせてやろうと計画段階で言いよってな。ノヴァですれ違ったおりも、話せなかった」
「アラ、わたくしのせい? まあ、かなりピンチだったみたいだし、話していればもう少しやりようがあったわよね。ゴメンなさいねハルカちゃん」
一歩遅れて近づいてきたのは火竜公女さんだ。相変わらず、イケメン2人をお供に連れている。
いつも自分の演出を忘れない人だ。
「私達も、こんな酷い状況になるとは予想もしてなかったから、事前に話されていたらむしろ来ないで下さいって言ってたと思うわ」
「アラ、ハルカちゃんらしい」
そう言ってコロコロと笑う。
やはり優雅というか、仕草が堂に入っている。
「こちらは火竜公女さん?」
そこにマリアさんが、二人のやりとりを前に一歩前に出た。
ちょっと火花を散らしそうな雰囲気がある。
まあ、ハルカさんが人気者という事だろう。オレはとばっちり回避のため不介入を貫いて、空軍元帥の接待に専念する。
「それで元帥、戦果はどうでしたか?」
「空戦も存分に出来たし、なかなかに面白い狩りだった。まあ欲を言えば、魔物が駆る竜騎兵に会えなんだ事くらいかな? 全部レナ少佐が喰ってしまったんだろう」
「昨日から連戦でしたからね。それに、1騎はボスごと逃げられました」
「辺境伯がボスを逃したのか。其奴、よほどの強者だな?」
「魔将クラスが2体でしたからね。マーレス第二皇子がいなかったら、確実に負けてました」
「魔将が2体?! 空以外では、私も会いたい相手ではないぞ。よく無事だったな。流石辺境伯だ。で、神々の塔へは?」
「行きますよ。魔物が攻めて来なければ、今朝立つ予定でした」
「それは良かった。なに、私達はただの見物人だ。私も昔は世界中旅して回ったが、ここ邪神大陸や神々の塔には行けず仕舞いだったからな。うん、聞きたかったのはそれだけだ。では、晩餐の祝勝会でまた!」
言いたいことだけ言うと去って行った。
隣では火竜公女さんと女子組の会話も終わるところだ。
そして、ジョージさん達がちょっと唖然としていた。
「兄弟、あんな有名人とタメなんだな」
「案外分かりやすいから、付き合いやすい人ですよ」
「そう言える肝の太さを俺は分けて欲しいよ」
レンさんがしみじみとコメントを添える。
添えられても困るし、分けることもできないけど、オレも知り合うまでは有名人に対して似たように思っていたものだ。
その後もオレは、ジョージさん、レンさんと雑談に興じたけど、女子達はルリさん、ハナさんが急いで準備したお風呂タイムとなった。
疲れたしスス臭いのを落としたいと思うのは人情だろう。オレ達男勢も、夕食までに烏の行水レベルながら風呂に入らされた。
そしてその間に、諸々の片付けに並行して、今夕も神殿前の広場で野外のワイルドな晩餐会となった。
けど今回は人数が多すぎるので、最初に来たオレ達とマーレス殿下達以外は、『帝国』の相応の身分の人達と『ダブル』が呼ばれていた。
『ダブル』は、ノヴァトキオでは騎士階級的な扱いなので、国対国の催しでは招待しないと『帝国』のような権威的な国では自分達の面子が立たないらしい。
なお、今回地皇の聖地まで来た『ダブル』は、『帝国』の冒険者ギルドから腕利きばかりが100名ほどが『帝国』の軍艦に便乗して来たそうだ。
ジョージさん達も同様で、ハーケンから20人ほどが駆けつけてくれていた。
だから合間合間に見知った顔に何人も会って、軽く挨拶なども交わしたりもした。
ノヴァからは、空母とも呼ばれる大型の空中巡行戦艦が1隻。オレ達の船よりも一回り大きく、しかもプロペラ推進の最新型、と言うよりノヴァ型だ。
こちらには疾風の騎士3、竜騎兵3、それに『ダブル』が諸々合わせて20名ほど。それに操船などをするノヴァ市民軍が30人ほど乗艦している。
一方で、マーレス殿下の部下は激減してしまったので、皮肉にもスペースは確保された。
ただ、『帝国』側も飛行船の軍艦10隻に分乗して総数で2000名以上、騎士だけで500人近く来ていたので、椅子やテーブルが全然用意できず、立食形式での簡単な晩餐だ。
まあ普通に立食パーティーでいいのだろう。
そして戦闘自体が、援軍側から見ると楽勝の勝ち戦、半ば囮となったオレ達とマーレス殿下達にとっては予期せぬ援軍による大勝利なので、夕食会は和やかで賑やかなものだった。





