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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第2部

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151「時間差(2)」

「それだけ偏差値とか凄くても関係ないんですね」


「記憶力などとは、何か別のところが作用しているからな。錬金術のヤツが、時間がどうの量子がどうのと話していたが、それも仮説の一つに過ぎない」


 俺の疑問に二人が反応したけど、答えてくれたのはシズさんだった。


「色々と不思議ですね。けどまあ、考えても分からない事を考えるのはよします」


「そうよね。それより当面は成績向上でしょ。数学は教材があれば私が教えてあげるわ」


「えっ。あ、ありがとう」


 スルリとお礼の言葉が口から滑り出たが、それを聞いたハルカさんは少し恥ずかしげだ。顔も少し赤くなっている。

 どうやら不意打ちに成功したらしい。


「改めて何よ。ショウに何か教えるのは、もう慣れっ子よ」


「それもそうだな。それにしても、ハルカさんには教えてもらいっぱなしだな」


「そのうち請求書突きつけるから覚悟しといてね」


「我が身を捧げるので、高額請求はひらにご容赦を」


「あ、そうだ」


 オレが胸に手を当て恭しく一礼するのをスルーして、ボクっ娘がポンと手を打つ。

 思わずジト目で見つめてしまう。


「捧げるで思い出したんだけど、アクセルさんの王都の大神殿っていつ行く? 買い物と物品売買がアッという間に終わったから、色々前倒しにできそうだけど」


「街を2つ3つ廻る予定だったものね」


 ハルカさんが考える仕草になる。何も喋らなかったが、シズさんも同様だ。


「取りあえず次の行く先は、アクセルさんやジョージさん達のいるウルズ近くの神殿だぞ」


「そうね、マリたちにもお土産というか陣中見舞いあげないと」


「それにハーケンでの『帝国』がらみの話も、一応伝えた方がいいだろう」


「マリアさんたちに飛龍の謝礼金の分配金も届けないと、だね」


 そのあとボクっ娘は、さらに言葉を続ける。


「その後で大神殿行って、あとはアクセルさんの国の式典なりをなるべく早く終わらせてもらうように頼んでみようか」


「遠くに旅に出ると言えば、前倒しにしてくれると思うがな」


「個人の理由が通りますか?」


「あの辺りの領土化の正当性を主張するには、私達がいた方が都合いいもの。それに少しでも早い方が他国から色々言われなくていいし、式典自体は早めにすると思うわ」


「もう準備してたりして」


「じゃ、その辺の話も何か知らないか、明日アクセルさんに聞いてみよう」


 それで話は済んで、今日はゆっくり寝るという初期の目的もあって早々に3人は部屋へと戻っていった。


 オレは特に何かをする予定はないが、夕方にまとまった時間寝た以上眠れるとは思わないので、屋敷の人に明かりと飲み物、軽食を部屋に運んでもらう。

 取りあえずの話し相手と思ってクロに話しかけてみたが、クロの知っている事が偏っていて、オレが分からないかクロが理解出来ないかで、今ひとつ会話にならなかった。


 そして昼間の話を思い出したので、オレの魔力を毎日与える事を提案してみると、もともとキューブは人と同じように周囲から魔力を集めていた。

 しかしキューブが集める魔力より、人に集まる魔力の方が断然多いので、最初は恐れ多いと断るもオレが押し切る形で毎日渡す事になった。

 主人と呼ばれるのだから、それくらいするべきだろう。




「向こうで寝起きした記憶がないってのも、新鮮だな」


 その日の朝の目覚めは、ある意味新鮮味があった。

 そして教えてもらった通り、向こうでの1日分の記憶が復活したというか記憶に残っていたが、気分的に二日前のようだった。

 それに前後していた記憶と経験のピースがハマるのも、ちょっと面白い感覚だ。


 なお、昨日の夜は徹夜も覚悟したが意外に早く眠気が襲って来たので、用意した軽食などを半分も食べないうちにベッドに倒れ込んでいた。

 3人娘たちも、数日ぶりに熟睡できたようでスッキリした顔をしている。


 そして早々に朝食を片付け、装備を整え荷物をヴァイスにくくり付けると、ウルズ郊外の神殿への2時間弱のフライトとなった。


 上空から見た旧ノール王国は、来るたびに雰囲気が明るくなっているように思えた。

 街道沿いを飛んだけど、アースガルズ王国からウルズに向かう道を行き交う文物も増えていた。


 そして神殿に到着すると、既に王都ウルズとその周辺の本格的な鎮定、というより魔物とアンデッドの掃討が始まっていた。

 もっとも、オレたちと『帝国』が主なところを既に倒していたので、途中の魔物がうごめく森を除くと道中はほぼ安全になっているようだった。

 王都ウルズにも進出と駐屯が始まっていて、廃墟となった王都内の調査も始まっていた。


 神殿上空に来ると、比較的無事な建物を修理したものがさらに増えていた。

 停車している馬車や馬の数もさらに増えている。

 ここがウルズに入るための前線基地になっているからだった。


 そしてそこには、アクセルさんもマリアさんら『ダブル』たちもいなかった。

 いても道中の魔物退治に出ているが、ほとんどはウルズに入っているという。


 そこでオレたちも、再び飛んでウルズへと向かった。



「ウルズか、一週間ぶりくらいだな」


「雰囲気が全然違うわね」


「魔力も随分薄くなっているな」


「さあ降りるよ。舌かまないでねー」


 レナが巨鷲のヴァイスを巧みに操って、王都の外周を囲む堀にかかる正面扉前の橋の近くへとふわりと降り立つ。

 そこには道の脇に天幕がいくつも設置されていて、野営地のような施設があった。


 見慣れた巨鷲の飛来に、すでに何人かが道に出て手を振ってくれたりしている。

 一番目立つのは、遠目でも心象風景がキラキラしているアクセルさんだ。


「早かったね。もう用事は済んだのかい」


「ただいまアクセルさん。思わぬ展開で、ハーケンの街で全部片付きました」


「アクセル、一応細かい話を伝えておきたいんだけど」


 ハルカさんの目配せにアクセルさんも頷き、アクセルさんの天幕へと案内された。もっとも、ボクっ娘は軽く一周してくると、再び一人でヴァイスと飛び上がっていった。

 すると、しばらくすると遠くにボクっ娘の歓声のような声が響いて来たので、誰かを見かけたりしているのだろう。


「さて、人払いは済ませたけど」


「ショウの大ボケのせいで、『帝国』に戦利品を売ったのよ」


「そ、それは大胆だね」


 アクセルさんの笑顔のポーカーフェイスと声が少し割れている。

 やはり相当非常識だったようだ。

 今後は気をつけようと、思いを新たにさせられる。


「大胆というより、単なる考え無しね」


「だが、こちらが連中の簡易葬儀と鎮魂をしていたので、向こうの武人からは好印象だった」


「龍騎士の葬った場所も教えたわ。だから、後で来るかもしれないの」


「それと、」


「他にまだ?」


 そこで話そうとしたら、何も言葉に出来なかった。

 口をパクパクするでもなく、どこかからの命令で記憶や行動に制約が掛かっている感じだ。


「済まない。ショウが口を滑らせそうとしている件は、『帝国』と交わした契約魔法で話したくても話せないんだ」


「それはただ事じゃないね」


 すーっと、アクセルさんの表情の真面目度合いが上がる。


「うん。ゴメン、アクセルさん。ただ、ここの地下遺跡とアクセルさんの国のド辺境にある浮遊石の廃鉱山が関わっているって話をしてるから、話せたら話しておきたかったんだ。あっ、これだけでも話せて良かった」


「地下遺跡はともかく、あの廃鉱山は本当に何もない筈なんだけどね。それで、何かを話したと解釈していいのかな?」


「えっと、なんかその場の勢いであげちゃいました。これ以上話せませんね。不思議だ」


「アハハっ、ショウらしいね」


 相変わらずアクセルさんの笑いのツボは分からないが、常識破りな事をしたのだろうということだけは分かった。

 けどアクセルさんの笑顔を見ていると、悪い事をしたのではないと思える。


「相手にした商館の館長と、ここを調べに来ていた連中の指揮官の一人だった武官は好意的だった。今後どうなるかは分からないが、今のところ懸念する必要性は低いだろう」


「貴重な情報ありがとう。では、今度はこちらからだね」


「何、変な話だったら逃げ出すわよ」


「朗報だよ。大神殿の方に話が通った。ちょっと脚色してあるけど、向こうは歓迎の様子だ」


「何言ったのよ」


 ハルカさんが半目で訝しげな目線だ。

 しかし、アクセルさんには通じていない。


「それは行ってのお楽しみ。あと我が国からの正式な招待は、所在場所が明らかならすぐにでも届けたいとの事だった。すでに書面はできているらしい」


「それじゃ明日にでもフリズスキャールヴの大神殿行って、その場で受け取るわ」


「それが最速だろうね」


 これでこっちの話は取りあえず終わりだ。となると、この場の事が気になってくる。みんなも同じようだ。

 場の雰囲気も少し変わっている。


「こっちでの魔物や亡者の鎮定はどんな感じですか?」


「ここに来れているって時点で察しているだろうけど、順調過ぎるくらいだね」


「手伝いは不要ですか? ただお土産持って来ただけじゃあ、決まりが悪いんですよね」


「アハハハっ、そう言うところはショウだけじゃなくて、みんなそうみたいだね。みんなくらいの腕利きが必要なほどの魔物は居ないけど、人手が十分という訳でもないから手伝ってもらえると助かるよ」


 アクセルさんの言葉に3人全員が頷く。


「それじゃ、こっちで2、3日手伝ってから、大神殿に行かせてもらうわね」


「助かるよ。それじゃ午後からかかってもらえるかい」


「今から行きますよ。レナがもう始めてそうだし」


「場合によっては、あの魔物だらけの森を焼き払ってもいいが?」


 シズさんの言葉に、アクセルさんが笑顔から真剣な顔になっている。

 以前オレたちも通過に苦労した場所だけど、やはり魔物退治に苦労しているのだろう。


「可能なのですか?」


「『魔女の亡霊』ほどの力はないが、今の私なら可能だ」


「ではみんなには、王都内より郊外の森をお願いします」


「心得た」


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