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日帰り異世界は夢の向こう 〜聖女の守り手〜  作者: 扶桑かつみ
第五部 『帝国』編

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443 「復路(2)」

「勿論です。レイ博士ほどの篤志家は、ノヴァでも稀ですもの。神殿長のタカシも、よく感謝の言葉を申しております」


「えっ? タカシが? あいつにソレはないだろ。やって当たり前って言葉と態度以外、見た事も聞いた事もないぞ。あいつ、妙に合理主義者だからな。あれでよく医者とか聖人とかできるよな。逆に感心するわ」


 博士が早口でまくし立てていく。

 それを隣でルリさんが喉仏が見えるほどの勢いで笑ってる。


「おっさん、めっちゃおもろいな! あと、あのおっさん、スケベ魔人やし、矛盾の塊やんな!」


「あの、ここ一応神殿しかも聖地のど真ん中ですよ。せめて静かにした方が」


「ええやん。人払いしてあるし。それよりこれでここの用事終わりか? 次どこ行くんや? 『帝国』直行か?」


 ポンポンまくし立ててくる。

 関西弁は会話しやすい言葉なんだろうけど、隠キャには地味にダメージのくる話し方だ。

 しかも悪気もないのが、さらに地味に辛い。

 けど、凹んでばかりもいられない。


「えっと、次は神殿の総本山のイースです。出来れば今日中に入りたいと思ってます」


「ほな急ご、急ご!」


 一人で走って行った。

 それを「神殿内は走っちゃダメよー」と、ハナさんが追いかける。

 なんだか人間関係の分かりやすい人達だ。

 これもポーズやキャラ作りなんだろうかと疑ってしまうレベルだ。

 けど、急ぐのは事実なので、みんなの魔力も注ぎ込んでゴーレム発電機にも頑張ってもらい、一気にイースへと向かった。



 聖なる都、神殿の総本山、総本部、正式名称「総大神殿」の名を持つ宗教都市イース。

 またオクシデントの外に出ると、「西方神殿」の本拠地などと言われる事もあるそうだ。

 オレ達の世界のスイスのベルンに当たる場所にあり、山間の中に街そのものが神殿のような佇まいの静謐な都市が広がっている。


 街は川沿いに面していて、西岸に総大神殿、東岸に神殿騎士団の総本部がある。

 他にも神殿大学や神殿図書館、修道院など、多くの巨大な施設が街の各所に広がっている。

 どれも巨大で歴史を感じさせる建物群ばかりだ。建物の中には、神話の時代から存在するものまである。


 けれど、街の飛行場に到着したのは夕方遅く街に入れるギリギリの時間だったので、街の施設に行く時間もなかった。

 それどころか、宿を取る事も厳しそうなので、飛行船内での一泊とした。



「私は何をすればいいの?」


 神官のハナさんが、おっとり可愛らしく首を傾げる。

 ハナさんは神官で、第三列の治癒魔法を使える3属性持ちの治癒師でもあるので、神官としての位はかなり高い。

 それに今、飛行船に乗っている中で神官はハナさんだけなので、この街で何かするとなると、この人を頼るのが一番だ。

 ただ、ハナさんが旅に同行したからこそこの街に寄ったので、明確な目的は考えていなかった。


「ハルカさんを目覚めさせる為の情報かヒントが少しでも掴めればって事くらいしか、ヴィジョンはないんです。すいません」


「ううん、いいのよ。けど、全部の治癒魔法を知るっていう『帝国』の聖女様ですら無理なのよね」


「まあ、探すなら古い知識であろうな。お約束とばかりに、古代には高度な魔法文明があった世界だからな。しかし、簡単に古代の文献の閲覧なりをさせてもらえるとも思えんよなあ」


 一応今のメンバーで一番の知恵者のレイ博士の言う通りだろう。


「知識がダメなら、伝説とか伝承とかでしょうか。とりあえず僕は、神殿の宗教画的なものを片っ端から見て回りますね」


 リョウさんが意外なアプローチを提案すると、レイ博士も「そういう絵には意外にヒントが隠されているものだからな」と肯定的だ。


「頼めますか。オレとレイ博士、それにハナさんは大学や図書館を当たりましょう」


「ウチは生鮮食品とかの買い物行くわ。博士、ゴーレム貸してんか」


「うむ。好きなだけ連れて行くがよいぞ」


「いや、1つでええて。力持ちやし」


 なんだか少し嫌そうな顔をされて、博士が地味にしょげている。


「ボクは少し街を離れてもいいかな?」


 ボクっ娘が少し控え目な感じで小さく挙手する。

 その仕草は、もう一人の天沢さんっぽい。


「この近くにある疾風の騎士の里に行きたいんだっけか」


「うん、そう。いい、かな?」


「里帰りみたいなもんなんだろ。2泊くらいして、後から追いついてきてくれてもいいぞ」


「流石にそこまで長居する気は無いよ。でも、ありがとう」


「それで、他は留守番でいいのか?」


「飛行船には最低限残ってくれていれば、交代になりますが一日自由行動で構いませんよ」


「そりゃありがたい。こんな場所、滅多に来られないからな」


 ホランさんが少しホッとしている。

 獣人にとっても、いやどの種族にとっても、イースは一度は訪れるべき場所なのだ。

 昔の日本で言えば、お伊勢さんのようなものらしい。

 フェンデルさんも「ここの建築物には興味がそそられるな」などと、珍しくウキウキな感じだ。


「それじゃあ、明日は各自別行動って事で、宜しくお願いします」




 そう言って次の日は別行動をしたけど、予想通りと言うべきか1日程度で何か手がかりが掴めたりする筈もなかった。


「まあ、調べるという名目の観光に来たと思えばいいか」


「であるなあ」


「ごめんなさいね。力になれなくて」


「いえいえ、全然。むしろこっちが引っ張り回してるんですから。それより、もう観光気分で総大神殿でも見に行きますか?」


「それでよかろう。ハナ君もそれでいいか?」


「はい。参りましょうか」


 そのあとは、言葉通り半ば観光になってしまった。

 急に決めたスケジュールだから、こんなもんだろう。

 特にハプニングに出くわすと言う事もなかった。


 そして夕方に合流したけど、人それぞれだった。

 一番遠出していたボクっ娘も戻って来ていて、「はい、お土産ー」となんだかご当地の物産を一杯持って帰っていた。

 久しぶりの場所なのでゆっくりすれば良いのにと思ったけど、そもそも空を飛び交う人達なので、いつでも会えるって感覚から、この辺りの機微は淡白なのだそうだ。

 ボクっ娘にしても、イースに寄る事がなければ無視する気だったらしい。


 一番ご満悦なのはリョウさんだった。

 ノヴァからこんな遠くまで出たのが初めてだそうで、しかも神殿の壁画や石像、装飾品、芸術品、建物を色々見て回れたので、ホクホク顔だ。

 スケッチとかも沢山とっていた。


 ノヴァで大量に買い込んでいたスケッチブックや紙が、今後の旅程を考えると足りないのではと、早くも危惧していたほど色々書きまくったらしい。

 そしてとりあえず書いたものは、後でみんなで検証する予定だ。


 ホランさんやフェンデルさん達も、総大神殿などを詣でてご満悦だ。

 それぞれ故郷のみんなにと、かなりのお土産を買い込んでいた。

 これだけでも、イースに来た甲斐があったというものだ。


 そしてここからは、一気に浮遊大陸を目指すことになる。

 直線距離だと5日後には、浮遊大陸。さらに翌日には『帝都』に到着予定だ。


 しかしその前に、現実の方で事は動いていた。


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