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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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153「大巡礼」

 そして3日後の朝、巨鷲のヴァイスの背に5人乗り込んでいた。

 脚にしがみついたりしない限り、定員一杯だ。首ともはレナ、ハルカさん、シズさんで、後ろの背中にオレとアクセルさんが寝転ぶ。

 足に大きな袋状の籠のようなもの結び、中に人や貨物を入れて運ぶ方法もあるらしいが、ヴァイスの場合は脚甲を付け、大きな専用の荷物袋を結びつける。


「アクセルさんは空は初めてですか?」


「いや、お役目で翼龍の背に乗せてもらう事があるよ。巨鷲は初めてだけどね」


「オレは巨鷲というかヴァイスしかないです」


「それで空中戦にまでつき合うショウには脱帽だよ」


 いつもの笑顔でなく苦笑混じりなので、本当にそう思っているのだろう。オレ的にはアクセルさんなら、余裕で同じことができると思うのだ。


「マジの空中戦の時は目を回しそうになりましたけどね」


「だが飛龍を1匹仕留めたんだろ」


「あれはレナの言う通りしただけですよ」


「飛行生物はお腹や背中は弱点というから、敵も予想外だったのかもね」


 そうは言いつつも、アクセルさんの感心は薄れていないみたいだ。まあ、珍しい事をしたからだろう。


「そんなところでしょうね。逆襲の形でしたけど、それ以上に驚いてたかもしれません」


「はいはい、後ろの男組は黙っててね。離陸するよー」



 そしてアッという間にフリズスキャールヴに到着した。

 大人数でもヴァイスにとってはたいした荷物ではないらしく、かなりのスピードで飛ばしたので昼前には到着した。

 ちょうど街の中央の鐘楼からは、昼の鐘の音が響いている。


 フリズスキャールヴは、現実世界の地球だとちょうどスウェーデンの首都ストックホルムとほぼ同じ場所にある。

 しかし『アナザー・スカイ』は海面上昇を含めて少し地形が違っていて、オレたちの世界の街よりやや南側にあるのだそうだ。


 街は天然の細い湖の水路に囲まれ、東側は海に面している。

 街自体は水面もしくは海に面した平地に広がっているので、ハーケンの街とは印象が大きく違う。古くから都が置かれているので開発は進んでいて、街の中央部は石や煉瓦で作られた建造物も多く見られる。

 オクシデント北部最大の都市だ。


 しかし庶民の区画には木造建築物も多く、ハーケンの街の方がここよりも随分と栄えている印象を受ける。

 逆に南に位置する王宮、中央にある大神殿など立派な巨大建築物が目を引く。


 ボクっ娘が操るヴァイスは、アクセルさんの指示に従って街の郊外へと降り立つ。

 そこはハーケンほどではないが、飛行場のような場所になっていてる。

 と言っても、広い馬場に空を飛ぶ船用の桟橋のような塔が立っている程度で、設備は十分とは言えない。


 滞在もしくは停泊している飛行生物や空飛ぶ船も少ない。

 というか、ほとんどいない。いても天馬や飛馬、それに翼龍だ。

 アクセルさんが「ハーケンを見た後だと随分寂しいだろ」と苦笑まじりに言うほどだ。


 飛行場に到着すると、既に何人か国の役人や兵士らしい人たちが待機していた。中央には、『帝国』の人には劣るけどかなり身なりの良い人もいる。

 そしてその身なりの良い人が一歩前に進み出て、恭しく一礼した。


「私、アースガルズ王国の大臣、スヴェン・ヨアキム・ヴェサールと申します。

 神殿巡察官のルカ様、疾風の騎士のレナ様ならびにお付きの皆様、このたびのご活躍をお喜び申し上げると共に、我が国への多大なるご助力、我が主君カール23世に代わり深く感謝申し上げます」


「神々の導きに従い、勤めを果たしたまでです」


「そうであったとしても、神々のお導きと皆様のご助力に対して、我が国は深く感謝致しております」


「お言葉、謹んでお受けさせていただきます」


「寛大なるお言葉に感謝を」


 そこでヴェサール大臣は一礼し、次にアクセルさんに向き直る。

 オレ達との挨拶と儀礼的なやり取りはおしまいと言う事だ。


「凱旋おめでとう、アクセル卿」


「わざわざのお迎え痛み入ります、スヴェン卿」


 アクセルさんが改めて優雅に一礼する。


「うむ。それでは、皆様はまず迎賓館へお移りいただきたく存じます」


「分かりました。ですが今回私たちは、大神殿に用向きがございます」


「もちろん存じております。その件を含め、神殿を交えてお話させていただきたく考えてございます」


 アクセルさんを送ったら大神殿に行ってさっさと用件を済ませようと考えていたが、そうは問屋が卸さないという状況らしい。

 栄誉を称えるとかの話だけでなく、アースガルズ王国は神殿との関係が深いので王国が関わるのが通例らしいからだ。

 この国に近隣で唯一の大神殿があるのも、神殿側の都合だけでなくこの国が神殿と深い関係に有るのが大きな理由だった。


 もっとも、話はそれほど面倒ではなかった。

 基本的にはハルカさんの力が上がっているので、今までのこの国並びに旧ノール王国での活動と活躍も踏まえて昇進する事。

 ほぼ個人的な部下となるオレ達に、相応の地位を神殿が与える事。また神殿も活躍を讃えて、何かしらの報償を渡す事。それを伝えるのが主な事だった。


 そしてその場には神官側の儀典官なども来ていたので、あとは神殿で諸々の手続きをの話をするだけだった。


 ただ、幾つか問題があった。

 一つは、さらに階位の上がるハルカさんの部下としてオレたちが相応しいのかを、神殿が能力を確認したいと考えている事。

 もう一つは、大問題となった魔女を鎮定してしまうほどの力を持つオレ達を、この国が召し抱えたいと考えていたり、ここの大神殿が所属させたいと思っている事だ。


 けどハルカさんは、もう一つの方は織り込み済みで、既に対策は考えてあった。もちろん、オレたちも既にその話は聞いていた。



「だ、大巡礼ですか」


「そうです。神々の導きによって良きしもべ達を得る事もできましたので、これを機に聖地を巡ろうと考えています」


「確かに空士を供とすれば、それも叶いましょう」


「もともと巡察官として功徳を積んできたのも、巡礼の為のお暇を頂戴したいという考えもありました。

 ですので、今回の神殿の側からの賜り物については、大巡礼の間の自由行動のお許しを頂ければと切に望んでおります」


「なるほど。すばらしいご決断です。して、どの神殿に属する形で旅立たれるお積もりでしょうか」


 これは神殿にとって重要らしい。

 どこの神殿の神官が神々への奉仕を行うか、この場合大巡礼という世界中の聖地巡礼を行う人を出すことで、神殿の格が上がるのだ。


 ただし一つの神殿に属した形で旅に出ると、場合によっては各地の神殿で嫌がらせなども受けるらしい。

 しかしこの場合必要なのは、諸々の手続きを一瞬で終わらせる為、ここの大神殿から打算の好意を得ておくことだ。


「私はノヴァトキオ大神殿に属しております」


「聖魔タカシ様のいらっしゃる大神殿ですね」


「左様です。ですから、簡単に所属を変える事は出来かねます。ですが、今回はこちらの森の海管区大神殿にご助力いただく事になりますので、名を列ねさせていただきたいと考えております」


「それは当大神殿にとって大変名誉な事です。それで大巡礼には、いつ発たれるご予定ですか?」


 言葉にも態度にも出ていないが、ほんの少し安堵する雰囲気が感じられた。


「大巡礼は私の悲願でした。カール23世陛下より、ウルズ鎮定へのお言葉を賜りましてすぐにでも発ちたいと考えています。

 ですので、誠にお手数ですが、大神殿での手続きは可能な限り早く行いたく、お願いいただけないでしょうか」


「畏まりました。ご返答はすぐにお持ちし、可能な限り早く準備を整えさせていただきましょう」


「よろしくお願いします」


 両者笑顔でやり取りしているが、一連のやり取りを見ても組織ってのは面倒くさいとしか思えなかった。


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