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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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152「煉獄(インフェルノ)」

煉獄インフェルノだ」


 初見の兵士達が口々に言っている。まるでポピューな魔法のようだけど、滅多にお目にかかれない高位の魔法だ。


 しかも使えるだけの魔石、龍石を使い、さらに『ダブル』の魔法職を動員できるだけ動員しているので、大きな規模になっている。

 呪文や魔法陣の構築のため、ハルカさんやマリアさん達も参加していた。


「20メートル級の魔法陣なんて俺初めてだ」

「城攻めと言えば煉獄インフェルノだが、大規模な城攻めでも滅多にお目にかかれないだろうな」

「あそこにいたって言う『魔女の亡霊』でも、これは無理だろ」

「どうだろう、あのデカさのゴーレムを動かしたとなると、タメ張るんじゃないのか」

「逆を言えば、この魔法をメインで構築してるあのエロ狐が凄すぎなんだろ」


 『ダブル』達が口々に勝手な事を言ってる。

 そして、魔法を構築しているシズさんに、周囲の視線が集中する。


「まあ尻尾5本だし、Sランなんだろ」

「飛行職以外のSランって、オクシデント中探しても100人くらいだろ。何でこんなとこに居るんだ?」

「さあ、この為に呼ばれたんじゃね?」


 各所では魔法職を守っている『ダブル』達が口々に感想を言い続けているが、ただ見ているわけでは無い。

 危険を察知して魔物の森を出てきた魔物たちを、主に遠距離攻撃で仕留めたり、森に追い返したりしている。


 森の上空のやや高い位置には、ボクっ娘がヴァイスでゆっくりと旋回していて、状況の監視と緊急事態に備えている。


「黒く深き闇よ、紅く激しき炎よ、漆黒にして紅蓮の園を我が前にもたらせ。『煉獄』」


 シズさんの静かな声によって、ついに熱地獄が出現する。

 約200メートル四方の広大な空間が高温状態へと一気に温度が上昇し、魔法の完成前に早くも枯れ草などが自然発火を開始する。

 しかも温度は上昇を続け、次々に生えている木までが煙を出し始める。


 魔女の時は、この魔法の低位版の『業火』と炎系の攻撃魔法を同時使用していたので、温度は短時間なら人も耐えられた。けど今回は、その上位に当たる魔法なので、生物は中に入ると短時間でも危険だった。


 さらにそこに、他の魔法使いなどによって、次々と火、炎の魔法が投射されていく。

 加えて、兵士たちやオレ達『ダブル』も、弓を持つものは火矢を次々に打ち込んでいく。


 こうした火や炎は、煉獄の魔法との相乗効果で普通では考えられないほどの効果を発揮する。

 煉獄の魔法の真骨頂であり最も恐ろしい点だ。

 しかも、少しでも隙間があれば、魔法の効果が入り込んでいく。城壁を破壊するわけでもないのに城攻めの魔法、「攻城魔法」とも言われる所以だ。

 岩で出来た部屋の中に隠れていようとも、熱は隙間から入り込み、その熱は中を最低でも蒸し焼きにしてしまう。

 そしてその場に可燃物があれば、それが火元となって火災が起きる。


 そしてこうなると、もはや火災を止めることはできない。

 しかも煉獄の魔法はまだまだ持続しているので、直接範囲内の温度は周りの熱に煽られる形で上昇を続ける。

 だから本来なら数日は燃え続ける森林火災も、すごい短時間のうちに可燃物を失って燃え尽きていった。

 まるで早送りで見ているようだ。


 あまりに激しく燃えるので、中に生き物がいると燃えるよりも先に酸欠で死ぬそうだ。そうでなくても、一酸化炭素中毒で死ぬ場合も多いらしい。

 炎の精霊とかファンタジーなものが関わるより、よほど恐ろしい気がする。


 そしてその熱と炎によって、森を埋め尽くしていた魔木、魔草などは根も種も残さず灰燼に帰し、同じ場所にいた中小の魔物、魔獣のほとんども殲滅されていた。魔物化していた昆虫も同様だ。

 しかも通常よりはるかに高い高温と巨大にな火災によって、上昇気流など自然発生の形で火災旋風が発生し、破壊に拍車をかける。


 それでも火災を逃れてくる魔物がいるが、火災の及ぶ範囲を絞っていあるので脱出経路も限られており、迎撃組は待っているだけで入れ食い状態だった。

 そして焼け死ぬ形の魔物や魔獣は、周囲にどんどん魔力を放出していく。

 「ボーナスステージだ」という声が聞こえてくるほどだ。


 一方で、燃える範囲が魔法が作り出した障壁で限定されるので、過剰に燃え広がることもない。

 ついでに言えば、魔物や魔木の消滅で溢れた魔力は、主に周辺を囲む『ダブル』が吸収する形になるので、次の魔物、魔獣の発生というさらなる二次災害、三次災害の可能性も大きく減少している。

 そして魔力持ちは、その場に居合わせるだけで経験点代わりの魔力を大量に獲得することができる。

 大量の魔物の鎮定としては、ほぼ満点の結果だ。

 

 こうして、鎮定には長期間かかるとみられていた澱んだ魔力で覆われていた魔物の森は、オレたちが来たその日の夕方までに焼け野原となり、魔物は1匹残らず殲滅された。

 旧ノール王国主要部の鎮定が、また一歩大きく前進したのだ。



「「おつかれ〜!!」」


「何日か前も同じように騒いでなかったっけ?」


 その日の夕方、魔物の森を燃やして鎮定した人々の明るい声が響いている。

 神殿のある廃村と違って王都の前の野営地なので、キャンプ状態で食べ物は限られている。


 けど、オレ達がハーケンの街で買ったみんなへのお土産の高級酒の一部が開けられているので、料理の簡素さを十分カバーしていた。


 料理の方は、ほぼ野戦飯。糧食兵が作った大なべのシチュー、肉の串焼き、それに固いパンくらいしかないので、酒の良し悪しは士気にすら関わる。

 そう思って酒を樽で買っておいて正解だった。


「で、兄弟、これからどうするんだ」


「2、3日はここを手伝いますよ」


「ショウたちが相手にするような大物も強敵もいないと思うぞ。灰にしたあの森の焼け跡にデカイ魔石が転がってたって言うから、その持ち主が最後の大物だったろうしな」


「別に大物じゃなくて構いませんよ。ゴブリン一匹でも残すわけにはいきませんからね」


「うんうん、初心忘れるべからずだな」


 俺の言葉に、ジョージさんがもっともだと頷いてくれる。

 それも当然で、魔物1匹でも見逃すと、そこから新たな集団が徐々に形成されていくからだ。


「それとマリ、それにみんな、ハーケンの話を伝えたいから、後でちょっと付き合ってね」


「また面倒抱えてきたの?」


「私じゃなくて、ショウの大ボケのせいでちょっとね」


 ハルカさんが、そう言って小さく苦笑する。

 しかもその苦笑にシズさんも加わる。


「まあ、念のため話すだけだ」


「狐さん、じゃなくてシズさんも馴染んできましたね」


「まあな。ショウに付き合っていると、ボーッとしている暇がない」


 シズさんは言葉の最後で肩を竦める。

 そう言えば、もう酒をチビチビ飲まなくなっている。そういうところも、みんなちゃんと見ているのだろう。


「ハーケンでも、『ダブル』のクズに絡まれてマフィアと追っかけっこしてるんだよ」


「あそこのマフィアは複数組織あるから、一度こじれると面倒よ」


「マフィアは『ダブル』のクズがらみだし、冒険者ギルドの自警団が後を請け負ってくれたから大丈夫とは思うけどねー」


「『ダブル』のクズね。俺達も、あっちと同じで色んな奴がいるからな。絡まれたのか?」


 ジョージさんが心配げに見てくる。


「ギルド入会時のランク評価後に、生意気だって因縁つけてきたんです。じゃあ模擬戦で白黒つけようって事になって、模擬戦で瞬殺したら恨まれまれて、その後に連中が雇ったマフィアと連中に襲われました。自警団のおかげで寸止めでしたけど」


「うわっ、情けねー。そいつらもうハーケンどころか、冒険者ギルドのある都市には近づけないぞ」


「だな。『ダブル』の多いところって、基本ギルドのある街だからな」


 やはりと言うか、みんな呆れている。

 しかし呆れるくらいだから、ああいう人は少ないという事なので、ちょっと安心もする。


「今頃牢獄だと思いますよ。ウェーイな感じの自警団の人に捕まってましたから」


「ああ、あいつらね」


 マリアさんが、ちょっとウンザリな表情を浮かべている。

 ハーケンは冒険者ギルドのある数少ない場所なので、顔見知りでも不思議は無いだろう。


「ハルカはナンパされたんじゃない?」


「マリも?」


「あそこのギルドの、ここ最近の恒例行事みたいなものらしいわ」


「いい人でしたけどね。ちょっと苦手ですけど」


「だよな。オレもちょい苦手だ」


 オレと少し似た波長を持つレンさんも苦笑気味だ。


「そうか。それより、ここが片付いた後は? 良ければオレらとしばらく一緒に行動しないか?」


 ジョージさんが、言葉と共に少し身を乗り出す。

 けどその頭を、サキさんがポカリと軽く叩く。


「そう言うわけにはいかないでしょ、バカジョージ。レナさんがいるのに」


「あ、そうか」


「ヴァイスには好きにしてもらって、短期間だけどボクだけ誰かと一緒にパーティー組むことも結構あるよ」


「レナの事はともかく、嬉しいお誘いなんだけど、この後はフリズスキャールヴに行かないといけないのよ」


「その件なんだけど、ボクもヴァイスに同乗させてもらえないかな?」


 そこでアクセルさんが近づいて来た。


「5人までなら背中に乗れるから大丈夫だよ。急用なのアクセルさん?」


「そこまでじゃないけど、出来ればギリギリまでここの鎮定を見ておきたいからね。同乗の際の報酬は払わせてもらうので、よろしくお願いするね」


「いいよいいよ、ついでだから」


「そうかい。それで、ここからだとどれくらいかかるかな?」


「ゆっくり飛んで4、5時間ってところ。ひとっ飛びだね」


「それなら3日後の朝にお願いするよ。本当に助かる」


 そう言ってアクセルさんが少し深めのお辞儀をする。

 騎士や特権階級が軽々しく頭を下げたり膝をつくものじゃないけど、名誉職のような存在の疾風の騎士相手なら問題ないんだろう。

 その後も宴会は続いたが、あとは取り留めのない話ばかりだった。


 その後2日間は、『夢』では魔物や亡者の残り物の掃討をして夕食で相応に騒ぎ、現実の方では連日バイトとなった。

 家庭教師の方も、シズさんの部屋で一回目を行ったが、お試し的なものもあり宿題の難しいところに取り組む程度だった。


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