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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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457 「目覚め(2)」

 そして追撃、当面の後始末などを済ませ、マーレス殿下からの使いもあったので、殿下の飛行船の大食堂兼会議室に一同が集まった。


 しかし『帝国』の方にはけが人、重病人が少なくないので、ハナさんがオレ達の船でも奮闘中だ。

 ルリさんも「ハルカ、目え覚めたんやろ。ほな、うちは料理作らな」と、厨房に行ってしまった。


 入れ替わりに、レイ博士とリョウさんが来ている。

 リョウさんは沢山紙などを抱えていて、記録を取る気満々だ。

 フェンデルさん以下ドワーフ達は、早速魔物に傷つけられた船体の修理にかかっている。

 また、ボクっ娘と悠里は、空を見張ってると言って、一通りハルカさんが目覚めた事を抱きつくなどして喜んだあと、会議の話を聞くとすぐ空へと上がっていった。

 あとで話をまとめて聞くそうだ。


 会議の参加者は、『帝国』側がマーレス殿下と付き従っていた文官の側近の人、強そうな近衛の騎士、それにジジイの魔法使い。それに船長らしい人。

 あとは記録する人(恐らく書記官)がいるくらいで、オレ達の方がメンツが多い。

 オレ、ハルカさん、シズさん、トモエさん、レイ博士、リョウさん、それにホランさんだ。

 また、妖人のダンカルクさんも同席している。



「で、結局、ショウ殿達は、ルカ殿を実質的な触媒として、この神殿の魔力の浄化結界を恒久的に再始動させた、という事で良いのだろうか?」


 マーレス殿下が、最初に少し困惑しながら口を開いた。

 オレとしては、ハルカさんを目覚めさせただけと言うシンプルなものだけど、地皇の神殿の様子がそれを否定している。

 何しろ一時的と言っていた神殿の結界は、未だ元気に作動中だ。

 そしてこの件に関して、ダンカルクさんとハルカさんからは、会議前に少しだけ事情と口裏合わせを聞いている。

 殿下達に話すとしたらオレ以外の仲間になるだろうから、オレはバレないように心がければ問題はない。


「私達としては、安全に聖地巡礼を果たすため、あくまで一時的なものを予定していました。ですが、予想を遥かに上回る成果を得られたようです。これも神々のお導きでしょう」


 ハルカさんが神官ぽく、それらしい仕草と表情でそれらしくまとめる。

 これがオレ達の嘘の真実だ。

 そしてマーレス殿下以外の『帝国』人は、一様に感嘆の言葉を漏らす。しかも感動している人までいる。

 けど妖人のダンカルクさんには、一言あるらしい。


「我々も一時的なものを期待して協力したのですが、おそらく一定期間、もしかしたら恒久的に聖地の結界が復活したかもしれません。そうなればルカ殿の行いは、全世界が賞賛を惜しまないことでしょう」


「貴殿らもな。で、正確なところは分からんのか?」


「すでに調査を開始しておりますが、詳細が判明するには時間をいただきたい」


「それは構わない。それにしてもルカ殿、水臭いではないか。もう少し詳しく話してくれれば、より協力できたものを」


「結果がどうなるか未知数でしたので、ご容赦を。失敗に終わる可能性も十分ありましたから」


「神々に愛された貴殿の行いが、徒労に終わることなどあり得まい。ワシはまるで、古文書の中に記された聖女の伝説をこの目で見る思いぞ」


「勿体ないお言葉。それとここでの私達の行いは、しばらく伏せていただけないでしょうか」


「何故だ? これほどの業績だぞ。伏せるなどあり得んだろう」


「なればこそ、です。神殿も色々とございます。ましてや私は若輩者なれば」


 そこで言葉を濁す。

 けど、マーレス殿下は納得いかないご様子だ。


「神殿の内々の事など、ワシは知らぬ。結果こそ全てではないか。それにだ、魔の森を燃やす件もうまくいっていると先ほど伝令がきた。このままいけば、魔の森を焼き払う作戦も本格化するだろう。そしてここは、そのための安全な拠点ともなる。

 そしてワシは、ここでの成果を武器に『帝国』での主導権を握るつもりだ。そうでなけば、協力されたダンカルク殿以下妖人の方々にも申し訳が立たん」


「ではせめて我が名だけでも」


 少し苦しげにハルカさんが追いすがる。

 けれど、マーレス殿下が今度は苦笑する。


「欲のない方だ。しかし、貴殿らが大巡礼をしているのは、今や『帝国』中にも周知の事。こんな危険な場所に来る高位の神官と言えば、貴殿しかおらんのはわらべでも知っておるぞ」


 その言葉に、一瞬ハルカさんが「そうだよなー」的な諦め気味の表情になる。

 けど次の瞬間に、悪巧みでも思いついたような表情に変化する。


「では、報告を数日だけ遅らせて下さい。私達は、これより神々の塔へと向かおうと考えております。『帝国』の方々には、あまり快い話では御座いませんでしょう」


「なんと! だが何故? 神々の神殿は、大巡礼とは関係あるまい!」


「目覚める時、啓示を受けました。彼の地に至れ、と」


 オレ達は、ハルカさんからそんな事聞いてないけど、何か考えがあるんだろう。

 我が主人なら啓示を受けて当然、とでもいう表情を浮かべておけばいい。

 そしてマーレス殿下の方は、驚きの後に渋々といった表情に変わる。


「……うーむ、神々の啓示とあらば是非もない。相分かった。では、準備出来次第、旅立たれるが宜しかろう。どうせ今すぐ報告したところで、祖国が何かを言って来るのは一週間先だ。後のことは、このマーレスが何とでもしておく。

 それと必要なものがあれば言ってくれ。この場にあるものなら融通しよう」


「ご配慮痛み入ります。なるべく早く、出来れば明日朝にも立たせて頂きたく存じます」


 ハルカさんが深々とお辞儀する。

 そしてそれを見届けて頷いたマーレス殿下が、一拍おいて「ごほん」と咳払いする。

 仕切り直しという事だ。


「それでダンカルク殿、ルカ殿たち同様に明日朝にはここを立たれるのかな?」


「調べがついてからですが、そのつもりです。『帝国』の方々が大挙してここに来るというのなら、隠れる以外の選択肢は御座いません」


「我らが尾ければ、その隠れている場所もすぐに見つけられると思うのだが?」


 殿下の言葉にダンカルクさんに緊張が走る。

 けどマーレス殿下に緊張はない。それどころか精力的な笑みを浮かべる。


「それよりも、だ。我らと手を携えてこの邪神大陸を人の手に戻さぬか、ダンカルク殿?」


 その言葉が意外だったのだろう、ダンカルクさんが一瞬呆けた表情を見せる。

 そして難しい顔になる。


「マーレス殿下、あなたは信頼出来るかもしれない。だが、『帝国』いや人の国を信じろというのは、我々には非常に難しい。根無し草の「客人」なら、あまり問題ないのだがね」


「であろうな。何しろ我らは、貴殿ら妖人を利用する一方で、迷惑しか及ぼしておらんものな」


「言い難い事ですが、難しい過去が大きく横たわっているのは確かです」


「だが、敵対してきたわけではあるまい。とりあえず当座だけで良い。ワシは全力で貴殿らの権益、利益を守り、便宜を図る。何と言っても、ここは貴殿らの大地だ。その代わり、貴殿らは知恵を貸してくれぬか」


 そう言って頭を下げる。

 それをダンカルクさんが厳しい目で見つめる。

 て言うか、マーレス殿下の言葉が早かったせいで、オレ達は席を立つタイミングを逃した形だけど、この話を聞いて良いんだろうか。

 ちらりと見たみんなにも、同じ困惑がうかがえる。


「即答はいたしかねる。里に帰り、十分話し合った後にご返答差し上げる」


「それで構わぬ。では、ルカ殿がこの場の証人だ。皆様よろしいな」


(なるほど、その為にオレ達の居る場所で話を進めたんだ)


 オレが内心納得して居るところで、ハルカさんとダンカルクさんが頷いた。

 そしてその後、半ば雑談をして後に、当座の祝勝会と戦死者の鎮魂を兼ねた晩餐を行うことを決めて解散となった。


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