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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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447 「空賊襲来(2)」

 残るは上昇してきた連中だけだ。

 それぞれの魔物の背に2人ずつ乗っているので、襲撃者は14人。

 うち1騎は砲座というか塔からの弩と弓で落としたが、残りは船の後方から飛行甲板へと次々に降りて来る。

 諸々の弓を避けるため、プロペラや翼で影になる場所を進んだ結果、飛行甲板の後ろからちょうど着艦する感じで侵入してきた。


 しかしそこは、上陸された場合を想定して考えてあったオレ達の「キルゾーン」だった。

 弓はボクっ娘とホランさんの部下が2人が、飛行甲板中央には地上戦モードなヴァイスが立ち塞がってる。

 もうこれだけで、並の空飛ぶ魔物は竦みあがるだろう。


 実際、空賊達はそのまま船体の方に攻め寄せるつもりだったのが、降り立った途端、もしくは降りたとうとしたところで一瞬躊躇してしまっている。

 そこに数本ながら弓矢が射掛けられ、混乱が広がる。

 それでも空賊は手馴れていたので、次々に降り立ったり、飛馬のまま突進してくる奴もいる。


 唯一の獅子鷲乗りは相応の魔力持ちで、リーダーか空賊の「先生」格と思われる。

 そいつには、ホランさんが左船体の上からジャンプを決めて襲いかかる。


 悠里の持つのと似た、見た目に痛そうなドラゴンの骨を材料にした剣を、乗り手と獅子鷲ごと豪快に切り裂く。

 身長2メートルに達するホランさんが持つので少し錯覚してたが、振り回している剣は悠里のものよりふた回り近く大きく、刃も太い。

 だから馬よりも大柄な獅子鷲も、豪快に一刀両断だ。


 それで空賊側の士気がようやく崩れたが、甲板の前方はヴァイスとボクっ娘、それに下の倉庫から上がって来たゴーレムが塞いでいる。

 連中が突っ込んで来た後ろは、ホランさんの部下の獣人達が素早く回り込む。

 そして甲板後方に構っている真ん中で、ホランさんが大暴れしていた。


 オレはまだ右船体の上にいて状況を見定めていたが、普通ならこれで詰みだ。

 空賊の逃げ道は、強引に上に飛び上がるしかない。けどその場合、すでに馬を降りた連中を見捨てるしかない。

 そして時間が経つごとに、ホランさんの刃が人も飛馬も関係なく粉砕していっている。

 ボクっ娘と獣人二人の弓矢も、ホランさんに邪魔にならないように空賊に射掛けられている。


 決断は早くしないといけないが、残された空賊は完全にパニック状態だ。

 とはいえ、降伏勧告しても仕方がない。

 降伏してどこかに突き出されたところで、空賊は処刑が確定だからだ。

 とはいえ飛馬に罪はない。

 そう思って、まだ乗馬してオロオロしているやつに、飛び降りざまに武器を抜かずに一撃。

 多分死んではいないだろうと思いつつ、そのまま鞍の空いた馬を宥めに入る。


 それを見て、ホランさん以下獣人達も戦法を変更。残り半数ほどを、無力化する方向に動く。

 けどただ倒すより難しいので、その隙を突かれた。

 2騎ほどが強引に飛び立って逃げようとしたが、一騎はホランさんが「逃げんなよ!」と怒鳴りつつのハイジャンプタックルで、飛びかかって馬ごと甲板に倒してしまう。

 残り一騎は、乗り手の急所をボクっ娘の弓が射抜いた。

 最終的に、飛馬3体を生け捕り、空賊5名を捕縛した。



「ずっと見ててくれるだけで良かったんだがな」


「ですね。けどあのままだと、飛馬も全部倒してたでしょ。飛馬に罪はないですよ」


「確かにそうかもな。だがよ、飛馬の後ろ脚の蹴りは、喰らうと一撃で致命傷って場合もあるんだぜ」


「ホランさんを倒せる飛馬なんているんですか?」


「そりゃいるわけないな」


 一瞬呆気にとられた後、ガハハといつものように豪快に笑った。


「笑ってないで手伝ってよー」


 そこに少し遠くからボクっ娘がボヤく。

 見れば、まだ落ち着かない飛馬を、魔法でテイムしているところだった。


「悪い悪い。それで、そっちの調子はどうだ? かなり良さそうだけど」


「ん? まあ見ての通り。樹海での空中戦の時もそうだったけど、もう少し体を使い慣れないとダメかな。それと、ショウのよく言ってる意味がちょっと分かったよ」


「何か言ってたっけ?」


「魔力量に技量が追いついてないってやつ」


「ああ。レナでもそうなんだ」


「ちょっとね。でも多分だけど、Sランクの魔力総量自体が、もう人の体に収まりきるパワーじゃない影響じゃないかな? ちょっとそんな気もした」


 戦闘しながらそこまで考えが及べるのは、ちょっと以上に感心してしまう。


「なるほどなあ。今までそんな事、思いもしなかった。凄いなレナは」


「褒めても何も出ないよ。それより、続きがあるんだけど」


「まだ何か? 魔力の調整方法を見つけたとかなら、めっちゃ嬉しいけど」


「そうじゃなくて、ハルカさん。ついでにボクの事も。あのさ、クロはハルカさんが倒れた原因が、一気に増えすぎた魔力が体に溜まってる的な事言ってたでしょ」


「飽和してるんだっけ?」


「左様です」


 斜め後ろに首を傾けながら問いかけると、戦闘開始前からオレに付かず離れずなクロが改めて首肯する。


「で、少し前のボクは、二重人格の歪みで逆に漏れ出してたわけでしょ。おかげでボクは、状態がおかしくても全然平気だった。だから、ハルカさんも何らかの方法で魔力量を減らせたら、取り敢えず目覚めるのかもって」


「クロ、どうだ?」


「わたくしは依り代をご用意する時に、その方に相応しい魔力総量を依り代に付与できます。シズ様の場合が、特に合致します。ですが、既に獲得している魔力総量の調整は不可能です」




「……というわけだけど、アイの能力って魔力の収集と調整だろ、減らす事は可能か?」


 すぐに艦橋に移動して、かいつまんで説明して質問した。

 それに、すっかり美人さんになったアイが、申し訳なさそうんい頭を下げる。


「申し訳ございません。すでに獲得されている魔力を減らす事は、わたくしには不可能な技術です」


「調整だけか。ちなみに、ここにいる「客人」の魔力の流れって全員正常か?」


「あ、それボクも気になってたんだ」


 聞くとアイがゆっくりと周囲を見渡す。

 オレ、レナ、レイ博士、リョウさん、それにハナさんとリンさん。


「皆様正常です」


「オレ、レナ、レイ博士もか?」


 念のためSランクなオレ達をピックアップするが、アイの態度は変わらない。


「問題御座いません」


「異常があればすぐに分かって、人の体の中のものでも調整できる、でいいのか?」


「わたくしの役割は、通常は周囲、特に空気中の魔力の収集と調整、さらに収集のための観測です。各個体内の魔力については、測る事は出来ますが調整は限られた場合にしか不可能です」


「そうだったな」


「この航海でも、非常に役に立ってくれておるぞ」


「そうですよね。ビックリするくらい」


 アイの能力を船の運航に関わるレイ博士とリョウさんがフォローする。

 本来は、魔導器や魔法の補助が中心なので、正しい使い方をしているからだろう。


「そうなんですね。じゃあ、取り敢えずシズさんと合流するまで、そっち方面を頼む」


「畏まりました」


 慇懃に一礼するアイの姿が、会話の締めとなった。


 その間ホランさん達が後始末をしてくれていたので、大西洋を越える前の街で生き残りの空賊を引き渡し、船についていた浮遊石ともども生け捕った飛馬を売り払って全員のお小遣いにして、空賊襲来も幕となった。

 空賊の僅かな生き残りも、襲ってきた連中全員が賞金首だったので、多少の賞金をもらえた。


 ちなみに、オレ達を襲ってきたのは、その辺りで悪名を轟かせていた連中らしく、街からえらく感謝された。

 言われてみれば、魔力持ちは多かったように思う。

 そしてその程度にしか思わないほど、オレ自身が強くなって、仲間達が強い証拠だ。

 だからこそ今回の空賊襲撃も、ちょっとした事件という程度で済んだが、強くなりすぎる事がボクっ娘から問題提起された事は、今後みんなとも話し合わないといけないだろう。


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