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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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451 「エルフの里(2)」

「ねえチャーン!!」


 大声と共に黄色い髪の少年が全速力で走りよって、そのままトモエさんの胸にダイブする。

 トモエさんは、それを姉よりほんの少し小さな、それでも十分豊かな胸で受け止め、少年がそこに顔を埋める格好になる。

 「なんやベタな光景やなぁ」とはルリさんの呟きだ。

 オレもそう思ったけど、実にうらやまけしからん。


 それよりも、金髪ではなく黄色という髪が気になった。

 そこで「クロ」と短く呼びかける。そしてそれで察してくれるのが、クロの凄いところだ。もう、オレの思考深くを魔力的に読み取っているんじゃないかと思えるほどだ。

 そしてオレの期待を裏切らず「わたくし達の同類に御座います。ですが詳細は不明です」と、短く答える。


 そして目ざとくそれを聞いたトモエさんが、一通り黄色い髪の少年とじゃれ終わってこちらへと向く。


「ゴメンね。こいつが私の秘密の二つ目。もう気づいてる通り、『帝国』の魔導師協会で私を主人認定した黄色いキューブね。あそこにこっそり入った時に、こいつから付いてきたんだ。当然、そこのクロとミカンの同類ね。はい、ご挨拶」


 言葉の最後を受けて、黄色髪の少年が一見ピシッと姿勢を正す。

 けど、その表情は面白がっている。キューブな魔導器だけど、かなり人間味溢れた感じがする。


「ご紹介に預かりました、キイロに御座います。我が能力は知識。

 で、ねーちゃんは、今俺が知識を託しているご主人様だ。もっとも、オレが側にいないと、オレの場所すら話せない欠陥品になっちまうけどな!」


 途中で態度が一変して、見た目相応に子供っぽくなる。

 ウルフヘアっぽい黄色い髪の元気な少年。どこかの街角で、友達と一緒にいたずらをしてそうなイメージが思い浮かぶ。

 そしてその悪ガキのおねーちゃんのように、トモエさんが首根っこを捕まえて頭をグリグリする。


「何の能力もない道具がうるさい」


「イテッ! 魔法も全部知識だから、一緒にねーちゃんに託す事になってるだけだろ。いらないなら返せ」


「えーっと、クロ達と違って、少し特殊なキューブっぽいですね」


 話がなかなか進展しそうにないので、取り敢えず一言口を挟んでみる。そうするとトモエさんが小さく苦笑する。


「そうみたいだね。しかも中途半端な状態なのはクロと同じだから、肝心の知識も断片的っていう欠陥品なんだよね」


「欠陥品言うな。俺様の聖地のバビロンで覚醒すれば、この世界の知識を全部ぶちまけてやるのに!」


 聖女二グラスことヴィリディさんから聞いた話は、ここから出てきたのは確定だろう。

 けど、分からない点も多い。

 それを察したトモエさんが、一度全員を見渡す。


「こいつは、主人認定した誰かを介してしか、溜め込んでる知識を披露できないようにされてるんだよ。

 しかも主人と離れ離れだと、契約魔法状態で能力的なことはともかく知識は主人の頭の中でもロックがかかるっていうセキュリティ付き。凄いけど、面倒臭いよね」


「それでトモエさんは、具体的な事を今まで話せなかったんですね」


「うん。すっごく、モヤモヤしてた。まあ、妖人の里の事は別件で、ガチの契約魔法で話せなくなってたけどね。あと、ついでに言っちゃうけど、私は春から夏にかけて、ここベースに修行してたんだ」


「トモエ様には、周辺の魔物討伐で大変お力添えをいただきました。その魔導器からの知識共々、我らは大いなる恩義を受けています。

 ご友人の皆様の事情はある程度察してはおりますので、出来うる限りの事は致しましょう」


 ようやく話が軌道修正できたと見たのか、長のエルフさんが話を再開、いや始める。

 それにしても、見るからにエルフだ。

 しかもハリウッド映画で見るエルフすぎて、文句のつけようもない。どこかのアミューズメントパークにでも来たような錯覚に陥りそうなほどだ。

 それはともかく、場の空気を読んでキイロという何だか少し可哀想な名前のキューブも静かにしたので、こちらの要件を伝えた。



「……なるほど。聖女二グラス様ですら癒せないので、古代の知識を頼ろうと。

 ですが、あなた方がおっしゃった体内の魔力量が多すぎるというい推論は、恐らく間違いでしょう。我々は、過去何度も「客人」に出会って来ましたが、そのような話は聞いた事がありません」


「そうですか。それでは、原因か治療法は分かりますか。それが無理なら、目覚めさせる事は出来ますか?」


 できる限り真摯に真剣に聞くと、エルフの長がしばし考え込んだ。

 そして少ししてから、俯き気味だった顔を上げる。


「思い当たる節はあります。過去の文献を調べてみましょう。ただ、確証はありません」


「分かりました、お願いします。それで、調べるのにどれくらいかかりますか?」


「すぐにでも。お茶でも飲んでお待ち下さい。案内を。

 あ、そうそう、我ら以外の他の者との会話は可能な限りお控えを。余計な知識を得すぎると、トモエ殿のように自然と契約魔法がかかる仕掛けが里にはございます」


「そーだったね。何とかしてほしいよ、ほんと」


「それは我らの先祖に抗議して頂きたい。もっとも、1万年は遡(坂のぼ)らねばなりませんがね」


 エルフの長のトモエさんへの半ばジョークは、二人の関係が良好な事を伝えている。

 信頼しても良さそうだ。


 そして小一時間ほど、何だかよく分からないハーブティーと、これまた何か分からない茶菓子を食べて待っていると、エルフの長のダンカルクさんがティールームにやって来た。


「お待たせしました。結論から申し上げますと、眠られている方を目覚めさせる事は可能です」


「本当ですかっ!」


 思わず立ち上がって迫ってしまった。


「落ち着いて。しかし簡単ではありません。それと皆様に一つお願いが御座います。我々の願いを一定程度受けて下さるのなら、我々も尽力致しましょう」


 エルフの長の言葉に一瞬即答しかけたが、グッと飲み込んで周りを見る。

 けど、頷いたり強い視線を向けて来たりで、肯定の意思しかない。


「是非共お願いします。それで、オレ達への願いって何でしょうか?」


「大陸東部の魔物を、できればこの周辺の魔物の勢力を少しでも減らして頂きたい。空から入る時に分かったでしょうが、ここは恒久的な防御魔法と幻影魔法で外の世界から隔離した、いわば隠れ里です。

 ですが、近年魔物の勢力が増しており、最低限でしか外に出る事も叶わない状態なのです」


「妖人って、凄く強いんじゃあ?」


 悠里が至極もっともな疑問を口にする。

 天然は、これだから助かる。オレも聞きたかったところだ。

 けど、エルフの長は首を横に振る。


「我らの数は多くはなく、皆様ほど極端に強い力を持つ者も今のこの里にはおりません。皆様「客人」の方が強うございます。

 そうそう、かつて「客人」が滞在していた事もあったのですが、トモエ殿や皆様のように「客人」を迎えるのも約300年振りの事になります」


 意外な答えだ。

 人がエルフになるにはAランクの魔力が必要で、何百年も生きてればいくらでも剣も魔法も修行できるから、強くなれそうなものと思ってしまう。けど、そうではないらしい。

 そしてオレの単純な考えを見透かしたのか、エルフの長が短く苦笑する。


「我々の中にも、皆様のような強者は確かにいました。ですが、ここの閉塞した環境には耐え切れず、皆出ていきました。今も生きているのかすら分かりません。

 ここに残るのは、見た目が若いだけの皆さんが想像できないほどの年老いたものばかりです。

 ですが我々も、魔物に殺されたくはない。かと言って、簡単に人に助けを求めるのは矜持が許さない。何しろ、頑固な老人ばかりだ」


「うちらはええんか?」


 ルリさんが少し面白がるような表情で少し煽る。

 それにエルフの長は、片眉を上げるだけだ。


「「客人」は、神々が遣わした魔物を鎮める者達。それは過去何度も見て体験して来ました。

 もちろん一方的にお願いなどは致しませんが、我々としては対等に魔物の討伐を頼める気楽な相手なのです」


「自分達じゃあ全然無理なのかよ?」


「多少ならば。しかし、大群で来られたらひとたまりもありません。魔物の中には皆さんでも対抗できないほどの化け物が、大陸奥地には何体もおります」


 ホランさんに答える表情と雰囲気から、ここのエルフにとって魔物が相当深刻な問題だという事が分かる。

 そしてそれも分かってたから、トモエさんはここにオレ達を連れて来たんだろう。

 トモエさんの方に視線を向け、オレと視線が合うとウィンクが飛んできた。

 

(無理難題じゃないし、ハルカさんを目覚めさせる治療代と思えば安いもんだろう)


 そしてオレが口を開こうとしたところで、ボクっ娘が先に話し始めた。


「あの、今ボク達、東に向かった沿岸部で『帝国』と一緒に森を焼いてるんだけど、これってそっちの要望に応えている事になるかな?」


「森を焼く? 魔物の溢れるこの大地の森をですか? どうやって? 火など澱んだ魔力が押し寄せて、すぐに押し消されてしまうでしょう」


「『煉獄』って魔法を大規模に使うと、結構簡単に燃えるんだ。しかも周りの不活性の魔力も同じ反応しやすいらしくて、澱んだ魔力が濃いほど効果的ってのが、今の所の経験上の結果だよ」


「『煉獄』? 第四列の高位魔法の? しかしあれは城攻めや街を焼き払う時に使う魔法の筈。森が多少は閉ざされた空間とはいえ、効果があるのですか?」


「だから大規模にするのが大前提」


 そこでボクっ娘が目力を強める。

 そして一瞬見つめ合う事になるけど、エルフの長が小さく息を吐く。


「その件は、確認してからでよろしいでしょうか。

 それと、魔物を滅して頂く件については、眠られている方を癒す場所を使うと、ほぼ自動的に魔物が集まる事になるでしょう。ですから、その魔物を退けていただけるだけでも十分にこちらの要望に応えて頂く事になります。

 それでは、ご異存がなければ参りましょう。あの方は、急いだ方がよろしいでしょうから」


 エルフの長は、最後に不穏なことを口にしてくれた。


(なるほどね。エルフが慈善団体じゃないってだけは良く分かったのは収穫だな)


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